フラッシュ332
2017年4月6日
 

米加FTAやNAFTAの自由化とインパクト

 
高橋 俊樹
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

 

はじめに

トランプ政権の通商分野における第1の優先事項であるNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉が夏から年内にかけて開始されようとしている。しかも、再交渉が暗礁に乗り上げたならば、米国やメキシコは離脱の可能性もある。それは、1994年のNAFTAの発足直前の時点に時間が巻き戻されることを意味する。

したがって、NAFTAの母体となった米加FTAの誕生からNAFTAへの動きを振り返り、そのインパクトを探ることにしたい。米加間においては、NAFTAの多くは米加FTAから受け継いでいるのだ。NAFTA発効前の各分野の争点や積み残した点、あるいはNAFTAで合意した分野を確認することにより、これからのNAFTA再交渉の焦点がより明確になると思われる。

80年代後半に米加自由貿易協定が成立

1980年代に入り、カナダでは、自由なアクセスと十分な保証を得ずに米国という大きな単一市場に依存することへの懸念から、米加自由貿易協定(FTA)締結の機運が高まっていた。84年のマルルーニ政権誕生時は、米加FTAは同政権の優先度の高い政策ではなかった。これが、行政府の専門家やビジネス界から米加FTAの必要性の声が高まるにつれ、同保守党政権は次第にその成立に向けて本腰を入れていった。

1985年、マルルーニ首相はレーガン大統領と包括的な貿易協定の交渉を開始することに合意し、翌年から交渉が開始された。米加FTA交渉はこれまでのカナダの通商史の中で、最も論争的なものであった。3年もの間、カナダの政治家だけでなく、マスメディア、大衆の間で高い関心を呼んだ政治・経済問題となった。

労働組合などの反対派は、関税障壁の撤廃によりカナダでの生産の魅力が薄れ、資本が米国に移動すると主張した。このため、カナダの競争力が低下し、工場の閉鎖により、失業が増えると考えた。ナショナリストは、カナダの経済的自主性が失われ、政治・社会・文化の領域で米国の影響が一層深まると懸念を表明した。また、もともと自由貿易を主張していた自由党は、カナダの通商政策は自由貿易協定を必要としていないとの結論に達している。

現在の米国のトランプ政権も、NAFTA再交渉や離脱を示唆する理由として、米国資本がメキシコやカナダに移動し、工場が閉鎖し、米国製造業の失業につながることを挙げている。そして、NAFTAは輸出を増やすものの、それ以上に輸入を拡大させることにより、米国の貿易赤字を生む要因になっていると指摘する。つまり、米国でもカナダでも、自由貿易協定の締結により投資が相手国に移動し失業の増加につながると懸念する声が高まるのは共通した現象である。

しかしながら、80年代半ばのカナダのマルルーニ保守党政権は、王室委員会、議会委員会、ほとんどの州政府、各経済団体の強い支持を受けることに成功し、米国とのFTAを推進することを決定した。また、産業界では経済統合によるメリットで、生産性と競争力が増すと考えた。輸入品と競合する生産者の間では慎重論も多かったが、最終的にはある程度は国内を犠牲にしても、国際的な競争力を拡大する方針にシフトしていった。行政の専門家やビジネス界がFTAを支持し、通商政策への影響力を高めていたことが、過去に2度も失敗した米加FTAを成立させる大きな要因となった。

こうした中で、マルルーニ政権は88年11月、ついに総選挙に打って出て勝利し、米加自由貿易協定はその年末に批准することができた。翌89年1月1日、長年にわたって懸案となっていた米加FTAは発効した。

産業界・一般市民から幅広い支持を得る

一般には、米加FTAにおいて、過去の米国との通商協定締結における失敗の影響もあり、カナダ政府は強力な国内の反対勢力に激しく抵抗されたかの印象をもたれている。しかし、当時の産業界、一般市民などへの聞き取り調査(ポール)によると、米国とのFTAに幅広い支持があったようである。ナショナリスト、労働界などは反対勢力の中心であったが、産業界を中心に各分野で米国とのFTAの必要性が認識されていた。

したがって、過去の失敗に続き、もしも80年代後半に米加FTAが成立しなかったとすれば、それは米国政府が議会のFTA反対の抵抗勢力に屈したか、カナダ国内で米国支配に対する感情的な恐れが蔓延してしまったかのいずれか、あるいは両方であったと考えられる。その意味で、カナダ政府のマスコミ対策、および産業界、州政府、野党、労働界などとの調整が、米加FTA締結のキー・ポイントであった。

