フラッシュ88
2006年11月13日
 

「環境保護」の要請を受けた国際間の移動の監視
〜 2007年HS商品分類の改訂にみる関税分類の国際貢献 〜

 
(財)国際貿易投資研究所
研究主幹
   増田 耕太郎
 

  2007年1月1日から、HS品目分類表が改訂されHS品目分類表を基にしている各国の関税率表や貿易統計の分類が改訂となる。HS品目分類表の改訂は5年ぶりである。HS条約に加盟しHS品目分類を採用している120カ国・地域およびEUの関税率表に適用される。日本の関税率表および輸出入品目分類表は、HS分類の改訂をふまえたものが告示されている(注1)。

  〔HS品目分類〕 HSは、"Harmonized Commodity Description and Coding System"(商品の名称および分類についての統一システム)の略称。1988年1月に発効し、1992、1996、2002年に改訂されている。

  【HS分類の改訂】
  HS品目分類表を改訂する主な理由と変更点は次の4点である。そのうち、4番目の「関税分類の国際貢献」では「環境」問題を重視した内容になっている。

  1. 貿易量の拡大等による品目分類の新設
      デジタル機器を中心に貿易量が増えている品目について、分類の見直し、新設、分類の再編などが行なわれている。技術変化による新商品への対応も含まれる(3項参照)。
      例えば、半導体等の製造装置や、デジタル・カメラの新設。コンピュータの定義変更や集積回路などの分類変更など
      機械機器以外では、例えば、切花を「ばら」、「カーネーション」、「蘭」、「菊」、「その他」に分けた。


  2. 貿易量の減少等による品目分類の削除や統合
      世界貿易の全体から見て貿易量が減少している品目は、他の分類と統合される、他の分類に含めることで削除した。日本のかつての代表的な中小企業性輸出品目であったもので統廃合の対象となった例に「人形」「玩具」「子供用のりもの」がある。


  3. 技術変化などに対応した品目分類の見直し
      1項と同様、デジタル商品などが対象である。例えば、携帯電話機が普及したので電話機器は有線通信と無線通信の区別をなくした。
      また、コピー機能とファックス機能と印刷機能をもつ複合デジタル機器の分類を設けるなど。


  4. 他機関等からの要請に基づく関税分類の貢献(「関税分類の国際貢献」)
      HS品目分類を定めるWCO(世界関税機構、正式名は関税協力理事会(CCC:Customs Co-operation Council))の主要任務の一つである「国際的な監視・取締の協力」のために、各国・地域の税関が国際貢献できるように関税分類を設ける。
      この場合は、貿易量の多寡に関係なく、関税分類を設けることで商品の国際移動の監視がしやすくなる。主な改訂内容は次項のとおりである。

  【環境保護を目的とした国際移動の監視】

  「関税分類が国際貢献できる分野」として、前回(2002年)の改訂では「産業廃棄物」や「稀少動物」などの国際移動を監視する品目を設けた(注)。 今回の改訂では、その考えをさらに拡大し、国際機関などからの要請をふまえ「環境」保護の視点から分類を新設し、各国の税関が国際間の移動を監視できるようにした。その対象は広く、主なものは次の点である。

  1. 「くろまぐろ」「みなみまぐろ」「めかじき」「めろ」
      これらの魚類の分類を設けた理由は、資源保護と乱獲防止である。

      そのうち、「みなみまぐろ」はCCSBT(みなみまぐろ保存委員会:Commission for the Conservation of Southern Bluefin Tuna )による「みなみまぐろの保存のための条約」があり、資源保護の活動を行っている。CCBSTは、2006年10月、日本の年間漁獲割当量を2006年の割当量(6,065トン)から2007年以降5年間のそれを、ほぼ半分の年間3,000トンに大幅削減したことで話題となった。

