フラッシュ479
2021年2月18日
 

バイデン米大統領就任と欧米関係
-欧州、米国の多国間主義への回帰・協調路線を歓迎-

 
田中 友義
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

 

欧州首脳ら、「関係回復の時」と次々と祝意

ジョー・バイデン氏はワシントンの連邦議会議事堂前での1月20日の就任宣誓後に行った演説で、「同盟関係を修復し、世界に再び関与していく」と表明し、外交方針に触れた。「平和と進歩、安全保障のための強力で信頼されるパートナーになる」とも語り、同盟重視の基本姿勢を打ち出した。4年間のトランプ前政権の「米国第一主義」から米国が決別し、多国間主義に回帰し、法の支配などの普遍的な価値観と同盟関係に基づく国際秩序作りに指導力を発揮することに欧州側の期待感が高まる。

欧州各国首脳らはツイッターや演説、あるいはバイデン氏との電話会談などで次々と祝意を表明した。昨年末にEU(欧州連合)から完全離脱した英国のボリス・ジョンソン首相は「(バイデン氏の大統領就任は)もめ事が続いた時期を経験した米国にとって一歩前進だ」と述べ、「英米両国にとって大事な出来事だ」と歓迎、英米の「特別な関係」を強化させていく意向を表明した。エマニュエル・マクロン仏大統領は「我々は時代の課題に立ち向かうために強くなれる。我々の地球を守るために結束しよう」とツイッターに書き込んだ。さらに、バイデン氏との電話会談で、温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」へ復帰表明を称賛すると述べた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相はバイデン氏との電話会談で「ドイツは(独米関係の深化と欧米同盟の再活性化に対して)積極的に責任を果たしていく」との意欲を示した。

欧州委員会ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は欧州議会での演説で「米国が戻ってきた。われわれは米国の新しい夜明けの時を待ち望んでいた。最も古くからの最も信頼できるパートナーとの新たなスタートに向けて、用意ができている」とバイデン氏の大統領就任を歓迎した。シャルル・ミシェル欧州理事会(EU首脳会議)常任議長(EU大統領)も欧州議会で「過去4年で大きく傷ついた大西洋横断関係(Transatlantic relations)を再活性化させる好機となる」と述べた。

ただ、バイデン氏は就任演説で、外交方針について、同盟関係重視の基本姿勢を打ち出したものの、具体策に触れなかった。当面はトランプ前政権下で深刻化した国内の格差や分断の修復と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大危機下の経済再生が最優先課題となるだろう。したがって、大西洋横断協議の早急な再開は期待できないと考えてよい。おそらく、英国が議長国を務める6月11日から対面形式で開催されるG7サミット(主要7か国首脳会議)(開催地、英コーンウォール州カービスベイ)か、今年前半中にEU側の招待で特別首脳会議に出席予定のバイデン氏のブリュッセル訪問以降に大きく動き出す可能性が高い。

欧州委員長、新たな関係構築を呼びかけ

トランプ前政権の4年間、欧米関係は大きく傷つけられたとして、EU首脳は、関係修復の好機と捉えて、バイデン氏に早期の協議開始を呼びかけた。

フォン・デア・ライエン氏は欧州議会での演説で、「米国との新たなスタートのために、欧州委員会が昨年12月に新たな未来志向の『EU・米国アジェンダ(a new EU-US agenda for global change)』を採択した」と述べた。また、「気候変動に関して、米国がパリ協定へ復帰することは、欧米協力の再構築に向けてとても力強い第一歩となる」と歓迎した。また、同氏は欧米協力を深化すべき分野として、排出権取引やカーボン・プライシング(温暖化ガス排出量に価格付けすること、炭素税など)を望んでいることを表明した。さらに、デジタル分野については、データ保護や表現の自由とその制約に関する大手インターネット企業への規制のあり方にも言及し、こうした課題を議論する第一歩として「貿易・テクノロジー合同評議会(joint Trade and Technology Council)の設立構想を明らかにした(注1)。

他方、ミシェル氏も欧米が取り組むべき5つの優先課題として、①多国間協力の推進、②新型コロナウイルス感染症との闘い、③気候変動問題への取り組み、④経済の再構築と公正な貿易の確保、デジタル化の促進、⑤平和と安全保障分野の協力を挙げた。また、ミシェル氏はバイデン氏を欧州理事会特別会合に招待する意向を表明した(注2)。

これらEU首脳の演説は、いずれもEU・米国アジェンダをベースにしたものである。アジェンダでは、バイデン新政権の誕生は、中国などの権威主義に共同して対抗する自由主義の同盟国であるEUと米国の協力関係の強化に向けた「一世代に一度(once in a generation)の好機だ」と指摘している。また、協力分野については、別表のように、外交や安全保障政策だけでなく、新型コロナウイルス対策、環境問題、技術・貿易など4つの分野での米国との協力関係の構築を提案している(注3)。

 

EU・米国アジェンダの骨子

(出所)欧州委員会(a new EU-US agenda for global change)

 

