フラッシュ380
2018年8月3日
 

中国の対米報復関税措置に手詰まり感
~レバレッジを高めるトランプ政権、報復措置の矛先を米企業に向け始めた中国~

 
大木 博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

 

1. 中国の対米報復関税措置品目と輸入額

中国政府は7月6日、米国と同時刻(米国東部時間で7月6日午前0時1分)に、米国の対中輸入追加関税措置に対抗して対米輸入額約340億ドル相当の品目に対して25%の関税賦課を開始した。

報復関税措置品目は、6月16日に中国商務部が発表していた(注1)。7月6日から25%の追加関税を徴収するリスト1の品目数は545、さらにリスト2には追加品目として114品目が列挙されている。

2018年4月に公表した報復関税措置品目と比べると、リスト1では、魚介類、野菜、果実など食料品が新たに多数追加されていた。また、リスト2には、プラスチックなどの化学品に加えて鉱物性燃料で石油が新たに追加されている。鉱物性燃料は、中国が対米貿易黒字削減の切り札として想定していたのが石油と天然ガスである。米国政府も、液化天然ガス(LNG)の中国輸出を増やしたい考えであるという(注2)。また、4月に公表していたリストからは、鉄鋼製品、アルミニウム、航空機が除外されている(表1)。

 

表1 中国の対米報復関税措置品目(業種別品目数)

出所:中国貿易統計よりITI作成(以下同じ)

 

関税制裁品目の対米輸入額は、2017年でリスト1が338億ドル、リスト2は144億ドルである(表2)。リスト1では採油用の種、(主に大豆)が143億ドル、次に車両(自動車)が129億ドル、この2つで制裁関税品目輸入額の8割を占めている。

リスト2では鉱物性燃料が85億ドル、プラスチックが38億ドルである。鉱物性燃料では、リスト1の天然ガスが18億ドル、リスト2の石油が31億ドルとなっている。

 

表2 中国の対米報復関税措置品目の輸入額(2017年) 単位100万ドル

 

対米輸入制裁関税品目を財別にみると、消費財が497品目、加工品が111品目と消費財に集中している。部品は僅か2品目のみとなっている。消費財は食肉、野菜、果実などの食料品がほとんどである(表3)。

 

表3 中国の対米報復関税措置品(財別品目数、2017年)

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また、制裁品目の財別輸入金額(リスト1+リスト2の合計額)は、素材が206億ドル、消費財が158億ドル、加工品が100億ドル、部品、資本財はともに8億ドルと素材、加工品と消費財に与える影響が大きい(表4)。素材では、大豆が7割近くを占めている。加工品ではプラスチック、各種化学工業品が5割以上、消費財では乗用車が8割弱を占めている。加工品のプラスチックや各種化学工業品はリスト2の品目である。

 

表4 中国の対米報復関税措置品の財別輸入額(2017年)

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2.中国の対米報復関税措置の米国への影響

中国の報復関税の狙いの一つは、トランプ大統領の支持層である米農家に直接狙いを定めて打撃を与えることにある。現在のところ、米農業地帯のトランプ大統領への支持率は依然高いが、農産品の価格や売り上げが低迷するような事態が起きれば、支持が揺らぐ可能性はある。

食料品で影響が出てきているのは、豚肉である。米国の対中豚肉輸出は、2018年初からの5か月で前年同期比18%減と減少していた。中国は、2018年4月に米国産豚肉に25%の関税を課し7月さらに62%に引き上げた。これにより、中国への豚肉輸出成約量がゼロの週があった。米国の最大の豚肉輸出先は、メキシコである。メキシコ向けも7月に入って落ち込んでいるようである。

中国向け豚肉で影響が出ているのは、豚くず肉である。豚の足、頭部、心臓、舌、胃、腸などのくず肉は、中国が最大の顧客である。米国の豚肉加工企業が輸出する豚の足や頭部の9割が、中国・香港市場向けで、他のどこの国よりも高く買ってくれる市場である(注3)。しかし、中国が関税を50%に引き上げたことで、対中輸出が急減している。

自動車は、テスラと米国で現地生産している欧州メーカーに対して打撃となっている。テスラは、2017年に1万7,000台を中国に輸出している。自動車の販売価格を20%近く引き上げた。また7月10日には上海に工場を建設する計画を発表した。

欧州メーカーではBMWが影響を被るようである。BMWは2017年に、サウスカロライナ州スパータンバーグ工場で38万5,900台を生産し、8万7,600台を中国、11万2,900台を欧州に輸出した。BMWは、米国の工場から中国に出荷する新車には今後、40%の関税が課されることになる(注4)。欧州自動車メーカーは対米進出が裏目に出ているようである。

3.中国経済への影響

中国の対米報復関税措置品目の対米輸入額が当該品目の中国の対世界輸入額に占める比率は、僅か2.7%である(表5)。中国経済には影響は、ほとんどないように見えるが、個々の品目をみると、ブーメラン効果がないとは言えない。

