一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2014/09/11 No.206アフリカ消費市場展望(8)ダーバン港からハラレ(ジンバブエ)まで~物流の問題点

大木博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

104ドルのサントリーウイスキーオールド

ジンバブエの首都、ハラレの中心部にあるOKスーパーマーケットのお酒コーナーで日本ブランドのウイスキーや焼酎に出くわしたときには驚いた。サントリーウイスキーオールドが104ドル、宝焼酎純は28ドルという値段がついていた。ジンバブエは世界でも貧しい国の一つで、失業率は80%を超えている。経済混乱で自国通貨は消失し、使い古したドル札が決済通貨として流通している国である。そんな国のスーパーの店頭に日本メーカーのお酒を売っているとは想像すらしていなかった。

日本ブランドのお酒をみてまず頭に浮かんだことは、アフリカ市場では中間層が、急速に拡大しているが、ここでも同じような傾向にあるのかという疑問である。OKスーパーマーケットのお酒コーナーには、欧州のビールや南米のワイン、米国のウイスキーなど種類も豊富で品数が多い。酒の消費と中間層の台頭には高い相関性が認められている。

しかし、OKスーパーマーケットの幹部は、ジンバブエでは中間層は停滞しているとの回答であった。可処分所得が増えていない。水や電気代の負担が大きくそんな余裕がないとのことである。国内には稼げる場所がないが、海外に多くのジンバブエ人が出稼ぎに出ている。海外からの送金が消費を支えているのかもしれない。

もう一つ浮かんだことは、アフリカ市場の奥地まで届く物流網の存在である。日本ブランドのお酒は、南アフリカのケープタウンにある会社が輸入したものである。アフリカ市場は輸入品が幅を利かせている。ハラレのスーパーマーケット3社に聞き取りをしたところ、1社は取り扱っている商品の8割弱が輸入品であると言っていた。もう1社は、5割強という。輸入品のほとんどはネスレ、ユニリーバ等の多国籍企業のブランド品である。中国からの輸入品は自社ブランド品に限っている。現地で調達できる製品は、野菜などの生鮮食料品などに限られている。外資系企業が撤退しているジンバブエでは国内調達が難しい。ジンバブエの大手スーパーマーケット3社とも輸入品は南アフリカ経由で調達している。

南部アフリカの最大の港、ダーバン港

南アフリカのダーバン港は、南部アフリカの港湾の中で最大の外航貨物輸送量を取り扱っている。ダーバン港のコンテナ取扱量は、南アフリカ全港湾のコンテナ取扱量の62%(2010/11年度)を占める。ダーバン港は、南部アフリカの輸入品の受け入れ拠点である。

ダーバン港からハラレ(ジンバブエ)まで距離は1,626㎞、トラックで標準コンテナを輸送するのに要する時間は、2日と18時間。因みに、ヨハネスブルグまでは559㎞、24時間、ケープタウンは1,595㎞、2日と11時間、モザンビークのマプトは570㎞、1日と1時間、モザンビークのベイラは1,811 Km、 2日と22時間、ナミビアのウィントフックは1,893㎞、3日、ボツワナのハボローネは912㎞、1日と14時間、ザンビアのルサカは2,048㎞ 、3日と10時間、アンゴラのルアンダが3,561㎞、5日と19時間となっている。

ジンバブエの大手スーパーストアSPARのロジスティック部門の責任者によれば、ダーバン港に荷揚げされた商品は、ヨハネスブルグ空港近くの倉庫に搬入される。そこからハラレの物流センターに輸送するとのことであった。運搬は自社のトラックで行い、国境で荷物を積み替えることなく一気通貫で運ばれる。所用時間は、ヨハネスブルグから国境まで1日、国境の通関に2日間、ただし、国境通関は荷物によって異なるため、3から6日かかることもある。通関後、ハラレまでは8時間から9時間ほどで着く。ハラレの倉庫に搬入された後、注文があれば、翌日には各地の店舗に配送している。ダーバン港からハラレまでのリードタイムは、7日間程度を見込んでいるようである。

国境通関に時間がかかるのは、混雑、検査(検疫、原産国確認など)、書類の数が半端でないほど多く、処理能力が追いつかないためであるという。他方で、OKスーパーマーケットは、2から3日で物が届くと述べていた。電子通関で通関もスムーズに通過しているとのことであった。オンライン通関を利用している南アのロジスティック会社を委託していることで、国境をスムーズに通過しているのかも知れない。

貿易円滑化の障害

ジンバブエは、南アを中心として結成されたSADC(南部アフリカ開発共同体)に加入している。SADCの15加盟国のうち4カ国は内陸国(ボツワナ、マラウイ、ザンビアおよびジンバブエ)で、物流コストが大きな負担になっている。アフリカのGDPに占める物流コストの割合は30%と推定されている。

SADCにおける物流は、南アフリカが起点になっている。南アフリカ経由でSADCに輸入される貨物量のおよそ60%は、ザンビア、コンゴ民主共和国およびアンゴラ向け、残りの40%はジンバブエ、モザンビークおよびマラウイ向けである。これら貨物量の48%はダーバン港から道路輸送され、残りの52%は沿岸海上輸送によるものである。

物流コストが大きな負担になっている理由としては、第1に南アフリカ経由でSADCから輸出される貨物量は取るに足らないものなので、域内には貨物の大きな不均衡(片荷)が存在していること。第2にダーバン港を主要なゲートウェイとして利用することで、物流コストが増加していると指摘されている。ダーバン港では、積荷の移動に大幅な遅れが頻繁に起きており、これがコスト上昇に直結している。ダーバン港は、290万個(TEU)のコンテナを荷役できるが、このままでは7年後の2019年に限界に達する。そのため、拡張と新港建設を進め、荷役能力は大幅に増えて2,000万個(TEU)以上になる見込みである。

第3にSADCの越境移動にかかるコスト。国境検問所での煩雑かつ非効率な書類手続きで支障をきたしている。貿易手続きおよび事務処理は、各国の政府・貿易機関間の調整が乏しいため、大幅に重複している。越境移動だけで25の関係組織が関与し、異なる書類が40種も必要なケースもある。

このため情報システムの設計は煩雑化し、データ要素はしばしば重複している。フォーム入力時の人為的ミスにより、後続の国境検問所でデータ再入力に80%余りの時間を要する。SADCの国境検問所は、現行貿易手続きの実施に要する人的資源の不足が深刻である。ワン・ストップ・ボーダー・ポスト(OSBP)の考え方が、域内のいくつかで実施に移されているが、概して国境検問所での遅れが依然、物流コストの主要な押し上げ要因の1つとなっている。

資料:DOT(IMF)
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