課題が山積、対中政策が最初の試金石か

EU首脳らの米国との関係修復への期待感が高いにも拘らず、トランプ前政権との間でこじれた関係の仕切り直しは、そう簡単ではない。対中政策、EUエアバス補助金、GAFAなどIT(情報技術)企業へのデジタル課税、次世代通信規格5Gの中国通信機器大手「華為技術」(ファーウエイ)排除問題、鉄鋼・アルミの追加関税措置の撤廃、カーボンリーケージ(温室効果ガス規制が緩い国への産業流出)防止のための炭素国境調整メカニズム導入など、協議が始まれば、当然交渉の俎上に載せられる課題は山積しているが、どこまで関係強化が進むかは不明である。以下では3つの重要課題を指摘するにとどめておく。

筆者のみるところ、今後の欧米関係の修復を占う上での試金石となるのが、対中政策の行方である。バイデン政権は、トランプ前政権と同様に、中国に対しては強硬姿勢で臨む構えを示している。大統領就任後、習近平国家主席との初の電話会談で安全保障や経済の両面で中国をけん制する姿勢を鮮明にした。当然のことながら、EUにも米国の対中政策と歩調を合わせるよう協力を求めてくる可能性が高い。

EUが昨年12月末のタイミングで、EU議長国のメルケル独首相が主導する形で中国と投資協定の締結で大枠合意に達したと発表した。米国と対立してきた中国側は、バイデン米新政権発足を前にEUとの関係を強化しておきたいということで妥結を急いだ。他方、EU側も、新型コロナウイルス感染症拡大により打撃を受けた経済を再生するため、急回復に転じた中国市場への参入拡大が急務であった。

米国は、少なくともEUがバイデン新政権と対中問題を協議するまでは締結合意を先送りするよう呼びかけていたが、無視されたとして、欧州との関係を再構築したいと強調してきたバイデン氏への「ひどい仕打ち」となったとみられている(注4)。

2つ目は、欧米航空機大手企業への補助金を巡る追加関税の賦課紛争である。欧米は、2004年10月以来、EUのエアバス社への補助金や、米国ボーイング社への米国の補助金は不当だとして相互に主張し合い、WTO紛争解決機関で争ってきた。WTO(世界貿易機関)を舞台に16年以上続いてきた紛争が、トランプ前政権下で関税賦課の報復措置の連鎖へと発展した。

WTO紛争解決機関(DSB)は2019年10月、米国の報復関税を正式に承認したため、米国は、EU産品に対して、年間約75億ドル相当分の追加関税を賦課した。その後、WTO・DSBは2020年10月、ボーイング社への米国の補助金もWTO協定違反だとするEUの主張を認め、年間約40億ドル相当の米製品に対する追加関税措置を承認した。欧州委員会は、「米国への対抗措置よりも交渉による早期の解決を強く望む」との立場を表明していたが、同11月、米国の追加関税がすでに1年以上にわたり実施されており、バイデン新政権の発足まで待つことはできないとして追加関税の賦課を決定した。ただし、対抗措置よりも交渉による解決という立場は変わらないとしている。

3つ目は、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などの米国巨大IT企業に対する競争法政策やデジタル課税問題である。EUは巨大IT企業に対する競争法違反問題の追及で先頭に立てきた。欧州委員会は、これまでに3度にわたってグーグルに対して競争法違反で制裁金命令を出している。この他、アマゾンやアップルの競争法違反の調査を開始している。さらに、欧州委員会は2020年12月、「デジタルサービス法」(DSA)と「デジタル市場法」(DMA)という2つの法案を公表し、巨大IT企業に新たな規制を設けようと動き出している。

他方、デジタル課税については、先行課税するフランスの動きに対して、米通商代表部(USTR)は2020年7月、1974年通商法301条に基づき、米国のIT企業を不当に差別しているとして、フランスからの13億ドル相当の一部輸入に対して25%の追加関税を賦課することを決定したが、本年1月、追加関税賦課を無期限に停止すると発表した。ジャネット・イエレン米国財務長官は多国籍企業への課税に関して、OECD(経済協力開発機構)交渉での他国との連携に意欲を示す発言をしている(注5)。

 

(注1) ジェトロビジネス短信(EU,米国)(2021/01/21)Speech by President von der Leyen at the European Parliament(http://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/speech_21_167)
(注2) ジェトロビジネス短信(EU,米国)(2021/01/21)Speech by President Charles Michel at the European Parliament(https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2021/01/20/speech-by-president-charles-michel-at-the-european-parliament-on-the-inauguration-of-the-new-president-of-the-united-states/) 
(注3) ジェトロビジネス短信(EU,米国)(2020/12/04)、European Commission and High representative of the Union for Foreign affairs and Security policy, A new EU-US agenda for global change(Brussels,2.12.2020)(https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/joint-communication-eu-us-agenda_en.pdf
(注4) フィナンシャル・タイムス(2021/01/05、日本経済新聞版2021/01/08)
(注5) ジェトロビジネス短信(米国、英国、EUほか,)(2021/01/21)