フラッシュ490
2021年7月12日
 

米国の輸入における脱中国の動き(2)
~労働集約財はベトナムがASEANの輸出拠点~

 
大木 博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

 

1.米国の労働集約財輸入に占める中国

米国の対中輸入の始まりは、衣料品などの労働集約財(以下では衣類、履物、家具、がん具、運動用具、革製品を労働集約財とする)である。1990年の米国の対中輸入に占めるこれら労働集約財のシェアは、52.3%と過半を超えていた。1993年の54.0%をピークにして、2000年には38.8%と4割を下回った。WTO加盟後の2005年には29.6%と3割を切った。2009年にはIT製品(PC、携帯電話等の情報技術製品の最終財)に抜かれて、米国の対中輸入の主役はIT製品に交代した。2020年には、米国の対中輸入に占める労働集約財のシェアは、対中追加関税措置やコロナ禍の需要減で20%を割り込んだ。

 

 

他方、米国の労働集約財輸入に占める中国のシェアは、1990年の15%が、1998年に30%と倍増、2007年には50%を超えた。2010年に56.8%のピークに達した以降、2018年までは50%前後で推移していた。対中追加関税が発動された2019年には43.7%に下落、2020年はさらに40.9%に落ち込んだ(図2)。

米国の対中労働集約財輸入品目は、1990年では、衣類(ニット及びニット以外を合計)が最大、次にがん具、履物と続いていたが、2000年にはがん具、履物、家具の輸入が拡大して衣類のシェアが低下した。中国のWTO加盟後に、再び衣類の輸入が拡大して、2006年から2015年まで、対中労働集約財輸入の最大品目に返り咲いた。しかし、2016年以降は、家具・寝具が伸長して、衣類の比率は低下した。

 

図2 米国の労働集約財輸入に占める中国のシェア

資料:米国貿易統計よりITI作成

 

2.対中追加関税措置とコロナ禍の影響

2.1 対中追加関税措置の影響

2019年に対中労働集約財輸入が、米国の対中追加関税措置の影響で、前年比13.7%減と大きく落ち込んだ。労働集約財に対する対中追加関税措置は、家具、履物、革製品はリスト3、ニット及びニット以外の衣類、運動用具がリスト4A、がん具はリスト4Bに主として分類されている。

このうち、2019年に前年比減少率で最も大きく落ち込んだ製品は、革製品の前年比32,6%減、家具の24.9%減、衣類(ニット以外)が9.0%減、衣類(ニット)が7.7%減、履物が4.3%減と減少した。ただし、運動用具は前年比増であった。一方、非中国労働集約財の輸入は、前年比9.0%増、特に対ASEAN輸入が19.2%増と伸びた。特に革製品、がん具、家具・寝具が急増した。

コロナ禍に見舞われた2020年は、対中労働集約財輸入は前年比17.6%減と減少幅を拡大させた。特に、革製品や衣類、履物が大きく落ち込んだ。同時に、対非中国輸入も前年比7.2%減と減少、衣類、履物、革製品が落ち込んだ為である。その中で対ASEAN輸入は、前年比4.7%増とプラスを維持した。がん具、運動用具、家具・寝具が伸びたことによる。

 

表1 米国の対中追加関税措置別労働集約財輸入

 

2.2 コロナ禍の影響

コロナ禍は、対中輸入、対ASEAN輸入に大きな影響を与えた。2020年春、百貨店や生活必需品以外を扱う米国の小売店は、ロックダウン(都市封鎖)により、店舗の一時閉鎖に追い込まれた。店舗の一時閉鎖により大量の在庫を抱えた小売店は、新規注文の取り消し、売れ残り品を処分するため大幅な値引きセールを余儀なくされた経緯がある。この影響は、年末商戦まで引きずった。高級衣料店からカジュアル衣料店まで、アパレル業界は年末商戦に突入するにあたりディスカウントを抑制。多くの在庫を抱えてクリスマス前の値引き合戦に陥っていた従来の慣例から軌道修正している。小売店はロックダウンの教訓から、店舗の営業再開後も在庫管理を徹底した影響が、米国の衣料品などの海外調達を抑制した。

3.米国の労働集約財輸入のASEANシフト

対中追加関税措置やコロナ禍の影響を受けて、米国の労働集約財輸入は、調達先を中国からASEANにシフトする動きが加速化している。米国の労働集約財輸入に占める中国のシェアは、2018年の49.6%から2020年には40.6%に縮小する一方で、ASEANのシェアは、2018年の18.3%が2020年に26.4%に急拡大している(図3)。

 

 

特に、米国のニット輸入(リスト4A)に占めるASEANのシェアが、2018年の29.2%から2020年に35.1%に拡大して、中国を逆転して引き離している。ニット以外の衣類(リスト4A)では、ASEANのシェアは、2018年の23.3%から2020年に28.2%に上昇して、中国の29.7%に迫っている。

家具・寝具は、ASEANのシェアが2018年の11.3%から2020年に25.6%に倍増する一方で、中国のシェアは、51.9%から36.9%に低下している。これは、リスト3に分類されている家具・寝具の対ASEAN輸入が大きく拡大していることによる。

