2017/09/05 No.346交通インフラ整備が進むベトナム・ハノイ圏ITIアジアサプライチェーン研究会報告(2)
春日尚雄
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
福井県立大学地域経済研究所 教授
ITIアジアサプライチェーン研究会(公益財団法人JKA補助事業)は、2018年8月中旬、ベトナム北部、中部の交通インフラ、工業団地、人材育成、ベトナム企業等に係る現地調査を実施した。現地出張調査報告の第1弾は、ベトナム・ハノイ圏の交通インフラの整備状況について。
ここ数年で、ベトナムのハノイ周辺における交通インフラが急速に整備されてきた。例えば、ノイバイ国際空港と市内を結ぶ幹線道路にホン川(紅河)ニャッタン橋(日越友好橋)の供用が2015年1月に開始され、2016年1月からはハノイ市環状2号線のニャッタン~カウザイ間(6.4キロメートル)が開通して、市内と空港を結ぶ時間距離が大幅に短縮された。先月(2017年8月24日)、市内からニャッタン橋を渡り国際空港近くのイェン・フォン工業団地にあるサムスンの工場まで車で走行したが、早朝(7時10出発)でもあったせいか、30分程度で現地に着いた。
こうした交通インフラの整備は、ハノイ経済圏の拡大をもたらし、現地日系企業の活動に影響を与えている。ITIアジアサプライチェーン研究会のメンバーでメコンの交通インフラ事情に詳しい、福井県立大学地域経済研究所教授、春日 尚雄ITI客員研究員から現地出張を踏まえて、ハノイ周辺の交通インフラ整備とその影響について聞いた。(聞き手 大木博巳 ITI事務局長)
ハノイはバンコクの2000年前後の状況
-ハノイ周辺の交通インフラ整備が大きく進んでいるようですね。
経済の発展段階の中で、今のハノイはASEANの他の大都市ではバンコクの2000年前後の状況に似ていると思います。ハノイ市内の混雑が激しくなり、その緩和のための公共交通整備が順次おこなわれています。現時点では建設工事のため一時的に混雑がよりひどくなっている地域もみられます。道路については、市内はボトルネック交差点の改良を中心におこなわれ、近郊との放射線状の高速道路の供用が開始されています。その中で、都市計画ではしばしば問題となる環状線がハノイ中央部を中心に整備されている。第2環状は円借款、世銀融資でニャッタン橋を含む内環状線、第3環状は円借款により2018年完成予定の外環状線、さらに市内を30km以上迂回できる第4環状、加えて50km圏をカバーする第5環状まで計画されています。
-都市鉄道もフランスが支援している鉄道3号線の建設が進んでいるようですが。
都市鉄道については承認待ちのものを含めて1~6号線までがあり(バス輸送システムを含む)、1号線と2号線は日本が円借款で支援し、3号線はフランスのODA、2A線は中国のODAによるもので建設中です。長期に渡って大渋滞を経験したバンコクに比較すると早い段階で都市部の公共交通整備に着手している印象です。
-道路網の整備よって物流・経済活動にどのような影響が出ていますか。
ベトナム北中部の交通インフラ整備の経済効果としては、企業が地方に出やすくなることになった点が大きいと考えます。大都市圏では労働需給はひっ迫して労働集約型企業の立地が困難になりつつあり、都心から距離のある場所でないと、労働者が集まりにくい。その点、ハノイからの高速道路が放射線状に整備されると、あらゆる方向に進出が可能になる。これまで2~3時間を要した物流、移動時間が1時間程度と大幅に減少することで企業立地にも影響を与え、経済活動の広域化が進んでいます。
-具体的には
端的な例としては、ハノイ-ハイフォン高速道路の完成によりハノイとハイフォンの一体化が進んでいます。ハイフォン港は、ベトナム北部最大の港湾でハノイから100km強の距離にありますが、積み出し港を見据えて5号線沿いには、かなり以前から製造業を中心に日系の企業が進出しています。
ハノイ-ハイフォン高速は高規格道路であり、5号線の混雑を避けるため南側に建設されたバイパスで移動時間の大幅短縮を実現しています。これによって、ハノイを生活拠点とする活動範囲が拡大している。
また、これまで通勤時間の長さを嫌って周辺の工業団勤務を嫌がっていたベトナム人も、車の普及とともに通勤することができるようになったようです。進出可能な目安としてはハノイからスタッフが通勤しやすい1時間圏内。
-課題も見つかったようですが
今回ハノイ-ハイフォン高速道路を3度、走行した結果では、2015年12月の開通後1年半以上が経過しましたが、交通量は非常に少なく、貨物トラックについてはほぼ皆無の状況です。逆に一般道の5号線は従来以上に混雑、渋滞が続いていました。
これはBOTで建設された高速道路の通行料金の高さ(トラックで日本円にして40フィートコンテナ搭載トラックの通行料金は4,000円強)がネックとなっているためで、利用率を増やすには改善が必要でしょう。因みに乗用車の通行料金は1000円弱(100Km程度)でした。
高まるハイフォンの重要性
-ハイフォン港の整備状況はいかがでしょうか
河川港であるハイフォン港は内航船の需要の高まりもあり能力増強が著しいことが見てとれます。さらに、沖合いを埋め立て14m級の深海港となるラックフェン港が完成すると、積み出し能力の飛躍的増大と工業地域はさらに東へ拡大することになります。
物流企業の投資では、郵船ロジスティクスが2014年、ハイフォンに倉庫(12,000㎡)と空コンテナデポ(23,870㎡)、トラックヤード付き物流センターを稼働。ヤマトホールディングスが2015年、
ハノイに現地法人を設立。ハイフォンにも出店予定しているようです。ハノイの産業集積の拡大にともなって、100km圏内であるハイフォンの重要性がより高まるのは間違いないと思います。
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