2018/09/21 No.397強気のトランプ大統領、次の焦点はアップルのサプライチェーン~第3弾の対中輸入追加関税措置の影響~(訂正)
大木博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹
5,745品目の対中輸入品に追加関税10%
トランプ大統領は9月17日、1974年通商法301条(以下、301条)に基づく、対中輸入額2,000億ドル相当の第3弾の追加関税を9月24日に発動するよう米通商代表部(USTR)に指示した。USTRが公表した第3弾の追加関税品目リスト(HS8桁レベル)を確認したところ、品目数は5745品目であった。パブリックコメント前の追加関税対象品目リスト6,031品目であったから、公聴会の結果を受けて286品目(HS8ケタ)が除外されている。
制裁対象から外れた品目は、スマートウオッチやブルートゥース機器などの消費者家電、子供用のカーシートやベビーサークル、トイレットペーパーやベッドシーツなどの日用品の原料となるセルロース繊維に使われる化学製品や繊維製品、農産品、自転車用ヘルメット、繊維強化または積層樹脂を使った安全帽子(ヘルメット)など安全性に関わる品目等である(注1)。
追加関税率は2018年末までは10%、2019年以降は25%に設定されている。この2段階の関税発動は、中国に対して段階的に圧力をかけるほか、関税引き上げの影響を考慮した調整期間を米国企業に与えることを目的としている(注2)。また、クリスマス商戦における消費者への影響を軽減する狙いもある。
この発表に先立ち、ドナルド・トランプ大統領は9月17日に、対中貿易赤字が何年も米国を苦しめてきたとし、「それを繰り返させるわけにはいかない」と述べていた。
対中輸入品目の55.4%が制裁対象
追加関税対象品目(表1)の特徴は以下のとおりである。
第1は、第1弾、第2弾の追加関税対象品目数は合計した1,097品目、第3弾は5,744品目と5.3倍の規模となっている。これによって米国の対中輸入品目(HS8桁)のうち55.4%と過半を超える輸入品に対して追加関税が賦課される。
第2は、第3弾では、追加関税対象となる輸入品がすべての分野に広がっている。第1弾、第2弾では、ハイテク業界の覇権を目指す中国の戦略計画に関連した製品(機械部品)を標的にした。第3弾では、魚介類等の食料、化学品、繊維、鉄鋼、車両(主に自動車部品)、かばんなどの革製品、家具などの生活関連消費財など広範囲にわたっている。
第3に、財別では、第3弾では加工品が3,397品目、消費財が1,287品目と、第1、第2弾と比べて加工品、消費財の品目が対象となっている。
第4に、制裁対象品目から除外された品目は、スマートフォン、アパレル、履物、玩具などの消費財である。
表1
追加関税対象品目の対中輸入額は2,348億ドルに
次に追加関税対象品目の対中輸入額(2017年、表2)の特徴は以下の通り。
第1に、第3弾で対象となった品目の対中輸入額は1,888億ドル、第1弾の322億ドル,2弾の136億ドルと比べて規模が異なる。第1,2、3弾を合計した輸入額は2,348億ドルとなる。
第2に、第3弾の追加関税対象分野で最も輸入規模が大きい産業は電機産業である。次に一般機械、家具、車両(自動車部品)、鉄鋼製品、革製品と続いている。電機では電話機関連(携帯電話を除く)、トランスフォーマー、光ファイバー、集積回路等である。
第3に財別では、第3弾では加工品が473億ドル、部品が428億ドル、資本財が562億ドル、消費財が443億ドルである。第1、第2弾と比べて資本財や消費財の最終消費財の輸入額大きい。追加関税の賦課はより消費者に身近な製品に踏み込んでいる。
第4に非制裁対象品目の輸入額は2,706億ドルである。米国の対中輸入の53.5%を占めている。トランプ大統領は、まだ十分に制裁を発動する余地を残している。焦点の一つは、アップルの携帯電話(スマートフォン)である。トランプ大統領は、アップルには対中関税を避ける簡単な方法があると言う。それは米国で製品を作ることだと述べている。
表2
追加関税対象品目の米国の輸入に占める対中輸入のシェアは18.1%
第3弾の追加関税対象品目の対中輸入額1,888億ドルは、当該品目の米国の輸入に占めるシェアで測ると、10.0%である(表3)。第1弾と第2弾では、合計して8.1%であった。これで対中輸入追加関税品目の輸入額は、米国の当該品目輸入に占めるシェアで18.1%と約2割弱に達した。
