一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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コラム

2023/10/06 No.120ラオス見聞記(2)ラオスを介したトランジット貿易~中国・ラオス・タイの陸路貿易~

大木博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

トランジット貿易

タイや中国の対ラオスの貿易を見ると、最終目的地をラオスとするよりは、ラオスを通過して中国やタイ、ベトナムに向かうトランジット貿易のほうが金額で勝っている。トランジットとは「輸送・通過」を意味し、航空貨物の場合、到着した航空機に積まれたまま、または他の航空機に積み替えられ、通関手続きを行わないで引き続き最終目的地に運送される貨物のことを指す。航空輸送用語が陸上輸送にも転用されている。

例えば、2021年のタイの対ラオス輸出・輸入を合計した貿易額は、2,140億バーツであるのに対し、タイの対中トランジット貿易額は3,669億バーツに上り、そのほとんどがラオスを経由している。タイの貿易統計によれば、対中トランジット貿易においては、まず、タイのムクダハンから第2メコン友好橋を渡りラオスのサワナケートを経由するルートが対中トランジット貿易の46.6%を占めている(表1)。次に、ナコンパノムから第3メコン友好橋を渡ってタケークを経由するルートが22.5%、タイ北部のチェンコンからは第4メコン友好橋を渡りフエサイ経由で中国の昆明に向かうルートが10.3%を占めている。

メコン川を挟んでムクダハンの対岸サワナケート、同じくナコンパノムの対岸タケークの税関を通過した荷物は、国道13号線から国道8号線、12号線に入りベトナムを経由して中国の南寧や深圳の税関区に向かう。

チェンコンからフエサイを経由するルートは、南北経済回廊(ラオス国道3号線)が使われている。このルートは、2008年にラオス北西部のボケオ県・ルアンナムタ県を通る国道3号線がタイ政府・中国政府・アジア開発銀行(ADB)の3者によって区分を棲み分けして舗装整備され、さらに2013年末に、タイ政府と中国政府の折半による支援で、チェンライ県とラオスのボケオ県を結ぶメコン川を渡る第4メコン友好橋が完成したことで、中国内陸部とタイ北部のチェンライ・チェンマイの経済圏を統合する象徴とみられている(注1)。

タイの貿易統計によれば、対中トランジット貿易で取引されている製品は、タイから中国には果物、コンピュータ関連製品、ゴム、中国からタイにはコンピュータ関連製品、マグネチックテープ、電話受信機などである。タイの貿易統計では、ここまで把握することができる。そこから先は、中国の貿易統計が役立つ。

表1. タイの国境貿易・トランジット貿易(2021年)(単位:10億バーツ)

資料:タイ貿易統計 (https://www.dft.go.th
サワナケート税関 @筆者撮影
サワナケート・ムクダハンの税関を往来する国境バス @筆者撮影

陸路(自動車)による中国の対タイ輸入

中国の貿易統計では、コロナ禍以前の2018年まで輸送モード別税関区別貿易額が入手できた。このデータによれば、中国の対タイ輸入は2018年で447億ドル、うち海上輸送(海路)が244億ドル、陸上輸送(陸路、トラック)が120億ドル、航空輸送(空路)が83億ドルと海路が54.6%、陸路が26.8%、空路が18.6%を占めている。輸送モード別に主要な財をみると、海路では、化学品などの加工品、食料品などの消費財が、陸路では集積回路などの部品や記憶装置(HDD:ハードディスクドライブ)などの資本財のほか、食料品、中でもドリアンが主要品となっている。空路でも同様に電気機器などの部品や記憶装置などの資本財が主要品となっている。消費財では、ラオスを経由して陸路で中国に運ばれるタイ製品は、主として中国側の3の税関区に到着する。最大は、深圳で66.1%を占めている。次にラオスと国境を接している南寧が8.1%、昆明の比率は3.3%と小さい。

中国の陸路による対タイ輸入における最大の物流は、ラオスのサワナケートかタケークを経由して深圳に向うルートであろう。このルートで運ばれている製品は、電子部品やHDDである。深圳とバンコクの産業集積地を結ぶ重要なルートである。

