フラッシュ369
2018年4月12日
 

「未来の中国」をけん制する米国~米国の対中輸入追加関税品目リスト~

 
大木 博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

 

米政府は4月3日に、500億ドル(約5兆3,500億円)相当の中国製品、1,300品目に一律25%の関税を課す方針を発表した。その数時間後に、中国国務院は米国からの輸入品を対象にした500億ドル相当の関税品目(500品目)リストを発表した。

米通商代表部(USTR)が公表した対中輸入の追加関税品目リスト(注1)は、HS分類に従っている米国関税分類(HTS)のHS8桁ベースで1303品目、これを2017年の米国輸入実績で試算すると輸入金額は464億ドルとなった。業種は、無機化学品および貴金属・希土類金属・放射性元素の化合物(HTSコード:28類)、有機化学品(29類)、医療用品(30類)、化学工業生産品(38類)、ゴムおよびその製品(40類)、鉄鋼(72類)、鉄鋼製品(73類)、アルミニウムおよびその製品(76類)、卑金属製品(83類)、原子炉やボイラーおよび機械類(84類)、電気機器(85類)、鉄道車両・部品(86類)、自動車・部品(87類)、航空・宇宙機器(88類)、船舶(89類)、光学(90類)等広範囲にわたっている。表1は、1,303品目(HTS8ケタ)をHTS2桁の業種分類で整理したものである。

 

表1 米国の対中輸入追加関税品目数と輸入金額(HTS2桁分類で集約)

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資料:米通商代表部発表リスト(4月3日)及び米国貿易統計よりITI作成

 

第1は、対象品目がもっと多い業種は、一般機械(537品目)、次いで電気機器(241品目)、光学機器(164品目)、鉄鋼(108品目)と続いている。これら4業種で1050品目、8割弱を占めている。鉄鋼製品対しては、過剰生産体質の中国の鉄鋼産業に対する警戒感を抱いているようである。また、輸送機械、時計を加えた機械産業の品目数は1035、全体の77.6%を占めている。

第2に、対象品目の輸入金額は、一般機械の200億ドル、電機の144億ドル、光学機器64億ドル、自動車・部品が19億ドルと機械産業が上位を占め、機械産業を合計すると436億ドル、輸入金額では9割超が機械産業の品目が占めている。

第3に輸入金額が大きな品目、アパレル、履物、携帯電話、コンピュータ(PC)は除外されている。米企業が係わる品目は避けているように見える。品目リストの中で対中輸入額が10億ドルを超えている品目は、テレビの38億ドル、次いで乗用車(HTS87032301)14億ドル、印刷機部品(HTS84439950)13億ドル、アルミニウム(HTS76061230)10億ドルの4品目である。

第4は輸入実績がない品目数は141、内訳は化学品、鉄鋼、機械産業に多い。また、輸入金額が100万ドル未満の品目数が412、100万ドル~1億ドル未満の品目数が679である。輸入実績がないか、あっても輸入金額が100万ドル以下の品目が4割超を占めている。これから中国が輸出を拡大させようとしている品目、何年も先まで大きな輸出品とはなりそうにない品目等、広く網をかけたものとなっている。輸入実績がない品目としては、電気モーターならびにリチウムイオン電池を動力源とする自動車、大型航空機や小型機、航空機およびヘリコプター用部品、航空宇宙ナビゲーションのオートパイロット、フライトレコーダー(飛行記録装置)等が対象品目に含まれている。

米国の対中機械機器輸入

今回の対中輸入制限品目リスト策定に当たって米国が念頭に置いたのは、「中国製造2025」であると指摘されている。これは、中国政府が2015年に発表した産業高度化の長期戦略で、鉄鋼やアパレル、履物、ノートPCなどを大量生産する「製造大国」から、建国100周年にあたる2049年に「世界一の製造強国」に変身することを最終目標にしている。特に、今後成長が見込まれる十大産業(次世代情報技術、ハイエンドNC(数値制御)工作機械とロボット、航空宇宙設備、海洋エンジニアリング設備とハイテク船舶、先端軌道交通設備、省エネルギー・新エネルギー自動車、電力設備、新素材、バイオ医薬と高性能医療機器、農業機械設備)を重点的に育て上げ、2025年に世界の製造強国の一つになることを目指している。今回米国が発表した追加関税措置案はこの十大産業に照準を合わせている(注2)。

