フラッシュ70

2004年8月4日

 

イタリア大停電のその後

 
(財)国際貿易投資研究所  欧州研究会委員
釧路公立大学非常勤講師  長手 喜典
 

  日本と同様にイタリアもまた記録的な猛暑の夏が続いている。市民たちは昨年の2回にわたる大停電、特に被害が全土にわたって広がった9月28日の大停電を忘れてはいない。今年は無事なのだろうか? 政府や電力関係機関は、すでに4月頃から最近までの間に、何回かブラックアウトの原因究明に関する報告を発表してきたが、送電システムの不備を指摘する声だけが高く、電力不足の抜本的対策についての具体的提案はほとんどみられない。“のど元過ぎれば暑さを忘れる”では困るわけで、イタリア当局のフォローアップの様子を現地紙から概略まとめてみよう。

ブラックアウトの責任はスイスにあり

  この見出しが、伊仏のエネルギー当局が共同調査を行った結論である。スイスの送電担当オペレーターは、送電の安全性や欧州諸国間の電力需給を十分に保証するだけの手立てを講じていなかったという。つまり、事故発生時にイタリアへの主たる電力供給国の1つであったスイスが、電力ストップの危険性を過小評価し、全体的な管理体制が不十分であったというのだ。とくに、Sils-Soazza(スイス/イタリア国境、サンベルナルド峠)の送電能力の急下降が致命的だったと見ている。

  結局、事件当夜の電力供給者であるスイス側の行為は、UCTE(送電調整連合会:欧州大陸諸国間の送電網を管理している企業が任意ベースで加入している連合体)の規約にもとるものであったと結論付けている。

  さらに、ミラノ工科大学とフランスのSupelec(Ecole superieure d'electricite de Paris)の専門家集団により行われた調査結果も、イタリアのエネルギー当局の報告書に付け加えられている。すなわち、今回の問題発生には、スイスが前記UCTEに加入していなかったことにも原因があるとし、周囲すべてをEU(欧州連合)加盟国に取り巻かれるスイスとしては、UCTEのようなEU規制を、たとえ域外国であっても採用すべきと指摘している。一方、UCTE自身にも問題があり、自主的加盟制であることが、どうしても強制力を弱める結果となるので、今後は加盟国の義務や相互監視をより強化する方向が求められている。

もう1つの対伊電力供給国、フランス

  欧州における原子力発電の雄フランスは、電力を輸入に依存するイタリアに対し、従来から主要輸出国の立場にあり、大停電の数ヵ月前、2003年の6〜7月のブラックアウト時には、小規模ながらイタリアを真っ暗闇に追い込んだ張本人であった。しかし、詳細な原因調査の発表がないまま、最近ではむしろフランス労組が、自国の対伊電力輸出に組合として戦略的関心を示している。

  すなわち、フランスの電力民営化の動きに反対するCgt(フランス労働総同盟)は、Edf-Gdf(フランス電力公社・ガス公社)に対する闘争の手段として、イタリアへの送電をストップさせるとの脅しを自国電力当局にかけている。とばっちりを受けるイタリア側としては迷惑な話だが、たとえフランスからの送電がストップしても、15分前に予告さえしてくれれば、イタリアにブラックアウトは発生させないと、イタリア当局は高言しているのだが・・・・・・。しかし、フランスからの供給なしで、イタリアの電力需要がまかなえるのかどうかは、はなはだ疑問である。イタリア国内で新しい発電設備が稼動し始めたとのニュースを聞かないだけに、少なくとも、海外からの買電をどう多角化しつつあるのか知りたいところである。

イタリア生産活動省は語る

  事故調査委員会や民間電力会社の調査は不十分なもので、あの事故は回避できたとする同省の調査結果は、どういうわけか公表されていない。ただ、マルツァーノ大臣は、事故の責任は明らかにイタリアの配電システム、すなわち、送電オペレーターのミスによるもので、スイス側は単にブラックアウトの引き金を引いただけだとしている。

  昨年9月28日の夜、イタリアは必要電力輸入量の25%を突如失うことになったが、これを受けて送電量を軽減し、配電面で慎重な対応が必要だったが、電話回線の不通、発電再稼動の遅れなどのため、21ヵ所の発電所で通電不可能となった。

  事故調査委員会によれば、確かに最大の誤りはスイス側にあったと、同国の関係機関も認めてはいるが、一方でイタリア側の送電システムも事実上多くの問題があった。供給側のスイスに問題が発生したときに、イタリア側ではこれに対応する防御メカニズムが作動すべきであったが、実際は、なすすべもなく破局を迎えた。

  その第1の原因はテレコミュニケーション・システムの不作動と、このような緊急事態に対する経験不足である。個々の対応策への取り組みに際し、危機管理への解釈がばらばらであり、送配電会社は各地で相互間の連絡が取れず、隔離された島のように孤立した状態が続いて、危機の到来はいたずらに電力の消耗を加速させた。そして、遂には最低稼動率すら維持できず、完全な停電という最悪の事態を招いたのである。

おわりに

  酷暑続きの中、最も電力需給を逼迫させるエアコンは、イタリアでも7〜8月が最稼動期である。去る7月22日、イタリアの電力消費量は、今夏のレコードを記録した。すなわち、午前11時にはすでに5万3,200メガワットに達したのだ。これは昨年7月17日に記録した最高水準をあっさり100メガワット超えたことになる。ENEL(イタリア電力公社)ほか各主要都市の民間電力会社は、すでに数ヶ月前から夏の需要期に備えて、すべての対策を講じたと胸を張っている。

  抜本的な電力対策の発表はないので、おそらく考えうる限りの対症療法に終始しているのだろうが、本当に「9.28」の二の舞いは起こらないのか?イタリア市民は疑心暗鬼のようだが、7月下旬に入って気温が下がりだしたのが救いの神となればよいのだが。

<参考>
・フラッシュ51「原発なき先進国イタリアの悩み(その2)」(長手 喜典)
・フラッシュ47「原発なき先進国イタリアの悩み」(長手 喜典)