2017/08/02 No.342文在寅政権、対外関係で課題山積~先行きに不透明感~
百本和弘
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
韓国で革新(進歩)政党・「共に民主党」の文在寅政権が誕生して3か月が過ぎた。対北朝鮮、対米、対中政策、日韓関係について百本和弘ITI客員研究員に聞いた。(聞き手は大木博巳ITI事務局長)
Q.文在寅大統領は核問題解決を前提に、南北関係改善に意欲を見せていますが、北朝鮮は長距離ミサイル実験を断行しています。文在寅大統領の北朝鮮政策に手詰まり感が出ていますが…
– 文在寅大統領は一貫して南北融和を目指している。2017年7月に発表した「文在寅政府 国政運営5カ年計画」では「北朝鮮を対話に引き出し、北朝鮮の非核化と平和体制構築を包括的に推進」「2020年の核放棄合意実現のため、核開発凍結から完全な核廃棄につながる包括的な非核化交渉方案を立案する」「さまざまな分野の南北交流活性化を通じ、南北関係発展を図る」としている。しかし、北朝鮮が核放棄を前提にした南北対話に応じる気配は全くなく、計画の実現は不透明といわざるをえない。
Q. 中韓関係も最近、しっくりいっていないようですが
‐韓国にとって中国との関係は、①高い対中経済依存度、②対北朝鮮牽制の2つの面で非常に重要である。
-2015年末までの中韓関係は、中韓FTA交渉妥結・発効、韓国のアジアインフラ投資銀行参加、「抗日戦争・反ファシズム戦争勝利70周年」記念式典への朴前大統領参加(2015年9月、北京)など、蜜月といえるほど良好だった。しかし、2016年に入り、状況が一変した。北朝鮮の核実験、長距離弾道ミサイル発射実験を受け、米韓が高高度防衛ミサイル(THAAD)配備の協議を開始、中国が猛反発している。
– 特に、2017年2月ごろから中国の対韓「報復」が一段と強化されている。特に目立つのが、訪韓中国人観光客の減少による韓国観光業への打撃や、THAAD配備場所を提供したロッテ・グループに対する締め付けだ。さらに、中国市場での韓国ブランド車販売の大幅減など、影響は広範囲にわたっている。2017年7月に在中の韓国経済団体関係者に話を聞いたところ、その他に、食品など韓国製消費財の輸入通関手続きを厳格化したり、在中韓国系企業が業績悪化のため駐在員を本国に戻したりといった影響も出ているという。
– 文在寅政権発足に伴って中韓関係の好転を期待する向きもあったが、文大統領はTHAAD配備を撤回しない方針で、先行きは不透明だ。
対中輸出へのTHAAD「報復」の影響は限定的
Q. 韓国の対中輸出の不振はTHAAD「報復」が影響しているのでしょうか
– 韓国の対中輸出は2000年代に入ってから高い成長率が続いていたが、2011年以降、伸びが鈍化、2014年から2016年は減少が続いた。
– 対中輸出不振の理由は、①景気循環的要因(世界経済の減速、資源価格下落など)、②構造要因(中国企業の競争力向上、韓国企業の中国現地生産化の進展など)に分けられる。特に、中国企業の競争力向上は脅威だ。例えば、政府系シンクタンク・産業研究所は2017年4月に、ほぼ全ての主要産業で中韓の競争力格差の縮小が続くとのレポートを発表している。
– このような中、対中輸出の大半は生産財なため、前述のTHAAD「報復」の影響は限定的だ。実際、2017年上半期の対中輸出は主に①の要因改善により前年同期比12.4%増と、減少から増加に転じている。半導体、石油製品などが堅調だ。
Q.文在寅大統領の訪米の成果は?
– 文在寅大統領は2017年6月末に訪米、トランプ大統領と初会談を行った。会談の焦点は、北朝鮮の核・ミサイル問題と米韓FTA見直し問題であった。特に、後者に関連して、文大統領の訪米に随行した韓国の企業経営者が対米投資や米国からの調達拡大の計画を表明し、米国側の不満の解消に努めた。
– 韓国側は首脳会談では米韓FTA見直しに合意しなかったとの立場であったが、トランプ大統領が記者会見で米韓FTA再交渉を要求するなど、両国の間で溝が埋まらなかった。
Q. 韓米FTAの見直しについて韓国の対応は?
– 2017年7月、米国・通商代表部(USTR)は米韓FTA見直しのための2国間協議を求めると正式に発表した。米国が対韓貿易赤字の増加を問題視しているためだ。米国商務省によると、対韓貿易赤字額は米韓FTA発効直前の2011年から2016年にかけ、2.1倍に拡大した。2016年時点で韓国は米国にとって8位の貿易赤字国だ。
– これに対し、韓国政府は「両国の実務陣が韓米FTA効果を共同で調査・分析・評価し、FTAが両国間の貿易不均衡の原因かをまず明らかにすべき」という立場だ。
-今後の展開は不透明だ。韓国側は自動車、鉄鋼、農産品、法律サービスなどの分野で米国がFTA見直しを要求してくるとみている。その一方、韓国国内では、これを機に、ISDS(投資家対国家の紛争解決)などで米国に見直しを要求すべきとの指摘も出ているようだ。
Q. 文政権下で日韓関係は改善が期待できますか?
– 文在寅政権は日本との経済協力関係を強化していく意向を示している。前述の「文在寅政府 国政運営5カ年計画」では、「…歴史を直視しつつ、韓日間の未来志向的で成熟した協力パートナー関係を発展させる」「歴史と、北朝鮮の核・ミサイル対応や両国間の実質協力とを分離して対応する」と明記している。日韓経済・ビジネス関係の深化に期待したい。
日本の対韓投資に新たな動き
Q. 日本の対韓投資は減少が続いています。
– 韓国・産業通商資源部の統計によると、日本からの直接投資受入額(実行ベース)は2013年以降、減少が続いている。しかし、例えば、韓国勢が圧倒的に強い有機ELの世界市場が本格的に立ち上がり、関連する在韓日系企業が韓国企業向け供給量確保のため生産規模を一気に拡大するなど、新たな動きもみられる。今後の日本の対韓直接投資も、世界市場での韓国企業の動向に大きく影響されよう。
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