      「めろ」は日本では漁獲量が減少した「銀だら」に代わって人気があり、「銀むつ」の名で売られている。

  2. 「竹」および「竹」を使った製品
      自然環境問題の高まりを背景に、緑化資源としての竹の再生力や持続性が高く評価され、竹資源を有効活用する動きが広がっている。竹は古来より堤防の破壊、山崩れ、台風、地震などの災害から人々や家を守ってきた。素材として、木材より「強度と弾力性」に優れているだけでなく、抗菌性・防カビ性・消臭効果に優れた特性を持つ。特に、100年近く成長を要する木材と比べ。竹の成長が早いことの特性を活かした「竹」産業の振興が生育地のアジア、アフリカで注目を集めている。
      なお、竹以外では、熱帯木材のマホガニー、パルサ、サペリや、広葉樹の楓、桜、トネリコが新たに環境保護を目的に新設した。


  3. 環境汚染や健康被害となりかねない有害「物質」
    例えば
    1. 水銀 〜有機化合物、無機化合物に関係なく、水銀を含有した化合物や製品
        水銀による汚染の被害が世界各地に起きていることをふまえ、水銀の使用を抑制する動きが広がっている。EUでは廃電気電子機器指令で水銀の使用を規制している。水銀の使用を抑制するための国際条約の制定の動きも活発である。


    2. パラチオンなどの殺虫剤 〜 ロッテルダム条約の規制対象物
        「ロッテルダム条約(PIC)」は、正しくは「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約」(The Rotterdam Convention on the Prior Informed Consent Procedure for Certain Hazardous Chemicals and Pesticides in International Trade)という。 開発途上国の中には有害な化学物質や駆除剤の製造・使用・輸入等の規制措置が整備されていない場合があり、先進国では既に廃絶された物質が広範に使用され、環境汚染、健康被害を引き起こしている例がある。そこで、有害な化学物質や駆除剤に関する情報交換を目的にしている。

        なお、パラチオンは、DDT、BHCに次いで登場した強力な有機リン系殺虫剤で、日本は農薬として使用を1969年に中止、71年に禁止した。

    3. 「石綿」(アスベスト)と製品
        アスベストに関係した国際条約には、アスベストによる労働者等の健康被害や労働被害の防止等を目的にした「石綿の使用における安全に関するILO条約」がある。

  4. 「環境」に優しい物質
      3項と反対に、「環境」に対する負荷が少ない品目を取り上げ新設しているのも、今回の改訂の特徴だ。その例に、「環境配慮物質」の「ポリ乳酸」がある。

      ポリ乳酸は、とうもろこし、さつまいも、さとうきび等の植物のデンプンを原料とし、石油から合成するプラスチックに比べると化石エネルギー使用量を抑制する効果がある。 また、ポリ乳酸を燃やすときに排出されるCO2量は、原料である植物が光合成で取り込んだ大気中のCO2量と同量なので、地球温暖化の原因であるCO2を増やすことのない素材である。また、廃棄したポリ乳酸は堆肥の中だと水とCO2に分解されるなど地球環境に優しい物質である。なお、こうした優れた特性をもつので、手術用の糸、釣り糸、農業用ハウスのフイルムなどに使われ需要が拡大している。

  環境意識の高まりは、先進国、途上国ともに共通している。環境に関する国際的な取り組みは、環境保護に対する予防的な措置やアプローチに重点が置かれている。HS分類の改定は、そうした動きを反映し、前回より一層環境保護の要請に応え国際間の移動を監視する役割を担っている。そのため、環境破壊に繋がる物質ばかりでなく、資源保護や乱獲を防止するための魚、さらに環境に優しい物質まで含めた。

  実際の地球規模での貿易量が分かるのは、HS分類に準拠した貿易統計に計上され2007年上期の貿易額(数量)が公表される2007年秋頃になる。貿易量の拡大が期待される「ポリ乳酸」が、どのような規模であるのか把握できるのは興味深い。



  (注)
  1. 日本の輸出入品目表は、財務省ないし税関ホームページに掲載されている 「輸出統計品目表及び輸入統計品目表を定める等の件の一部を改正する件(平成18年財務省告示第416号)」を参照

  2. 「国際監視下におかれた廃棄物や稀少動物の国際移動〜関税分類(HS)の国際貢献」(2003年12月: フラッシュ54号