一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2022/01/09 No.502中央経済工作会議から中国の2022年の経済政策課題を検証する

真家陽一
(一財)国際貿易投資研究所 特任研究員
名古屋外国語大学 教授

はじめに

中国における2022年の最重要イベントが、秋に開催が予定される中国共産党第20回全国代表大会(以下、党大会)であることは衆目の一致するところだ。最大の焦点は最高指導部の人事。共産党には「七上八下(67歳以下であれば留任、68歳以上であれば引退)」という内規があるとされる。従って、党大会開催時の年齢によれば、中央政治局常務委員(いわゆるチャイナセブン)のうち、習近平氏(69)、栗戦書氏(72)、韓正氏(68)が引退となる予定である。

しかし、党内に盤石な政権基盤を構築した習近平国家主席(総書記)は異例ともなる3期目続投を目指しており、2021年11月8〜11日に北京で開催された重要会議「第19期中央委員会第六回全体会議(六中全会)」において第三の歴史決議とされる「党の百年奮闘の重要な成果と歴史的経験に関する中国共産党中央の決議」が採択されたことは、「3期目続投に異議がないという党内のコンセンサスができたことを意味している」と見る向きが多い。

果たして、習主席は3期目続投を果たせるのか。その試金石となるのが、経済、外交、通商、北京冬期五輪、新型コロナ対策などの政策課題への対応だ。本稿はこうした状況を踏まえ、中国の2022年の経済面における政策課題について、2021年12月8〜10日に北京で開催された中国共産党と政府が翌年の経済政策運営の基本方針を決定する重要会議「中央経済工作会議」の内容を中心に検証する。

1. 2022年の経済運営は安全第一

中央経済工作会議閉幕後に公表されたコミュニケ「中央経済工作会議を開催、習近平・李克強が重要講話」の内容を検証すると、2022年は党大会が開催される政治的に重要な年であることを考慮して、例年にも増して安定第一が強調されたことが大きな特徴だ。コミュニケによれば、会議では「2022年は第20回党大会が開催される。これは党と国家の政治生活における大事であり、安定的で健全な経済環境、国家の安定した社会環境、清廉潔白な政治環境を維持しなければならないこと」が強調された。

中央財経委員会弁公室の韓文秀副主任は、国営新華社が2021年12月11日に配信した解説記事「安定最優先・安定の中で前進を求め、質の高い発展の道を揺るぎなく前進 韓文秀が2021年の中央経済工作会議の精神を読み解く」において、「(安定を意味する)『穏』は2021年の中央経済工作会議で最も際立ったキーワードだ」と強調した上で「(5千字弱の)会議のコミュニケには25回も『穏』という文字が現れており、要するに、来年の経済運営は『安定第一とし、安定の中で前進を求める』ことになる」と説明している(注1)。

2. 中国の経済発展に三つの圧力

会議では「2021年は党と国家の歴史上里程標の意義を持つ1年だった。我々は中国共産党創立100周年を盛大に祝い、新たな発展の枠組み構築で新たな歩みを踏み出し、質の高い発展で新たな成果を収め、第14次5か年計画(2021~25年)の好調なスタートを切った」との評価がなされた。

他方、会議では「中国の経済発展が需要縮小、供給ショック、期待低下という『三つの圧力』に直面している」との指摘がなされ、「感染症の打撃の下で、100年ぶりの変局が急速に進展し、外部環境がより複雑で厳しく、不確実になっている」との認識が示された。

三つの圧力の内容は具体的には何を指すのであろうか。コミュニケ自体には記述はないが、寧吉喆・国家発展改革委員会副主任兼国家統計局局長は国営新華社が2021年12月21日に配信したインタビュー記事「経済運営を合理的なレンジに維持する自信・条件・能力がある 寧吉喆・国家発展改革委員会副主任兼国家統計局長にインタビュー」において、「需要から見ると、個人消費が局部的散発的に感染症の打撃を受け続け、投資の安定した伸びがいくつかの要素の制約に直面している。また、供給から見ると、産業チェーン・サプライチェーンになおいくつかの目詰まり・ネックがある。そして、企業の総合的なコスト上昇圧力が依然として存在し、川下の中小企業の生産・経営を困難にしている。さらに、期待低下から見ると、全世界の感染症の行方に大きな変数が存在し、経済運営に不確実性が存在し、市場の期待と企業の自信に一定の揺らぎが現れている」と指摘している(注2)。

