フラッシュ56
2004年1月16日



食料が取り持つ南米・中国関係


国際貿易投資研究所 客員研究員
名古屋文理大学教授
内多 允


  中国は一次産品の安定的な供給源を確保する観点からも、中南米との関係を重視してきた。 農業分野についても中南米各国との技術協力や貿易の拡大に取り組んでいる。 食糧貿易については近年、南米の2大農産物輸出国であるブラジルやアルゼンチンからの中国への大豆輸出拡大が注目されている。 ブラジルやアルゼンチンは食料輸入大国である中国への農産物や食品の輸出拡大に乗り出している。

<増加した大豆の対中輸出>

  ブラジルにとって最大の輸出先は米国である。そして中国はいまや米国に次ぐ輸出先となっている。 これに貢献している輸出商品が大豆である。 2003年(1〜11月)におけるブラジルの輸出総額約663億ドルの国別の内訳によれば、 首位の米国向け(152億ドル)に次いで中国向けが42億6,300万ドルを計上した。 この中で大豆が13億ドル、大豆油2億1,800万ドルが計上され、大豆部門の合計(15億1,800万ドル)は対中輸出総額の36%を占め、 前年同期比の伸び率は64%に上った。ブラジルの対中輸出は農産物と鉄鉱石の2部門が主役である。 いずれも、中国国内では自給不可能であり、今後もブラジルからの輸入拡大が予想されている。
  アルゼンチンの対中貿易の規模はブラジルほどではないが、年々増加傾向を辿ってきた。 その対中輸出総額は1995年から2000年にかけては10億ドル以下であったが、 2001年と2002年にはそれぞれ12億2,400万ドル(2000年は8億8,500万ドル)、11億7,600万ドルと10億ドル台を達成した (なお、これらのアルゼンチン統計局データでは98年以降の対中貿易には香港、00年からはさらにマカオとの貿易額も含まれている)。 2003年1〜10月におけるアルゼンチンの仕向け国別輸出額順位では中国はブラジル、チリ、米国についで4位に進出している。 同期間の対中輸出総額22億1,200万ドルは前年同期比105%増である。アルゼンチンの主要な対中輸出商品は食糧である。 2003年1〜8月における対中輸出総額(約18億ドル)の75%が食糧であると報道されている(Financial Times 電子版2003年10月22日付)。 アルゼンチンの対中食糧輸出の主要商品は大豆および大豆油である。 同紙によれば、中国の大豆輸入量は年間約2,100万トンでありその3割をアルゼンチンから供給できるとみている。
  中国は今後もアルゼンチンとブラジルからの大豆輸入を増やす事が予想されている。これには米国の供給力低下も関係している。 世界の大豆需給量は米国農務省のデータ(2003年12月12日発表)によれば次のように推移している。 米国の大豆生産量は2002−2003年度の約7,480万トンから2003−2004年度には1996年来の不作のために、6,673万トンには低下する見込みである。 一方この期間にアルゼンチンは3,550万トンから3,650万トンに、ブラジルは5,250万トンから6,000万トンに増産される見込みである。 2003−2004年の大豆生産予想量の世界合計約1億9,900万トンに対して、 前記アルゼンチンとブラジルの合計(9,600万トン)は48%を占めることになる。 世界の主要な大豆供給国はかつては米国のみであったが今や、南米の2か国も重要な供給国に参入してきた。 2003−2004年度の期末在庫量も、米国が1976年以来の最低水準である339万トンであるのに対し、 アルゼンチンの1,080万トンとブラジルの1,409万トンを合わせると世界合計(3,606万トン)の約7割を占めている。 米国の生産量と在庫量の減少によって、旺盛な中国の需要に対応できるのはアルゼンチンとブラジルしかないのが現状である。
  中国もかつては米国に次ぐ大豆輸出国であったが、1995年頃から輸入量を拡大してきた。 これには国内消費量の拡大に加えて、輸入品の価格競争力が高まっているいる事も影響している。 大豆の主要産地である黒龍江省の生産コストですら海外産地に比べて10%から30%は高いという指摘もある。 中国の大豆ビジネスには、南米を含め世界に取引のネットワークを張り巡らしている米国系穀物メジャーが進出している。 一方、ブラジルでは米国企業が農地を確保して大豆を生産している。 これらの米国企業間のネットワークも南米・中国間の大豆取引を促していると考えられる。


