フラッシュ43
2003年4月1日



アラブ系移民を抱える中南米の対米外交(1/6)


国際貿易投資研究所 客員研究員
名古屋文理大学教授
内多 允


 米国で01年9月11日に起きた同時多発テロ事件(以下9・11事件と記す)は、中南米が抱えている複雑な社会問題を改めて、見直す契機をもたらした。 この複雑さの要因としては、中南米各国が世界各地からの移民を受け入れて多民族社会を形成していることがあげられる。 仮に特定の民族文化を支える宗教を、あたかも敵対視しているかのような誤解を与えかねない政策をとるなら、 国内で民族間の対立を激化しかねない火種を多くの中南米各国は抱えている。 従って、中南米各国はこのような国内事情を踏まえて武力の行使も厭わない強硬な外交政策には慎重である。 また、中南米各国は独立後も先進国からの干渉を受けた時代を経験していることから、 他国への内政干渉になりかねない政策にも警戒を怠らない。

 同時多発テロに対して、中南米各国は米国のテロに対する戦いを支持する態度を表明した。 しかし、この態度はテロ組織が潜伏しているアフガニスタンへの米国への軍事行動を支持することを意味しなかった。 中南米各国はテロ対策の名目で特定の国家や民族、宗教に対する武力攻撃や干渉を支持していないからである。 このような中南米の外交政策の特徴は、イラク問題への対処について鮮明に表れている。 米国と英国の対イラク武力介入には、批判的あるいは慎重な態度を取っている。

 中東問題の対応如何によっては、中南米国内のアラブ・ユダヤ間の対立を激化しかねない。 一方、中南米にとって米国も重要なパートナーである。 しかし、中南米各国の国内政治には超大国米国への国民の反感も無視できない状況がある。 9・11事件以降、米国の中東政策に対する中南米の態度からは対米関係を重視しながらも、 それぞれの国内事情とのバランスを考慮しているしたたかな外交政策がうかがえる。 本稿ではこのような実例をメキシコとアルゼンチン、ブラジルからの報道から紹介したい。