フラッシュ411
2018年11月29日
 

2州の選挙で敗北し、メルケル首相が党首を辞任

 
新井 俊三
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

 

難産の末、3月に成立した第四次メルケル政権の今後を占う意味で注目されていたドイツの2つの州議会選挙が、10月14日と10月28日に行われ、連邦政府で連立を組むキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)が二つの州でともに大敗し、メルケル首相は責任を取って12月に予定されているCDUの党首選には立候補しないことを表明し、事実上党首を辞任した。首相には現在の任期終了まで留まる意向であるが、求心力の低下は免れない。

バイエルン州選挙結果

10月14日に実施されたのはバイエルン州選挙である。連邦政府の政権与党の一つ、キリスト教民主同盟(CDU)の姉妹党であるキリスト教社会同盟(CSU)が単独過半数を占めていた州である。第二次大戦後の保守政党の再建に当たって、全国での組織化を目指していたキリスト教民主同盟であるが、バイエルン州ではすでにキリスト教社会同盟が設立されており、全国組織への参加を拒否したため、同州のみの政党ということが認められた。連邦レベルでは同一会派を組むこととなったという経緯がある。

バイエルン州はカトリック教徒が多く、農業が盛んでもあり保守的で、このためキリスト教社会同盟は1962年以来、2008年から2013年までを除き、常に単独過半数の議席を維持してきた。同州にはまたクルマのBMW、VWの子会社であるアウディ、電機のシーメンス、保険のアリアンツなどの本社があり、好景気を維持しており、失業率も9月の統計で2.8%とドイツの中でも最低を記録している。

 

表1 バイエルン州選挙結果(速報値)

出所:バイエルン州統計局

 

選挙結果は表1のとおりとなった。

キリスト教社会同盟、社会民主党がともに10%を超える票を失い大敗、極右のドイツのための選択肢が初めて州議会に進出、緑の党が大きく票を伸ばした。バイエルン州だけで議席を占める自由な有権者が議席を増やし、自由民主党も州議会に復活した。旧東ドイツの社 会主義統一党(SED)の流れをくむ左派党は今回も議席を獲得できなかった。「自由な有権者」とは、主に市町村レベルで活動する政治家の政党で、ドイツの州の中ではバイエルン州だけで議席を確保しているほか、欧州議会にも議席を持っている。

昨年11月の連邦議会選挙でもキリスト教民主・社会同盟は大きく票を失ったが、その第一の要因は大量の難民を受け入れ、ドイツ社会に大きな混乱を招いたことであった。連邦の新政権で内務相に就任したキリスト教社会同盟のゼーホーファー党首は、もともと難民受入れには消極的で、受入れ上限数の設定などを主張していたが、州選挙を迎えるに当たって難民批判政党であるドイツのための選択肢に票を奪われるのを恐れ、難民対策でかなり強引な手法をとった。欧州首脳会議で難民対策を議論するようメルケル首相を追い込んだし、既にほかの国で難民申請をした難民がドイツに来ても、申請をした国に送還するよう2国間で協定を結ぼうとしている。

難民受入れに批判的な有権者はドイツのための選択肢に投票、自由な有権者に投票した選挙民はほかに望ましい政党がないという理由を挙げている。緑の党はあまりに右によりすぎたキリスト教社会同盟への批判とともに、今年の夏は酷暑と旱魃など異常気象に舞われたため環境意識が高まったこともプラスとなったといわれている。

大きく得票率を落としたとはいえ、キリスト教社会同盟は第一党であり、11月2日には自由な有権者と連立することで合意したと伝えられている。

ヘッセン州選挙結果

10月28日に実施されたヘッセン州選挙は、2週間前のバイエルン州の選挙と同様な結果となった。連邦政府で連立を組むキリスト教民主同盟と社会民主党の2大政党が大きく票を失い、かわりに緑の党とドイツのための選択肢が躍進した。ドイツのための選択肢はバイエルン州に続いてヘッセン州でも議会進出を果たし、これで、16州すべてで議席を獲得したことになる。バイエルン州で議席を確保している自由な有権者はヘッセン州でも立候補していたが、得票率3.0%で議会進出はならなかった。

現政権はキリスト教民主同盟と緑の党の連立政権であり、かろうじて過半数を握っているので、従来どおり連立を維持しそうである。

 

表2 ヘッセン州選挙結果(速報値)

出所:ヘッセン州統計局

 

