一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2016/10/11 No.297航空機部品が米国の対日輸入品目の上位に躍進(日本の輸出品–その1-)

増田耕太郎
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

航空機関連部品が日本の対米輸出の主要品目に加わった。2015年の米国の輸入統計(HS準拠 HTS10桁分類)をもとに日本からの輸入額が大きい品目をみると、上位10位以内に航空機関連の部品(2品目)がある。その合計額は約66.3億ドル、日本からの輸入総額の約5.0%に相当する。2010年から2015年の5年間に日本からの輸入は1.09倍増に対し、航空機関連部品2品目は5年間に37億ドル増加の約2.28倍増と大きく伸びた(表-1)。その要因にボーイング(Boeing)787型機に日本製部品の採用がある。

表-1 米国の対日輸入品目(上位10品目)の輸入額推移

注 HTS:The Harmonized Tariff Schedule of the United States Annotated。上位6桁分類はHS分類に従っている。順位は2015年の輸入額で決定。 網掛けした品目が航空機用部品を示す
出所 米国輸入統計

(1) 輸入額が大きい2番目が「民間航空機用の機体」

対日輸入額が2番目に大きい品目が、「民間航空機(およびヘリコプター)の部分品および付属品(HTS88.03.30-0030)」である。国防総省(Dept. of Defense)や沿岸警備隊(US Coast Guard)で使用するものは含まない。2015年の輸入額は47億683万ドルで、日本からの総輸入額の3.58%を占める。国別シェアでは日本からの輸入は38.6%を占め、2位以下のカナダ(8.39%)、メキシコ(8.13%)、フランス(6.92%)を大きく引き離している。なお、HS87類に分類する航空機類の部分品・付属品は、「胴体や主翼等の機体」などである。HS分類では、航空機用に使われるものであっても、「エンジン」、「タイヤ」、「乗客用の椅子」、「客席にある音響・映像機器」、「通信機器」等と、それらの部分品はHS87類に分類しない。

もう一つの品目は、10位の「航空機用エンジン部品(HTS84.11.91-9085)」である。ターボジェット機またはターボプロペラ機用のもので、2015年の日本からの輸入額は18.92億ドル、5年連続して増加している。

前述の2品目以外に、日本から輸出している航空機関連部品には次のものがある

  1. HTS85.44.30-0000 点火用配線セット(航空機、車両、船舶用等を含む) 8,199万ドル
  2. HTS40.11.30-0010 航空用空気タイヤ(新品) 2,459万ドル
  3. HTS84.11.99-9090 航空機用エンジン部品(ターボジェットまたはターボプロペラのものでないもの) 1,892万ドル
  4. HTS 88.03.20-0030 着陸装置および部分品  924万ドル
  5. HTS40.12.20-1010 航空用空気タイヤ(中古品)  592万ドル
  6. HTS94.01.10-8000 航空機用椅子  430万ドル
  7. HTS90.14.20-8040 民間航空機用計器類  377万ドル
  8. HTS88.03.30-0060 飛行機、ヘリコプターのその他の部分品  298万ドル
  9. HTS88.03.90-9030 その他の部分品   79万ドル

ただし、①HTS85.44.30-0000 点火用配線セットには、航空機用以外に自動車用や船舶用等のものを含んでいる。乗用車等の自動車用が大半を占めると推測されることから、前述の2品目に次ぐのは新品の航空機用タイヤ、航空機用エンジン部品であるとみてよい。それ以外の航空機用に使われる部品類の輸入額は1,000万ドルに満たない。

(2) ボーイング社向けが主体の日本製の航空機部品

日本から輸入される航空機部品はボーイング社向け、特にBoeing787型機用である。日本機械工業連合会の「機械工業生産額見通し調査」(平成28年度)では、航空産業の関連企業25社を対象にした調査から日本の航空機産業の生産状況等をまとめ、主な出荷先がBoeing787型機用であると説明している。

