一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

Menu

フラッシュ

2020/05/19 No.462新型コロナウイルス感染症:「パンデミック」宣言と欧州危機(その2)-EU各国「国を元に戻す」出口戦略を模索、残る感染第2波リスク-(EU,ドイツ、フランス)

田中友義
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

EU、新型コロナ対策の出口戦略のロードマップ公表

欧州委員会と欧州理事会(欧州首脳会議)は4月15日、新型コロナウイルス感染拡大防止のための外出禁止や一斉休校、営業活動制限、国境閉鎖など様々な制限措置の段階的な解除に向けた出口戦略のロードマップを公表した(注1)。

ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長は、シャルル・ミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)も同席した記者会見で、「このロードマップは、今直ちに制限撤廃されうるというシグナルではない。加盟各国の判断のための大枠を提供するためのものである」と述べ、各国の状況に応じて段階的な対応を適正に判断することを推奨することを強調した。

フォン・デア・ライエン氏の慎重な姿勢は、加盟各国が経済活動再開を急ぐあまり、制限措置を緩めすぎると、感染爆発(オーバーシュート)・医療崩壊が再び起きることを懸念しているからである。

EUは出口戦略の中で、制限措置の緩和時期が極めて重要だと指摘、そのタイミングは3つの視点から加盟各国がそれぞれ自国の状況を踏まえて適正な判断を行うべきだとしている。3つの視点とは、①疫学的な基準(制限期間中の疫病蔓延の減少・安定)、②充分な医療体制能力(緊急医療ユニット余力、医療従事者・医療器材の利用可能性)、③適切な監視能力(感染者の早期発見・隔離のための大規模な検査・追跡能力)である。

また、制限措置の段階的撤廃に必要ないくつかの付随的措置を挙げているが、特に、

  1. データの収集については、各国の保健衛生機関からの情報だけでなく、ソーシャル・メディアやモバイル・ネットワーク事業者の様々なデータも有益だと指摘している。
  2. 感染者との接触を防止するためのモバイル・アプリの活用については、人の移動を追跡する技術を活用して、感染者との接触を未然に防止することの有用性を示し、EU全体でこのようなアプリが機能することを奨励している。

もっとも、データ利用やモバイル・アプリ活用については、EUのデータ保護およびプライバシーに関する規則と整合的でなければならないとしている。

ロードマップでは、欧州委員会が欧州疫病予防管理センター(ECDC; European Centre for Disease Prevention and Control)と新型コロナウイルス感染症諮問パネルの助言を基に加盟各国が段階的に制限解除する際に考慮すべき対応措置を推奨している(別表1)。

欧州委員会は5月8日、EU域内への不要不急の移動を原則禁止する措置を6月15日まで再度延長するように加盟国に提案したと発表した。EUは既に3月17日から30日間原則禁止する措置を打ち出し(注2)、さらに5月15日まで30日間の禁止延長を決めていた。

EU高官は「非加盟国からのEU域内への移動禁止措置が解除される前に、EU域内の自由な移動の制限と域内の国境管理が段階的に緩和されることが必要だ」と述べている。実際、現在のところ、域内の国境管理を解除する加盟国の動きは見られていない(注3)。

その後、欧州委員会は5月13日、加盟国間の移動の再開に向けた戦略を公表、EU域内での感染者数の推移が落ち着いてきたことから加盟国に徐々に制限を解除するよう提案している(注4)。夏の旅行シーズンを前に、欧州の主要産業の一つである観光産業への打撃を軽減したい考えである。ミッシェル常任議長は「全ての加盟国に域内の国境をできる限り早く開けるよう呼びかける。国境開放は我々の経済と観光産業に不可欠だとツイッターで走んしている。ドイツはEUに呼応するように5月16日にルクセンブルクとの国境封鎖を解除した(注5)。

