フラッシュ433
2019年9月20日
 

サービス貿易協定と投資協定などで前進
~AEC2025の2019年央までの進捗状況~

 
石川 幸一
亜細亜大学 特別研究員

 

ASEAN経済共同体(AEC)2025の構築が始まってから4年目に入った。AEC2025は、2015年11月に発表されたAECブループリント2025、2017年に公表されたスケジュールや実施機関を含む詳細な行動計画である統合戦略的行動計画(CSAP:18年に改訂)に基づき、行動計画が実施されている。2015年に創設されたAEC2015はブループリントの実行率が93.9%(優先計画対象)と100%に達しなかったことからAEC2025の実施状況にも注目が集まっている。

AEC2025の実施状況はほとんど報道されないが、ASEAN事務局の資料によると、AEC2025は着実に実施されているようだ。2018年末までの主な実績をあげると、2015年末時点で残されていたCLMVの7%相当の関税の撤廃、ASEANシングルウィンドウ(ASW)による原産地証明の電子的交換(ATIGA e-Form D)の5か国(インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム)間での開始、ASEANサービス枠組み協定(AFAS)の第10パッケージ実施のための議定書調印、ASEANサービス貿易協定(ATISA)の妥結、ASEAN電子商取引協定の調印、ASEAN香港FTAの調印などである(注1)。

2019年央までの経済統合に係る主要分野の行動計画の進展状況を2019年9月6日に開催された第51回ASEAN経済大臣会議の共同声明、8月のAEC担当のリロASEAN事務局次長の報告などによりまとめてみたい(注2)。

サービスと投資:透明性を高める措置を実施

2019年の大きな成果はサービス貿易と投資での透明性を高めるための法的整備の進展である。サービス貿易ではASEANサービス貿易協定(ATISA)交渉が昨年合意に達し、2019年4月に調印された。19年中にすべての加盟国が批准の予定である。ATISAの最大の特徴は自由化を約束しない分野を示すネガティブリスト(留保表)の採用である。1995年から実施されてきたASEANサービス枠組み協定(AFAS)は、自由化を約束する分野を示すポジティブリスト(約束表)方式を採用していた(注3)。ネガティブリスト方式はポジティブリスト方式に比べ透明性が高いといわれる。ASEANおよび加盟国の締結したFTAのサービス貿易の規定はポジティブリスト方式が多く、ネガティブリスト方式を採用したのは、TPP11、シンガポール豪州FTA、シンガポール・パナマFTA、シンガポール米国FTA、シンガポール韓国FTAである。ネガティブリストは年内に作成される予定である。

2018年に調印されたAFASの第10パッケージの約束はATISAに統合されることになっている。2019年4月の第23回財務大臣会議では、金融サービス自由化の第8パッケージを実施するための議定書が署名された。また、サービス貿易に関連した問題の解決に資するためにASEAN投資サービス貿易解決(ASSIST)のサービス貿易関連部分の運用が行われている。人の移動では、ASEAN自然人移動(MNP)協定の約束表の見直しが2020年を目標に行われている。

投資では、ASEAN包括的投資協定(ACIA)の第4改定議定書が合意され、2019年内に調印の見通しである。これにより、①TRIMSプラスのパフォーマンス要求の禁止義務をACIAに盛り込むこと、②ACIAの留保表を2023年末までに2つの付属ネガティブリスト(two-annex negative list)に移行することが決定した。ACIAは、パフォーマンス要求の禁止については、WTOのTRIMS(貿易関連投資措置)協定を適用することが規定されている(第7条)。

TRIMS協定で禁止されているパフォーマンス要求は、ローカルコンテント要求、輸出入均衡要求、為替規制、輸出制限であり、これらはACIAでも禁止されている。ACIA第7条ではパフォーマンス要求の見直しを行うことが規定されており、第4議定書によりTRIMS協定で禁止されているパフォーマンス要求以外のパフォーマンス要求の禁止を行えるようになった。なお、第4改定議定書は未公表であり、TRIMSプラスの具体的内容は判らないが、投資の自由化レベルが高まることは確かである。

ACIAの留保表(ネガティブリスト)は一つの附属書(single-annex )であるが、これを2附属書(two-annex)に変更する。2付属書方式は、第1付属書(first annex)で現在の規制(適合しない措置)を列挙し、第2附属書(second annex)で将来必要があれば採用される規制などの措置を提示する方式である。2附属書方式は、単一附属書方式に比べ透明性や予測可能性が高い。なお、TPP11は2附属書方式を採用している。

物品の貿易:ASEAN全域での自己証明制度の実施

物品の貿易では、ASEAN全域での原産地証明の自己証明制度(ASEAN Wide Self-Certification: AWSC)を2020年3月に実施するためのATIGA(ASEAN物品貿易協定)の第1改定議定書が2019年1月に調印され、批准を行っている。ASEANの原産地証明は、政府機関が証明書を発給する第3者証明制度だったが、発給時間の短縮と手続きの簡素化のために自己証明制度の導入を2010年から進めてきた。具体的には、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、タイ、カンボジア、ミャンマーが参加する第1認定輸出者自己証明制度とインドネシア、フィリピン、ラオス、タイ、ベトナムが参加する第2自己証明制度をパイロットプロジェクトとして実施していた。2つのパイロットプロジェクトを統合したASEAN全域での自己証明制度の実施が2018年8月の経済大臣会議で承認されていた。