その上で、寧副主任は「これらの圧力は多岐にわたる要因が相まって作用した結果だ。世界的感染症の蔓延が世界経済の回復不均衡や先進経済体の過剰流動性、国際商品価格の大幅上昇と重なり合った影響があり、国内の散発的感染症の多発、一部地域の洪水・冠水災害による打撃の影響があり、また長期的に存在するいくつかの深層部の矛盾が顕在化し、経済成長のエネルギーが弱まったという制限、縮小効果を持つ政策による制約もある」との見解を示している。

3. 七つの重点政策を推進

かかる状況を踏まえ、会議では「2022年の経済運営は安定第一とし、安定の中で前進を求め、各地域・各部門はマクロ経済安定の責任を担い、各方面は経済安定に資する政策を積極的に打ち出し、適切に前倒しで政策に注力をする」という方針の下、①マクロ政策、②ミクロ政策、③構造政策、④科学技術政策、⑤改革開放政策、⑥地域政策、⑦社会政策という七つの重点政策が打ち出された(表1)。

表1. 2022年の経済運営における七つの重点政策

項目主な内容
①穏健で効果的なマクロ政策引き続き積極的な財政政策と穏健な金融政策を実施。積極的な財政政策では効果を高め、正確で持続可能性なことを重視。新たな減税・費用引き下げ政策を実施し、中小・零細企業、個人経営者、製造業、リスク解消等への支援力を強化し、インフラ投資を適度に先行して展開。穏健な金融政策は柔軟かつ適度にし、流動性を合理的かつ十分に維持。金融機関が実体経済、特に小規模・零細企業、科学技術イノベーション、グリーン発展への支援を拡大するよう指導。財政政策と金融政策を協調・連動させ、クロスシクリカル(年度を跨ぐ政策)およびカウンターシクリカル(景気循環変動に対する政策)のマクロコントロール政策を有機的に結合。内需拡大政策を適切に実施し、発展の内生的原動力を強化。
②市場主体の活力を持続的に喚起するミクロ政策市場主体の自信を高め、公平な競争政策の実施を推進し、独占禁止と不正競争防止を強化し、公正な監督管理によって公平な競争を保障。知的財産権の保護を強化し、各種所有制企業が競い合って発展する良好な環境を整備。
③国民経済循環の円滑化に注力する構造政策供給側の構造改革を深化させ、国内大循環の円滑化、供給の制約突破、生産・分配・流通・消費各段階の連携を重視。製造業の核心的競争力を向上させ、一連の産業基盤再構築プロジェクトをスタートさせ、一群の「専精特新」企業を輩出(注3)。内外が連結し、安全で効率的な物流ネットワークの形成を加速。デジタル化改造を加速し伝統産業の高度化を促進。住宅は住むためのものであり、投機のものではないという位置付けを堅持し、新たな発展モデルを模索し、不動産業の好循環と健全な発展を促進。
④着実に実施される科学技術政策科学技術体制改革3か年行動プランを実施し、基礎研究10か年計画を策定・実施。国家戦略科学技術力を強化し、科学研究機関の改革を推進。イノベーションの主体としての企業の地位を強化し、産学研の結合を深化。科学技術イノベーション・エコシステムを整備・最適化。
⑤発展の原動力を活性化する改革開放政策要素の市場化配置総合改革の試行に取り組み、株式発行登録制を全面的に実行し、国有企業改革3か年行動の任務を完遂し、送電網、鉄道など自然独占業界の改革を着実に推進。地方改革の積極性を引き出し、各地の実情に応じた能動的改革を奨励。ハイレベルの対外開放を拡大し、外資企業の内国民待遇を実行し、より多くの多国籍企業の投資を導入し、重要な外資プロジェクトの実施の加速を推進。「一帯一路」共同建設の質の高い発展を推進。
⑥発展のバランスと協調性を強化する地域政策地域重大戦略および地域協調発展戦略を踏み込んで実施し、東部・中部・西部および東北地区の協調発展を促進。農村振興を推進し、新型都市化建設の質を向上。
⑦民生の最低ラインを支える社会政策経済発展と民生保障を統一的に推進し、基本公共サービス提供制度を整備。青年の雇用問題を適切に解決し、柔軟な雇用・労働・社会保障政策を整備。基本養老保険の全国統一計画を推進。新たな出産政策を推進し、人口の高齢化に対応。
資料:中央経済工作会議のコミュニケを基に筆者作成

