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2016/10/06 No.296踊り場のメコン経済…現状と展望(5)ミャンマーで人気の日本的経営

Dr.ThanThanAung
MJC(ミャンマー・日本人材開発センター) マネジャー

本年9月初めにMJC(ミャンマー・日本人材開発センター)がマンダレーで開講しているビジネススクールを訪問した。最近できたばかりの近代的な大型ショッピングモールがある一画のビルに2教室を確保して、マンダレーの経営者・中間管理職を対象に日本的経営を伝授している。訪問した日の夕方、17時30分から始まるProject Managementコースには経営者を中心に15名が参加していた。もう一つの教室ではリーダーシップのコースが行われていた。Project Managementは昼間のコースが定員をオーバーしたので急遽、夕方のコースを開講した。

MJCは2013年8月9日に日本のJICAとミャンマーの商業省と商工会議所によって設立された。目的は、ミャンマーの経済発展にとって不可欠な製造業と商業分野におけるマネジメント人材の育成、及び日本とミャンマーの持続的なビジネス関係を構築することである。2013年12月からヤンゴンとマンダレーで活動を開始した。マンダレー教室の受講生(延べ人数)は、初年度は2013年12月から翌年の3月までで750名、2014年度は2,559名、2015年度3,900名は名と年々増えており人気が高い。

マンダレー教室を立ち上げたMJCマネジャーのDr.Than Than Aungにミャンマーにおける日本的経営の人気の秘密を聞いた。(聞き手は大木博巳ITI事務局長・研究主幹)

Q.人気の秘密はどこにありますか

―マンダレーの経営者や中間管理職の多くが必要性を感じているからです。ミャンマーでは2011年に市場経済が導入されて、2016年には新政権が誕生した。これからは新しい制度が始まる。AECも始まっている。ミャンマーは自由に競争しなければならない時代に変わりました。事業の競争は厳しくなります。伝統的なビジネスのモデルでは生き残れない。時代の変化に自分たちも変わらなければという思いを皆が強く持っています。しかし、何をしてよいのかわからない。まずはビジネスの実践的なノウハウを勉強しなければならない。それで日本的経営が受け入れられています。

Q.どのような科目がありますか

―Human Resource Development、Human Resources Management、Leadership、Project Management、Financial Management、Marketing、Knowledge Management、Communication skill等々。そのほか、3泊4日の合宿をする起業家特訓コースがあります。テーラーメイドコースは会社の必要性に合わせてトレーニングする個別授業です。これから企業に入る大学生向けに、日商の3級簿記の試験を日本と同じように厳しく行っています。

日本企業とミャンマー企業をマッチングさせるネットワークワーキングも組織しています。日本から生産者団体や地域のミッション団が来る機会をとらえて面談をしています。

MJC(ミャンマー・日本人材開発センター)マネジャー
Dr.Than Than Aung(MJCマンダレー校で撮影)

Q.人気の講座は?

―5Sとカイゼンは超人気です。私たちのセミナーは、一クラスが30名から50名の規模ですが、今年5月に開講したカイゼンのコースには、300名の応募がありました。用意した椅子は100名分、先着の人だけが入れました。遅れてきた人は受講できませんでした。そのぐらい今、カイゼンに対する関心が高い。参加者も企業からグループで来ています。

先進国では戦略をみんなで考えている時期かもしれませんが、後発のミャンマーではまずは組織を強くしなければ話になりません。日本の5Sとか、カイゼンとか、ホウ・レン・ソウそういう経営の基礎をみんなが理解することが最も重要なことです。それで1回受講した人が、何度も聞きに来る受講生もいます。自分の事業改善に生かせるから、安心して来ます。

Q.各コースの優秀者には授業料が免除されるそうですね。

―日本の経団連が100名分の支援をしてくれました。その中から15名が日本で実地研修を2週間程度行います。マンダレーからは7名が参加します。飛行機代は自己負担ですが、日本側ではJICAが受け入れ窓口となり商談会(東京、福岡)などを行います。中小企業基盤整備機構にもお世話になっています。宮崎県の延岡市ではホームステイをして日本での生活体験もします。

Q.ミャンマーはビジネススクール・ブームと言えるほど、多くのビジネスクールがあります。MJCはこれらのビジネススクールとどのような違いがありますか。

―ビジネススクールに行く人は自分のスキルアップを目指しています。MJCは違います。MJCには日本的経営を学びに来ています。どうすればより良い会社になれるのか、どうすればより良い組織をつくることができるのか、それを自分で考え、みんなで考える、これを基本としています。MJCのコースを修了してもMBA(経営学修士)を取得することは出ません。MBAが欲しい人はビジネススクールに行きます。それでも、MJCに来る人が大勢います。会社に長く勤めるためには、組織のほうが大事だということをみんなが理解しているからだと思います。

みんなで協力してアイデアを出し合い、より強い組織をつくろうという時期にミャンマーが来ています。MJCセンターで学ぶのは、自分の頭で考える習慣をつけることです。

Q.課題は?

―自立です。JICAからの支援も永久に続く保証はありません。それで、ミャンマー人が教師となって教えることができるようミャンマー人の専門家を育成することです。これまでは、先生は日本人の専門家です。大手メーカーの元工場長とかマーケティングの経験者です。彼らのノウハウを、通訳を介して受講生に伝えています。通訳には日本に留学した人たちが協力しています。

財務面での自立も必要です。毎年、授業料収入を増やして財務面で自立できるよう計画を立てています。

*本調査は公益財団法人JKAの助成を受けて実施しました。

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