おそらく、今日の米国産業界にNAFTAの効果についてアンケートを取れば、カナダでの米加FTAの場合と同様に、NAFTAを支持する結果になると予想される。これは、NAFTAに限らず、米産業界へのTPPに対するアンケートにおいても、TPPを支持する結果になると考えられる。なぜならば、米国の農業団体も自動車などの産業界も、5年以上にもわたるTPP交渉の成果に対して大きな不満を抱いていないからである。むしろ、TPPが発効されなければ、米国の農産物の対日輸出は、既に日豪EPAが発効している今日においては、オーストラリアとの競争で不利になると考えられる。

カナダは、米加FTAから多くの貿易・投資の利益を得ることを期待した。第1に、80年代に活発であった米国議会による輸入制限措置を回避できる手段が求められていたし、同時に、米国市場の一層の開放につながる枠組みへの期待が強かった。カナダとしては、関税の削減だけでなく、農産物・食料品を始めとする財やサービスにおける規制のない対米輸出を可能にする制度を早急に確立する必要性があった。

カナダは実際に、米国における緊急輸入制限措置(アンチダンピング、相殺関税)、および知的所有権侵害(米国関税法337条)や外国の不公正貿易慣行(通商法301条)に対する制裁措置の脅威にさらされていた。これらの制限措置に対して、米加FTAは発動へのアクションを軽減させるだけでなく、アンチダンピングや相殺関税法の改訂を書面で要求できるなどの措置を盛り込んだ。同協定はさらに、米国に対して、国家安全保障を理由にしたカナダへの石油・ガスの輸入制限のほとんどを撤廃させた(NAFTAでも継続)。

異なる米加FTAとNAFTAの原産地規則

米加FTAの原産地規則では、域内原産であるための条件として、関税番号の変更基準を満たしていること、現地調達比率が50%以上であること、などが盛り込まれた。米加FTAの現地調達比率は、「製品のダイレクト・コスト(直接製造費用:間接費用や利潤を含まない)」と「米加を原産とする原材料の価格」の合計の「輸出された財の価格」に対する割合が50%以上であることを要求している((ダイレクト・コスト+米加原産原材料価格)÷輸出財の価格≧50%)。ダイレクト・コスト方式は、直接製造費用が間接費用や利潤を含まない分だけ、以前よりも厳格な原産地規則であった。

NAFTAでは原産地規則が米加FTAと異なり、取引価格(生産者に支払われる通関FOBベースの価格)方式で60%以上の現地調達率((取引価格-域外部品価格)÷取引価格≧60%)を要求している。また、ネットコスト(純費用)方式で50%以上の現地調達率((ネットコスト-域外部品価格)÷ネットコスト≧50%)を求めた。ここでのネットコストは、取引価格からマーケティング、アフターサービス費、販売促進費などの中間費用を除いた純費用を指す。したがって、「米加FTAにおける現地調達比率」と「NAFTAのネットコスト方式及び取引価格方式」は、それぞれ異なる考え方に基づいて計算される。

また、米加FTAでは自動車における現地調達率の計算のルールとしてロールアップ方式が採用されたが、NAFTAではトレーシング方式が選ばれた。ロールアップ方式では、ある部品が域内原産と認められれば、その部品価格の100%分を現地調達比率に積み上げることができる(逆に、域内原産と認められなければ計算には考慮されない)。しかし、NAFTAではトレーシング方式が採用され、部品がNAFTA原産と認められても、NAFTA原産の原材料の価格のみが現地調達比率の計算時に足し上げられることになった。

そして、米加FTAにおける自動車の現地調達比率は繊維を除く他の製品と同様に50%以上である。これに対して、当初のNAFTAにおける自動車の現地調達比率は50%であったが、現在は62.5%まで引き上げられている。つまり、自動車におけるNAFTAの原産地規則は米加FTAよりも緩められたわけではなく、むしろ厳格になったということだ。さらに、NAFTAの再交渉では、より厳しい条件が検討される可能性が高い。

なお、繊維製品に関しては米加FTAでもNAFTAでも独自の原産地規則を設けている。米加FTAでは、使用される布が米加原産であれば完成品である繊維製品が米加原産であると認定される。これが、NAFTAでは適用されず、糸の段階から北米原産でなければ完成品が北米原産とは認められなくなった。繊維製品においても、NAFTAは米加FTAよりも厳格になっている。

米加FTAで何を要求したか

米加FTAにおける関税の削減はNAFTAでも採用されたように、10年間で段階的に撤廃されることになったが、果物と野菜は例外とされた。農業分野では赤肉が自由化されたが、鶏肉、卵は例外となった。米国の税関費用は5年後に撤廃することになり、内国民待遇の獲得によりブリティッシュ・コロンビア(BC)州電力会社の米国電力会社への供給が認められた。米国では、砂糖を含む割合が10%以下の加工食品が自由化されたし、農業分野における技術的規則が非関税障壁となっていたため、食肉検査法が緩和されることになった。

