2024/10/03 No.140発展するホーチミン郊外-東急によるビンズン新都市開発事業
春日尚雄
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
亜細亜大学 特任教授
ベトナムはこれまでチャイナ+1の流れを受けて外資中心の投資が多くなり、ASEAN各国の中でも特に高い経済成長が続いてきている。その中でベトナム南部の中核都市ホーチミン市とその周辺には多くの工業団地が建設され、日系企業も数多く進出している。ビンズン新都市はホーチミン市から北に約30km、ビンズ(オ)ン省(注1)に位置しており、周辺には日本企業も多い。ビンズン新都市は、ベトナム-シンガポール合弁のVSIP2工業団地などが近く、ベッドタウンとしても機能していくことが考えられる。今回ビンズン新都市とベカメックス東急のタワーマンションや商業施設を視察する機会があった。
経緯としては、2012年に地元のベカメックスIDC社と東京急行電鉄株式会社(現・東急株式会社)との合弁によるベカメックス東急社(BECAMEX TOKYU CO.,LTD.)が設立され、ビンズン新都市内の約110haを「東急ビンズンガーデンシティ」として開発してきている。
すでに完成しているマンションは「SORA gardensⅠ」「SORA gardensⅡ」(共に地上24階建て)の分譲を終わっており(注2)、現在は完成間近の「MIDORI PARK The GLORY」を分譲中であるようだ。マンションを購入した居住者の国籍を聞いたところ、日本人のほか、台湾、韓国やベトナム人富裕層がいるとのことであった。
SORA gardensエリアではビンズン新都市で初めてのショッピングセンター「SORA gardens SC」が2023年に完成、開業していた。複合型のショッピングセンターで、イオンが生鮮食料品販売を中心に大きなスペースをもっており、無印食品、ニトリ、ユニクロなどの日系各社が入居している。
さらにビンズン新都市の北西部では、住宅ゾーン「MIDORI PARK」が整備されており、低層の住宅プロジェクトとして「HARUKA Residence」と「HARUKA Terrace」(合計219戸)が整備され、ニーズに合わせた多様な形態の住宅が開発、分譲されている。またエリアの中の交通手段として、路線バス「KAZE SHUTTLE」が運行されており、ベトナムでは定番の交通手段であるバイクではなく、バスという公共交通機関の利用を促している。
今回のホーチミンからメコンデルタにかけての現地調査では、多くの不動産開発事業を目にすることがあった。その中で今回視察した「ビンズン新都市」と「東急ビンズンガーデンシティ」については、成功例としてあげる声が聞かれたが、その要因を若干考察してみたい。まず地域の経済環境についてビンズン省をベトナム南部に限ったマクロ経済指標でみると、人口が270万人(2021年)でホーチミン市、ドンナイ省についで3位、1人あたりGRDPでは6,600ドル(2021年)でバリア=ヴンタウ省についで2位、日本からのFDI(直接投資)は59億ドル(2022年)でホーチミン市をしのいで突出してトップとなっている(注3)。同省には29の工業団地(2020年)があり、工業団地の入居費用はホーチミン市の工業団地と比較すると安く、優位性があると言われている。また地理的状況では、日本も円借款などで援助している都市鉄道1号線の間もなくの開通と将来における延伸が見込まれ、道路では建設されている環状3号線などがあり、ホーチミン市から郊外にかけてのアクセスが順次改善されることがJICAなどの資料からも推測できる。さらに、ビンズン省都であるトゥーザウモット市の行政機能が、2014年にビンズン新都市に移転したということが大きかったのではないかということも聞かれた。
今回の調査では、ベトナム南部の地方都市の多くでローカル資本による大規模不動産投資が行われているものの、その物件の多くで入居者がほとんどなくゴーストタウン化しているケースが見られた。この数年においてラオス、カンボジアで調査した、中国資本による不動産開発の乱脈ぶりほどではないが、ベトナムにおいても厳しい状況にある地域があることは確認できた。それだけに、今回視察した東急によるビンズン新都市開発事業が成功例として際だって見えたのも事実である。
~ITI・ASEAN研究会(JKA補助事業)現地出張報告~
注
- ベトナム語のBình Dươngは「ビンズオン」とも聞こえるが、ここでは東急の資料にある「ビンズン」の表記とする。
- 入居率は85%であるとのこと。
- 青山学院大学藤村学教授調べ。