一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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コラム

2024/12/16 No.143トランプ次期大統領の政策が日本企業に与える影響とその社内対策には何があるか

高橋俊樹
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

日本に世界一律10~20%のユニバーサル・ベースライン関税は賦課されるか

ドナルド・トランプ次期大統領は、2024年大統領選挙キャンペーンにおいて、早くから世界一律10%のユニバーサル・ベースライン関税の賦課を表明していた。これが実行されたならば、日本の乗用車の対米輸出において、現行の2.5%の関税は10%の追加関税を上乗せされ、12.5%まで高くなる。

このため、2万ドルの日本製の乗用車を米国に輸出すれば、通常は500ドル(20,000×2.5%:150円/ドル換算で約75,000円)の関税を払う必要があるが、10%のユニバーサル・ベースライン関税が賦課されれば、2,500ドル(20,000ドル×12.5%:同約375,000円)もの高い関税を支払うことになる。つまり、追加された関税の分だけ日本製の乗用車は米国で製造されたものよりも価格が高くなり、消費者は米国製乗用車を選ぶ可能性が高くなる。

トランプ第一次政権時に商務長官であったウイルバー・ロス氏は2024年11月10日、カナダ放送協会とのインタビューで、カナダのエネルギー分野や鉄鋼・アルミなどの重要分野はユニバーサル・ベースライン関税の対象とはならない可能性があると答えた。その理由として、米国はカナダから大量のエネルギーを輸入しているが、これに課税しても米国の利益にはならないし、実際に、トランプ第一次政権はカナダに対して鉄鋼・アルミの課税を回避するという優遇措置を取ったことを挙げている。

ロス氏の指摘が正しいとするならば、トランプ次期政権によって実行が見込まれるユニバーサル・ベースライン関税は、単に企業からの申請を参考に適用除外品目が設けられるだけでなく、国別に例外となる分野・品目が定められる可能性がある。

一方、トランプ次期大統領からカナダ以上に強硬な要求を突き付けられているメキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は、米国がユニバーサル・ベースライン関税を賦課するならば、報復関税で対抗することを明らかにしている。

日本は、トランプ第一次政権時において、1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミへのそれぞれ25%と10%の関税賦課に対して報復措置を打ち出さなかった。したがって、トランプ第二次政権におけるユニバーサル・ベースライン関税の賦課に対しても、日本は同様な対応を図ると予想される。この理由として、報復関税で対抗しても得られるメリットよりも、政治的な問題も含めて、総体的にデメリットの方が大きいとの判断を下す可能性が高いことが挙げられる。

なお、トランプ第一次政権は鉄鋼・アルミへの関税賦課において、カナダ・メキシコへの適用を除外したが、日本にはそのまま適用した。その後、日米両政府は2022年2月、鉄鋼製品の一部について一定の割当量まで日本からの輸入に対して関税を免除(関税割当を導入)することで合意した。米国は、EUに対しても同年1月から鉄鋼・アルミで関税割り当てを実施している。

したがって、トランプ次期大統領は日本への10~20%のユニバーサル・ベースラインの課税に関しては、原則として全品目ベースで関税を賦課する可能性がある。もしも、トランプ次期大統領が日本に対してユニバーサル・ベースライン関税の適用除外を認めるとすれば、日本が自動車・同部品や農産物及び医薬品などの自由化で大幅な譲歩を行う意向を示すことが必要になると思われる。

実際には、日本側は自動車や農産物等で譲歩する余地はそれほど大きくはないため、現時点においては、トランプ次期大統領が日本に対してユニバーサル・ベースライン関税を全体的に賦課する可能性は決して低くはないと思われる。そして、トランプ第一次政権時における鉄鋼・アルミへの課税や4段階に分けて行われた対中追加関税の場合と同様に、日本企業は米国政府に対して品目別に適用除外措置を申請するという受け身的な対応を選ばざるを得ないことが予想される。

60%の中国製品への関税は日本企業にどのような影響を与えるか

トランプ次期大統領の強硬な関税政策の一つとして、中国から輸入される製品に対する60%の関税賦課が挙げられる。この60%の関税は、2018年からの米通商法301条による最大で25%の追加関税にさらに追加で賦課されるのか、2018年以前に課されていたベースライン関税に追加されるのか、などに関しては明確にはわかっていないが、いずれにしても米国の通商史において高い関税水準の部類に入ることは間違いない。

米国議会では、この60%という高関税を課すために、中国との恒久的正常貿易関係(以下、PNTR)を廃止しようとする動きがある。もしも、議会が中国とのPNTR廃止法案を可決すれば、その分だけ高関税導入のバリアが無くなり、60%を超える対中関税を課すことが容易になる。

