フラッシュ484
2021年5月17日
 

緑の党が優勢―9月のドイツ総選挙に向けて

 
新井 俊三
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

 

ドイツでは9月に連邦議会選挙が行われる。各政党はそれを目指し、政権を取った場合に誰を首相とするかという候補を決め始めている。ここにきて主要政党の首相候補が出そろい、選挙戦が始動し始めた。

連邦議会で連立政権を担い、統一会派を組むキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は、アンゲラ・メルケル首相が今季限りでの引退を表明していることから、ノルトライン・ベストファーレン州首相、アルミン・ラシェットキリスト教民主同盟(以下、CDU)党首を首相候補に選出した。CDUでは2018年、州選挙での相次ぐ不振を受けて、メルケル首相が党首を辞任、その後任には当時ザールランド州のアンネグレート・クランプ=カレンバウアー州首相を選出していたが、党内をまとめきれずに退任した。

後任を決める党首選で現在のラシェット氏が勝利しているが、僅差の勝利であった。3人の立候補者による第1回の投票では、一時期政界を離れていたフリードリッヒ・メルツ元幹事長に敗れたが、決選投票で勝利した。今回の首相候補の選出でも苦戦を強いられた。調整型、指導力にやや欠けるといわれるラシェット氏に対し、バイエルン州の姉妹政党、キリスト教社会同盟(CSU)党首、マルクス・ゼーダー州首相の人気が高く、一般の世論調査でも、党員調査でもラシェット氏を大きく引きはなしていたばかりか、CDUの連邦議員の中でもゼーダー氏を推す声も聞かれた。ゼーダー氏も首相候補に意欲を示していたが、CDU幹部会はラシェット氏を選出、ゼーダー氏はこれを受け入れた。

現在連立を組んでいる社会民主党(SPD)は早くからオーラフ・ショルツ財務相を首相候補に選出しており、緑の党は共同党首のうちの一人、アンナレーナ・ベアボック氏を首相候補とした。

小選挙区比例代表制をとるドイツであるが、他の欧州諸国同様多党化が進んでおり、しかも一時期40%近い支持率を誇ったCDUがコロナ対応への国民の不満、マスクの調達を巡る一部議員の不祥事などにより急激に支持率を低下させている。過半数を獲得する政党は予想されないことから連立政権の可能性が高く、3党による連立も取りざたされている。連立の中心となるのは、気候変動への関心の高まり、既存の政党への不満から支持率を伸ばしている緑の党である。

5月6日に発表されたドイツの公共テレビ局ARDの世論調査によれば、緑の党の支持率は26%でトップ、それに続くのはCDU/CSUで23%、SPD14%、ドイツのための選択肢(以下、AfD)12%、自由民主党(FDP)11%、左派党(Linke)6%、その他8%となっている。

連立政権の可能性としては緑の党+CDU/CSU、緑の党+SPD+FDP、緑の党+SPD+左派党が考えられる。可能性は低いがゼロではない組合せはCDU/CSU+SPD+FDPである。極右政党であるAfDは、他の政党からは連立の相手とはみなされていない。いずれの連立にしろ、現在の支持率のままであれば緑の党が第1党となり、緑の党の首相候補が首相となる可能性が高い。

緑の党の首相候補であるベアボック氏は1980年生まれの40歳、2013年から連邦議会議員であり、2018年から党の共同党首を務めている。2児の母親であり、首相に就任すればメルケル現首相に続いての女性首相であり、初めての母親である首相の誕生となる。

各政党は秋の総選挙に向けて選挙綱領を準備しつつある。緑の党では選挙綱領案が出来上がっており、6月の党大会で最終決定される見込みである。看板政策である気候変動対策ではCO₂削減の前倒し、生物多様性の維持、自然保護など掲げているほか、男女平等の推進、適切な公共投資の実施のため財政赤字ブレーキの改革(注)、高額所得者への増税などを提案している。外交政策ではロシア、中国に対し強く出ており、ウクライナ情勢に関連し、天然ガスパイプラインであるノルトストリーム2の停止、対中政策ではウイグル自治区、香港、強制労働などの人権侵害に対し反対の声を上げている。現状に対し大胆な改革案が並んでいるという印象である。

CDU/CSUではラシェット氏を首相候補に選出した後から、各種世論調査で緑の党の後塵を拝しており、支持者が緑の党に流れたという危機感から、緑の党との違いを出すことを優先する見込みである。緑の党が連立の相手として左派党とも組む可能性があることから、CDU/CSUとしては、ドイツの左傾化の危機を保守層に訴えていくことも考えている。

選挙の結果、連立政権になることはほぼ間違いがない。前回、2017年の連邦議会選挙では、歴史的大敗を喫した連立政権の一翼を担っていたSPDが早々と下野することを宣言。CDU/CSUとFDP、緑の党が連立交渉を始めたが、環境政策を巡るFDPと緑の党の対立から、FDPが交渉を離脱し、やむなくCDU/CSUとSPDの連立政権となったという経緯があった。今回はAfDを除けばどの政党との連立も可能性があり、現時点ではどの政党も連立の候補政党を挙げていない。むしろ選択の幅を狭めたくないということから、たとえば緑の党のロベルト・ハベック共同代表は左派党に対し、一定の条件ではNATOへの残留を認めるよう呼び掛けている。これに対し、左派党はNATO反対を表明している。

9月の選挙まであと4か月半余りあることから、緑の党有利という情勢も変化することもありうる。ワクチン接種の進行により、コロナ対策への不満から支持を減らしたCDUに票が戻ることも考えられるし、前回2017年の選挙戦において、当初評判が高かったSPDのシュルツ候補が失速したという前例もある。

 

(注)ユーロ加盟国は、安定成長協定により、財政赤字を対GDP比3%、累積債務が60%を超えないことを求められているが、これをさらに制度化するため、各国は財政均衡義務を国内法化することが定められた。ドイツの場合、憲法である基本法で、自然災害、経済危機という例外時を除き、財政赤字幅をGDP比0.35%と定めている。