また、米国はカナダに対して政府補助金撤廃、サービス市場の自由化、投資の保護、などを要求した。同時に、米国はコンピュータ・プログラム、半導体、ケーブル再送信権などの知的財産権の法的保護をカナダに求めた。商標権では、アメリカン・バーボンの名称をカナダ食品薬事法で保護することを要求した。

さらに、米国はカナダにワインとビールの自由化を求めた。これらの商品の管轄は連邦ではなく州政府にあるため、連邦と州政府間の調整という問題がつきまとった。ワインについては、両国政府は7年をかけて段階的に関税を削減することで合意に達した。

カナダにおけるワインの関税自由化によって、カナダのワイン産業の衰退が危惧されたが、実際には米加FTAやNAFTA以前よりも輸出競争力は強化された。これは、手厚い補助金や政策支援によるもので、日本の農業の自由化に伴う国際競争力強化の1つのお手本になるものである。しかし、これはカナダのアルコール輸入においては、州法(酒類管理法)に基づく酒類管理委員会(Liquor Control Board: LCB)が一元管理しており、全ての輸入酒類はLCBが購買者(名義上の輸入者)になるという、ある意味では非関税障壁で守られている面もないわけではない。

例えば、カナダのオンタリオ州の酒類管理委員会(LCBO)は、輸入種類の取扱商品をリストアップする(listing practices)権利があり、どの商品をLCBOで販売するかを選択することができる。また、LCBOは手数料をマークアップ(pricing practices)することができ、販売の設置場所やスペースを決定できる(product placement)。米国産ワインの手数料は下げられたが、販売する場所やスペースを恣意的に決められるので、販売で不利になる可能性がある。

また、米国はサービス貿易の枠組みに対して、強い関心を示し、米加FTAでも自由化の進展を促した。その対象として、銀行、輸送、コンサルティング、保険、エンジニアリングなどの分野を挙げることができる。一方、カナダも米国に短期の労働許可制限、政府調達市場へのアクセス制限、海上・航空貨物への制限などに対する自由化を求めた。

カナダは米加FTAで米政府調達市場の開放を図ったが、米国側はカナダほど関心がなく、議論は進展しなかった。カナダが米国の政府調達市場を注目した理由は、その規模の大きさにある。1985年における米国の政府調達市場は、連邦・州合わせて7,500億ドルで、当時のカナダGNPの2倍に達していた。米国の国防調達市場だけでも2,800億ドルであり、カナダの企業にとって、外国企業にわずかしか解放されていない米国政府調達市場に風穴を開けることは非常に重要な意味を持っていた。1984年当時では、GATTルールに基づき、米国は政府調達市場で250億ドル、カナダは5億ドルしか外国企業に開放していなかった。この結果、1984年において、GATT協定に基づくカナダの米国政府調達市場への輸出は、2.5億ドル、米国のカナダ向け輸出は3,400万ドルにすぎなかった。

この意味で、カナダにとって、FTAをテコにした米国政府調達市場の開放は、輸出拡大の大きなチャンスであった。しかし、実際には、米国の政府調達市場で開放されたのは連邦政府関連だけで、州政府・地方政府市場は自由化されなかった。カナダは特に防衛関連機器、鉄道車両などの輸出を期待したが、米国は全体の政府調達市場のわずか40億カナダ・ドルしかカナダ企業に開放しなかった。

NAFTAは米加FTAを踏襲

NAFTAは基本的に米加FTAを踏襲したものである。もちろんNAFTAでは、輸送・電気通信サービスなどのサービス分野を対象に広げているし、環境保護、労働問題も付け加えるなど、より包括的な協定となっている。

NAFTAの交渉は、そもそも90年6月に当時の米ブッシュ大統領とメキシコのサリナス大統領との会談で、米墨間の包括的な自由貿易協定が必要であるとの合意が行われたことが発端であった。当初は、2国間だけで交渉を行う予定であったが、カナダが交渉に参加することを希望し、3カ国間での通商協定交渉となった。NAFTAはメキシコという途上国を含んでいたので、交渉は複雑で合意が難しいのではないかとの懸念があったが、米加FTAの経験もあり、実際には1年数ヶ月のスピード合意で成立した。交渉開始は91年6月で、基本合意は92年8月であった。

