2016/10/28 No.299米国の対日輸入急増品目~「蓄電池部品」(日本の輸出品-2-)
増田耕太郎
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
1. 最も伸び率が高かった「蓄電池部品」
米国が日本から輸入している商品のうち、「蓄電池の部分品・付属品(鉛蓄電池を除く、以下「蓄電池部品」)が過去5年間の金額の伸びが最も大きかった。2015年の輸入額は、2010年に比べ38.2倍増で、2015年の対日輸入額が1億ドルを超える191品目中(米国輸入統計HTS10桁分類レベル)最大である。
HTSでは「蓄電池部品」を85.07.90-8000に分類する。「蓄電池部品」の日本からの輸入は、2013年以前までは数百万ドルから1,000万ドル台に留まっていた。ところが、2014年に2億7,248万ドル、2015年に4億4,405億ドルに達している(図-1 参照)。なお、日本の輸出統計分類では鉛蓄電池用の部品を含み、鉛蓄電池用の部品を除いた「蓄電池部品」の輸出額は明らかではない。
図-1「蓄電池の部分品・付属品(セパレータを含み、鉛蓄電池を除く)の対日輸入額の推移単位:100万ドル
蓄電池は使い切りの電池(「一次電池」)と違い、二次電池とも呼ばれ充電することで繰り返し使える電池を指す。二次電池は鉛蓄電池と、それ以外(通称『充電池』)に大別できる。鉛蓄電池以外のタイプには、さまざまなタイプがあり進化が著しく、用途の拡大と機器の利便性が高まっている。スマートフォンやパソコンなど情報通信機器に多く使われ、小型・軽量のものが主流である。近年では電気自働車用や据え置き型の大型のものが増えている。
なお、 蓄電池は、正極材、負極材、セパレーター、電解質等から構成され、正極材、負極材の材料等によって「ニッケル水素電池」、「リチウム・イオン電池」等と呼ばれている。
2015年実績でみた日本からの輸入額が大きい品目(6品目)の合計額は約12.2億ドル。HS85.07項全体では約12.5億ドルである(図-2)。ただし、鉛蓄電池以外の蓄電池のHS分類の改訂があり、HTS分類番号は2012年と2015年に変更がある。
日本からの輸入が大きい蓄電池関連品目の輸入額(2015年)
蓄電池部品(鉛蓄電池用を除く)4億4,404万ドル
リチウム・イオン電池3億4,497万ドル
ニッケル・水素電池1億9,541万ドル
リチウム・イオン電池(電気自動車に車載するものを除く)1億4,156万ドル
ニッケル・カドミウム電池5,670万ドル
ニッケル・イオン電池(電気自動車用)3,775万ドル
「蓄電池部品」(HTS85.07.90-8000)の米国輸入市場での日本製のシェアは高く68.6%を占め、韓国(20.7%)、中国(3.6%)以下を大きく引き離している。なお、「リチウム・イオン電池(HS85.07.60)」の日本製の輸入シェアは31.8%で、中国(48.9%)に次ぐ。
2. 米国の需要増に対し、日本からの輸出拡大と米国での生産強化で対応
日本から米国向け蓄電池部品の輸出が増えているのは、スマートフォンやIT機器用の電子機器用の電源に加え、自動車用の需要増加である。モバイル、IT機器用の需要が成熟期にあるのに対し、自動車用は揺籃期が長く続いていたが、米国、中国、EU市場等で需要の拡大が進み年率30%を超える高成長が期待されている。再生エネルギーによる発電が拡大しているので、据え置き型の大形蓄電池の需要が増えるのは確実である。
そこで、日本からの輸出拡大に加え、日本企業は、蓄電池および蓄電池部品の米国生産を強化、拡充する動きがある(表―1参照)。米国だけでなく、蓄電池および蓄電池部品の生産強化・拡充の動きが中国、日本国内に広がっている。
また、日本では蓄電池関連事業に新たに進出する動きもある。例えば、村田製作所はソニーグループから電池事業の大半を譲り受けると発表した(2016年7月)。リチウム・イオン電池など産業用電池が対象になる。村田製作所は蓄電池の製造・販売は行っていない。車載用等の次世代電池などを開発し成長領域と位置付けるエネルギー分野の中核事業に育てる意向のようだ。
表-1 米国における日系企業の蓄電池関連事業(対米投資)の例
最近、サムスン製新型スマートフォンの電池による発火事故が相次ぎ、使用を禁止する騒ぎがおきている。
今後、自動車用、家庭用等の据え置き型の大容量の需要が主になる時代を迎え、次世代蓄電池の開発は「高機能」、「低コスト」に加え、「安全性」、「環境面に配慮したリサイクル」等のすべての分野での競争が激しくなるに違いない。
図-2 米国における日本からの蓄電池(HS85.07項)の輸入推移 単位100万ドル
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