2014/09/12 No.207ASEAN経済共同体に向けての作業進展状況-第46回ASEAN経済大臣会議文書から-
石川幸一
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
亜細亜大学 教授
第46回ASEAN経済大臣会合(AEM)および対話国との経済大臣会議、RCEP閣僚会合など一連の経済大臣会合が8月25日から27日にミャンマーの首都ネビドーで開催された。AEMでは毎年ASEAN経済共同体ブループリントの進展状況が報告されている。今回のAEMでの報告(共同声明および主要結果による(注1))の概略は次の通りである。
1.82.1%と報告
ブループリントの実施状況を評価するスコアカードは、2012年に第1フェーズと第2フェーズについて公表されて以降、詳細なものは発表されず、2013年の第45回経済大臣会議の際に2013年7月時点で79.4%という全体の数字のみが発表されていた。本来であれば、フェーズ3(2012~13年)のスコアカードが2014年の前半に公表されるはずであったが、発表は行なわれていなかったが、今回のAEMで82.1%と発表された。2013年末までに実施予定の229の優先主要措置(prioritised key deliverables)の82.1%を実施しており、第4フェーズ(2014~15年)については、52措置が実施されているとしている(注2)。
とくに第1の柱(単一の市場と生産基地)の課題が重視され、非関税障壁と規制面の障壁を削減、廃止するという目標の達成への努力を倍加せねばならないとしている。今後については、①影響の大きい優先度の高い措置を先行して実施する、②中小企業、市民、利害関係者とのコミュニケーション、③ポスト2015AECアジェンダの作成、を優先課題とする。
ポスト2015ビジョンについては、経済統合に関する高級レベルタスクフォースに対し、今後10年間を対象に制度・規制枠組みに支持された真に統合された単一市場( truly integrated single market)に向けての前向きのアジェンダの必要性を強調して、2015年後のAECビジョン(AEC Post-2015 vision)の作成を指示している。
2.単一の市場と生産基地
2-1.物品貿易
(1)関税撤廃
2014年のAEMでは、ASEANの関税撤廃率は89%(タリフライン)と報告された。なお、2012年5月時点で、ASEAN6は2010年1月に関税を撤廃し関税撤廃率は99.1%となっている。CLMVの関税撤廃率は67.6%であり、28.9%品目が関税率5%以下(2013年2月)となっている(注3)。
表1 関税撤廃状況(2012年5月)(単位:%)
|
0%品目 |
有税品目 |
その他 |
ブルネイ |
99.07 |
|
0.93 |
インドネシア(AHTN2007) |
98.72 |
0.18 |
1.10 |
マレーシア |
98.69 |
0.54 |
0.78 |
フィリピン |
98.63 |
1.06 |
0.31 |
シンガポール |
100.00 |
|
|
タイ |
99.84 |
0.16 |
|
ASEAN6 |
99.11 |
0.35 |
0.54 |
カンボジア |
40.29 |
59.71 |
|
ラオス |
78.87 |
21.13 |
|
ミャンマー |
79.42 |
19.87 |
0.71 |
ベトナム |
71.75 |
26.22 |
2.04 |
CLMV |
67.58 |
31.73 |
0.69 |
ASEAN |
87.24 |
12.17 |
0.60 |
(2)非関税障壁の撤廃
2013年のAEMでは、①UNCTAD新分類でデータベースを整理、②各国でNTMに対処する関係省庁横断機関を設置、③実際に発生した事例をマトリックス(Matrix of Actual Cases on NTM/NTBs)としてASEAN事務局ウェブサイトに掲載、との3点を決定しており、2014年のAEMでは、上記の3措置の進展を確認している。
ブループリントでは、ASEAN5は2010年、フィリピンは2012年、CLMVは2015年(若干のセンシティブ品目は2016年)に撤廃の予定だが、全くといってよいほど進んでいない。2010年の連結性マスタープラン(MPAC)では、①最新の国際分類によりデータベースを更新、②数量制限のガイドラインを2014年までに作成、③2014年までに撤廃、となっている。事例マトリックスでは2013年11月時点で68ケースが取り上げられ、二国間あるいは多国間で協議。SPS(ハラルを含む)、TBT、輸入許可取得、輸入制限などが主である。
(3)原産地規則
原産地証明については、第三者証明に加えて自己証明制度(Self-Certification Pilot Project) の導入に取組んでいる。2010年からシンガポール、マレーシア、ブルネイで「〈第1〉認定輸出者(certified exporter)自己証明制度」のパイロットプロジェクトを開始(タイは2011年に参加)。2012年にインドネシア、フィリピン、ラオスがより別の利用制限の強い「(第2)認定輸出者自己証明制度」のパイロットプロジェクトを開始(タイ、ベトナムも参加予定)。2015年に2つの自己証明制度を統一する計画である。
2014年のAEMでは、カンボジアとミャンマーが第1パイロットプロジェクト、ベトナムとタイが第2パイロットプロジェクトに参加する意向を表明し、2015年までに2つのパイロットプロジェクトの統合する作業を加速することを促した。第1パイロットプロジェクトには302社、第2プロジェクトには14社の認定輸出者が参加している。