この60%の対中関税が実施されれば、中国の生産拠点で製造し対米輸出を行っている日本企業は大きな影響を受けることは間違いない。日本企業は、トランプ第一次政権から始まった米通商法301条による最大25%の対中追加関税に対して、適用除外を申請するなどの対応を行っているが、新たな60%の対中関税はその除外品目をそのまま受け入れるのかどうかは現段階では分からない。もしも、最初から仕切り直しをするのであれば、日本企業は60%という高率の関税への対応だけでなく、例外適用品目の申請手続きにさらなる時間と労力を割かなければならなくなる。

トランプ次期大統領は第二段階の日米貿易交渉を要求するか

トランプ次期大統領は、第一段階の日米貿易交渉で積み残した日本の自動車・同部品、農産物、医薬品、通信機器などの自由化で大幅な譲歩を勝ち取るため、日本へのユニバーサル・ベースライン関税の賦課をそのための取引材料にする戦略を検討する可能性がある。すなわち、積み残し分の再協議のため、第二段階の日米貿易協定などの交渉を要求してくる可能性が全くないとは言い切れないと思われる。

第一段階の日米貿易交渉においては、トランプ前大統領は自動車への1962年通商拡大法232条の発動を交渉材料として協議に臨んだが、第二次トランプ政権ではそれがユニバーサル・ベースライン関税に置き換わるということだ。

日本企業としては、ユニバーサル・ベースライン関税の自社への影響はもちろんのこと、今のところそういう動きはないものの、第二段階の日米貿易交渉などが開始された場合に備えたシミュレーションを行うことは必要であると思われる。

第一段階の日米貿易協定交渉では、トランプ前大統領は牛肉の段階的関税削減などの農産物分野でのTPPと同じステータスを日本から引き出すことが最優先の課題であった。この農産物分野におけるTPPメンバー国に対する比較劣位の解消は、第一段階の日米貿易協定の交渉において、米国の思惑通りに進んだと考えられる。

一方、トランプ第一次政権は第一段階の日米貿易協定交渉の当初において、自動車、医薬品、医療機器、情報通信技術機器、化学品などの分野を対象に、米国の対日輸出拡大や日本の非関税障壁の撤廃などを日本に求めようとしたが、最終的には農産物を中心とする関税削減で幕を引くことになった。

したがって、米国は日米貿易交渉で積み残された分野の中でも、特に自動車・同部品分野における非関税障壁の撤廃(米国の自動車安全基準の多くを日本でも採用することなど)、あるいは日本製自動車の対米輸出数量規制等、を求めてくる可能性がゼロではない。さらに、1962年通商拡大法232条に基づき、自動車・同部品への追加関税の賦課を検討することもあり得ないわけではない。

つまり、米国の対日貿易赤字をある程度は解消できるような自動車・同部品や農産物分野などでの譲歩を得られるのであれば、トランプ次期大統領は第二段階の日米貿易交渉などを優先し、その交渉や実施の期間はユニバーサル・ベースライン関税の賦課を猶予するなどの戦略を打ち出すことも想定される。そうした場合、日本としては、ユニバーサル・ベースライン関税が10%になるのか、それとも15%か、あるいは20%になるのかによって、第二段階の日米貿易交渉などへの対応が微妙に違ってくると思われる。

トランプ次期大統領は米国通商代表部(以下、USTR)代表に元USTR首席補佐官のジェミソン・グリア氏を指名すると発表した。グリア元USTR首席補佐官は、トランプ次期大統領は輸出市場の開拓や対日貿易赤字の解消を求めていること、ジャガイモなどの農産物のさらなる自由化を望んでいることを明らかにしている。

ロバート・ライトハイザー前USTR代表は、国際緊急経済権限法(IEEPA)や1930年関税法338条を用いて議会の承認なしで大統領は関税を引き上げられるとしているが、グリア氏は1974年通商法122条を利用した関税引き上げの活用を検討しているようだ。同条項は、国際収支の赤字が発生した際に150日間限定で最大15%の関税を大統領権限で発動できることを定めている。150日を超える課税には議会による延長の承認が必要だが、トランプ次期政権では上下両院で共和党が多数派を占めることになるため、議会で可決される可能性は高いと思われる。

また、1974年通商法122条の下での最大で15%という関税率は、日本にとって判断に悩む水準となる。この関税率ならば、第二段階の日米貿易協定で大幅な譲歩を迫られるよりも、日本にとって対応し易いと考えられなくもないが、他方では死活問題だとする企業も存在する可能性がある。したがって、こうした状況が発生したとすれば、企業からの情報収集と共同での対応策の検討が不可避であると思われる。

