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コラム

2013/05/15 No.10_5東アジアのFTAで関税率はどれくらい下がるか(5/5)〜TPPの関税削減メリットはRCEP、日中韓FTAを下回るか〜

高橋俊樹
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

目次

  1. なぜ東アジアのFTAの関税削減メリットを計算したか
  2. ACFTAの平均関税率は1~2%台
  3. AFTAの平均関税率は0.2%以下
  4. TPPの関税削減メリットは日中韓FTA、RCEPを下回るか
  5. 一様に高い輸送用機械・部品のACFTA税率

(5/5ページ)

5.一様に高い輸送用機械・部品のACFTA税率

表5 ACFTAの業種別平均関税率(2012年、加重平均)

(注) MFN税率およびACFTA税率の計算における品目別の重み(ウエイト)は、3ヵ国とも他のASEAN9カ国からの輸入額を用いた。

表5は、ACFTA5ヵ国の業種別の加重平均によるAMFN税率とACFTA税率をまとめたものである。これによると、中国の場合はACFTA税率が農水産と食料品・アルコール及びプラスチック・ゴム製品の分野で高く5~10%であった。輸送用機械・部品でも3.3%であった。これ以外は1%以下の水準になっている。

インドネシアでACFTA税率が高い分野は食料品・アルコール、プラスチック・ゴム製品、輸送用機械・部品と中国と同様に5~12%であった。付け加えるとすれば、皮革・毛皮・ハンドバック、木材・パルプの税率も高い。マレーシアでは、プラスチック・ゴム製品と窯業・貴金属・鉄鋼・アルミニウム製品のACFTA税率が高くなっているが、それでも3%以下である。

タイでは、輸送用機械・部品のACFTA税率が13.9%であり、次いで木材が4.6%であった。ベトナムでは、繊維製品・履物が10.4%、木材パルプと雑製品が9.9%と同率、輸送用機械・部品が9.1%、食料品・アルコールが8.1%であった。

したがって、ACFTA5ヵ国とも、機械類・部品や電気機器・部品よりも輸送用機器・部品に高いACFTA税率を設けている。全体的に食料品・アルコールとプラスチック・ゴム製品の関税率が高い傾向にある。農水産品では中国とベトナムが、木材・パルプではインドネシア・タイ・ベトナムで高い。また、繊維製品・履物はMFN税率では各国とも高いものの、ACFTA税率ではベトナム以外は低くなっている。

表6は表5よりも細かな商品を取り上げており、ミルク、Tシャツ、テレビなどの代表的な8品目に関するMFN税率とACFTA税率を算出したものである。ほとんどの品目はHSの6桁を4桁に積み上げているが、テレビカメラやテレビジョン受像機のように6桁ベースの品目もある。

Tシャツにおいては、中国とタイのMFN税率がそれぞれ14%、30%であるが、ACFTA税率は両国とも0%に削減されている。したがって、MFN税率とACFTA税率の格差が大きく、関税削減のメリットが大きい品目である。

鉄鋼製のネジでは、中国、インドネシア、マレーシアのMFN税率が5~12.5%の間であるが、ACFTA税率は各国とも0%に引き下げられている。しかし、タイの鉄鋼製のネジでは、MFN税率が10%であるのに対してACFTA税率は20%であり、むしろACFTA税率の方が高い。これは、同品目のMFN税率が10%に引き下げられたが、2012年時点ではACFTA税率はまだ20%にとどまっており、結果としてACFTA税率の方が高いという逆転現象が起きているためだ。

表6 ACFTAの代表品目の平均関税率(2012年、加重平均)

テレビジョン受像機では、各国ともACFTA税率は10%を超える高率を課している。したがって、MFN税率との差分が大きい中国やベトナムでは、輸入をすれば関税削減のメリットはあるものの、依然として高いACFTA税率が輸入障壁になっている。

乗用自動車も各国とも20%を超える高いMFN税率を課しており、ACFTA税率もテレビジョン受像機と同様に10%を超える高関税になっている。特に、ベトナムでは、41.2%の高率になっている。ただし、タイとベトナムでは、乗用自動車のMFN税率とACFTA税率の格差が大きく、関税削減のメリットも大きい。

自動車部品でも、中国(ACFTA税率2.8%)とマレーシア(5.3%)以外の各国は、10%~30%の高いACFTA税率を課している。インドネシアとタイでは、自動車部品のMFN税率はそれぞれ9.9%と26.8%であるが、ACFTA税率は14.2%と27.1%となっており、鉄鋼製のネジと同様に両税率間で逆転現象が起きている。

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ITIの関連論文など

ASEAN中国FTA(ACFTA)の運用実態と活用方法~企業への影響が大きいのは互恵関税率の適用~(季刊89号、2012年)

FTAが牽引するASEAN‐中国貿易~2012年にさらなる関税削減が見込まれるACFTA( ASEAN中国FTA)(フラッシュ149、2011年)

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