(4)貿易円滑化
① 税関業務円滑化
2014年AEMでは、ASEAN税関貨物通過制度(ASEAN Customs Transit System)パイロットプロジェクトの準備の進展を評価し通過貨物円滑化協定の第2議定書(国境交易所・事務所の指定)のテキスト作成と第7議定書(トランジット通関)の調印の加速を促した(共同声明)。ASEAN通関申告書、ASEAN税関貨物通過制度、ASEAN統一関税分類(AHTN)など税関業務円滑化は進展している。
② ASEAN貿易リポジトリ
ASEAN貿易リポジトリ(ATR)構築に向けて各国がナショナル貿易リポジトリを作りつつあることが確認されATRの構成について合意した。ATIGAでは、貿易制度のデータベースであるASEAN貿易リポジトリの創設〈2015年〉を予定している。
③ ASEANシングル・ウィンドウ(ASW)
2014年AEMでは、ATIGAのフォームDとASEAN税関申告書の交換についての7カ国の連結テストの成功などASWの実施に向けた進展が報告されるとともに必要とされる通関関係文書全体を対象とする全面運用テストおよび評価を行うこととASW実施の法的な枠組みについての議定書の完成を促した。
ブループリントではASEAN6では2008年、CLMVは2012年までにナショナル・シングル・ウィンドウ(NSW)を実施することになっているが大幅に遅れており、CLMを除く7カ国がASWパイロットプロジェクト参加を決定。2015年までに選定された港で実施することになっている。
④ 基準・適合性評価
2014年のAEMでは、ASEAN基準品質協議委員会(ASEAN Consultative Committee on Standards and Quality: ACCSQ)による貿易の技術的障害の除去を評価し、医療機器の基準を調和させるシステムであるASEAN医療機器指令(ASEAN Medical Device Directive)の完成を評価した。ASEAN調和電子電気規制レジームの各国法制への落とし込み、自動車、調整食品、建築材料のMRAの交渉促進とバイオequivalence study レポートについて要請した。ASEAN伝統的薬品と健康サプリメント協定および協定を構成する伝統的薬品とサプリメントの技術要件の調和の完成を要請した。ブループリントでは、化粧品統一指令、医療機器指令協定、電気電子機器、薬品製造検査の優良製造プラクティス(GMP)、調整食品、自動車のMRA、伝統的医薬品と健康サプリメントの規制枠組み協定などを計画しており、化粧品統一指令の国内法制化、電気電子機器のMRAの実施、薬品製造検査のGMPのMRA策定などが実施されている。
2-2.サービス貿易
① 越境サービス貿易
2014年AEMでは、AFAS第9パッケージの完成に向けた進展を歓迎した(共同声明)としているが、合意・署名したとは書かれておらず、約束表も発表されていない。ジェトロバンコクセンターがタイ商務省貿易交渉局に照会したところ、8月25日にフィリピンを除く9カ国が交渉完了に合意し署名を行ったことが確認された(通商弘報9月2日付け)。タイ商務省のプレスリリースでも、第9パッケージの署名とタイが第8パッケージまでに2012年に自由化した81分野に加え、新たに25分野を自由化したとしている。
ブループリントの計画は次の通りである。①優先統合4分野(空運、e-ASEAN、ヘルスケア、観光)は2010年までに、優先統合の第5分野ロジスティックスは2013年までに実質的に自由化、その他の分野は2015年までに自由化、②第3モードの外資出資比率:優先統合4分野は2008年51%、2010年70%、ロジスティックス2008年49%、2010年51%、2010年70%、その他2008年49%、2010年51%、2015年70%、③2007年-08年第6パッケージ、09年第7パッケージ、10-12年第8パッケージ、13-14年第9パッケージ、15年第10パッケージを交渉、④全般的な柔軟性として自由化例外を15%指定できる。
2012年末の時点で第8パッケージの自由化目標は達成していたが、第9パッケージ交渉は遅れていた。
AFASの改訂作業は2013年第四半期に開始され、新たな協定の名称をASEANサービス貿易協定(ASEAN Trade in Service Agreement: ATISA)としている。
2-3.投資
2014年AEMでは、ACIA修正議定書に署名した。これは、留保表(ネガティブリスト)の留保分野の削減のための手続を規定したものであり、自由化促進のための措置である。
ブループリントでは、ASEAN投資地域枠組み協定(AIA)と投資保証協定(AIGA)を統合してACIAを制定するとしており、ACIAは2009年調印され2012年3月に発効した。
2-4.熟練労働者の移動
2014年AEMでは、現在のMRAに替わる会計士資格の新しいMRAがまとまったとしている。専門家の資格のMRAは、エンジニアリング〈2005年〉、看護〈2006年〉、建築(2007年)、測量技師〈2007年〉、会計(2009年)、開業医(2009年)、歯科医〈2009年〉、観光専門家〈2012年〉の8分野が署名済だが、発効したものはない。
2014AEMの豪州ニュージーランドとの経済大臣会合の報告の部分に、ASEAN資格参照枠組み(ASEAN Qualifications Reference Framework)が採択されたことを歓迎するとある。これは、教育面の資格についてASEAN共通の基準を作り各国の資格を整理し比較参照できるようにするもので、豪州ニュージーランドとのFTA(AANZFTA)の教育協力作業計画の中で検討されてきたものである。
