2017/03/28 No.329踊り場のメコン経済…現状と展望(13)マンダレーの地場企業の課題~AyeyarwaddyGoldenPrince(石鹸)とMoeMaKhaPaperFactory(製紙)のケース~
AungKyaw
モンユワ経済大学商学部 教授
Nu Nu Lwin
ヤンゴン経済大学経営学部 教授
今回は、マンダレーの地場企業Ayeyarwaddy Golden Prince (Shwe Min Thar石鹸)と Moe Ma Kha Paper Factory(製紙)の2社を取り上げる。(取りまとめは大木博巳ITI事務局長兼研究主幹。調査は公益財団法人JKAの補助を受けて実施した。)
1.Ayeyarwaddy Golden Prince (Shwe Min Thar石鹸)
同社は1986年に創業し、30年にわたり石鹸を製造している。同社はマンダレーの地域市場で成長して、その後、事業を全国に拡大した。外部資本は入っておらず、会社の設立と事業の拡大の原資は内部資本である。マンダレーには競合他社が5社ある。
工場は2つある。第一工場の生産能力は日産300箱で、工程はより労働集約的、第二工場はより小規模だが資本集約的で、8時間3交代体制で日産200箱である。
同社の社長は、大学で工業化学を専攻し、その知識を存分に活かして品質改良に取り組んでいる。かつては伝統的な化学原料を使わない製法だったが、今は戦略を変え、泡立ちを良くするため化学添加物を使用している。同社には品質改良と品質管理のための小さな研究部門がある。
原料は半分以上が国内調達、残りは中国からの輸入である。中国の天津からヤンゴンまでの輸送手段は海路で、ヤンゴンからマンダレーまでの輸送手段は列車である。
原料を混合、加熱し、3〜4時間、室温で冷却する。冷却後の半製品は機械で棒状に加工され、石鹸の形状に切断されて最終製品となる。今のところ、梱包は手仕事だが、中国から自動梱包用の機械を購入することを検討している。
課題
同社の課題は製品開発・マーケティングと社員教育である。
同社は社内にマーケティング・チームはない。最近は国際ブランドとの競争が激しくなっており、広告を打つ必要性が高まっている。たとえば、ユニリーバ製の高価格帯の石鹸がミャンマーの国内市場に参入した。ユニリーバ製品と比べると同社の石鹸はローエンド市場に対応しており、シティマート(高級スーパーマーケット)のような近代的スーパーマーケットでは売られていない。とはいえ、同社は国際的ブランドとの競争を看過はできないと考えており、今後、競争が少なく、高品質の製品として消費者に認知されている液体石鹸の開発に取り組む方針である。主な販売チャネルは食料・雑貨店である。いくつかの都市への配送には列車とトラックが使われている。
従業員の大半は高卒だが大卒の社員もいる。社員を社内昇進させることが多い。マネージャーになるには30年、上級技術士になるには少なくとも10年を要する(30年かかる者もいる)。現場労働者からキャリアをスタートさせ技術士になるには5年かかる。経営陣は社員が会社に忠誠心を示すことを期待している。
2.Moe Ma Kha Paper Factory(製紙)
1979年創業。現オーナーの祖父が創業し、現在三代目に当たる。現オーナーは10年前に入社した。同社は国内の機械と原料を使用している。機械はヤンゴンとマンダレーの企業から購入した。機械に問題が起きるとヤンゴンからテクニシャンが出張してくる。現オーナーの祖父もテクニシャンで、機械の修理は可能な限り自前でやっていた。長年の経験を踏まえ、現オーナーも自社の機械を修理することができる。
国産品と輸入品の品質の違いは、前者が紙の片面の肌目しか滑らかにできないのに対し、後者は両面を滑らかに加工できることである。品質上、国産品はコンピューター印刷に使えない。
同社の販売市場はマンダレーを中心とした上ビルマ地域に限られており、オフィス用に白色紙を製造している。販売単位は紙50枚である。製品は多くの卸売業者に販売される。こうした卸売製品は最終的に学校用のノートとして使われる。同社のノートの主な市場は低所得世帯層である。ミャンマーの学童の6割程度はこうした低品質のノートを使っている。ノートの価格は250チャットだが、小規模店舗の顧客には350チャットで売られている。
卸売業者への配送は専用トラックと専用列車を使った自社配送である。掛け売りなので、支払いの完了には1週間から1ヵ月かかる。
永年勤続者に銀行口座を付与
現在、社員数は25名で、その多くが中学校の7-8 standardsを修了している。民間会社なので定年年齢はない。勤続年数10年以上の社員は1名に過ぎない。同社は労働市場で競争力のある賃金を提示できないので新規採用が行いにくい。同社の提示する賃金はそれほど良くなく、他社の方がより高い給与と機会が得られる。新規採用者はマンダレー近郊のメッティーラなどの出身者が多い。
基本給は月収10万チャット。とはいえ食事と住居が無料なので、実質的月収は30万チャット程度と思われる。社員はテレビと冷蔵庫の付いた寮に無料で住める。移動用に15台のオートバイが用意されている。同社は永年勤続者にインセンティブを与えている。10年以上勤続した熟練工の社員には自宅と銀行口座が与えられる。その後、さらに10年勤続すると、50万チャットの預金と金利が与えられる。同社は電力供給の問題を抱えているが自家発電装置で対処している。
課題
オーナーは製品の品質を改良したいと考えているが、技術力が足りない。また資金調達にも問題がある。政府融資を得ることは難しく、十分な実績が過去にない場合、極めて高金利の融資となってしまうため、基本的には事業の原資は自己資本である。政府の中小企業ローン・プログラムは中堅企業のみを対象としており、それ以下の規模の企業は対象外である。このため、政府融資の対象は中小企業全体の1割に過ぎない。また融資を受けるには財務諸表の提出が必要である。
民間銀行からの融資手続きはさらに複雑である。担保が必要だが、通常、企業オーナーは土地の第一所有者でなく、第二所有者として登記されている。工業団地の土地登記では所有者の名義変更ができない。ミャンマーの土地法に基づけば、土地は国家のもので、民間所有者はその使用について国から60年間土地を借り受ける権利が与えられる。60年が経過すれば、民間の所有者は再び60年にわたり土地を借りる権利を更新する申請ができる。
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