フラッシュ247
2015年9月15日
 

キューバ人対象の世論調査に見る対米国関係への評価と期待

 
内多 允
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
 

1959年1月、キューバでフィデル・カストロによる革命政権が米国資本企業を国有化したことを契機に、1961年に米国はキューバとの国交を断絶、1962年に対キューバ輸出入を全面的に禁止した。

2014年12月17日、ラウル・カストロ国家評議会議長とオバマ大統領がそれぞれ現地で、両国が外交関係再構築に向けて協議を開始することに、合意したことを発表した。その後、両国では関係の進展への期待が高まっている。

本稿ではキューバ人を対象に、(1)キューバで実施された世論調査と(2)米国・フロリダ州でキューバ系住民に実施した世論調査を紹介する。

(1)米国への期待が高い傾向を示したキューバにおける世論調査

米国の調査会社Bendixen & Amandi International(以下、B & A)は、キューバ各地で世論調査を実施した。調査実施期間は2015年3月17日から27日、同国各地域で合計1,200人を対象に、インタビュー形式で実施した(注)。

調査は、面接方式で行われた。キューバでは電話(固定電話や携帯電話)の普及率が15%以下と低いので、面接形式で調査したとのことである。

B & Aは1984年設立、本社はフロリダ州マイアミ市。同社は海外各国で調査事業を展開している。中南米・カリブ地域でも各種調査やコンサルティング事業を展開している。米国ではマスメディアやシンクタンク、企業、研究機関、行政機関と取引している。また、スペイン語メディア(放送、新聞等)とも関係が深い。キューバで実施した世論調査の結果については、ワシントンポスト紙やUnivision Noticiasのウエブサイトに発表された。本稿はこれらのサイトから、概容を紹介する。

B & Aの世論調査が注目される理由は、キューバでは政府が認めないこの種の調査を実施したことである。しかも、キューバ革命以降、激しく対立してきた米国の企業が世論調査を実行したことである。当然、秘密裡に実施されたであろうが、キューバ政府がこれを本当に把握していたか、否かも明らかでない。国内における反政府的な活動への監視を続けていると考えられる環境下では、政府もある程度は知っていたのではないかと、筆者は確たる根拠は持たないが想像している。そしてキューバ政府も、この世論調査から国民の本音を知る情報として密かに注目しているのではなかろうか。また、対米関係が好転の時期を迎えている状況下では、キューバ政府もこの世論調査を黙認せざるを得なかったのではなかろうか。キューバ政府が世論調査に関心を寄せた事例として、米国・マイアミでキューバ情報を発信しているCuba Standard(5月30日付電子版)によれば、世論調査が始まった3日か4日が経った頃、面接調査の担当者3名が拘留された。拘留の期間や場所、拘留中の当局による尋問の内容等については報道していない。しかし、実施期間中に、計画された世論調査は完遂された。

以下、B & Aが実施したキューバにおける世論調査の主な設問と、回答状況を紹介する。

最も関心が高い国は米国

国外への移住希望が半数を超え、移住先には米国が最も人気がある。

 1)キューバ国外へ移住を希望するか
  希望する 55%  希望しない 37% 無回答 8%
 2) 移住を希望する国  米国 52%
  その他37%(スペイン9% イタリー6% カナダ3% フランス2% ベネズエラ2%)

米国への移住希望が多い背景には、キューバでは海外からの家族送金が、家計を支えている現状があることが影響している。

送金元の国も、次の回答が示すように、米国からの送金が高い比率を占めている。このような送金の実態も、前記の移住を希望する国として米国が、過半(52%)を占めている実態に反映している。

国外から送金を受け取っていると回答した比率は、34%である。この回答で送金元の国は米国が61%を占めた。2位はスペイン12%、3位イタリー6%、4位ドイツ3%、ベネズエラ3%と続いている(設問は複数回答可能)。

キューバ人が国外から受け取る年間の送金額についての設問への回答比率は、500ドル以下が28%、500ドル以上1,000ドル未満26%、1,000ドル以上2,000ドル未満29%。2,000ドル以上17%である。

経済と政治への不満が高い

経済や政治の現状についての設問では、不満を示す回答が高い比率を占めた。苦しい経済状態を打開するために、自らビジネスを始めたいかという設問には、70%の回答が「始めたい」を選択した。

1)経済・政治制度への不満が高い
 キューバの次の4制度への満足度についての設問では、経済・政治制度についての不満が満足とする回答を上回っている(表)。

 