【生産・輸出状況】

  • 日本の航空機産業の生産額は、平成22年度以降に急速に拡大し、平成26年度は1兆6,404億円であった。平成27年度の生産額は1兆7,675億円と前年度を上まわる見込みである。
  • 増加要因はBoeing787機等の民間機向けの生産増を背景とした「機体部品」「エンジン部品」である。Boeing787機用の部品(機体関連 機体部品のみ)の増加等により平成27年度の機体部品の7,927億円が最大で、次いでエンジン部品の3,805億円。この2分野で日本の航空機産業の生産額の7割を超える。この2品目は平成22年度以降、6年度連続して増加している。
  • 平成26年度の輸出額(実績)は1兆586億円。生産額の約65%に相当する。輸出が多いのは、機体部品の6,285億円、エンジン部品の3,227億円で、いずれも過去最高である。この2分野で約9割を占める。平成27年度は、それぞれ6,559億円、3,694億円と、前年度を上回る見通しである。工業会では輸出増加の要因にBoeing787型機向けの増加をあげている。

なお、Boeing787型機で使用されている日本製部品の割合は、機体部分の約35%、エンジン部分の約15%と言われている。

また、日本の輸出統計で2015年の輸出実績でみると米国向けが大半を占めている。

輸出統計番号88.03.30-000(ターボ機用エンジン部品)の輸出額50億5,062万ドルのうち、86.8%に相当する43億8,579万ドルが対米国輸出で占める。 輸出統計番号84.11.91-000(航空機の機体部品)の輸出額27億17万ドルのうち、61.4%に相当する16億5,784万ドルが対米国輸出で占める。(3) 航空機部品輸出の課題民間航空機の部品が2番目になったとはいえ、1位の乗用車(4気筒、1500~3000cc)と比べると1/2以下である。3位となった乗用車(4気筒、3000cc以上)と輸入額推移を比べると、航空機部品(機体部品)が2位になったのは一過性にとどまり常に上回るとは断定できない(図-1)。

また、機体、エンジン部品に集中し、それ以外の品目では航空機用タイヤが約2,500万ドルにとどまるなど、上位2品目に匹敵する品目は見当たらない。

このため、日本が航空機部品の主要輸出国になる課題の一つは、機体部品、エンジン部品に加え、さまざまな部品を供給できる品目の多様化である。空調機器や制御機器などの電機・電子部品、油空圧の駆動装置(アクチュエーター)等の装備品分野、機内のさまざまな内装品の分野である。それらの分野の対米輸出は限定的である。

図 上位3品目の輸入額推移

出所: 米国輸入統計より作成

中・大型民間航空機には数百万個の部品が使われ、部品点数は自動車と比べ数百倍も多い。ただし、年間の需要量は1,000~1,500機程度なので、個々の部品単位でみると自動車に比べ市場規模はきわめて小さい。また、自動車に比べ部品に対する性能や品質の要求は非常に高い。安全に対する要求がきわめて高く、ネジ一つでも国や航空機メーカーの認証が不可欠で、認証がないものは使用することができない。

このため、優れた加工技術に加え、①高度な安全性を確保するための厳密な生産管理体制の確立、②航空機産業特有の要求事項を定めた国際規格の認証、例えば、Nadcap、JISQ9100の取得などが不可欠である(注-1)。また、先行する設備投資負担に耐える資金力など、参入するには多くの高いハードルがある。

それでも、参入を目指す企業が多いのは、航空機の需要が拡大しているうえに参入が難しいだけに一度取引のサプライチェーンに入ることができれば、長期的に安定取引が期待できるためである。中堅・中小企業にとっても将来性のある有望分野として捉え、国や多くの地方自治体では、国家戦略特区として『アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区』構想を掲げるなど、航空機部品分野への参入を支援している。三菱重工のビジネスジェット機・MRJの生産が軌道にのることへの期待も大きい。 将来、「スマートフォンには日本製電子部品が欠かせない」のと同様に、「航空機生産には日本製部品が不可欠」と言われる存在になるのも夢ではない。

(注-1)

Nadcap:(“the National Aerospace and Defense Contractors Accreditation Program”)米国のNPOのPRI (Performance Review Institute)が審査機関として運営する国際航空宇宙産業における特殊工程や製品に対する国際的な認証制度。

世界の航空宇宙関連企業である機体、エンジン及び搭載機器のプライムメーカーが参加している。 プライムメーカー各社がサプライヤーに発注する製品に特殊工程が含まれる場合には、製造委託する条件としてNadcapの認証取得を義務付けている場合が多い。

JISQ9100:ISO 9001をベースにして航空宇宙産業特有の要求事項を織り込んだ日本で制定された世界標準の品質マネジメント規格。

参考: 日本機械工業連合会の「機械工業生産額見通し調査( 航空機生産・輸出・受注額 見通し)」(各年版)

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