米国の対中機械機器輸入額は、2000年の384億ドルから2016年には2,533億ドル億ドルへと拡大している(表2)。米国の対中機械機器輸入額で最大の品目は、コンピュータ・周辺機器の571億ドル、通信機器の612億ドルで米国の対中機械機器輸入額の46.8%を占めており、中国の対米機械機器輸出額ではこの2業種への依存度が大きい。しかし、対中機械機器輸入で、輸入額はこの2業種ほどではないが、米国の当該輸入額に占める対中輸入の比率が拡大している品目が多く出てきている。エアコン、ポンプ、冷蔵庫、調理機械、エレベーター、農業機械、印刷機械、繊維機械、鉄道、自動車部品などの品目は、2016年には、米国の当該輸入額に占める対中輸入の比率が10%を超えている。2000年には1%以下のシェアであった品目で、中国の対米輸出の次の製品といえよう。

 

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資料:米国貿易統計よりITI作成

 

米市場抜きで貿易強国になれない中国

他方、中国の対米機械機器輸出は、2000年の201億ドルから2016年には2,001億ドルへと10倍増となっている。米国の対中機械機器輸入金額と齟齬があるのは、中国の香港輸出の中に香港経由の中国製品が含まれているためである。中国の対米機械機器輸出では、コンピュータ・同周辺機器や携帯電話の対米輸出依存度は、コンピュータ・同周辺機器が31.3%、携帯電話(スマホ)が22.5%と米国の対中輸入依存度の同じく60.8%、74.4%と比べて小さい。これらの品目を米国が制限してもその影響は、米国で大きく、中国では小さい。この貿易存度の非対称性は、上述した香港経由の中国製品が米国の輸入データに含まれていることが影響している要因もあるが、中国地場企業の携帯電話が米市場で参入阻止されていることやインドやASEANなどの新興市場向けに拡大していること等がその要因として指摘できる。

また、一般機械に属する業種(鉱山建設機械、エレベーター、農業機械、工作機械など)は、対米輸出依存度は、2000年と比べて2016年には低下している品目が多い。これも、一帯一路によるASEAN市場などの新興市場開拓の成果であると思われる。

 

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資料:米国貿易統計よりITI作成

 

逆に、精密機械、自動車・同部品や航空宇宙の対米輸出依存度は、高まっている品目が多い。これらは、中国が次の輸出品目として期待している業種である。前述した航空産業関連品への追加関税賦課は、中国の航空機器産業を意識したものである。中国は、2017年5月に国産旅客機「C919」が初飛行を果たした。中国政府は国内の航空電子機器・部品メーカーを世界的な競争力のある企業に育成する大々的な計画を掲げている。世界で最も競争が激しい米市場への参入は、中国にとってそのお墨付けを得ることになる。

今回の米国の対中輸入品に対する追加関税措置は、世界市場で最も自由で価格競争指向的な米市場における中国製品の浸透が容易でないことを示すものであろう。特に、世界市場で貿易強国を目指す中国にとって、米市場で十分にシェアを取れなければ、真の貿易強国という称号を獲得することはないし、認めてもらえないことになる。

米市場への参入が難しくなれば、中国企業の国際化戦略の見直しを余儀なくさせられることになろう。また、米市場への参入に障壁があると、世界の製造業者が中国を対米輸出の信頼ある拠点とはみなさなくなり、他へと移転する契機となろう。

さらに、厄介なのは、中国が米国の措置に対して、仮に中国が国内で事業を展開する米企業に対し、健康や安全性の面で規則に違反したなどとして制裁を加えることで報復すれば、そのリスクはさらに高まることである。外国からの投資は、中国が技術や産業ノウハウを取得する上で鍵を握ってきたからである(注3)。「未来の中国」に対する米国の牽制によって、中国のフラストレーションが高まっていることは想像に難くない。

 

1. 米通商代表部(USTR)は4月3日、1974年通商法301条(以下、301条)に基づいて中国からの輸入品に追加関税を賦課する品目リストを公表した。USTRは、公表した対象品目リストに関するパブリックコメントを2018年5月11日まで実施する。公聴会は5月15日に開催し、公聴会での証言に関する反論コメントも5月22日まで受け付ける。USTRは、上記の意見聴取のプロセスを経た後で対象製品を最終的に確定する。(ジェトロ通商弘報)
2. 日経ニュース 「米中、技術覇権争いに 中国の重点産業狙い撃ち」 2018年4月4日
3. WSJ 2018年4月9日