七つの重点政策の中で、安定第一の観点から、特に重視されているのがマクロ政策だ。韓副主任は「各地域・各部門はマクロ経済安定化の責任を担わなければならず、これは経済問題であるだけでなく、政治問題でもある。各方面は経済の安定に有益な政策を積極的に打ち出し、縮小効果のある政策は慎重に打ち出し、適度な前倒しで政策に注力し、来年の経済が安定したスタートを実現し、好転して発展するよう努力しなければならない」と強調している。

また、寧副主任は「経済安定に資する政策を積極的に打ち出す。マクロ政策では、引き続き積極的な財政政策と穏健な金融政策を実施し、投資政策と消費政策の手段を適切に活用しなければならない」と指摘。その一環として、寧副主任は「近く発表される内需拡大戦略要綱をしっかりと実施する」と表明しており、その内容が注目されるところだ。

4. 五つの重大理論と実践問題

会議では「新たな発展段階に入り、我が国の発展の内外環境に深刻な変化が生じ、多くの新たな重大理論と実践問題に直面しており、正確に認識・把握する必要がある」との認識が示された。具体的には、①共同富裕の実現、②資本の特性と行動法則、③一次産品の供給保障、④重大リスクの防止・解消、⑤炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラルという五つ重大理論と実践問題を正確に認識・把握しなければならないことが提起された(表2)。

表2. 2022年の経済運営における五つの重大理論と実践問題

項目主な内容
①共同富裕の実現「パイ」をより大きく良いものにするとともに、合理的制度配置を通じて適切に切り分け。雇用優先を強化し、経済成長によるけん引力を向上。分配の機能と役割を発揮させ、税収、社会保障などの調節力を強化。企業や社会グループの公益慈善事業参加を支持。政策・制度体系を整備し、基本的公共サービスを適切に提供。
②資本の特性と行動法則資本のポジティブな役割を発揮させると同時に、ネガティブな役割を効果的にコントロール。法に基づき効果的な監督管理を強化し、野放図な拡大を防止。公有制経済を強固に発展させると共に、非公有制経済の発展を奨励・支持・指導。
③一次産品の供給保障節約優先を堅持し、全面的な節約戦略を実施。国内の資源生産保障能力を増強し、資源の先進的採掘技術の開発・活用および廃棄物循環利用体系の構築を加速。農業の総合生産能力の向上を際立った位置に配置。
④重大リスクの防止・解消金融法治建設を強化し、企業責任を徹底。金融監督管理幹部の育成を強化。リスク解消政策を検討・策定し、金融リスク処理メカニズムを整備。
⑤炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラル安全で信頼できる新エネルギーによる代替を基礎として伝統的エネルギーに対する依存を段階的に減少。石炭を主エネルギー源とする基本的国情に立脚し、新エネルギーとの最適な組み合わせを推進。グリーン・低炭素技術開発に注力。「二つの抑制(エネルギー消費総量と単位GDP当たりのエネルギ−消費量」のエネルギー消費から炭素排出への転換を早期に実現。エネルギー革命を推進し、エネルギー強国の建設を加速。
資料:表1に同じ

五つの重点理論と実践問題の中では、現在、習近平国家主席が格差是正を目指すスローガンとして前面に打ち出している「共同富裕(ともに豊かになる)」が大きな焦点となろう。

