フラッシュ399
2018年9月25日
 

ティラワSEZの現状と課題~ITIミャンマー研究会現地出張報告(5)~

 
春日 尚雄
都留文科大学 教授

 

日本企業はこれまでASEAN各国への進出を積極的におこなってきたが、その中でミャンマーへの投資は国別投資額でも数年前までは日本は比較的低位にとどまってきた。しかし、ティラワSEZの開発と稼働は、ミャンマーへの製造業投資の転換点となる可能性がある。

日本がミャンマーへの投資行動を活発化させるシグナルとして象徴的に受け止められているからである。ミャンマー・ヤンゴン近郊のティラワSEZについては、すでに多くの報道がされている。先月8月に、ITIミャンマー研究会メンバーが日系企業の立地が多くなっているティラワSEZを視察した。研究会メンバーの春日 尚雄都留文科大学教授にティラワSEZの最新状況と課題、展望を伺った。(聞き手はITI事務局長 大木博巳)

ティラワSEZ工業団地が、Zone-A(405ha)が完売され、現在はZone-B(262ha)の開発が進んでいます。

‐同SEZは、2014年1月に設立されたMyanmar Japan Thilawa Development Ltd.(MJTD社)(日本連合49%(注1)、ミャンマー側51%が)によって開発が始まったが、Myanmar Special Economic Zone Law(SEZ法)に基づいており、ミャンマーの投資法による一般の外国投資とは別枠になっています。ちなみにミャンマーにおけるSEZは、中国が推進するチャオピューSEZ、日本も参加するダウェイSEZ(ミャンマー、タイ、日本でSPV(特別目的事業体)を組織)およびティラワSEZの3つがありますが、現状ではティラワSEZが最も進んでいる状況です。

ティラワSEZはミャンマー最大の都市ヤンゴンの中心部であるダウンタウンの南東約25kmに位置し、東南アジアの他の大型工業団地と比べると都市部と比較的近接している印象があります。

開発はZone-A(405ha)が完了、完売され、現在はZone-B(262ha)の開発が進んでいます。2018年9月現在の企業進出状況としては、契約締結済みが94社、操業開始済みが55社、このうち輸出志向型が35社、国内市場型が58社となっています。国籍別では日系が48社、次いでタイ14社、韓国6社などとなっています(注2)。

 

① ティラワSEZレイアウト

(出所)MJTD社

 

ティラワSEZへの企業進出が順調に増えている理由はどこにありますか。

‐入居企業へのヒアリングで印象的だったのは、SEZ管理棟内にある各種行政サービスの窓口となるワンストップサービスセンターの使い勝手が良いことで、進出企業側の利便性に配慮したソフトインフラと言えるでしょう。

 

② ティラワSEZワンストップサービスセンター

 

こうしたソフトインフラに加えて、ティラワSEZに進出している、あるいは進出を検討している特に製造業各社においては、ミャンマーにおける交通インフラ整備とサプライチェーンの構築の可能性などについて多くの検討を費やしてきたのではないかと推測します。

この出張報告のシリーズで道路整備・輸送の現状について藤村教授より詳細に報告(ITIフラッシュ395)がありましたが、裾野産業の脆弱なミャンマーと日系企業群の集積するタイ・バンコク圏との連結は待ち望まれていました。

結論として現状においては、すべての業種において満足できる交通インフラの整備がおこなわれた訳ではありませんが、これまで利用が芳しくないとされてきた東西回廊の延伸を含めて、特にタイ側からヤンゴンへのアクセスは数年前に比較すると着実に良くなりつつあります。こうした状況の改善がティラワSEZへの企業進出が加速されてきた一因であると考えます。

ティラワSEZのインフラ整備状況をどう評価しますか。

‐同SEZのインフラは全般に「日本規格」とも言えるものとなっています。日本企業は業種、企業にもよりますが、クオリティの高いインフラ整備が進出の決め手になることも多いものです。ティラワSEZの場合、追い風となっているのは日本の政府援助によるヤンゴン周辺の各種インフラ整備で、電力についてはガス火力発電所(50MW)、変電所あるいは23万Vクラスの送電網、水についてはSEZの約40km北に位置するラグンビンダム浄水場整備(注3)、道路・港湾ではすでに完成している4車線のタケタ橋、SEZ西側の河川港であるコンテナターミナル港整備、などです。こうした高規格のインフラを備えた工業団地はこれまでミャンマーには存在しておらず、日本の官民一体の協力によって進められてきたプロジェクトと言えます。

 

③ ヤンゴンにおける23万V送電網

注:ティラワSEZはThan Lyln SSに近接。
(出所)JICA

 

交通インフラについてはいかがでしょう?

