2013/05/15 No.10_3東アジアのFTAで関税率はどれくらい下がるか(3/5)〜TPPの関税削減メリットはRCEP、日中韓FTAを下回るか〜
高橋俊樹
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹
目次
- なぜ東アジアのFTAの関税削減メリットを計算したか
- ACFTAの平均関税率は1~2%台
- AFTAの平均関税率は0.2%以下
- TPPの関税削減メリットは日中韓FTA、RCEPを下回るか
- 一様に高い輸送用機械・部品のACFTA税率
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3.AFTAの平均関税率は0.2%以下
AFTAでは関税の自由化が進んでおり、特にASEAN先行6カ国においては、AFTAを利用すれば、ほとんどの品目で関税が0%になっている。表3のように、タイとインドネシアのAFTA税率は0.1%にも満たない。マレーシアで0.2%である。これらの3カ国において、関税が残っている業種は農水産品や食料品の分野である。
これに対して、表3のように、一般的な輸入に適用されるMFN税率は、タイでは6.3%、インドネシアでは4.1%、マレーシアでは3.7%であった。
一方、表1のAFTAに中国を加えたACFTAのMFN税率では、タイは6.3%で同率であるが、インドネシアは5.5%、マレーシアは4.5%であった。つまり、インドネシア、マレーシアでは、AFTAの方がACFTAよりもMFN税率は低いという結果になった。
表3 AFTAの平均関税率(2012年、加重平均)
一般的には、AFTAにおいては、関税の自由化が進んでいる分だけAFTA税率が低いため、MFN税率とAFTA税率との格差がACFTAよりも大きく、関税削減のメリットも高いと考えるのが自然である。
例えば、表1と表3からわかるように、タイではAFTAとACFTAのMFN税率(加重平均)は同率(6.3%)であるが、AFTA税率(0.01%)がACFTA税率(2.5%)よりも低い。
タイにおける「AFTAの関税削減率(AFTAのMFN税率-AFTA税率)」は、6.29%(6.3%-0.01%)である。一方、タイの「ACFTAの関税削減率(ACFTAのMFN税率-ACFTA税率)」は、3.8%(6.3%-2.5%)になる。この結果、タイにおけるAFTAの関税削減率は、ACFTAよりも2.49%(6.29%-3.8%)も大きい。
つまり、タイでは、100万円の機械を、ACFTAを活用して中国から輸入した場合よりも、他のASEANからAFTAを利用して輸入した方が、平均で関税を2万4,900円も多く削減(節約)することができる。
このように関税を削減することができるのは、ACFTAやAFTAを使わない場合に支払うMFN税額の6.3万円に対して、ACFTAでは2.5万円の関税支払いになるが、AFTAではわずかに100円の支払いにしかすぎないからだ。2.5万円から100円を引いた分が、AFTAとACFTAの関税削減効果の差ということになる。
しかしながら、タイとは異なり、インドネシアとマレーシアにおいては、逆に関税削減効果はわずかではあるがAFTAの方が低いという結果になっている。これは、この2か国のAFTAにおけるMFN税率が、ACFTAのMFN税率よりも低いためである。
なぜ加重平均によるAFTAのMFN税率の方がACFTA よりもが低くなる場合があるかというと、ACFTAのMFN税率を算出する際、タイ、インドネシア、マレーシアは中国からの輸入額をウエイトに用いているが、AFTAでは他のASEAN9カ国からの輸入をウエイトに使っているためである。この加重平均の過程において、インドネシア、マレーシアのAFTAにおけるMFN税率がACFTAよりも小さくなる。
しかし、これはあくまでも加重平均による「MFN税率」に対する「AFTA税率」や「ACFTA税率」の乖離幅を比較したものである。すなわち、通常の輸入で支払うMFN関税額に対する関税削減効果という観点から導き出された結果である。
実際に税関で支払うAFTA税率とACFTA税率との単純な比較では、AFTAの方がほとんどの品目で低い。表3のように、インドネシア、マレーシア、タイにおいて、他のASEANからの輸入でAFTAを利用する場合、企業に賦課される関税率はほとんどの業種で0%である。
一方、これら3カ国の中国からの輸入でACFTAを用いる場合は、平均して1~2%台の関税率になる。関税削減効果という面では、インドネシアとマレーシアにおいては、AFTAの方がACFTAよりも低かったが、実際の関税支払いではAFTAの方が平均でACFTAよりも少ない。
したがって、インドネシアとマレーシアでは、わずかではあるがAFTAの関税削減効果がACFTAよりも低いからといってAFTAを使わないことはなく、実際には関税の撤廃が進んでいるAFTAを利用することになる。
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