フラッシュ25

2002年2月21日

強いアメリカの自画像(その1)
――インデペンデンス・デイの寓意――
国際貿易投資研究所
研究主幹 木内 惠


一国がこれほど圧倒的な力の優位を持ったことは歴史上類例を見ない。
ポール・ケネディ


 「強い大統領」というのは近年の米国映画に登場する大統領像の一つのパターンである。
 映画「インデペンデンス・ディ」では、とてつもない破壊兵器を携えて地球に来訪した宇宙人の円盤が破壊の限りを尽くす。米国大統領が地球防衛軍を編成、自らも先頭にたって戦い、ついに、地球を救う。「エアフォースワン」では、アメリカ大統領専用機がハイジャックされる。大統領は脱出したかに見えた。しかし、大統領は飛行機に止まり、ロシアのハイジャック犯に身体を張って挑む。

正義と力の神話

 2つの映画に共通するのは、邪悪な敵の出現とこれに身体を張って戦う生身の大統領の姿だ。

 正義と力という、この神話を成り立たせる要素は@敵は議論の余地がないほどに「邪悪」であること、A大統領は言葉よりも「自らの身体」を駆使して戦うこと、の2点である。この2点セットが揃わぬ限り、「正義と力」は「独断と暴力」と断罪されるリスクをも併せ持つ。

 「インデペンデンス・ディ」で、地球防衛軍の総司令官としての大統領が自ら戦闘機を操縦するというような現実にはあり得ぬシーンを盛り込んだのも、生身で戦う大統領の英雄性を実に分かり易い形で示すための意匠に他ならない。仮に、大統領が安全な場所から兵士達に口頭で「訓示」を与えるだけだとしたならば、米国の神話は成り立たなくなる。

荒削りな力への信仰

 若く、正義感が強く、行動力にあふれる米国大統領は地球防衛のために敢然と立ち上がる――この映画が描く米国の自画像である。米国の独立記念日に、円盤に総攻撃をかけるに際し、大統領が演説するのだが、これも観客の感動を強いる意匠が施されている。そのあまりにも衒いのない米国賛歌は日本人である私を赤面させるに充分であった。

 だが、アメリカ人の反応は違った。私はこの映画をニューヨーク・マンハッタンで観た。観客のアメリカ人の興奮、自己酩酊の度合いは尋常ではなかった。宇宙人の戦闘機を撃ち落す場面には口笛、ミサイルを抱えて機体ごと円盤に体当たりする米国版特攻機には悲鳴、大統領の勝利宣言には大拍手・・・。

 これを荒唐無稽な他愛も無いハリウッドの娯楽映画として片付けることはたやすい。だが、荒削りな力への信仰とは建国以来の米国の心情や美意識の底流に巣くう一様相であるように思われる。ジョン・ウェインの演じる西部劇の主人公像は青白きインテリとは対極にある。「粗にして野だが卑ではない」男を米国人は特に好む。

米国以外に誰が・・・

 インデペンデンス・ディやエアフォースワンが英雄たるアメリカ大統領の神話的物語とすれば、今日の世界に占める米国の軍事パワーを象徴する事例は他にもある。

 例えば、とあるセミナーで、「対テロ戦争で米国が主導権を発揮しているが、その正統性の根拠は何か?」と問われたベーカー在日米大使がこう答えていたのを思い出す。「第1に米国が攻撃された直接の当事国であること、第2に米国が作戦展開の人員、装備の両面での能力を保持していること」。(フラッシュ24「テロとの戦いに批判は許さぬ」参照)確かに、作戦展開の人員、装備の両面で米国が保持する能力には並々ならぬものがある。

ポール・ケネディが描く怪物像

 当研究所の佃近雄理事長が今日の世界における米国の軍事パワーの強大さを論じた興味深い一文を紹介してくれたのは、ここまで書きかけた時であった。「舞い降りた鷲」と題する論文がそれである。「グローバルな軍事情勢の文脈で重要なプレーヤーといえば、今や米国しかない」というのが、この論文のメッセージだ。

 私がこの論文に興味を覚えたのは、第1に、これを執筆して、ファイナンシャル・タイムズ(FT.Com)に寄稿したのが、現代の文明研究家の第一人者であるポール・ケネディであること、第2に、米国の軍事力のとてつもない巨大さを、いわば視覚的に巧みに描写した点が印象的であったからである。

 ケネディは、まず、巨大原子力空母エンタープライズの威風堂々たる姿をこんな風に描いてみせる(ケネディ論文の引用個所は、全て佃理事長訳出による)。

 「エンタープライズの巨大さは新米水兵の度肝を抜くに足る。全長は1100フィートを超え、飛行甲板の幅は250フィート、高さは20階のビルに匹敵する。艦そのものの乗員だけで3200人に上るが、それに加え、最新鋭の航空機70機のパイロット、クルー、整備員等は2400人を数える。」

 1100フィートは335メートル、つまり東京タワーのアンテナの先までの高さに相当する。250フィートは76メートル、これは最大級のジャンボジェット機の長さに相当する。底辺の縦横のサイズが東京タワーの高さとジャンボ・ジェット機の長さで、20階建てのビルの高さを持つ立方体を想像いただきたい。その巨大さが感じ取れるかもしれない。それだけではない。エンタープライズを中心とする戦闘集団単位の陣容もまた、尋常ではない。

 「この超巨艦は単独で航行することはなく、少なくとも次の諸艦船が随伴する:イージス型巡洋艦1隻(敵ミサイルを迎撃・爆砕する能力を持つ);相当数のフリゲート艦と駆逐艦(敵の潜水艦から空母を護る);対潜攻撃用(hunter−killer)潜水艇1ないし2隻;補給船等の特殊船舶若干。以上のほか、機動部隊に属する海兵隊とそのヘリコプターがある。」

挑戦に直面した怪物

 ケネディが、攻撃においても防御においても「恐るべき怪物」として、原子力空母を中心とするこの一団を描写するとき、そこに誇張は一切ない。「艦船、航空機、兵站物資および要員の費用は、おそらく中級国家の防衛費の4分の1ないしそれ以上に相当する」というのだ。しかも、米国は、このような空母戦闘集団12単位をすでに擁しているばかりか、更に、もう一つの集団が近く加わる予定になっているという。これらの戦闘集団は、どのように配備されているか。

 「これらの集団を1個所に集合させたとすると、これまで誰も見たことのない海・空軍力の膨大な集積が現出することになる。しかし現実には決してそのようなことは起きない。各集団は、世界各地で米国の利益および責務を擁護する任務を遂行しているからである。例えば昨年9月初めには、3集団が北米・カリブ海域にあり、1集団が南大西洋、他の1集団がペルシャ湾沖、そして2集団が西太平洋/東アジア海域で任務に就いていた。これ以外の5集団は、メンテナンスおよび乗員交替のため、基地に碇泊していた。」

 まさに世界大規模で展開される米国の文字通りグローバル・ミリタリー・パワー。ケネディにとっての驚きは、テロという形で、この怪物への挑戦が行なわれたことだ。

 (明日、「強いアメリカの自画像-その2」に続く)


※関連サイト
  1. フラッシュ24 「テロとの戦いに批判は許さぬ -日米首脳記者会見でのブッシュの表情は語る-」
  2. 「ブッシュ政権の基本的性格 -テロは何を変えたか-」(木内惠)、ITI季報No.46。(pdf-file)

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