3.競争力のある経済地域
3-1.競争政策
2014年AEMでは、競争法が制定されていない5カ国での2015年までの制定の重要性を強調している。ASEAN競争専門家グループのウエッブ開設と豪州ニュージーランド、ドイツの競争法分野の技術協力を歓迎している。フィリピンは競争政策当局を創設、競争法導入を準備中である。ブルネイ、カンボジア、ラオス、ミャンマーは競争当局が未設立となっている。
3-2.知的財産権
2014年AEMでは、知的財産権行動計画(IPR Action Plan)の未実施措置を完了させることを要望し、商標タスクフォースによる商標関連措置の実施の加速を歓迎している。特許協力条約(Patent Cooperation Treaty)、マドリッド議定書など国際条約への2015年までの各国の参加の進展を留意している。
各国との協力状況については、ASEAN知的財産当局と日本の特許庁の協力行動計画2014-15署名、EU特許庁との覚書調印、ASEAN中国作業計画2014-15署名と米国特許庁の協力による能力構築プログラムに言及している。
3-3.消費者保護
ミャンマーが2014年3月に消費者保護法を制定し、9カ国が消費者保護法を導入した。禁止およびリコールされた製品の通告について作業実施を歓迎している。
① 官民の関与と連携
ASEAN PPP原則:2014年AEMでPPP(官民連携)原則枠組み作成がOECDの協力により進められたことが報告された。ASEANのインフラ整備に年600億ドルが必要と推定されており、予測可能で効率的なTPP事業環境と国境を超えたプロジェクトが必要である。
ASEAN統合における民間部門と政府部門の関与(engagement)の強化が強調され、ASEANビジネス諮問会議(ASEAN Business Advisory Council: ASEAN-BAC)の競争力強化に向けての作業を賞讃した。ASEAN日本人商工会議所連合会(FJCCIA)の活動を民間の関与として取り上げている。
3-4.輸送円滑化
ASEAN税関通過パイロットプロジェクトの準備の進展を確認し、ASEAN通過貨物円滑化枠組み協定(AFAGIT)の第2議定書(国境交易・事務所)と第7議定書(トランジット通関)の調印に向けて国内調整を加速するよう促した。
4.公平な経済発展
4-1.中小企業
2015年AEMでは、中小企業ワーキングループ設立に合意、中小企業行動計画(SME Action Plan)の措置の実施(とくに金融アクセスと市場アクセス)、2015年後の行動計画のビジョンと目標の策定、日本、ドイツ、米国の支援による技術協力が優先分野(主要結果)、中小企業政策インデックス研究によりアーリーハーベスト措置を特定する中小企業ワーキンググループの取組みを強化(共同声明)などを決定した。
4-2.格差是正
開発格差の現状を調査分析し理解の共通基盤となる「公平な経済発展のためのASEAN枠組み(ASEAN Framework for Equitable Economic Development: AFEED)」の作業のモニタリング(世銀支援)結果が2014年11月の第25回首脳会議に提出される。
5.グローバル経済との統合
2014年AEMでは、①インドとのサービス貿易投資協定の調印、②豪州ニュージーランドとのFTA(AANZFTA)の改定議定書の調印、③中国とのFTA(ACFTA)のグレードアップの要素ペーパーの採択と早急な交渉開始の合意およびTBTとSPSに関する小委員会の設置、④韓国とのFTA(AKFTA)のセンシティブ品目の自由化の進展、⑤日本とのFTA(AJCEP)のサービス貿易章と投資章の交渉進展と2014年中の合意、⑥ASEANと香港のFTAの交渉開始、について言及されている。AANZFTAの改定議定書は、関税番号変更基準の場合原産地証明にFTB価額を不記載にする、などが内容である。
6.支援への謝辞
その他にASEANへの協力を行っている対話国と機関として、豪州(Australia Development Cooperation Program)、EU(ASEAN Regional Integration Support および EU-ASEAN Capacity Building Programme for Monitoring Integration Progress and Statistics)、米国(US ASEAN Connectivity through Trade and Investment)、ドイツ(German Federal Ministry for Economic Cooperation and Development)、アジア開発銀行、世界銀行、IMF、東アジアASEAN経済研究センター(ERIA)があげられ感謝の意が表明されているが、日本への言及はない。
注
1. The 46th ASEAN ECONOMIC MINISTERS’ (AEM) MEETING JOINT MDEIA STATEMENTKEY OUTCOMES OF THE 12TH AEC COUNCIL MEETING, 46TH ASEAN ECONOMIC NISISTERS’ (AEM) MEETING AND RELATED MEETINGS
2. 従来のスコアカードと評価方法を変更し、主要な優先措置を分母としている。
3. ジェトロ助川成也氏による。
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