とりわけ、対中輸入追加関税品目のうち、特に対中輸輸入依存度が高い業種は、革製品、家具,帽子が50%超、ガラス、メリヤスが30%超、さらに繊維を中心にして20%超が12業種ある。一方、電機は18.2%、一般機械は16.2%と2割以下に抑えられている。車両は4.8%と小さい。
表3-①
表3-②
真の問題は、サプライチェーンの価値が今後、米国からさらに中国に流れるかどうか
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ 2018 年 9 月 14 日)のアンケート調査によると、これまでの第1、第2弾の追加関税措置による影響は、大半のエコノミストは輸出入にかかる関税は、好調な米国経済にそれほど影響を及ぼしていないようだと回答している。米国経済への影響が限定的だとみているのは、実施されている追加関税品目の対中輸入の米国の輸入に占めるシェアが8.1%と比較的小さいことが挙げられる。その一方で、エコノミストの間で関税が経済見通しへの最大のリスクであり続けている。中長期的な視点では、米経済に無視できない影響を及ぼすと見ている。
しかし、第3弾の制裁措置は、対中輸入依存が高い消費財が含まれているため、短期的な影響が無視できない。前回の措置で洗濯機や乾燥機に追加関税が発動された際、それらの販売は製品値上げ前に増加し、その後は急減したという。中国製家具の輸入は2018年6月から7月に前年同期比10.5%増加した。追加関税を見越して消費財は対中輸入を積み増したようである。駆け込み需要が起きてその反動で消費が落ち込むことが指摘できる。
他方、人民元に対するドルレートが上昇していることから、追加関税による製品価格の上昇をドル高で抑制することができる。元の対ドルレートは、2015年の1ドルが6.227元から2016年に6.644元、2017年には6.758元で推移し、2016年で6.6%、2017年で1.7%、2018年に入ってもドル高傾向が続いている。
米国内に生産拠点を持ち、部品調達を中国企業に依存する企業や、中国で部品を生産する米企業は無縁ではいられない。WSJ紙は中国のみでエンジンを生産している米企業の事例を紹介している。この企業は一部の特別な部品が中国でしか確保できない。中国で年間生産するエンジン約25万基のうち1万基以上を米国に輸出する。同社はトランプ政権がこれまで発動した対中関税により、間接的なものも含め、今年1億ドルのコストがかかると予想する(注3)。
対中輸入制裁関税の次の焦点は、スマートフォンであろう。米製造業の復活を掲げているトランプ米大統領はアップルに対し、生産拠点を中国から米国へ移管するよう呼びかけた(注4)。
すなわち、「新しい工場を今すぐ建設せよ。エキサイティングだ!」とツイートして、アップルは関税を回避したいなら中国ではなく米国で製品を生産すべきだと示唆した。アップルは、中国で約1万人を直接雇用で、サプライチェーンを含めれば300万の雇用を創出していると明かした。アップルは中国で150万人のアプリ開発者にも仕事を提供しているという。
一方、アップルは、経営的な損得勘定からすれば、米国内に生産拠点を回帰させるよりは、関税を支払った方が、安上がりである。1台当たり30ドル程度の値上げで済むからである。しかし、米国に製造業を復活させようとするトランプ大統領は、そうした損得勘定には嫌悪感を示すのではないだろか。今後も中国に生産拠点を維持・発展させるか、これから本格的に議論がでてこよう。すでに、アップルのライバルのサムスン電子は、スマートフォンの生産拠点を中国からベトナムやインドに移している。WSJ経済担当チーフコメンテーター、グレッグ・イップ氏は、真の問題は、サプライチェーンの価値が今後、米国からさらに中国に流れるかどうかにあると喝破している。米国の企業はトランプ氏の目標をおおむね支持しており、目標達成のために短期的な痛みに耐える覚悟もしているという(注5)。
注
1. ジェトロビジネス短信2018年9月20日
2. WSJ 2018年9月17日
3. WSJ日本語版「米対中関税第3弾、自動車部品業界を直撃へ」2018年9月20日
4. WSJ日本語版「トランプ氏、アップルに米国への生産移管呼びかけ」2018年9月10日
5. WSJ日本語版「Phoneの米国内生産、実現しても勝利は名ばかり」2018年9月20日ただし、それは、「企業が今、米国で創出する雇用の数という単純な物差しではなく、現在と将来の両方において企業が創出する雇用の質という物差しで成功を測るなら、という条件付きの話だ。」
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