南北経済回廊を使ってタイから中国に運ばれる品目は、消費財が9割を占めている。中でもドリアンの比率が高い。ただし、中国のドリアンの輸入は、トラックで運ばれているが、通関は深圳が51.6%、南寧が40.2%、昆明は僅か8.2%に過ぎない。

他方、中国の対タイ輸出では、海路が8割を占めている。空路、陸路はともに1割程度と低い。陸路では、輸入同様に深圳からの輸出が大きいが、その規模は輸入の2割程度にとどまっている。深圳からタイに陸路されている製品は、電子部品、携帯電話で6割を占めている。昆明は、輸入同様に輸出でも食料品が、大部分を占めている(表2)。

表2. 中国の対タイ輸送モード別貿易(陸路は3税関区を特記)(2018年) (単位:100万ドル)

資料:中国の貿易統計よりITI作成
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中国の対ラオス貿易

中国の対ラオス貿易を輸送モード別に見たのが表3、表4である。まず、中国の対ラオス輸入(ラオスの輸出)の輸送モード別構成比は、2018年で海路が75.2%、陸路(自動車)が22.1%と圧倒的に海路に頼っている。中国の主な輸入品は、海路では、銅鉱、塩化カリウムなどの鉱物製品、陸路では、天然ゴム、さとうきびなどの農産物である。ラオスの対中輸出では、海路が7割を超えているが、これは、おそらくタイのレムチャバン港を経由して中国に輸送されていると思われる。ラオスの対中輸出もトランジット貿易が主流といえよう。

表3. 中国の対ラオス輸入(輸送モード別) (2018年) (単位:100万ドル)

資料:中国貿易統計よりITI作成
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中国の対ラオス輸出(ラオスの輸入)では、2018年で輸出とは逆に陸路が63.6%、海路が35.6%と陸路が主流となっている。陸路輸出は、昆明税関区だけで中国の対ラオス輸出の48.5%を占めている。主な輸出品は、鉄鋼、建設機器などの一般機械、携帯電話や電子部品などの電気機器、食料品などである(表4)。

表4. 中国の対ラオス輸出(輸送モード別) (2018年) (単位:100万ドル)

資料:中国貿易統計よりITI作成
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ラオス中国鉄道の影響

以上は、コロナ禍以前の2018年の状況であるが、その後、米国の対中追加関税措置、コロナの発生、ラオス中国鉄道の開通などで、輸送モード別対中貿易に大きな変化が起きているものと思われる。

まず、米国の対中追加関税措置の影響を見ると、中国企業は、中国の輸出拠点からASEANに輸出拠点を移して、ASEAN経由の対米輸出を活発させている。これに伴い中国の対ASEAN輸出が激増し、中国からASEANに向けう陸路輸送も拡大しているものと思われる。一方で、中国の対米輸出の減少に伴い、ASEANの対中輸出にもマイナスの影響が出ているものと思われる。

例えば、タイの対中記憶装置の輸出台数が減少する一方で、対米輸出は堅調に推移している。米国の記憶装置の輸入でみると、対タイ輸入が2018年の3,600万台から2022年に4,000万台に増加、対中輸入は2,100万台から500万台に激減している。

次に、コロナ禍により海上輸送運賃の高騰や港湾の閉鎖などが起きたことで、トラックや鉄道への代替輸送が増えたことである。2021年のタイのトランジット貿易の前年と比べて、対中で輸出が1.59倍増、輸入が1.47倍増、対ベトナムでは輸出が1.05倍増、輸入が1.91倍増、対シンガポールが、輸出で1.51倍増、輸入が1.28倍増と拡大している。

最後に、注目されていたラオス中国鉄道の開通が中国・ラオス、中国・タイ間の物流に与える影響である。

2023年5月19日の新華社は、ラオス中国鉄道による貨物取扱を以下のように報道している。「・・・・・・・2021年12月開業から現在まで、ラオス中国鉄道を利用した取扱品目が、「初期の10種余りから2千種余りに拡大している。中国からは機械設備や家電、野菜、生花、機械部品などがラオスに運ばれ、ラオスからは主に金属鉱石やキャッサバ、ハトムギの実などが輸送された。中国国内25の省・自治区・直轄市とラオス、タイ、ベトナム、ミャンマーなど「一帯一路」共同建設国間の貨物を輸送しており、沿線の産業チェーン・サプライチェーン(供給網)の安定と円滑化を力強く支えている」。

