一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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フラッシュ

2004/08/11 No.71_2中国カードを強化するブラジル外交(2/5)

内多允
(財)国際貿易投資研究所 客員研究員
名古屋文理大学 教授

拡大する経済関係

ルラ大統領は中国滞在中に胡錦濤国家主席や温家宝首相と会談して、今後の両国関係の一層の強化を確認するとともに、中国市場開拓のためのトップセールス活動を展開した。北京では中国ブラジル貿易セミナーに、上海では投資セミナーにそれぞれ出席してブラジルからの輸入拡大とブラジルへの投資を中国経済界に働きかけた。北京におけるセミナーでは、両国企業40社によって「中国・ブラジル企業家委員会」が設立された。

中国はブラジルの貿易相手国として、重要なパートナーとなっている(表1と2)。03年の対中貿易額はブラジルが約24億ドルの出超を計上した。ブラジルを始め中南米主要国のアジア向け輸出では、日本に代わって中国が最大の輸出額を計上するようになってきた。国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)のデータによれば中南米(16か国合計)の対中輸出額は03年には108億7,000万ドルを計上して、前年比96.5%増となった。この内の42%を占めたブラジルは中南米最大の対中輸出国の地位を占めたことになる(表3)。

表1.ブラジルの国別輸出額(単位百万ドル)

2002年2003年
世界合計60,36273,084
米国15,35416,692
アルゼンチン2,3424,561
中国2,5204,533
オランダ3,1824,246
ドイツ2,5373,136
(出所)ブラジル政府統計

ブラジルの対中輸出額は03年には、前年比79.9%も伸びた。ブラジルの対中貿易は03年も出超を記録した。両国の貿易構造は今のところは相互に競合する商品がないということもあって、順調に拡大してきた。ブラジルからの主要な輸出品は大豆や鉄鉱石など、中国で需要が拡大している一次産品である。中国のブラジルへの主要な輸出品は工業製品である。ブラジル側の中国市場への期待が大きいことが、今回の訪中ミッションの規模にも表れている。ブラジルは工業製品の輸出をも拡大して、対中輸出構造の多様化を目指している。ルラ大統領は訪中を控えた5月20日の放送で、ブラジルの対中輸出は大豆や鉱石、鉄鋼に偏っているが、他の商品も数量や価格にわたって国際競争力を有していると述べた。その具体的なブラジル商品として電子・電気機器やスポーツ用品、鶏肉、牛肉、コーヒー、セルロース、航空機、自動車をあげた。ブラジルが得意とする輸出産業は、中国で需要が拡大していることもこのような対中輸出の拡大につながっている。ブラジルの輸出産業の中で中国側の関心が高い分野は、一次産品と航空機である。これらの産業分野については直接投資による両国間の交流が実現していることからも、中国側の関心が高い事をうかがわせている。

表2.ブラジルの国別輸入額(単位百万ドル)

2002年2003年
世界合計47,23248,262
米国10,2859,564
アルゼンチン4,7474,673
ドイツ4,3984,205
日本2,3472,521
中国1,5542,148
(出所)ブラジル政府統計

表3.中南米16か国の中国向け輸出額シェア(03年)

国名シェア(%)
ブラジル      42
アルゼンチン    24
チリ        18
ペルー       6
メキシコ       5
中米共同市場    2
その他(6か国)  3
(出所)国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会

自動車に関連して、ブラジルが輸出拡大を有望視しているアルコール(エタノール)燃料の対中輸出が実現するかどうかも注目される。ブラジルでは国内の石油不足に対応するためにアルコール燃料車が生産されてきた。また、最近はフレックス燃料車と呼ばれる車種がブラジルで販売を増やしていると報道された。フレックスは英語の<flexiblefuel>から命名され、アルコールとガソリンのいずれか、あるいは両方をどのような割合で混合しても対応できるエンジンである。ブラジルでは1973年の石油危機を切り抜けるためにサトウキビを原料とするアルコールを燃料とする自動車が開発された。その後、1990年代には砂糖価格上昇の影響を受けてサトウキビが砂糖生産に利用され、燃料アルコールの不足を招いた。これに石油価格の低迷の影響も受けて、アルコール車への関心は低下した。しかし、近年は環境にやさしいクリーンエネルギーとしてのアルコール燃料が、再評価されるようになってきた。

ブラジルでは航空機の分野でもネイバ社(航空機メーカーであるエンブラエルの子会社)が02年に、アルコール燃料で飛ぶ農業用軽飛行機の開発に成功している。ブラジルはエタノール生産とその利用については世界をリードできる経験を蓄積しているだけに、アルコール燃料輸出への期待を大きくしている。ブラジルではルラ大統領訪中時に、フォルクスワーゲンとフィアット両社の代表はそれぞれ2車種のフレックス燃料車を1台づつ中国政府に寄贈したと報道された。本格的なモータリゼーションの時代を迎えている中国でも、ガソリンの消費拡大による石油の確保と環境の悪化への取り組みが重要な政策課題となっている。中国がフレックス燃料車に関心を持つようになれば、これを生産しているメーカーに輸出あるいは生産の機会を得られることになる。フィアットやフォルクスワーゲンは欧米等の先進国市場での地位は必ずしも安泰とは言い難い。それだけにブラジルと並んで、数少ない巨大市場である中国でフレックス車がどのように評価されるか注目しているに違いない。特にフォルクスワーゲンはブラジルと中国の両方に工場を持っている。中国でフレックス車の生産が実現するなら、ブラジル工場との国際分業も考えられる。

環境への負荷が小さいエタノール燃料への需要が中国で生まれることは、サトウキビなどからのエタノール燃料輸出に積極的なブラジルにとって、新たな消費市場が誕生することを意味する。エネルギー消費大国でもある中国が、エタノール燃料をどのように評価するか、ブラジルだけでなく世界の燃料資源の動向にも大きな影響を及ぼすだろう。

航空機のような先端技術分野についても、両国の利害関係がうまくかみ合ってることが南南協力関係(開発途上国間の協力関係)を実現させたといえよう。ブラジルのエンブラエル(Embraer)社は100席以下のリージョナルジェット(地域間航空機)のメーカーである。同社はカナダのボンバディア社と地域間航空機市場を巡って世界市場の支配権を争っている。このタイプの航空機は中国でも需要拡大が期待されている。中国も航空機産業を育成するために、エンブラエルの進出を認めた。先進国メーカーが圧倒的な支配力を持っている世界の市場に進出するために、ブラジル・中国両国政府は国家の威信をかけて航空機産業の発展を後押ししている。

エンブラエルの航空機は、ブラジルにとって工業部門の重要な輸出の担い手である。同社は2000年に北京事務所を開設、02年にはハルピンで中国の国営航空機メーカーと合弁工場(エンブラエルの出資比率51%)を設立している。同合弁工場で生産された1号機(ERJ-145型、50座席)は03年12月、テスト飛行に合格して04年から発注先に納入される運びになっている。この合弁工場の年産能力は24機である。中国における地域間航空機の保有台数は70数機で、これは中国全体の商業航空機の12%以下と推定されている。今後20年間の地域間航空機の需要は中国で600機、世界市場で4,000機以上と見込まれている。エンブラエルはハルピン工場を中国国内とアジア地域への航空機売り込みの拠点として重視している。

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