(表)各制度についての満足度(単位:%) 

 

満足

不満

意見なし

経済制度

19

79

----

政治制度

39

53

8

医療制度

68

32

----

教育制度

72

28

----

(出所)Bendixen & Amandi International社による世論調査報告

 

一方、医療制度と教育制度は「満足」の回答比率が、各年代で60%台から70%台となっている。このような医療制度と教育制度への支持率が、経済制度や政治制度についての不満を示す比率が高くても社会主義政権が維持されてきた要因であると考えられる。

2)政党に対する評価

キューバの政党制度では、共産党のみが認められた政党である。

政党制度についての設問では「複数政党」の支持率が52%を占め、「単一政党で十分」を選んだ回答は28%,無回答20%であった。
共産党への評価についての回答比率は「肯定的」32%、「否定的」58%、「意見なし」10%
であった。

3)経済制度に不満な若年層が自営業に積極的

年齢層別の「経済制度への評価」と「自営業の開業希望」の回答状況によれば、経済制度に対して不満と回答した比率が18歳から49歳の年齢層では80%台を占め、50歳以上の年齢層よりも高い数値を示している。この不満比率が、若い年齢層の自営業を開業したい希望者比率(70%台)が、50歳以上の年齢層のそれよりも高くしていると考えられえる。

国交回復支持を後押しする対米好感度

キューバが米国と国交を回復することの支持を問う設問については、支持を回答した比率が99%を占めた。これには、米国に対する好感度が影響している。しかし、「米国はキューバの友人か否か」という設問では、全回答の53%が「友人」を選択した一方で、これを否定する回答が26%、無回答が21%を占めた。この種の設問にも、政治制度に関わる問題について個人の意見表明が抑制的になる傾向が反映している。

ラウル・カストロ議長の米国訪問に対する支持傾向も、オバマ大統領のキューバ訪問と同じように、若い年齢層の支持率が高い。この支持率は回答全体では83%であるが、18-34歳では87%で最も高い。次いで35-49歳が83%である。50-64歳、65歳以上は79%、72%に低下している。

国交回復がキューバに及ぼす影響

経済制度が変化する可能性については、「変化する」と回答した比率が64%を占めた。

一方、政治制度が変化すると回答した比率は37%であった。

キューバ政府は経済状態を改善するために、自由化の必要性をある程度認めているが、政治制度については現状維持の方針を堅持している。

これに関連して、国交回復後にキューバ政府が共産党以外の新政党を認める可能性を支持する回答比率も19%に止まり、否定が62%、意見なしが19%を占めた。

米国の経済制裁措置の撤廃を支持する比率は96%に上り、両国の経済関係改善に対する期待が高いことがうかがえる。

オバマ大統領への好感度がキューバ首脳を凌駕

国交回復に関与したオバマ米国大統領とキューバのカストロ兄弟に対する支持率は次のようになっている。
  オバマ米国大統領 80%
  ラウル・カストロ国家評議会議長 47%
  フィデル・カストロ前・国家評議会議長 44%

(2)キューバ系米国人の世論~マイアミにおけるキューバ系米国人世対象の世論調査~

米国内ではフロリダ国際大学(Florida International University)のキューバ研究所(Cuban Research Institute)が、1991年からフロリダ州在住のキューバ系住民を対象に、毎年世論調査を実施してきた。

本稿では2014年2月から5月にかけて、実施された世論調査の概容を紹介する。同調査はフロリダ州のマイアミ・デイド郡(Miami-Dade County)に居住するキューバ系住民1,000人(年齢条件は18歳以上)を対象としている。同郡はフロリダ半島南端の東部地域で、別の名称ではMiami、Miami-Dade、Metro-Dade、Greater Miamiとも呼ばれている。

米国でキューバ系住民が最も集中している地域が、フロリダ州である。キューバから合法・不法を問わず、最短距離の海路で米国に到着できる場所がフロリダ州である。

米国ではスペイン語圏ラテンアメリカ地域出身者(その子孫で米国で生まれた人も含む)の人口(2010年国勢調査)が約5,048万人に上り、この内キューバ系は179万人である。米国在住のヒスパニック人口の63.0%がメキシコ系で、次いでプエルトリコ系が9.2%を占め、第3位がキューバ系で、3.5%を占める。