さらに、「22年12月に、雲南省磨憨(モーハン)鉄道口岸(通関地)に入国果物指定監督管理場が開設されて以降、同鉄道は輸入果物の全線輸送能力を本格的に有し、東南アジア産果物を国際貨物列車「瀾湄快速列車」で昆明に運べるようになった。これにより貨物輸送量は確実に増加、23年1~4月は前年同期比2.6倍(408万トン増加)の669万トンに上った……」。

また、「鮮度保持期間が短く、短時間での輸送が求められる輸入果物に対応するため、鉄道部門は中国ラオス鉄道と「中欧班列(中国と欧州を結ぶ国際定期貨物列車)」「西部陸海新ルート(中国西部地域と東南アジア諸国を結ぶ物流ルート)」を組み合わせた新国際鉄道輸送モデルを模索し、輸送効率の引き上げ、ラオス中国鉄道の波及効果の拡大を図っている」。

ジェトロ・ビエンチャン事務所が、ラオスの財務省資料から作成したデータによれば、昆明税関区が発表した2022年の中国ラオス鉄道を介した輸出入額は20.7億ドル、このうち中国の輸出額が14.7億ドル、輸入が6億ドルであった。2018年の昆明税関区からの陸路(自動車)による対ラオス輸出額は6.77億ドルであったことから、中国の対ラオス輸出で陸路から鉄路へのシフトが起きているものと思われる。

他方、鉄路による中国の対ラオス輸入品目は、鉄鉱石や銅などの鉱物資源や天然ゴム、キャッサバなどの農産物である。2018年の中国の対ラオス輸入のうち、鉱物資源の輸入はほぼ海路であった。海路から鉄路へのシフトが起きているようである。

また、同じジェトロ資料によれば、ラオス中国鉄道の開通は、南北経済回廊経由のタイ・中国トランジット貿易に影響を与えているようである。特に、中国からタイへの輸出でラオス中国鉄道を使った比率が高まっている。2022年にタイ中国貿易でラオスを介した陸上貿易は、中国からタイへの輸出が10.5億ドル、このうち第4友好橋経由が64.6%、鉄道が35.4%と鉄路の比率が一挙に高まっている。他方、タイから中国への輸出(中国の輸入)は、13.3億ドル、第4友好橋経由が95.3%、鉄路が2.6%と鉄道へのシフトが進んでいない。

中国の対タイ貿易における陸上(自動車)輸送は、2018年で輸入額が119億ドル、輸出額が42億ドルと、輸入額が輸出額の2倍超であった。このうち昆明税関区は、輸出が3.9億ドル、輸入が3.3億ドルと主に農産品(果物など)の取引を主とする細々としていた。

中国が対ラオス、タイ輸出でラオス中国鉄道を利用している背景には、農産品に加えてこれまで深圳などから陸上輸送していた製品を鉄道輸送に振り替えている可能性が指摘できる。他方で、中国のタイから輸入で鉄道の利用率が低い理由としては、南北経済回廊は主にチェンマイなどのタイ北部の農産品の輸出で使われ、工業品はサワナケート方面のルートが主流であるためにすぐにはルート変更が難しいことが指摘できる。また、タイから陸路でトラック輸送された貨物を鉄道にコンテナを積み替える手間(時間)などの課題もあろう。

2022年12月3日より中国のモーハン駅で植物検疫が始まったことで、タイ産竜眼(ロンガン)、ドリアンなどの果実の対中輸出で鉄道利用が進むと見込まれている。

 積みあがった中国コンテナ (ラオス中国鉄道ルアンパバーン駅) @筆者撮影

図. タイと中国を結ぶラオスの主要幹線・税関  @筆者作成

出所:各種資料よりITI作成

  1. https://iti.or.jp/flash/437
    (本調査は令和5年度JKA補助事業で実施)
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