2007/04/17 No.95イタリアは変身できるか?〜進展した2006年の産業と貿易〜
長手喜典
(財)国際貿易投資研究所 欧州研究会委員
釧路公立大学 非常勤講師
ローマにあるイタリアの貿易振興機関(ICE)とボローニャの経済研究所(Prometeia)は共同で、ほぼ年2回、「地域別・分野別イタリア外国貿易の進展」と題する研究報告書を発表している。以下は2006年10月に発表された第5回目のレポートを下敷きに、ここ数ヶ月の現地の動きを加味して、要点をまとめたものである。
【中小企業製品の改善が輸出の鍵】
Ice-Prometeiaの予想によると、イタリアの輸出は2007年3.4%、08年3.8%と成長が見込まれている。イタリアの輸出は2006年を通し順調であるが、よりインドや中国に焦点を合わす必要があると、国際貿易相エンマ・ボニーノ女史は強調している。さらに、海外を目指す企業はインド・中国への進出を積極化すべしと、大臣はきわめて具体的である。中国とインドがイタリア企業の第1の目的地であるべきなのに、いくつかの例外を除いて、これらの市場でまったく遅れをとっていると指摘している。
前述のレポートによると、イタリア手工業製品の中国向け輸出は、1.7%の市場シェアを占めるに過ぎない。工作機械とエレクトロニクス製品だけは、それぞれ6.3、3.3%でやや高いシェアを示している。すなわち、イタリアの中国向け輸出の55%強は電気機械分野で、そのほかではファッション製品の12.6%が目に付く程度である。インドにいたっては、イタリア手工業製品のシェアはわずか0.6%で、1%を超えているのは工作機械、エレクトロニクス、化学半製品の分野だけである。
国際貿易相は特にメイド・イン・イタリーと称されるイタリアの伝統的中小企業製品の輸出のかげりを懸念しており、イタリア産品が特にアジア市場で競争してゆく上で、自国の生産構造が当該市場にフィットしなくなったと指摘する。一方、ドイツやフランスの製品が、大企業による専門化製品の生産という構造転換により、危機を回避している点に着目している。つまり、これらの国々の動きは、同じくイタリアの取るべき方向を指し示していると言うわけである。
そこでイタリアの課題は、先ず政府や州がさらなるイタリア企業の国際化のために、具体的にどのような施策で独仏と競争してゆけるかである。イタリア経済振興省では、300名にちかいスタッフをDGCIIと称する,大企業から零細企業にまでいたる総合企業対策を調整する総局に張り付けて、支援体制をとっているが、イタリア南部に対するEUからの構造基金が、EUの拡大に伴って漸減の方向にあり、後述する財政赤字縮減ともからみ企業インセンティブへの制約要因が強まっている。ところで、イタリア人は一般に考えられている以上に国際性の強い人たちである。これまで国外に移住した人、そして、その子孫たちを合わせると、いまや本国人口5,700万人の2倍に達すると言う。これは東南アジアの華僑を思わせる、北米、南米、豪州に広がるイタリア人の人口動態である。このような歴史的な民族の動向を生かして、特に家族を核とするイタリア中小企業は、内には事業分野の調整や協同化、外には強固な商業ネットワーク作りが求められている。そのための当局の金融支援や税優遇がよりアクセスしやすい形で実現することが望まれる。
第5回報告書は、2006年を世界経済発展の年と位置づけ、さらに来る2007、8年の世界景気の上昇を予想し、成長率はユーロ時価で平均6%と見ている。2007年はアメリカ・欧州両経済に減速の懸念があるにしても、5%の成長は見込めるとしている。そんな中、イタリアの輸出は実質で両年それぞれ3.4、3.8%増を予想している。
【メード・イン・イタリーと自動車が産業の支え】
イタリア製品の輸出を支える国内産業の2006年の業況が、ローマの主要紙LaLepubblica〔2007年2月21日付〕に発表された。同年の製造業の売上高は前年比8.3%増、受注増は10.7%である。売り上げ増を国内外で見ると、国内販売が7.1%、輸出が11.4%それぞれ増加しており、2006年イタリアの景気上昇の外需依存の一端が示されている。別表に見る産業部門の中で、最大のブームは自動車の売れ行きで、前年比17.8%増に達し、去る2月26日付、フラッシュ91〔ITI〕の内容が裏付けられている。その他、10%以上の伸びを示した分野に金属製品と皮革製品の分野があり、イタリア宝飾品と皮革産業の健在振りが実証されている。
イタリア経団連のアンドレア・モルトラジオ副会長も、イタリア伝統製品の輸出はその量は減ったが、額では衣料品、靴類、食品、家具、貴金属品等ほとんどの分野で増加したと指摘している。また、前記、ボニーノ国際貿易相は、「イタリアが世界経済の中で生き残るには、一層の企業の国際化が依然として主要命題であり、特に経済新興国の市場でイタリアのプレゼンスを高めることが必須」と種々の機会に発言しており、そのためのICE(イタリア貿易振興会)の機構改革についても触れている。
一方、前ICE理事長のクィンティエーリ氏は、特定産業部門で従来は見られなかった水準にまで製品の品質を高め、当該製品を商品価格にそれほどセンシティブでない市場〔中東市場の一部か?〕で、超高級品としての価格帯に定着させることができれば、それこそが新興輸出国に対抗するイタリアが可能な唯一の武器になると言い切っている。
別表に見られるような産業界の回復を受けて、Confcommercio(イタリア商業者連合)のカルロ・サンガッリ会長は、すかさず中道左派のプローディ政権に対し、減税に一定の距離を置く政府施策を批判して、今こそ減税により2007年の消費の底上げを図るべきと突き上げている。他方、去る3月1日付のLa Repubblica紙は、2006年の経済成長率が政府予想を上回る1.9%に達したと報じたが、ちなみに、これは2000年以来低迷を続けた成長率水準を超えるものである。しかし、同時にこのところEUから問題視されてきた財政赤字の対GDP比は4.4%で、2005年の4.1%を上回った。かって、3%を死守させた前欧州委員会委員長のプローディ首相にとって、2007年が経済回復基調にあるだけに、財政支出にどれだけ切り込めるか、イタリア産業企業を見据えながらの舵取りがますます難しくなりそうである。
イタリア経済の現状を底支えしている中小企業の実態を探るため、インタビューによる若干のケーススタディを試みた。いわゆるイタリアの伝統製品”MadeinItaly”と機械機器分野を中心とする”非MadeinItaly”の双方の分野で、国際競争場裡で健闘しているイタリア中小企業の実例をとりまとめたものである。
次の2つの中小企業の現地調査の報告書を紹介する。
- 医療機器:ConsobiomedSocietaConsortileA.R.L.
- 家具:MeritaliaS.P.A.