メルケル首相、党首を辞任

ドイツの州議会選挙は、州の特性も選挙結果に現われる。バイエルン州では長らくキリスト教社会同盟が単独政権を維持してきたし、保守色が強いため左派党は議席を確保できていない。緑の党は、環境意識の違いからか旧東ドイツでは苦戦を強いられているなどである。

しかし、今回の2州の選挙戦は連邦議会の影響を強く受けたものとなり、その結果、責任は連邦レベルに及ぶこととなった。社会民主党は、党内左派から連立からの離脱論も出ているが、連立を離脱し、総選挙となった場合はさらに議席を失うことも危惧されており、連立を維持し、政権内で社会民主党色を出した政策を追求するという方針である。キリスト教社会同盟では、難民政策を強引に進めたゼーホーファー党首への批判が高まっており、バイエルン州のゾェーダー首相が辞任を迫っているようで、党首交代となる可能性が高い。

大きく動いたのは、キリスト教民主同盟である。今回の2州の選挙での敗北の責任をとって、メルケル首相は12月に予定されている党首選に立候補しないことを表明した。連邦政府の首相は任期いっぱい務める予定である。

第4次メルケル政権誕生以来、新政権は失態つづきであった。東部のケムニッツ市でドイツ国籍の男性が難民に殺された事件をきっかけに暴動が発生し、その際外国人が右翼に暴行を受けるという映像が公開された。憲法擁護庁長官は当初、映像の信憑性に疑問を投げかけたため、罷免されることとなった。ゼーホーファー内務相(キリスト教社会同盟党首)が中心となってメルケル首相、ナーレス社会民主党党首の3人で善後策を協議の結果、格上の複数いる内務省事務次官の一人に昇格させることで幕引きを図ろうとしたため、強い批判を浴びた。また、排ガス操作および窒素酸化物により一部の都市では乗り入れ規制が敷かれているディーゼル車への対応でも、不満は多い。

昨年月の連邦議会選挙、それに続いた2州の州議会でのキリスト教民主・社会同盟の最大の敗因は、メルケル首相が主導したシリア等の難民の大量受入れである。当初は、人道的措置として国際的にも評価され、国内的にも難民受入れに協力するボランティアの数も多かったが、難民による犯罪も見られるようになり、反難民意識が徐々に高まっていった。

反難民感情とともに、好調な経済の陰で隠れていた貧富の差の拡大、過疎地および高失業地域でのドイツ版「忘れられた人々」の不満も増幅され、既成政党への批判となって、ちょうど受け皿として浮上してきたドイツのための選択肢への投票となった。

キリスト教民主同盟の党首選

政権党である党首が首相を務めるのがドイツでは一般的であるが、例外がないわけではない。メルケル首相の前任の社会民主党のシュレーダー首相は、就任直後は党首でなかったし、首相在任の最後の一年ほどは党首の座を譲っている。古くは、ブラント首相は東ドイツスパイ事件で首相の座をシュミットに譲ったが、党首には野党となった後も1987年まで留まった。

さて、メルケル後任の党首候補である。無名の党員も複数立候補を表明しているが、現在のところ有力候補としてアンネゲレーテ・クランプ=カレンバウアー現党幹事長(AKKと呼ばれている)、シュパーン保健相、メルツ元連邦議員団長(院内総務)の3人が立候補を表明している。

クランプ=カレンバウアー幹事長は、ザールランド州首相を勤めていたが、メルケル首相がベルリンに呼び寄せたことからもわかるようにメルケル首相の信頼も厚く、党内で評判もよい。党内ではリベラル派とみなされている。シュパーン保健相は38歳で、若手のホープといわれているが、メルケルの政策には反対することも多く、保守派といわれている。

メルツ元連邦議員団長は、かつてメルケルとの政争に敗れ、一時政界を離れていたが、メルケル辞任の報を受けて立候補を表明した。経済界とのつながりも深く、経済界からは受けがよい。ただし、政界をはなれて弁護士として資産運用会社のブラックロックで働いていたことから、金融界からの影響が大きいのではないかとの意見もみられる(注1)。経済的には自由主義者で、保守派である。1名のリベラル派と2名の保守派の争いといわれている。

キリスト教民主同盟では有力な候補2名(バルツェルとコール)による党首選が行われたのが1971年で、それ以来党首選がないことから、どのように党首選を行うかも課題となっている(注2)

 

注1.”Im Auftrag des Geldes” Zeit online 30. Oktober 2018
注2.“Merkels Wagnis hat begonnen” Frankfurter Allgemeine Zeitung Online 30.10.2018