NAFTAの成立過程を見ると、その目的は単に貿易・投資の拡大という経済的な要因だけでなく、米国大統領選挙に向けた政策の一環でもあったし、米国のメキシコ国境問題に対する対応策でもあった。また、ブッシュ大統領が90年6月に提唱した米州自由貿易地域(FTAA:当時は米州イニシアティブ構想、EAI)を推進するためには、ぜひともNAFTAの成立が必要であった。

NAFTAの成果として、その後の北米域内の貿易・投資の拡大を挙げることができる。もっとも、米加FTAの影響もあり、NAFTA以前から北米域内の貿易・投資は活発化しており、NAFTAはその動きを追認・後押ししたとも考えられる。その意味でも、米加FTAは重要な意義を持っていたと思われる。

米加FTAとNAFTAの協定は共通する部分が多いが、幾つかの分野では異なる点がある。知的財産権、電気通信、競争政策の分野においては、米加FTAは1つの章を設けて規定しなかったが、NAFTAではそれぞれ個別の章を建てて取り扱っている。また、アンチダンピング・相殺関税などの貿易救済措置における紛争解決では、NAFTAは締約国の国内法規がパネルの決定・審査を妨げている場合の新たな紛争解決メカニズムを導入している。

 

米加FTAとNAFTAの分野別取扱い

 

米加FTA

NAFTA

知的財産権、ワイン・蒸留酒、自動車貿易、競争政策、紛争解決・手続き

知的財産権、競争政策の章はないものの、ワイン・蒸留酒と自動車貿易の章を設けた

ワイン・蒸留酒と自動車貿易の章を設けていないが、知的財産権 (第17章)、電気通信(第13章)、競争政策(第15章) の章を新設、さらにはアンチダンピング税や相殺関税の紛争解決(第19章)は米加FTAと多くは共通だが、一般的な紛争処理手続き(第20章)の章を新たに導入

文化

放送・映画・出版の分野でカナダ・コンテンツを要求

米加FTAを引き継ぐ

貿易救済措置

アンチダンピング、相殺関税、セーフガードの使用を認める

アンチダンピングやセーフガード措置などは米加FTAと同様だが、NAFTAは貿易救済措置に関する国内法規の決定を審査するための新たな紛争解決メカニズムを導入

針葉樹貿易

1986年には針葉樹貿易を管理する覚書(MOU)を締結したが、根本的な解決には結びつかなかった

米国の相殺関税の適用を受けて、カナダはNAFTA第19章(紛争解決)に基づき、2国間パネルでの審査を要求、何度もパネルの審査結果が出たにも係わらず解決せず、結局、カナダの輸出税の導入などを含む針葉樹協定で決着をみた、その後2015年に針葉樹協定が失効

供給管理政策

カナダは酪農製品、鶏肉、卵の供給管理政策を維持

米加FTAと同様

 

NAFTAにおける関税やサービスの自由化

NAFTAの発効は、その後の北米での日本企業の行動に大きな影響を与え、北米域内の相互調達網の形成につながった。20年以上も経った今日においても、そのサプライチェーンの成長は止まることはなく、NAFTA再交渉の日本企業への影響は発足時点よりもさらに大きくなっている。

多くの関心を集めるNAFTAの関税撤廃であるが、段階的削減は5年~15年をかけて行われた。米国のメキシコからの輸入では、関税の即時撤廃の割合は84%、5年後に撤廃の割合は8%、10年後は7%、15年後は1%であった。つまり、NAFTAではほとんどの品目は10年後に撤廃されたが、15年目の2008年に関税は完全に撤廃された。

このNAFTAでの関税撤廃の影響は大きい。NAFTA発効以前の1993年におけるメキシコの米国からの輸入の平均関税率は10%であったが、それが94年の発効時には約半分の品目、10年後には99%の品目で関税が撤廃されたのだ。

農業の分野においては共通の合意を求めず、米加墨の3国間でそれぞれ別々の取り決めを行った。米加間では米加FTAを踏襲、米墨間では非関税障壁を関税化あるいは関税割当に切り替える(15年後には廃止)、加墨間では関税の引き下げを推進するが数量割り当てを認める、という内容で合意した。農産物や食品の関税削減において、15年をかけて撤廃するセンシティブ品目としては、メキシコのトウモロコシと干し豆、米国の砂糖とオレンジ・ジュースが挙げられる。

なお、メキシコのマキラドーラ制度(輸出を前提としてメキシコで生産する製品の原材料・部品の輸入関税を払い戻す制度)に基づく関税払い戻しは、メキシコと米国・カナダ間では2001年に廃止されている。