‐まずヤンゴン市内からティラワSEZへのアクセス状況ですが、距離的には近いのですが現時点では渋滞、悪路のため良いとは言えません。ヤンゴン市内からティラワSEZのあるタンリン地区へバゴー川を渡るには通常タンリン橋が利用されますが、1993年中国の支援で完成したタンリン橋は片側1車線でかつ老朽化が進み重量制限があります。またタンリン地区における交通量も多いため、市内からティラワSEZまで時間帯によっては1~2時間掛かっています。これに対して日本からの円借款を利用し、タンリン橋西側に(新)バゴー橋(最大75トン車両が通過可能)が整備されることが決まっています。2018年中に建設が始まり、2021年の完成を予定しています。

 

④ ヤンゴン市内からティラワSEZへのアクセス

(出所)MJTD社

 

タイ・バンコク圏との陸路サプライチェーンの見通しは

ティラワSEZで稼働する(あるいは進出を検討している)企業の大きな関心事の1つは、タイ・バンコク圏との約900kmの陸路サプライチェーン構築かと思います。ADB(アジア開発銀行)が主導したGMS東西経済回廊が、本来の積み出し港であるはずのモーラミャインを迂回するようにヤンゴンまで延伸する方向です(ITIフラッシュ395参照)。

但し、今回の走行調査を通じて、メーソット=ミャワディ国境からのトータルの道路状況は、決定的なボトルネックは解消されつつありますが、精密部品・機器や重量物の貨物輸送に関してはかなり厳しい面がありそうです。さらに、かつてタイ-ベトナム間の輸送で片荷について問題視されましたが、タイ-ミャンマー間ではそれ以上のアンバランス(ミャンマーの一方的な入超)になることが予想されますので、商業ベースの長距離貨物輸送はコスト面からも当面厳しいと思われます。

しかしながら、短距離輸送の改善が進んでいますので、さらなる連結性の進展は産業立地の変化をもたらすことからASEANで最も遅れているとされるミャンマーにとっては、中長期的に大きなチャンスに繋がることが期待されます。

ティラワSEZへの進出企業は輸出よりは内需に関心を寄せている企業が多いようですが

今までタイ、ベトナムといったASEANの国が、外資誘致によって経済発展を遂げてきた過程では輸出志向型の企業の大規模な進出がトリガーになったという共通点があります。当然ミャンマー側においてもそうした期待をもっていたことは想像に難くありません。

しかしながら、ミャンマーへのグローバル企業の進出、特に雇用効果の大きい製造業については期待を下回っているのではないでしょうか。その理由は様々あるかと思いますが、現時点でのティラワSEZ進出企業を見る限り、前述のようにミャンマー国内市場を主要ターゲットとしている企業の方が輸出志向型の企業を上回っているという特徴があります。将来は状況が変わる可能性が十分ありますが、現時点では工業製品のメーカーがミャンマーを輸出基地として位置づけるという動きよりも、ミャンマーの成長しつつあるがややニッチな国内市場を早めに押さえたい、という企業の立地が先行しているようです。

ティラワSEZで生産を立ち上げたスズキ自動車の販売が好調なようです

その中で自動車メーカーであるスズキが、スズキ・ミャンマー・モーター社を設立しティラワSEZ(ミャンマーでは2か所目の生産拠点)にて現地生産・国内販売を強化していることは特筆されます。ミャンマーでは多く見られた輸入中古車の規制が昨年より厳格化されており(国境地帯における輸入中古車の現状についてはITIフラッシュ390を参照)、新車へのシフトが進んでいます。

その中で、2018年1-6月のミャンマーにおける新車販売におけるスズキのシェアは52%に達しているとされ(注4)、こうした状況にスズキの生産が間に合わず、数か月分のバックオーダーを抱えているようです。自動車産業の裾野産業がほとんどないに等しいミャンマーにおいては、完成車メーカーはほぼ全ての部品を輸入せざるを得ませんが、スズキのケースではタイ、インドの自社工場からの輸入であると思われます。ティラワSEZの中では、大手物流企業との間の専用レーンによって部品が供給されるミニ「ジャスト・イン・タイム」体制が構築されているようです。

ミャンマーの自動車産業育成策について

ASEAN域内ではAFTA(ASEAN自由貿易協定)によって輸入関税の削減・撤廃がおこなわれてきました。但し自動車完成車などへの輸入関税はCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)については猶予措置が認められてきましたが、それも2018年1月1日をもって撤廃されています。これによって、CLMV4カ国における自動車完成車生産は極めて難しくなると思われてきました。しかしながら関税以外の方策として、ベトナムの昨年10月の実質輸入を制限する「政令116号」やミャンマーにおいての、国産車と輸入車の登録税の差別化など、各国は自国の自動車産業の育成は諦めておらず、これらがNTB(非関税障壁)なのかNTM(非関税措置)なのかはまだ議論が続くと思われます。

 

1. 日本民間出資:39% 丸紅、住友商事、三菱商事、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱東京 UFJ 銀行、日本政府出資:10% JICA。
2. MJTD社発表資料による。
3. ヤンゴンでは地下水利用が一般的であるが、地盤沈下の危険が高まっており、ティラワSEZへの給水は貯水池からダゴン橋を通る給水ラインで北から供給せざるを得ない。
4. SannkeiBiz 2018年9月6日付け。