同様に、履物も、ASEANのシェアが2018年の31.1%から2020年に41.7%へ増加する一方で、中国のシェアは、52.9%から42.3%に低下して、ASEANに並ばれた。革製品も、ASEANのシェアが2018年の17.0%から2020年に33.0%とほぼ倍増する一方で、中国のシェアは、53.7%から28.9%に低下して、ASEANに逆転された。

他方、中国が依然として圧倒的に優位に立っている業種が、がん具や運動用具である。米国のがん具輸入に占める中国のシェアは、2018年の85.0%が2020年で80.3%、ASEANは、4.1%から9.8%と倍増しているが、依然として中国依存に変化はない。運動用具も中国のシェアは、2018年の63.9%から2020年に62.4%とほぼ横ばい、ASEANは、6.6%から7.2%と微増にとどまっている。がん具は、追加関税が先送りされているリスト4Bに分類されていることや、コロナ禍の影響で需要が堅調であったことなどで、対中輸入が落ち込まなかったことが、理由として指摘できよう。

 

表2 米国の労働集約財輸入に占める対中・非中国比率(追加関税措置別)

 

なお、米国の対ASEAN労働集約財輸入の構成比をみると、衣類のシェアが低下している一方で、履物や家具・寝具のシェアが拡大している。特に、2018年以降に家具・寝具のシェアが急速に伸びている(図4)。

 

図-4

 

4.ベトナムに集約するASEANの対米輸出拠点

米国の労働集約財輸入が、中国からASEANにシフトしつつある背景には、ASEANにおける労働集約財の対米輸出拠点がベトナムに集約されていることが挙げられる。2020年の米国の労働集約財輸入に占めるベトナムのシェアは16.9%、対ASEAN輸入の6割を占めている。特に、米国の対ASEAN衣類輸入に占めるベトナムのシェアは、2020年でニットが58.2%、ニット以外が63.3%と過半を占めている。履物やがん具は7割超、家具・寝具、運動用品は6割超がベトナムである(図5)。

米国が対ベトナム労働集約財の輸入を拡大させ始めたのは2000年代初である。ニット輸入では、2001年にはわずか0.6%であったのが2003年に22.7%に拡大、ニット以外も2001年の0.6%が2003年の21.1%に急拡大した。履物は、2001年の11.2%が2003年に27.3%、革製品(バッグ等)も2001年の0.1%から2003年に22.9%と急増している。

また、家具やがん具の立ち上がりは、リーマンショック前後にずれている。家具・寝具は、2001年の0.9%が2005年に24.3%、がん具が2001年の0.1%が2009年に21.3%と2割を超えた。

米国が対ベトナム労働集約財輸入を拡大させたきっかけは、2001年12月に発効した対米通商協定にある。これにより、米国はベトナムに最恵国待遇を付与したことで、米国の対ベトナム平均関税率が大幅削減された。その結果、2002年にはベトナムのアパレル製品が米国内に大量流入し始めた。2003年には、米国と繊維・衣料品協定や米国と直行便が可能となった航空協定が調印されて、米市場のアクセスが改善された。

さらに、ベトナムは、WTO加盟交渉を本格化させた2004年頃から、WTOルールに合わせた改革(輸出補助金や国産化規制、外資系企業に対する差別的待遇など)を進めた。国内産業保護の是正と市場開放の制度整備を進めたことで外資が流入し始め、WTOに加盟した2007年には、対ベトナム直接投資が急拡大した。

2010年のTPP参加表明も追い風となった。ベトナムは、 2008 年 11 月にペルーで開催された APEC 首脳・閣僚会議でオーストラリア、ペルーとともに TPP 参加を表明した。ベトナムがTPP参加を決めた理由の一つは、貿易と外国投資の促進である。特に、最大の市場である米国の関税の引き下げは、輸出の拡大のチャンスとなった。ベトナムのTPP参加は、中国企業のベトナム投資(繊維・衣類など)を誘発した。

米国の対ベトナム労働集約財輸入は、最初は、割安な労働コストを武器にインドネシア、タイなどのASEAN先発国からベトナムに代替することで拡大した。次に、中国国内の賃金高騰や沿海部での人手不足などに加えて、TPPや米中貿易摩擦などで、中国企業がベトナムに生産拠点を移管させたことが要因として指摘できよう。さらに、対中追加関税措置が、中国輸出からベトナム輸出に衣類などの労働集約財の代替化を促進させた。

しかし、追加関税措置やコロナ禍の影響に一服感が出始めると、中国からベトナムへの代替化が鈍ってくると見込まれる。革製品(バックなど)、履物、家具・寝具では、米国の輸入に占めるベトナムのシェアは、ピークに達しているように見えるからである。すでに、革製品(バックなど)は、ベトナムが7割超を占めていたが、2020年には、カンボジアが急迫してベトナムと並んでいる。ベトナムの次の国が、ASEANのどこの国なのか、次の注目点になろう。一方、がん具や運動用品は、米国の輸入に占める中国のシェアが依然として高く、ベトナムが中国のシェアを奪って拡大させる余地がある。

 

図5 米国の対ASEAN労働集約財輸入に占めるベトナム等ASEAN主要国のシェア(構成比%)

資料:米国貿易統計よりITI作成