NAFTAのサービス自由化は米加FTAやWTOウルグアイ・ラウンドの成果を拡張している。NAFTAはサービス・プロバイダーに国境を超える取引、投資、情報へのアクセスで、一定の権利を与えている。例えば、米国は協定発効から3年後には、国境を超えるトラック輸送に対して許可を与えることになった。しかし、2007年には一時は試験プロジェクトが実施されたが、現実にはこれが中止され、メキシコが2009年に約90品目の報復措置(特恵関税の停止)で対抗することを表明した。その後、2011年には米墨間でのトラック相互乗り入れが実現している。また、電気通信サービスの分野では、加盟国が公衆通信網及び基本サービスに接続し利用することができるように保証することを決めている。

金融サービスについては、メキシコの自由化が大きく進展した。2000年までの自由化の移行期間中、外資系企業の出資比率などの総量規制に基づいて米加の金融機関の対メキシコ進出が認められた。移行期間後4年間では、外資の授権資本金総額に対する比率が一定の割合を超えた場合、セーフガード措置を取ることが可能であった。また、金融サービス分野に関わる協定内容の順守、検討、協議、紛争処理のため、加盟国の金融サービス官庁の職員によって構成される「金融サービス委員会」を設けられることになった。

なお、第10章の政府調達において、連邦政府機関では財・サービスにおける5万ドル以上の調達、建設サービスにおける650万ドル以上の調達、政府企業では、財・サービスの25万ドル以上の調達、建設サービスの800万ドル以上の調達に関して、公開入札を原則とするなどの調達条件を締約国の供給者に無差別に開放することを規定している。

労働と環境の補完協定を盛り込む

NAFTA本協定には労働や環境に関する条項は含まれなかった。これが、米国の議会や労働者・環境団体の多くに人々にとって大きな懸案事項として残ることになった。特に、メキシコの労働や環境に関する多くの問題に対処するため、米国はNAFTAに労働と環境に関する追加規定を求めた。

NAFTAの労働と環境の補完協定は、1994年1月1日、NAFTAと同じ日に発効した。このNAFTAの補完協定は、NAFTA本協定とは異なり、議会の批准手続きは行われていない。

環境の補完協定は、環境の保護・強化に関する協力、環境法の順守・執行の向上を目的とし、加盟国による執行手続きの広報、記録保持や報告の要求等の執行を規定している。労働の補完協定は、労働条件・生活水準の改善、労働法の順守・効果的執行などを目的とし、加盟国による労働三権、強制労働の禁止、児童労働の制限、最低労働条件等の執行について規定している。

NAFTAの補完協定には、2つの調整支援プログラムも含まれていた。すなわち、NAFTA移行調整援助(NAFTA-TAA)プログラムと米国コミュニティ調整・投資プログラム(USCAIP)である。また、労働と環境の補完協定は、労働と環境問題に関する協力の促進、補完協定の効果的な実施や一定の労働基準の履行を恒常的に怠った場合に関する条項を含んでいる。補完協定における紛争解決処理手続きは、加盟国が法律の執行を怠ったことへの金銭的評価と制裁に関して規定している。NAFTAはFTAに関連する労働と環境条項を最初に導入した通商協定であった。

こうしたNAFTAにおける労働・環境の3国間の補完協定に加えて、米国とメキシコは国境を越えた環境協力に関して2国間補完協定を発効させた。この合意において、両国政府は米国とメキシコの国境に沿った環境インフラ・プロジェクトの開発に協力することを約束した。これにより、メキシコのフアレスにある国境環境協力委員会(BECC)とテキサス州サンアントニオにある北米開発銀行(NADBank)の2つの組織が設立された。これらの関連組織は、米国とメキシコの連邦、州および地方レベルで緊密に協力し、水供給と廃水処理、固形廃棄物処理、および関連するプロジェクトの開発・促進を行うことになっている。この2つのNAFTAの環境協力関連機関は2014年12月、統合することが承認されている。

 

(参考文献)
「NAFTAを読む」、ジェトロ編集、日本貿易振興会、1993年
「一体化する北米経済」、佐々木潤、日本貿易振興会、1994年
「カナダの経済発展と日本」、高橋俊樹、明石書店、2005年
“The North American Free Trade Agreement(NAFTA)” M. Angeles Villarreal, Ian F. Fergusson, Congressional Research Service, February 22, 2017
NAFTAの再交渉への動きとその見通し~再交渉開始は早ければ6月後半か7月初めか~」、国際貿易投資研究所(ITI)、コラムNO38、2017年3月17日
「国境調整税に見られる共和党の変化を見逃すな」、国際貿易投資研究所(ITI)・文眞堂、世界経済評論IMPACT NO790、2017年1月30日