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2018/07/06 No.378米国の対中制裁関税の影響~加工品を狙い撃ち、消費財は軽微~

大木博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

トランプ米大統領は2018年7月5日、1974年通商法301条(以下、301条)に基づき、中国の技術移転策に対する制裁措置として、制裁関税を予定通り7月6日に発動すると表明した。これを受けて、米通商代表部(USTR)は米東部時間6日午前0時1分(日本時間午後1時1分)以降に米国に到着したり、国内の保管庫から取り出されたりした輸入品から関税を徴収すると通知を出した(注1)。

制裁関税品目は、6月15日に、USTRが中国からの輸入に関税賦課を行う品目のリストを公表していた。制裁対象関税品目数は1,102品目、このうち、(1)7月6日から25%の追加関税を賦課する818品目、(2)今後さらなる審査やパブリックコメントなどを通して最終的に品目確定を行う284品目に分けている。

表1 対中制裁関税対象品目数(HS2桁で分類)

資料:USTR公表資料よりITI作成

USTRによると、(1)のリストは、4月6日に公表された1,333品目の対象品目リストに関する公聴会やパブリックコメントの結果を反映し、同リストに当初掲載されていた515品目を除外した818品目で構成されている。表1は制裁関税品目をHS2桁の業種分類で取りまとめたものである。4月6日に公表されたリストから除外された品目は、鉄鋼(108品目)、鉄鋼製品(44品目)、一般機械(88品目)、医療用品(47品目)等が主な製品である。

(2)のリストは、301条の政府間委員会が別途特定した284品目で構成されており、「中国製造2025」など中国政府の産業政策の対象品目が含まれているという(注2)。(2)のリストに追加された制裁品目は、プラスチック(147品目)、一般機械(32品目)、電機機械(36品目)、鉄道(14品目)、車両(自動車)(19品目)などである。

表2 対中制裁関税対象品目の対中輸入額(2017年)単位:100万ドル

資料:USTR公表資料よりITI作成

表2は、制裁関税対象品目の輸入額である。(1)のリストの対中輸入額は、322億ドル、このうち一般機械が157億ドル、次に電機が96億ドル、光学機器が44億ドル等である。一般機械では、コンピュータ周辺機器(記憶装置)が14億ドルと最大となっている。

(2)のリストの対中輸入額は141億ドル、このうち電機が75億ドルと最も大きい。これは、集積回路(HS8542)、電動機及び発電機(HS 8501)、電気機器(電気機器、粒子加速器、信号発生器、電気めっき用機器)(HS 8543)が新たに加わったためで、特に、集積回路が27億ドル、電機機器の輸入額が15億ドルと大きい。次に、プラスチック関連の一次製品やプラスチック製のシート・管等プラスチックが広範囲に制裁対象に含まれている。一般機械では、半導体製造装置が対象製品に指定されている(対中輸入額は3億ドル)

消費財は除外

表3は、米国が対中輸入制裁関税品目の輸入額を財別に分類したものである。財別に分類すると、部品が210億ドル、資本財が190億ドル、加工品が41億ドル、消費財が21億ドルである。4月6日公表リストと比べると、部品の制裁対象輸入額が24億ドル、資本財が19億ドル増加している一方で、消費財が48億ドル減少している。消費財の減少はテレビを制裁対象品から外したことによる。対中制裁関税による米国の消費者に対する影響を少しでも緩和する配慮が働いたものと思われる。

表3 米国の対中制裁関税品目輸入額(財別、2017年) 単位:100万ドル

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資料:USTR公表資料よりITI作成

制裁関税対象品の米国の輸入に占める比率は、加工品、部品、資本財で1割程度

表4は、米国の対中制裁関税品目の輸入額が当該品目の米国の輸入額に占める中国のシェアを求めたものである。加工品では4月のリスト品目では4.0%であったが6月のリストでは11.8%に拡大している、部品は4月の13.7%から6月のリストでは12.3%に微減、資本財は9.8%から10.2%に微増、消費財は2.6%から1.2%に微減となっている。米国の輸入の1割を占めている加工品、部品、資本財では、何らかの影響が生じるかもしれないが、比較的軽微にとどまるのではないか。

例えば、今回の対中輸入制裁関税品目の中で対中輸入シェアが高い品目に鉄道がある。米国が中国から輸入している鉄道関連品でもっと金額が大きい品目はコンテナーである(表―5)。また、消費財では車両にシェアが高い品目があるが、これは50CC以下のオートバイである。

表4 対中制裁関税品目の輸入額が米国の該当品目の輸入額に占めるシェア(2017年)シェア:%

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資料:ITI作成

表5 対中制裁関税品目(鉄道)の輸入額と米国の輸入に占めるシェア

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資料:ITI作成

世界貿易は、米中貿易戦争を先取りして既に失速しているようである。JPモルガンが公表している世界製造業PMI指数の新規輸出が、2018年6月に約2年ぶりの低水準となる50.5に落ち込んだ。拡大と縮小の分岐点である50は依然として上回り、輸出受注がまだ増加していることを示しているが、2018年1月につけた直近のピークである54.2からは一貫して鈍化傾向にあるという(注3)。

1. 「トランプ氏、対中関税発動表明」日経新聞 2018/7/6 9:53

2. 「301条に基づく対中関税品目を公表」ジェトロビジネス短信2018年06月18日

3. WSJ 2018年7月5日付け

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