米国のキューバ系総人口(179万人)の67.6%(121万人)が、フロリダ州に集中している。同州では総人口1,880万人の22.4%(422万人)がヒスパニックである。従って、前記のフロリダ州におけるキューバ系人口は、ヒスパニックの42.4%を占めている。

フロリダ国際大学による世論調査が実施されたマイアミ・デイド郡の人口(2010年国勢調査による)構造は次のようになっている。総人口約250万人で、その64.8%(162万人)がヒスパニックである。キューバ系人口は、約86万人である。同郡ではキューバ系人口が総人口の34.4%を占める。また、ヒスパニックの53.0%がキューバ系である。

次に、この世論調査について、主な設問への回答状況を紹介する。

在米キューバ系も両国関係の改善を評価

米国の対キューバ政策に関わる評価についての、設問では現状を変えることに支持が集まった。両国関係の正常化のためには、1960年10月より施行されている米国による対キューバ禁輸措置の解除が課題となっている。当該世論調査では、同禁輸措置の継続には、反対が52%を占め、支持は48%で半数以下である。

なお残るキューバへの警戒感

同世論調査では米国政府が1982年に、キューバをテロ支援国家に指定した政策を継続すべきか否かを質問している。同指定はこの世論調査実施の翌年(2015年5月29日)に解除され、米国・キューバ関係正常化の障害の一つが排除された。

全回答の63%が、キューバのテロ支援国家指定の継続を支持、解除支持は37%に止まった。依然としてテロ国家指定継続への支持率が高いことは、米国内のキューバ系社会では、この行方を注意深く見守ろうとする態度がうかがえる。

支持率高いキューバ人移住者受け入れ政策

米国は1966年に制定されたキューバ難民地位調整法(Cuban Adjustment Act)によって、如何なる方法であれキューバから米国に到着したキューバ人を、政治難民として受け入れている。同世論調査でも、この受け入れ政策の支持率は63%に上り、反対は37%であった。

キューバ系有権者の投票傾向

キューバ系米国人も、選挙では投票対象の候補者が、キューバ関連の主張をどの程度、考慮するかということを重視している。

同世論調査によれば、回答比率構成は、「非常に重視」の38%と「「ある程度重視」26%を合計した比率が64%を占めた。残りが「あまり重視せず」19%、「全く重視せず」17%であった。

キューバ系有権者の支持政党は共和党が優勢も低下傾向

米国の大統領選挙では、全国的な傾向として、ヒスパニックは民主党の支持基盤であるとされている。しかし、米国で最大のキューバ系人口規模を有するフロリダ州・マイアミでは、共和党が強固な票田を維持してきた。共和党の対キューバ政策が、カストロ政権に強硬な対決姿勢を主張してきたことが、キューバ系有権者の支持を得てきた。例えば、「2012年の大統領選挙では誰に投票したか」という設問の回答比率は、当選したオバマ大統領(民主党)34%に対して、敗れたロムニー候補(共和党)のそれは45%であった。しかし、この選挙実施日の投票所出口調査による推計によれば、オバマ大統領の得票率は49%であった(なお、出口調査の対象は、当該世論調査のようにキューバ系有権者に限定しているか否かについては、記述していない)。

各政党が大統領選挙候補者を選ぶ予備選挙に登録したキューバ系有権者の政党支持者の割合は、共和党が最も高い比率を占めている。しかし、共和党の比率は1991年3月の70%から、2014年5月には53%に低下した。

米国とキューバの対立が激化した時期は、キューバ系有権者は共和党による強硬な対キューバ政策を支持してきた。一方、2008年に就任したオバマ大統領は、翌2009年にキューバ系米国市民の親族への送金と親族訪問の制限を撤廃した。その後も国交正常化に取り組んでいる。このような従来の強硬策から、柔軟な政策への変化は本稿で紹介したキューバと米国における世論調査でも、支持率が高いことが示されている。共和党がキューバ系有権者の支持率低下傾向を阻止するために、今後の対キューバ政策がどのようになるか注目される。

 

(注)同世論調査対象者の年齢層構成比率は18-34歳39%、35-49歳30%、50-64歳19%、65歳以上12%である。18歳から49歳の年齢層で、同世論調査回答者の69%を占めた。後に記載しているように、キューバ国内の変化やキューバ・米国関係の改善を評価する比率は、若年層が高齢者層を上回る結果を出している。同世論調査の回答傾向には、49歳以下が全回答者の69%を占めた影響も無視できない。