中国の大豆 (HS1201)  輸入数量
(注)中国貿易統計を元にITI作成。

<輸出を促す中国の消費水準上昇>

  中国の消費水準が上がっていることも、大豆の需要を拡大している。 これに関連して大豆油の個人消費が拡大していることも影響している。 中国の大豆油輸入は1998-1999年度の95万トンから2003-2004年度には175万トンに増加すると予想されている。 また、食肉の消費拡大に対応するために飼料の需要増加が大豆輸入を増加させている。 中国での食料品の消費拡大が、輸出機会を創出していることが南米からの対中輸出意欲を駆り立てている。 食肉の対中輸出についても南米の期待は大きい。
  食品市場を獲得するためには、消費者個人への働きかけも必要である。 既に中国国内で直接消費者への売り込み活動に乗り出している、ブラジルやアルゼンチンの企業が現れている。 ブラジルからは食肉加工の大手のサジア(SADIA)が2002年、北京でシュラスコ・レストラン「Churrascaria Beijing-Brajil」を開業した。 シュラスコはブラジルの伝統的な焼肉料理であり、この味を中国の消費者馴染んでもらうことによってブラジル産食肉の売り込みを目指している。
  世界に冠たる伝統的な食習慣や料理が根付いている中国人に、 南米風の嗜好を受け入れてもらうには直接口にする機会を多くすることが、市場進出の決め手となる。 そのために食品分野からも中国に進出する企業が現われている。
  アルコール飲料ではブラジル最大のカシャッサ(Cachaca サトウキビを原料とする蒸留酒)メーカーであるミューラ社(Mueller)が中国国内での販売事業許可を、 2003年に政府から得た。同社はカシャッサのブランドではブラジルで有名な「51」(シンクエンタ・エ・ウン)を中国市場に投入した。
  アルゼンチンではワインの対中輸出も有望視されている。 中国はアルゼンチンワインの10番目の規模の輸出市場である。 中国向けアルゼンチンワインの大部分はまだバルクワイン(タンク輸送)の形態をとっている。 ビン詰めの高級ワインの中国での主な市場は、外国人観光客相手のレストランやホテルである。 アルゼンチンのワイナリー2社(NortonとSan Huberto)は北京近郊でぶどう農園と処理施設を持っている。
  近海に漁獲量の多い漁場を持つアルゼンチンは、水産物の輸出にも意欲的である。 2002年に中国がアルゼンチンから輸入した魚介類は3万7,018トン(2,580万4,000ドル)に上り、国別の順位では7位の位置を占めた。 皮肉なことにアルゼンチンでは魚よりも、牛肉が好まれている。豊富な水産資源も輸出しなければ、活用される機会を見出せない。
  コーヒーの輸出拡大も、これからの課題である。 コーヒー大国ブラジルから見ると、中国の消費はあまりにも小さいと感じているだろう。 中国のコーヒー年間消費量は30万パックと報道された(2002年人民日報英語電子版)ことがある。 これは、ブラジルの1週間の消費量にすぎないとのことである。 コーヒーについては世界最大のコーヒーチェーンであるスターバックスが北京や上海の大都会に、 店舗を展開していることも、コーヒー愛好家を増やす心強い応援材料となっている。 まだ実現していないが、ブラジルのコーヒー業界でも独自の店舗を中国に進出させようという声がでている。

<長期的視野を見据えた中国の資源外交>

  中国は食料を安定的に確保すべく、中南米各国との農業交流(技術交流や貿易、ミッションの相互派遣等)を進めてきた。 その中でもブラジルとの関係は、広範囲に及んでいる。 中国はブラジルが資源大国であることに着目して、農業を含む広範囲な分野の交流を進めてきた。 両国が宇宙開発の分野で協力関係を強化する最大の目的は、資源確保のための資源探査衛星を開発することである。 つまり、両国は地球的な規模で資源の安定的な確保を目指している。
  中国への穀物事情は近年、在庫が減少していることに加えて、 大豆の例のように特定国からの供給に依存するとリスクが大きくなる。 米国農務省のデータ(2003年12月12日発表)によれば、 穀物(小麦と粗粒穀物の)合計の在庫は1992−1993年度(穀物年度)から2003−2004年における期間では、 1999-2000年度の2億570万トンを最高に減少傾向をたどっており2002−2003年度には1億390万トンになり、 2003−2004年には6,240万トンに低下する(前年度より1,780万トンの減少)と推定されている。 その内訳は小麦4,260万トン、粗粒穀物(トウモロコシ、大麦、ソルガム、ライムギ、カラスムギ、1,980万トンである。
  一方、米国に次いで穀物供給が期待できる地域はアルゼンチンやブラジルなどの南米地域である。 しかも、地理的な関係が中国が北半球に位置しているのに対して、 南米地域が南半球であることも気候が相互に逆であることから中国としては通年で安定的な供給源を確保できる。 農産物や加工食品を合わせた食料貿易については今のところ、中国と南米諸国との貿易摩擦の問題は起きていない。 基本的には中国は国内自給だけでは需要に応えられない分を、南米から輸入しているからである。
  消費規模が大きい中国の輸入動向は、南米の生産や輸出動向に与える影響は大きい。 アルゼンチンやブラジルは今後、中国市場を意識した作付けを行い、輸出戦略を強化して行くだろう。 また、中国市場を巡って農産物輸出大国である米国と南米諸国との関係(特にブラジル・米国関係)にどのように影響するのか注目されるだろう。


関連記事等
・「積極化するブラジルの対アジア・アフリカ外交戦略」(内多允)、ITI季刊No.53、2003年秋号(pdf-file)