ASEAN認定事業者制度(Authorised Economic Operator: AEO)の相互承認(MRA)実現に向けて小委員会が設立された。AEOは法令順守に優れた事業者を税関が認定し税関手続きの簡素化などの便益を与える制度である(注4)。AEO認定業者を他国でも承認するのが相互承認であり、ASEAN内での相互承認のための相互承認取決め(Mutual Recognition Arrangement)の締結を進めている。

ASEAN税関貨物通関システム(ASEAN Customs Transit System: ACTS)の稼働に向けての法的整備と準備も進んでいる。ACTSは、ASEANにおける3か国以上での越境輸送においてトランジット通関を行うための制度である。2020年4月までに法的枠組みを作り、フェーズ1の南北回廊(マレーシア、シンガポール、タイ)とフェーズ2の東西回廊(カンボジア、ラオス、ベトナム)で実施の予定である。ACTSはASEAN通過貨物円滑化に関する枠組み協定(AFAFGIT)の第7議定書に基づき実施される。第7議定書は2018年末時点で9カ国が批准している。ACTSにはミャンマーが2020年末までフェーズ2に参加する見通しである。

ASEAN統一関税分類(AHTN)2017の見直しが2019年7月に開始された。AHTN2022の作成を目指しており、HSコード2017が2022に改訂されることに従って改定されるものである。ASEANシングルウィンドウ(ASW)による原産地証明の電子的交換(e-Form D)については、ブルネイが2019年4月1日に参加し6か国で実施されている。カンボジア、フィリピン、ラオスの3か国の作業も進展しており、2019年末までに参加予定である。

規格基準では、相互承認取決め(MRA)交渉が進展している。建築資材のMRAは2019年内に最終合意の見通しであり、自動車部品の型式認証のMRAの調印も年内に行う見通しである。こうした貿易円滑化の取り組みを進め、①2020年までに貿易取引コストを10%削減する、②ASEAN域内貿易額を2017年~25年で2倍にする計画である。

対外経済関係など

ASEAN香港FTAが2019年6月11日、ASEAN香港投資協定が6月17日に発効した(タイ、シンガポール、ミャンマー、ベトナム、ラオスと香港)。6番目のASEAN+1FTAであり、香港は今後RCEPに参加する可能性がでてきた。EUとのFTAについては、11月に第3回の作業部会を開催し、ASEANの提案した協定案文に対するEUの提案を協議する予定である。既存のASEAN+1FTAでは、ASEAN中国FTA改定議定書が8月1日から実施され、原産地規則に関税分類変更基準が追加された。ACFTA改定議定書は2015年に調印、2016年7月に発効していた。ASEAN韓国FTAのセンシティブ品目の自由化交渉(2019年妥結目標)、ASEANインドFTAのRCEP合意後の見直し、日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)第1改定議定書(サービス貿易章、投資章、人の移動章、金融サービス附属書、電気通信サービス附属書の追加)の調印(2019年2月)などが主な動きである。

AEC2025の実施状況の評価も作業が行われている。AECブループリント2025の最初の3年間(2016年~19年)の評価を行ったASEAN統合レポート2019が発表される予定である。実施状況評価のために2018年にブルネイとマレーシアの国別実地調査を行い、19年にミャンマーとシンガポールの調査を行う。また、AECブループリント2025の中間レビューを2020年から2021年初めにかけてASEAN事務局が実施することになっている。

 

1. 詳細については、石川幸一(2019)を参照。
2. ASEAN Secretariat (2019)およびRillo (2019),リロ次長の報告は 8月26日のASEAN研究会(日本アセアンセンター)で行われた。
3. AFASによるサービス貿易自由化については、助川(2016)が詳しい。
4. AEOと相互承認については、石川雅啓(2019)215-218頁。

参考文献
石川幸一(2019)「ASEAN経済共同体2025の現況と展望」石川・馬田・清水編所収。
石川幸一・清水一史・助川成也(2016)編『ASEAN経済共同体の創設と日本』文眞堂。
石川幸一・馬田啓一・清水一史(2019)編『アジアの経済統合と保護主義』文眞堂。
石川雅啓(2019)「新しい貿易実務の解説」文眞堂、
助川成也(2016)「サービス貿易の自由化に向けたASEANの取り組み」、石川・馬田・清水編所収。
ASEAN Secretariat (2019), The 51st ASEAN Economic Minister’s (AEM) Meeting, Joint Media Media Statement.
ASEAN Secretariat (2019), Chairman’s Statement of the 34th ASEAN Summit, Advancing Partnership for Sustainabilty.
Rillo, Alladin D. (2019) Update on AEC-What has (and has’nt) changed?