USMCA見直し交渉は日本企業にどのような影響を与えるか

一方、2026年に控えるUSMCA(米国・カナダ・メキシコ協定)の見直しも、日本企業に与える影響は大きい。なぜならば、カナダにおいて、USMCAの見直しに関して、メキシコは中国の自動車・同部品を含む中国製品の米国への輸入チャネルとして機能しており、メキシコを同協定から除外し、新たに米国とカナダのみで2国間貿易協定を結ぶことを主張する動きがあるからである。

今のところ、カナダ連邦政府はメキシコ抜きのUSMCA見直し協議を否定しており、その可能性は低い。しかしながら、トランプ次期大統領がメキシコの中国からの投資受け入れや移民・麻薬などの対策に満足しないならば、USMCA見直しの交渉で継続する意思を示さず、同協定が発効から16年後に終了してしまうという可能性を全く否定することはできない。

すなわち、メキシコはトランプ次期大統領からユニバーサル・ベースライン関税の賦課を迫られていることに加え、USMCAの見直しにおいて、カナダと米国から中国の対メキシコ投資への規制を求められている。こうした、米国だけでなくカナダからのメキシコへの要求は、中国のEV(電気自動車)や自動車部品などの製品がメキシコを経由して北米市場に流れ込むのを阻止することを目的としている。

メキシコが中国からの投資やメキシコでの中国車の生産を規制する動きを示さない限り、米加によるメキシコへの要求は止むことがないと思われる。メキシコには自動車関連産業を中心に製造拠点を構える日本企業が数多く進出しており、メキシコがUSMCAからのメリットを受けられなくなれば、メキシコを活用した北米展開を進める日本企業は大きな戦略の転換を余儀なくされると考えられる。

なお、USMCAの見直しに注目が集まる中で、トランプ次期大統領は就任早々にも移民や麻薬問題が解決するまでメキシコ・カナダに25%の関税、中国に10%の関税を賦課することを表明した。この突然の発表は取引材料の一つと見る向きもあるが、もしもメキシコ・カナダに25%の関税賦課が実施されたならば、USMCAの国境を越えた取引の機能が寸断され、北米の貿易に依存する1,700万人の雇用やサプライチェーンに大きな影響を与えることになる。当然のことながら、USMCA加盟国だけでなく、日本企業に与えるインパクトも大きい。

IPEF(インド太平洋経済枠組み)離脱の日本企業への影響

IPEF はインド太平洋地域の経済協力関係の深化を図る枠組みであるが、当初においては、貿易、サプライチェーン、クリーン経済、公正な経済の四つの協定で構成されていた。

その後、五番目の柱として、IPEF全体の効果的な運用を図るIPEF協定が付け加えられた。この中で、サプライチェーン協定は2024年2月24日に最初に発効した。そして、クリーン経済協定とIPEF協定は10月11日、公正な経済協定については10月12日に発効するに至った。しかし、貿易協定は合意に至らず、依然として発効していない。

トランプ次期大統領は、パリ協定ととともにIPEFからの脱退を表明する可能性が高く、最悪の場合、IPEFは先細りになり漂流することもあり得る。しかしながら、トランプ次期大統領がIPEFからの脱退を表明しても、サプライチェーン協定とクリーン経済協定、公正な経済協定、IPEF協定は既に発効しているので、これらの協定の規定に縛られることになる。

すなわち、IPEFのクリーン経済協定は書面による通告により脱退できると規定しているが、サプライチェーン協定や公正な経済協定及びIPEF協定は発効から3年が過ぎるまで脱退することができないと定めている。このため、トランプ次期大統領が、IPEFのサプライチェーン協定や公正な経済協定及びIPEF協定を離脱するには、同協定の脱退条項を改正しない限り、少なくとも3年という時間が必要になる。なお、IPEFのサプライチェーン、クリーン経済、公正な経済などのいずれの協定も、脱退は寄託者が脱退の通告を受け取った日から6か月後に効力が生じることになる。

したがって、トランプ次期大統領はクリーン経済協定からは直ちに脱退することができるが、サプライチェーン協定や公正な経済協定及びIPEF協定は時間がかかるので、会議やセレモニーに出席しないなどの実質的な離脱を粘り強く続けていくものと見込まれる。こうした米国の対応から、ASEANなどの加盟国は自然にIPEFの会議などから足が遠のき、IPEFそのものは自然に霧散してしまう可能性がある。

