フラッシュ394
2018年9月13日
 

電子商取引協定、サービス貿易協定の交渉などで前進
-第50回ASEAN経済大臣会議の成果-

 
石川 幸一
亜細亜大学アジア研究所 教授

 

第50回ASEAN経済大臣会合が8月29日にシンガポールで開催された。共同声明によると、ASEAN経済共同体(AEC)2025に向けての行動計画の実施で着実な進展があった。以下に共同声明および2018年に出されたASEAN統合ブリーフ第3号により進展状況をまとめた(注1)。

 

① CLMVの自由化率が97.7%に上昇

2018年1月にCLMVがAFTAの残存関税品目(全体の7%)の関税削減を行った結果、CLMVの自由化率(関税削減率)は97.7%となり、ASEAN6の99.3%と併せて、ASEAN全体では98.6%となった。CLMVの2016年の自由化率は90.01%だった。域内貿易比率(2017年)は22.9%と低い水準である(表)。ASEANの貿易が日本、韓国、中国から中間財を輸入し完成品を欧米及び日本などに輸出するパターンから脱していないことと国別ではベトナムの域内貿易比率が11.7%と低いことが影響している。ASEANは域外とのグローバル・バリュー・チェーンへの参加をAECの目標としており、ASEAN域外とのFTAの締結をAECの行動計画に入れている。域外とのFTA締結によりASEAN域外との貿易は増加する。域内貿易比率の低さを取り上げてASEANの経済統合を失敗とみる評価があるが、域内貿易比率の高低のみでASEANの経済統合を評価するべきではない(注2)。域内投資比率は19.4%と高くはないが上昇傾向にある(注3)。

 

表 域内貿易比率と域内投資比率(2017年)(単位:%)

 

ブルネイ

カンボジア

インドネシア

ラオス

マレーシア

ミャンマー

フィリピン

シンガポール

タイ

ベトナム

ASEAN

域内貿易比率

35.6

26.6

24.2

62.5

27.5

34.6

22.2

25.5

22.7

11.7

22.9

域内投資比率

116.3

22.1

51.5

10.1

22.9

48.2

7.2

6.4

21.0

18.0

19.4

(注)ブルネイの対内投資比率が100%を超えているのは、対外投資比率がマイナス(流出超)となっているためである。
(出所)ASEAN Secretariat(2018), ASEAN Economic Integration Brief No.3

 

物品の貿易では、ATIGA(ASEAN物品貿易協定)改定第一議定書が調印され、ASEAN全体での自己証明制度(AWSC)の実施が認められた。ASEANではAFTAを利用するための原産地証明は政府が発行する第3者証明制度を採用しているが、自己証明制度の導入が進められていた。具体的には、2つの自己証明制度がパイロット・プロジェクトとして試行されてきており、その統合が2018年の課題となっていた。自己証明制度が導入されれば、原産地証明取得の時間が短縮できるなど企業の利便性が高まる。ASEAN通関トランジットシステムのパイロット・プロジェクトの準備が2017年12月からCLMVで開始された。

また、ATIGAのHS2017による原産地規則の品目別原産地規則を2018年12月1日までにATIGAに組み入れることが決まり、情報技術協定(ITA)の品目リストのATIGAへの組み入れを早急に行うことになった。

② サービス貿易協定(ATISA)は年内調印へ

AFASによるサービス貿易自由化の最後のフェーズとなるAFAS10を実施するための議定書の調印が行われた。1995年に調印されたAFASによるサービス貿易自由化は終了し、次はASEANサービス貿易協定(ATISA)による自由化となる。ATISAは2018年11月の第17回AEC協議会で調印の見通しとなった。サービス経済化とIT化や輸送革新によるサービス貿易の発展から新たなサービス貿易協定の策定が進められてきた。内容は発表されていないが、通信サービス、金融サービスの取り扱い、自由化を後退させないことを約束するラチェット条項が入るかどうか、規制の現状を一覧的に示すため透明性が高いネガティブリスト方式が採用されるかなどが注目される。なお、金融サービスは財務大臣会議で交渉されているが、2018年末までに金融サービス自由化の第8パッケージ議定書の調印を目標としている。

物品貿易についてはATIGA、投資についてはACIA、サービス貿易についてはATISAと経済統合の重要3分野について、新しい協定が揃うことになる。ATIGA、ACIAは、国際水準の包括的な協定であり、ATISAもそうした協定になると考えられる(注4)。ATIGA、ATISA、ACIA、AMNP(ASEAN自然人移動協定)の4つの新しい協定が、「物品、サービス、投資、資本、熟練労働者の自由な移動」を目指すAECの4つの法的な基盤となる。

③ パフォーマンス要求の禁止を拡大

投資自由化では、WTOのTRIM(貿易関連投資措置)協定を超える(TRIMプラス)パフォーマンス要求の禁止を規定するACIA第4議定書の原案作業が進展した。TRIM協定で禁止されているのは、ローカルコンテント要求、輸出入均衡要求であるが、近年のFTAでは輸出要求、現地調達要求、国内販売制限要求、役員国籍要求などより広範な要求が禁止されている。TPPでは、技術移転要求の禁止、特定技術仕様要求の禁止、投資家が締結するライセンス契約に関するロイヤルティ規制の禁止などが追加されている。どのような禁止措置が追加されるかは判らないが、投資を行う外資企業にとっては投資環境の大きな改善になる。

