一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2018/11/05 No.407陸路でインド市場に流れるミャンマー製品、中国製品~ITIミャンマー研究会現地出張報告(11)~

大木博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

マンダレー、モンユワの工業団地を訪問して、インド市場に輸出しているという地場企業に出会った。1社はマンダレー工業団地で石鹸を製造販売している企業である。もう1社は、モンユワの工業団地で米粉を製造販売している企業である。いずれも中小企業である。

マンダレーの石鹸企業

マンダレーの石鹸企業は、1986年の設立で、当初は、マンダレーの地場市場から始まり、ミャンマー全国に拡大させた。マンダレー工業団地内にある工場のキャパシティは1日当たり300箱で、プロセスはより労働集約的である。生産工程は、材料を混合して、加熱し液状にし、次に冷却のために3〜4時間放置する。冷却された半製品は、機械によって棒状に加工され、最終製品として石鹸のサイズに切断される。梱包は手作業で行われているが、梱包機を中国に注文する予定であるという。

原材料の半分以上が国内から供給されているが、その他は中国から供給されている。天津からヤンゴンまでは船で、ヤンゴンからマンダレーへは鉄道を使っている。

社長はヤタナポン大学で学んだ工業化学関係の知識を活用して、以前は、非常に伝統的な方法を維持して化学物質を使用していなかったが、より多くの発泡を得るために化学添加物を使用し始めた。品質管理を改善するための小さな実験室も持っている。

課題は、マーケティングと従業員教育である。従業員はほとんどが高校卒業者で、一部は学士を雇っていた。社長によれば、マネージャーは30年の経験を必要とし、上級技術者は少なくとも10年間、一部は30年の経験を要する。オペレーターから始まってジュニアの技術者になるには5年かかる。

最近は、国際ブランドとの競争にも直面している。ユニリバーの石鹸(LUX)は、広告に多額の資金を投じて派手に宣伝をして、高価な石鹸市場に浸透している。しかし、同社の市場は低所得層向けであり、伝統市場で売られている。City Martなどの中間層が買い物に行く近代的なスーパーマーケットでは販売されていない。

もはや、地場の石鹸メーカーも、国際ブランドを無視して商売ができる環境にはないとは思っている。競争相手が少なく、より良い品質の製品としての消費者の認知を得るために、将来的に液体石鹸を開発するつもりである。現在、液体石鹸や洗剤は中国からの輸入品が多く、国内生産は行われていない。

国内の流通経路は、列車とトラックで、主要都市の販売代理店に製品を運ぶ。主に食料品店で販売される。この流通経路を使って、インド市場にも製品が流れている。

モンユワの米粉企業

もう1社は、モンユワ工業団にある米粉企業である。この企業は、もともとは、毛布を生産販売していたが、中国製品との競合で市場を失い、商売替えに踏み切った。モンユワの工業団地内で同様のビジネスをしていた300社ほどがすべて店を閉め、ここの織物産業が崩壊したという。その約4割が縫製工場の切りくずのリサイクル(ベッドに詰める用途など)にシフトしているが、他はどうなったのかわからないという。

米粉生産を始めたきっかけは、このあたりでは過去4世帯しかつくっていなかったので、再チャレンジした。機械設備はできるだけ工業団地内で作っているもの調達した。ただし、コメ洗浄機はベトナム製のものを、粉砕した米粉を2階に噴き上げて米麺の布に加工する機械は中国製のものを輸入した。その布状の米麺を階段状のベルトコンベアで乾かしながら1階に降ろし、細く裁断する機械を通し、最後は敷地内に張り巡らされた物干し竿で乾かす。そして袋詰めする。

商売替えしたときに、30人ほどいた従業員を10人程度に減らし、それと家族・親戚の手伝いで運営している。機械化学習を進め、機械操作を6人がかりで行っていたところ、1人でできるようになった。

販売先は国内が8割でマグウェーやマンダレーの中部ビルマが中心で、残りの2割がタムー国境からインド・マニプール州への輸出である。輸出は、仲卸に委託している。国境までは14時間もかかるという。インド市場向け売り上げの回収は、国境往復を含め2週間後に仲卸から受けとることができる。