これに対して、日本には、TPPのケースのように、他の加盟国の協力を得ながら、徐々にリーダーシップを発揮し、実質的に米国抜きのIPEFの維持発展を図っていくというシナリオが考えられる。サプライチェーン協定とクリーン経済協定などは日本だけでなく、オーストラリアや韓国及びインド・ASEAN などにとっても有益な枠組みであると考えられる。日本が、TPPのようにIPEFを取り込む戦略ができるかどうかは、これらの国が後押しをしてくれるかどうかがポイントになると思われる。

また、日本のこの他のシナリオとして、トランプ第二次政権は4年で終了となるので、トランプ次期大統領の次の大統領の就任まで上記シナリオを粛々と続け、次の大統領の下での米国のIPEF復帰を待つというオプションも考えられる。

自社内にトランプ対策チームの設置が望まれる日本企業

トランプ次期大統領の各国への要求は、ユニバーサル・ベースライン関税の賦課からUSMCA見直しまで重層的であり、その影響はスパゲティのように絡まり合っているため、その一つひとつを解きほぐしながら解決していかなければならない。

その要求には、これまで見てきたように、ユニバーサル・ベースライン関税、60%の対中関税、移民・麻薬に絡まる25%のメキシコ・カナダへの追加関税、麻薬の流入に対する中国への10%の追加関税の実施、中国へのPNTR廃止、2026年USMCA見直しなどでの原産地規則の改正や中国からの投資の規制及びメキシコ経由の中国製EVや自動車部品の対米輸出の抑制、IPEFからの離脱、日本などを対象にした米国の貿易赤字の削減、等を挙げることができる。

日本企業には、こうした米国の10~20%のユニバーサル・ベースライン関税の賦課などの要求に対して、その規模にかかわらず、慌てないで慎重に情報収集を行い、様々なシミュレーションの中から最適な企業戦略を導きだすことが望まれる。

そのためには、まず第一に、対米輸出の比率が高い企業においては既に対応済みであるとは思われるが、トランプ次期大統領による世界一律10~20%の関税の引き上げや60%の対中関税の賦課及びUSMCA見直し等に対応するため、自社内に「トランプ対策チーム」を設置することが考えられる。企業規模にもよるが、トランプ対策チームはほんの少数でも構わないと思われるし、法務部門などの既存のセクションが兼務することも考えられる。場合によっては、外部の専門家にトランプ対策チームの中に入ってもらうこともあり得る。

第二としては、トランプ対策チームは、トランプ次期大統領が公約した関税引き上げなどにおいて、どれが額面通りに実行されどれが取引の材料となるのか、あるいは国別・品目別に賦課される関税率が違うのかなどに関して、正確な情報収集及び分析が求められる。また、自社の製品の対米輸出に際して、米国製品や場合によっては米国以外の外国製品との競争激化等により、どの製品が10~20%の関税の引き上げで不利となり、どの製品では不利とならないのかをチェックしなければならない。

当然のことながら、関税対策は自社の製品が不利になるケースを中心に行われることになるが、現時点において米国に拠点を構える競合他社がいないため現時点で不利にならない場合でも、将来の可能性を含めて検討することが必要になる。

第三として、60%の対中関税が賦課された場合の自社への影響を把握することも求められる。そのために、改めて中国で生産した自社の製品を直接あるいは間接に米国に輸出しているのかどうか、あるいはどのくらいの量を輸出しているのかをチェックすることが求められる。また、中国で生産した自社製品を第三国経由で米国に輸出している場合(迂回輸出)もその対象となる。こうした迂回輸出のケースを含め、他の日本及び外国企業のトランプ関税対策についても情報収集を行い、自社の参考にすることは有益と思われる。

第四には、2026年のUSMCAの見直しに向けた動きにおいて、同協定が終了しメキシコがそのメリットを受けられなくなった場合のインパクト、また、トランプ次期大統領が第二段階の日米貿易交渉を求めた場合やIPEFから離脱した場合の影響、などについて情報収集や分析が望まれる。

第五には、情報収集の一環として、関税の引き上げに関する米国議会の「公聴会等」において議論された内容を把握し、自社の製品に関連する情報を収集することが肝要である。

第六としては、トランプ次期政権の「関税引き上げに関する通知」の内容をチェックすることが不可欠である。公表された通知の中に、適用除外の規定とともに、10~20%と見込まれるユニバーサル・ベースライン関税は全ての国に対して一律なのか、あるいは国別・品目別に違いがあるのかなどの規定が盛り込まれている可能性がある。

第七としては、ユニバーサル・ベースライン関税の賦課に対する「コメント」の期間内において、日本企業として主張することがあれば意見を提出することが望まれる。

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