中国の対米報復関税措置が中国経済に跳ね返ると思われる品目は、大豆(対米依存度335.1%)、穀物(同23.5%)、魚介類(同16.3%)、自動車(車両)(同16.3%)である。穀物では、グレーンソルガムが、中国のグレーンソルガム輸入に占める米国の割合が93.2%を占め、ほぼ米国に頼っている。

大豆に関しては、種々、中国国内で影響が出てきている報道を耳にするようになった。例えば、中国の民営企業で大豆輸入や化学事業などを手掛ける山東晨曦集団が破産手続きを開始、米中貿易戦争が経営破綻への最後の一押しとなった可能性も浮上している(注5)。

 

表5 対米報復関税措置品目の輸入額が中国の当該品目の対世界輸入額に占める割合(2017年)

 

4.最後の砦、集積回路

トランプ大統領は7月30日のホワイトハウスでの会議で、10%の関税は弱すぎるとして、25%まで引き上げるよう指示した(注6)。中国も即応するものと思われるが、既に中国の対米制裁品目の輸入額が対米輸入額に占める割合は、32.2%と中国の対米輸入の3分の1を占めている(表6)。輸入金額ベースでは、肉類や魚介類、果実類などはすべての品目が制裁関税の対象となっている。一方、飲料アルコール、加工穀物や有機化学品、光学機器ではその割合が10%以下と低い。

また、中国の財別対米輸入に占める対米制裁品目の輸入額の割合は、素材が67.8%、加工品が27.7%、部品が3.0%、資本財が2.4%、消費財が68.3%と素材と消費財に偏っている。次の対抗措置は部品や、資本財が有力となる。部品では、中国は米国から集積回路を100億ドル程度輸入している。第2位はターボジェットエンジンの37億ドルである。

資本財では、航空機が141億ドルとなっている。航空機は、4月のリストに入っていたが、7月のリスからは除外されて品目である。集積回路や航空機を報復関税対象品目とする、自国経済にコスト増として跳ね返ってくることになる。米国製品の輸入に対する中国の対抗措置に手詰まり感がある。

 

表6 対米輸入額に占める対米報復関税措置品目の輸入額の割合(2017年)

 

表7 中国の対米財別輸入額に占める報復関税措置品目輸入額の割合(2017年)

 

5. 内需拡大に乗り出した中国

トランプ大統領は、対中貿易戦争で優位に立っていると認識しているようである。その根拠の一つが、米中の経済状況である。米経済は絶好調、一方、中国経済は減速が鮮明となっている。頼みの投資が、2018年1-6月期で、前年同期比6%にとどまり、1990年代以降で最低の伸びとなった。また、1-6月の輸出は好調であったが、米中貿易戦争を前にして駆け込み輸出があった模様である。

中国政府はこの袋小路を突破する方策として、金融緩和に打って出ている。中国人民銀行は市中に資金を潤沢に供給し、また、当局は、企業に社債の発行を促したほか、地方政府による公共事業目的の借り入れ制限を緩和した。この難局を内需振興で乗り切ろうとする意図が見え隠れする。

しかし、この中国の金融緩和が、米金利上昇と相俟って、元安をもたらしている。2018年4月から7月までの人民元の対ドル相場は8%安となり、4カ月間の下落率で過去最大を記録した。トランプ政権の新たな関税引き上げ案は、人民元安を相殺することが関税引き上げの理由の一つと見られている。米中は悪循環に陥っているようである。

中国の対米報復関税措置に手詰まり感が出ている中で、中国は、輸入品目から米企業に矛先を向け始めている。中国政府は米半導体大手クアルコムによるNXPセミコンダクターズの買収案を競争法上の問題があるとして却下した。また、7月末から、国営の新華社通信からアップルたたきが始まった。その後、政府系メディア4社が続き、アップルのメッセージサービス「アイメッセージ(iMessage)」が禁止コンテンツを十分に排除していないと非難した(注7)。

WSJは社説で、中国政府は決して、米国の関税によって経済面での屈服を強いられることはないとみている(注8)。米中貿易戦争を奇貨として内需主導型の経済成長路線を強化すると見込まれるからである。しかし、金融緩和を進めることで、中国政府の最重要課題であった金融デレバレッジ(債務圧縮)を先送りすることになり、傷口を大きくすることになりかねない。

 

1. ジェトロビジネス短信 2018年6月20日
2. 「中国が約束した米国製品輸入増、ボトルネックは何か」ロイター、2018年5月22日
3. 「焦点:上得意失った米国の豚くず肉、貿易戦争が閉ざす中国販路」ロイター、2018年7月21日
4. 「米中関税合戦、外国メーカーの米国製車両を直撃」WSJ、2018年7月12日
5. 「アジアVIEW中国大豆輸入大手、破産へ 貿易戦争で打撃か」日本経済新聞 2018/7/27
6. WSJ 2019年8月2日
7. WSJ2018年8月1日
8. WSJ「【社説】中国、貿易戦争敗者にはならず」2018年8月1日