④ ASEANシングルウィンドウが稼働

ASEANシングルウィンドウ(ASW)は、2018年1月からインドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナムの5か国がATIGAの電子原産地証明書(e-FormD)の電子的交換を開始したが、ブルネイ、カンボジア、フィリピンが電子的交換の最終テストまで進んだ。電子衛生植物検疫証明(e-Phyto)と電子税関申告書(e-ACDD)は2018年中にテストを開始する見込みである。国際物流における貨物のセキュリティ管理と手続き効率化のために設けられた国際的に認められ、コンプライアンスが徹底している事業者を認定し特例を認める認定事業者(Authorized Economic Operator: AEO)の相互承認協定(MRA)のFS調査を行うことも決まった(注5)。

規格と適合性評価では、調整食品の食品衛生についての検査承認制度の相互承認の調印が行われ、食品の域内貿易の円滑化に役立つことが期待される。軽量・計測機器の型式承認管理についてのASEANガイドラインの作成も最終段階に至っている。

⑤ 電子商取引協定は18年末の首脳会議で調印

ASEAN電子商取引協定は、2018年の第33回ASEAN首脳会議で調印の見通しとなった。電子商取引協定は、①ASEAN域内の越境電子商取引の円滑化、②電子商取引への信頼環境つくり、③電子商取引利用の拡大への協力を目的にしている。TPPでは、①電子的送信に対し関税を賦課しないこと、②電子的手段による国境を越える情報の自由な移転、③コンピューター関連設備を自国内に設置する要求の禁止、④大量販売用のソフトウェアのソース・コードの移転またはソース・コードへのアクセス要求の禁止などを規定している。

ASEANデジタル統合枠組みは18年末のAEC協議会での承認に向けて経済大臣会議で採択された。統合枠組みでは、継ぎ目のない(シームレス)デジタル貿易、データの保護、デジタル貿易とイノベーションの支援、デジタル決済、デジタル分野の才能の拡大、企業家精神の養成の6分野を優先分野としている。今年のASEAN議長国であるシンガポールが提案したASEANスマートシティネットワーク構想をデジタル分野の開発の相乗効果を高め、ベストプラクティスを共有し、成長、イノベーション、能力養成、持続的成長のための機会を与えるプラットフォームとして再確認した。

⑥ 対外FTAの改定が進展

対外経済関係では、次のような進展があった。ASEAN中国FTA(ACFTA)の改善(Upgrading)交渉では、品目別原産地規則(Product Specific Rule)の強化交渉で合意に至った。ACFTAの原産地規則は締結当初は40%付加価値基準のみだったが、品目別原産地規則の採用で関税番号変更基準も利用できるようになっている。日本とのEPA(AJCEP)では、サービス貿易章、自然人移動章、投資章を組みこむための第1改定議定書が2018年11月の第21回日ASEAN首脳会議で調印の見込みである。ACFTAの改善議定書、ASEAN韓国物品貿易協定(AKFTA)の改定第3議定書、ASEAN豪州ニュージーランドFTA(AANZFTA)の第1改定議定書、インドとのサービス貿易と投資協定の批准を促進することになった。ASEAN香港のFTAと投資協定は2019年1月1日発効を目指して批准を加速することになった。今後のFTAとしては、EU、カナダ、ユーラシア経済連合が候補であり、フィージビリティ調査などの準備の作業が開始されている。

⑦ 連結性分野での協定・議定書調印

輸送関連では、ASEAN越境陸上輸送旅客円滑化枠組み協定(CBTP)、AFASの航空輸送約束の第10パッケージ、ASEAN加盟国の領域における地点間の国内コードシェア権についての第3議定書、航空乗務員の免許相互承認協定の4つの協定などが調印された。2018年2月には、通貨貨物円滑化協定(AFAFGIT)の第1議定書(越境交通路の指定と施設)が批准された(注6)。これによりAFAFGITと議定書を共有している国際輸送貨物円滑化協定(AFAFIST)の全面的な批准が進むことが期待できる。

なお、AEC2025を実施するための23の部門別計画(Sectoral Plan)が全て作成され、経済大臣会議で承認された。これによりAEC2025実施の体制が整備されたことになる。また、2017年に採択されたAEC2025実施のスケジュール、担当部局などを提示する実行計画である統合戦略的行動計画(CSAP)が2018年2月に改訂された。

 

注:
1. ASEAN Secretariat(2018), The 50th ASEAN Economic Minister’s (AEM) Meeting, Joint Media Statement および ASEAN Secretariat(2018), ASEAN Economic Integration Brief N0.03, June 2018
2. 域内貿易比率の評価については、石川幸一(2016)「FTAから経済共同体へ-ASEANの経済統合の現状と展望-」、トラン・ヴァン・トゥ編『ASEAN経済新時代と日本』文眞堂、所収。
3. ASEANの域内投資については、石川幸一(2016)「投資の自由化」、石川・清水・助川編前掲書所収。
4. ATIGAについては、石川幸一(2009)「新AFTA協定の締結」『国際貿易と投資』No.75、2009年春号、45-67ページ、ACIAについては、石川幸一(2010)「ASEAN包括的投資協定の概要と意義」、『国際貿易と投資』No.79,2010年春号、3-20ページを参照。
5. AEOの相互承認は世界で約40が成立しており、自社の関与する輸出入貨物について自国だけでなく、相手国でも書類審査・検査の負担が軽減されるなどの効果がある。たとえば、日本はシンガポール、マレーシアを含む8か国と相互承認協定を結んでいるが、ASEAN域内では相互承認はまだ成立していない。
6. 輸送関連協定の内容と調印・批准状況については、春日尚雄(2016)「ASEAN連結性の強化と交通・運輸分野の改善」、石川・清水・助川編(2016)前掲書所収。

 

参考文献
石川幸一・清水一史・助川成也編(2016)「ASEAN経済共同体の創設と日本」文眞堂。
石川幸一(2018)「実施に移されるASEAN経済共同体2025行動計画」『世界経済評論』Vol.62,No.5, 2018年9月号/10月号。