2026/03/18 No.167トランプ新関税やUSMCA見直しの動きと日本企業の対応~その3 USMCA見直しの仕組みと米国のメキシコ・カナダとの交渉の主要議題~
高橋俊樹
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹
NAFTAは発効から20年以上を経てUSMCAへ移行
米国とメキシコ及びカナダは2017年8月、1994年の発効から20年以上も経ち制度疲労を起こしているとして、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉を開始した。その1年後の2018年8月27日、米国とメキシコはNAFTA再交渉に合意した。米国とカナダは、その約1か月後の9月30日に合意に達した。
ドナルド・トランプ大統領は、自動車の追加関税(1962年通商拡大法232条に基づく25%の追加関税)の発動というカードをちらつかせながら、メキシコとカナダとを分断する巧みな戦術を進めることにより、最終的に合意に達することができた。
発効後の新しいNAFTAはUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)という発音しづらく、かつ何の変哲もない名称を与えられた。新しい北米3か国間のFTAであるUSMCAは、トランプ大統領や米国議会の意向を強く反映し、域内の貿易投資の拡大に結び付く自由貿易の枠組みであることは間違いないが、メキシコへの投資から米国内投資への転換や労働者の権利保護などに主眼を置くFTAに生まれ変わったと言うことができる。
USMCAはトランプ大統領がメキシコとカナダに米国製造業の雇用と所得の拡大のために譲歩を迫った交渉の産物であるが、米メキシコ・カナダの企業だけでなく、北米で事業展開する日系企業や欧州企業にも大きな影響を与える。
NAFTA再交渉の第1ラウンドは2017年8月16日~20日、第2ラウンドは9月1日~5日に行われた。そうした中で、当時のウイルバー・ロス商務長官は第2ラウンド後の9月14日、新NAFTA協定を5年毎に見直すための「サンセット条項」のアイデアを公表した。つまり、同条項が導入された場合、新NAFTAは5年毎に更新されなければ自動的に廃止になるというものだ。
NAFTAの協定文では、加盟3か国はいずれかのパートナーに6か月前に事前通知をすれば、NAFTAを脱退することが可能な条項(34条6項)が既に盛り込まれている。しかし、サンセット条項が優れている点として、システマテックに再検証を求めるメカニズムが挙げられる。このサンセット条項は、米国がNAFTA再交渉を有利に進めるためのカードの1つであり、極めて政治的なものであったと考えられる。
米国の製造業の強靭化や雇用拡大に結び付いていないとして不満を表明した。また、USMCAは中国などの非市場経済国からの投資や輸入に対処できるように設計されていないことを指摘した。
自動車関連以外の製品にも原産地規則の強化を要求
トランプ大統領は、表1のように、USMCAの見直しにおいて、メキシコに対しては、①投資誘致などの中国産材料の使用促進に繋がる政策の改善等による迂回輸入の阻止、②労働者の権利保護の強化、③探鉱・採掘での優先権の付与等のエネルギー分野を中心とする国有企業優遇策の変更、などの交渉を要求すると考えられる。
また、カナダに対して①乳製品市場の解放、②オンラインストリーミング法(Netflix、Disney+、YouTubeなどに、カナダの物語や音楽などの紹介を要求)などを用いたデジタル規制の緩和、③州ごとの米国アルコール飲料の流通制限の緩和、等に関する交渉を求めると思われる。
表1. 米国のUSMCA見直しにおける主要議題

USMCA見直しにおけるメキシコ・カナダとの共通の主要議題としては、①自動車関連以外の製品の原産地規則の強化、②米国からメキシコ・カナダへの生産拠点移転への罰則メカニズムの構築、③重要鉱物の採掘、加工、リサイクル、製造の促進、などが想定される。
これらの中で、トランプ大統領にとって重要なテーマとしては、自動車以外の原産地規則の強化や中国からの迂回輸入の阻止であり、さらにはメキシコ・カナダへの生産拠点移転への罰則メカニズムの構築、などが挙げられる。
自動車に適用する原産地規則は既に2020年7月のUSMCAの発効の時点で強化されていたが、6年後の見直しではさらなる強化を求めるものの、米国の主眼は自動車産業以外の分野での原産地規則の強化になる可能性がある。つまり、トランプ大統領は自動車産業以外の分野で中国からの部材を組み込んだ製品の迂回輸入に規制を設けようとしていると考えられる。
また、USMCA見直しの機会を利用して、メキシコの資源エネルギー分野での国有企業優遇問題、及び労働者の権利強化や、カナダの乳製品市場の解放などの従来からの懸案事項も取り込んで議論しようとしていると思われる。
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