中国は共同富裕の道をどのように歩もうとしているのか。韓副主任は「共同富裕は長期的な過程であり、全国人民の長期にわたる刻苦奮闘が必要になる。質の高い発展を通じて『パイ』を大きく良いものにし、合理的な分配制度構築を通じて『パイ』を適切に切り分けなければならない」と指摘している。他方、韓副主任は「第三次分配(先に豊かになった大企業や高額所得者に自発的な寄付を求めること)には、意思と能力のある企業や社会グループが公益慈善事業に積極的に参加することを支持すべきだが、『寄付の強制』をしてはならない」と強調している。

寧副主任は「共同富裕では、①グランドデザインを強化し、共同富裕促進行動要綱を研究・策定し、雇用・所得の増加、公共サービス、地方モデルなどの活動に力を入れる。②雇用安定と所得増加を促進し、より十分でより質の高い雇用を基礎として所得を増加させる。③公共サービスを整備し、基本的公共サービスの標準化と均等化を引き続き推進する」との方針を示している。

また、寧副主任は「浙江省の質の高い発展による共同富裕モデル区建設を支援する政策措置の実施を加速する」とも表明(注4)。習主席が2002年11月から2007年3月まで党委員会書記を務めた浙江省をモデル区として、どのような政策が推進されていくのかも、共同富裕の注目点の1つであろう。

むすびに代えて

本稿は中国における2022年の最重要イベントが秋に開催が予定される党大会であることを踏まえた上で、その試金石となる政策課題の1つである経済について、中央経済工作会議の結果を検証してきたが、中国が取り組むべき政策課題はもちろん経済にとどまらない。

目前には、2022年2月4日に開幕する北京冬季五輪を控えている。その成否は共産党の威信にも大きく影響するだけに、習主席としては、北京五輪を何としても成功させ、党大会に向けて弾みをつけたいところだろう。中央経済工作会議では「冬季オリンピック・パラリンピック大会の支援・保障に全力を尽くし、簡素、安全、精彩な大会の開催を確保しなければならないこと」が強調された。

また、新型コロナ感染症対策は北京冬季五輪の成功という意味でも、ポイントの1つとなる。中国の新型コロナ感染症対策は「ゼロ・コロナ」であり、部分的なミニクラスターであっても、強い防疫措置で移動を制限し、感染拡大を抑制してきた。それでも2021年12月15日には新規感染者数が累計10万人に達した。足元では、冬場に入り新規感染者数が増加傾向にあり、1日の新規感染者数が12月25日には206人と、2020年3月1日(202人)以降で初めて200人を超えた。加えて、感染力が強いとされるオミクロン株が世界各国・地域で確認されており、現地では警戒感が高まりつつある。中央経済工作会議でも「(新型コロナ感染症対策として)『外部からの流入と内部のぶり返しの防止』を堅持し、科学的・正確に感染の予防・抑制に取り組まなければならない」との方針が示された。

この他にも、外交面では対立が激化する米国との関係改善、通商面では2022年1月1日から発効した「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」への対応や2021年9月16日に加盟申請を行った「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP協定)」の加盟交渉など、さまざまな政策課題を抱える中、習主席は異例ともなる3期目続投を果たせるのか。今後の行方が極めて注目される。

注1. 新華社「安定最優先・安定の中で前進を求め、質の高い発展の道を揺るぎなく前進 韓文秀が2021年の中央経済工作会議の精神を読み解く」(2021年12月11日)
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1718864762541661784&wfr=spider&for=pc

注2. 新華社「経済運営を合理的なレンジに維持する自信・条件・能力がある 寧吉喆・国家発展改革委員会副主任兼国家統計局長にインタビュー」(2021年12月21日)
http://www.news.cn/fortune/2021-12/21/c_1128186551.htm

注3. 専門化、精細化、特色化、斬新化を指す。注4. 党中央と国務院は2021年5月20日、「浙江省の質の高い発展による共同富裕モデル区建設の支援に関する意見」を策定し、6月10日に公表した。
http://www.gov.cn/zhengce/2021-06/10/content_5616833.htm

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