インドの対ミャンマー貿易インドの輸入統計でミャンマーからの輸入品(ミャンマーの対インド輸出品)を見ると、2017年では石鹸やビーフンは見当たらない。石鹸は2010年に僅かな金額が記録されていた。インドの対ミャンマー輸入は、2017年で7.4億ドル、このうち豆類が5.3億ドルと全体の71%を占めている(表1)。次に木材の1.4億ドルである。これで91%を占める。第3番目は、卑金属の2,100万ドル、鉄鋼の1,400万ドルである。ミャンマーの対インド輸出は、豆が主力品で、2017年では、緑豆、き豆(焙煎前のコーヒー豆)の輸出額が大きかった(表2)。

一方、インドの対ミャンマー輸出は、2017年で10億ドル程度、糖類2.2億ドル、医薬品(胃腸薬)1.8億ドル、機械2.4億ドルが主な輸出品である(表3)。

陸路による中国の対インド輸出

中国からインドに陸路の輸出額は、65億ドルとなっている。海路が509億ドル、空路が106億ドルと海路と空路に頼っている。陸路の輸出品は、電話機部品(29億ドル)、携帯電話(7億ドル)、ディスプレーモジュール(4億ドル)、リチウムイオン電池(2億ドル)等で電話機部品が半分近くを占めている。これは空路と似ている。

税関区別の陸路輸出額は、黄埔江(29億ドル)、深圳(22億ドル)、広州(8億ドル)、武漢(1.4億ドル)、昆明(1.35億ドル)となっている。上位4か所は中国のIT機器生産地域である。これらの地域からインドに直接トラックで輸送しているケースもあるかもしれないが、香港などのインドとの航空便、船便の利便性が高い地域にトラックで運びそこからインド向けに輸出しているものと推測できる。

陸路を使ってインド市場にアクセスすることが、比較的容易と思われる昆明税関区の対インド輸出額は、2017年で12.7億ドルである。このうち、陸路による輸出は1.35億ドル、空路が11.3億ドルと圧倒的に空路に依存している。輸出品は、電話機部品が8億ドル、携帯電話が1億ドル、デジカメ9,700万ドル、リチウム電池が4,600万ドルと電機が11.5億ドルを占めている。これらは、携帯電話を除いてほぼ空路で輸出している。昆明から陸路で輸出している品目は、携帯電話の1億ドル、PCの1,400万ドル、電話機部品の1,100万ドル、コンピュータの出入力装置、機械部品の5品目である。携帯電話の輸出は2017年から始まっており、ほぼ陸路で輸出されている。それ以前は皆無であった。

他方で、ミャンマー・インド国境のミャンマー側の町タムーの国境市場には、中国製品で溢れている。衣料品や電気・電子製品(見た目は低中級品)、玩具などすべて中国品、加えて中国産のリンゴが大量に売られていた。

中国産リンゴの対インド輸出は、輸送モードでみると、海路による輸出である。中国のリンゴ輸出は、陸路で2017年に6.1億ドル、ベトナムに1.5億ドル、ロシアの9,700万ドルに次いでミャンマーが第3位の9,500万ドル(表5)となっている。昆明税関区からミュンマーに陸路で輸出しているリンゴの数量は7万トン、㎏あたりの単価が1.33ドルである。

タムーの国境市場のリンゴは、ミャンマーに輸出されたリンゴを、ミャンマーの仲買人によってインド人向けに販売しているものであろう。電機用品や衣料品などの中国製品も同様にミャンマーの仲買人が、インド国境まで運んで、インド人を目当てにして販売している小売りに卸しているものと思われる。中国の対ミャンマー輸出には、ミャンマーの仲買人によるインド市場向けの再輸出品が多く含まれているものと推測できよう。

表1 インドの対ミャンマー輸入(2017年)

表2 インドの対ミャンマー輸入(乾燥豆)

表3 インドの対ミャンマー輸出(2017年)

表4 昆明税関区の対インド輸出(財別業種別、2017年)

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