別表1 欧州委員会が推奨する出口戦略の対応措置

(出所)欧州委員会「ロードマップ」から作成。

大幅緩和で正常化先行のドイツ、フランスも「ロックダウン」緩和で追随

社会経済活動を再開し、市民生活の正常化に向けて先行したのが、ドイツである(別表2)。アンゲラ・メルケル首相は5月6日、ドイツ16州の首相との電話会議で、公衆衛生と社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)に関する規則の順守を条件に、3月中旬から導入した学校休校や店舗の営業禁止など規制措置を大幅に緩和することや、プロサッカーの1部リーグ、ブンデスリーガの無観客試合の再開で合意したと述べた(5月16日再開)。ただし、再開する業種や時期については、各州の判断で段階的に認める。もし、再び感染者が増えれば規制を導入することが前提であるが、欧米主要国の中で、いち早く5月中に市民生活がほぼ正常化することになる。

メルケル氏は「本日、私たちはパンデミックの第1段階から抜け出した状態にあるといえる」「(感染拡大を抑制するという)目標を達成した」「私たちは少し勇気を出す余裕がある。だが、慎重でなければならない」と述べた。ドイツが正常化に大きく動いたのは、1日当たりの新規感染者数が1,000人以下になり、1人の感染者が新たに何人感染するかを示す再生産数が感染の収束の目安となる1.0を下回ったからである(注6)。

主要産業の生産活動再開が本格化している。自動車大手のフォルクスワーゲン(VW)は欧州最大のウォルフスブルク工場が再稼働、ダイムラー、自動車部品大手ボッシュなども徐々に生産再開に動き出した。5月16日には、ルクセンブルクとの国境封鎖が2か月ぶりに解除され、デンマークとは5月中旬、フランス、オーストリアとは6月中旬の解除を目指している。

「国を元に戻す」出口戦略を模索していたフランスが「ロックダウン (都市封鎖) 」解除に向けて動き出した。エドゥアール・フィリップ首相は4月28日、仏議会で「外出制限をいつまでも続けることはできない。ウイルスとの共存を学ばなければならない」と述べ、「ウイルスと共生」「段階的」「地域別」を基本とする移動制限解除に向けた国家戦略」を発表した(注7)。

フランスでは5月11から移動制限措置の段階的な解除が始まった。また、仏政府は緊急事態宣言を7月10日まで延長した。まず、自宅からの全面的な移動制限を緩和、移動規制は100キロメートル以上の長距離に限られる。公共交通機関へのアクセスは特定の時間帯に通学、通勤、通院などの利用者に限定する。小売店・商業施設再開を認める。ただし、百貨店、ショッピングセンターなどの大型商業施設については、営業を認めない。

劇場、会議場、レストラン・カフェ、ゲームセンター、博物館などは営業再開を認めない。また、感染率の観点から「2つの地域」に分断して、パリと仏北部地域(レッドゾーン)では、感染防止のための制限を解除しないが、その地域(グリーンゾーン)では緩和が進む。

仏企業の生産再開の動きも相次いでいる。自動車大手ルノーはパリ近郊のフラン工場で再開した。プジョーシトロエンもソショー工場で生産再開に向けて動き出した。トヨタ自動車もバランシエンヌ工場が稼働している。移動制限措置の段階的な解除を前に、多くの仏企業は衛生安全確保のに向けた対応に追われている。

別表2 ドイツ・フランスのコロナ感染拡大防止策と出口戦略(5月16日現在)

(注)太字は出口戦略を示す。
(出所)筆者作成による。

1.European Commission, Joint European Roadmap towards lifting COVID-19 containment measures(Press release,IP/20/652,Brussels,15 April2020)

2.European Commission、Communication from the Commission to the European Parliament, the European Council and the Council, Covid-19: Temporary Restriction on Non-Essential Travel to the EU(Brussels, 2020 /03/16 COM(2020)115 final)

3.Reuters(2020/05/09)

4.European Commission,Tourism and transport: Commission’s guidance on how to safely resume travel and reboot Europe’s tourism in 2020 and beyond(Press release,Brussels ,13/05/2020)

5.読売新聞

6.AFP(2020/05/07)、朝日新聞(2020/05/07)日本経済新聞(2020/05/07)

7.Prime Minister Edouard Philippe, Introducing the National Deconfining Strategy(April28,2020-Speech to the Senate)

フラッシュ一覧に戻る