一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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コラム

2025/03/11 No.149トランプ大統領が仕掛けた関税の網から日本はいかにして逃れるか~その1 トランプ関税政策に日本は新FTA戦略で対応できるか~

高橋俊樹
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

トランプ大統領はカナダ・メキシコへの25%及び中国への20%の追加関税を発動

ドナルド・トランプ大統領は2024年11月25日、移民や麻薬(フェンタニル)の流入への対策が不十分だとして、就任初日にカナダとメキシコからの全ての輸入品に25%の関税を賦課することを明らかにした。同時に、フェンタニル対策が不満として中国からの輸入品に追加で10%の関税を課すことを表明した。

そして、25年1月20日の就任式直後では、カナダ・メキシコ及び中国への関税は同年2月1日に賦課を開始するとしたが、実際には中国への10%関税は2月4日から賦課することになった。同時に、移民・麻薬流入を起因とするカナダ・メキシコへの25%の関税賦課の開始に関しては、2月4日から1か月延長した。

その後、トランプ大統領は2月27日、交渉に進展が見られないことから、カナダ・メキシコへの25%関税賦課は予定通りの3月4日に実施するとともに、中国にはさらに10%の関税を上乗せすることを表明した。そして、トランプ大統領は3月4日、実際にカナダ・メキシコへの25%の関税及び中国への20%の追加関税の適用を実行した。

ただし、カナダからの天然ガス・石油やリチウムなどの重要鉱物及びウランなどの輸入には10%の追加関税の賦課にとどめ、追加関税の適用の発表後には、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)で北米産と認定された自動車などの品目の輸入に対して、追加関税を1か月猶予することを表明した。

次々に発動が予定されるトランプ関税

トランプ大統領は25年2月10日、国家安全保障に脅威となる恐れがあるとして、1962年通商拡大法232条に基づき鉄鋼・アルミへの25%の関税賦課を表明し、3月12日に発動するとした。2月25日には、銅製品の輸入に対しても米国の国家安全保障を損なっているかどうかの調査を命じた。

また、トランプ大統領は2月13日、貿易相手国と同じ水準まで関税率を引き上げることが可能な相互関税の賦課を表明した。その賦課開始の時期は示されていないが、4月以降に発動の可能性がある。さらに、トランプ大統領は2月18日、米国に輸入される自動車に25%の関税を課す考えを明らかにした。早ければ、4月2日に発動を発表するとしており、今後は半導体、医薬品、農産品、木材などへの賦課も検討しているようだ。

一方、世界一律10~20%のユニバーサル・ベースライン関税や中国への60%関税に加えて、メキシコからの中国車の輸入への100~200%の関税賦課も検討中である。さらに、トランプ大統領は25年2月27日、EUが米国の自動車や農産物を受け入れていないことやEUのデジタル政策などを不満として25%の関税賦課を検討中であり、まもなく発表の予定であることを明らかにした。

日本を取り巻くフェーズが大きく変化

トランプ大統領はアメリカファーストの貿易政策を実践するため、自国の関税を引き上げ、相手国の譲歩を引き出す戦略を打ち出している。このため、中国を含めて米国市場への依存度が高い国の多くは、トランプ大統領の関税引き上げに対して、報復措置で対抗する構えを見せている。そして、互いにカードを出し合いながら交渉を進めることで、できるだけ早く解決に導こうとしている。

一方、日本はトランプ大統領の関税引き上げ要求に対して、これまで報復関税で対抗しようとしなかったし、今後もその可能性は低いと考えられる。すなわち、日本は米国との交渉において報復関税というカードを切らないと見込まれるため、その分だけトランプ大統領との交渉において、効果的な説得材料を提示しなければならない。

トランプ第一次政権時には、報復関税の代りに安倍晋三元首相が盾となってトランプ大統領の対日要求をかわす役割を果たしていた。しかし、トランプ第二次政権においては、トランプ大統領以外に第一次政権時の日米主要閣僚メンバーは残っていない。さらに、日本の経済力やプレゼンスは年々低下しており、トランプ大統領にとっての日本のプライオリティは第一次政権時よりも明らかに低くなっている。

つまり、トランプ第二次政権においては、以前と比べて日本を取り巻くフェーズが変わったのだ。フェーズが変化したならば、日本はそれに応じた政策でトランプ大統領の関税引き上げに対応しなければならない。

非関税障壁撤廃やエネルギー輸入・対米投資の拡大でトランプ関税に対応

トランプ大統領による関税政策への日本の対応としては、トランプ大統領が求める「非関税障壁」の改廃を積極的に推進するとともに、米国の対日貿易赤字の削減に結び付く「LNG(液化天然ガス)・石油などの資源エネルギーの共同開発と輸入、航空機・戦闘機などの購入及び対米投資による現地生産の拡大」などを着実に実行することが必要になると思われる。

米国は2024年版外国貿易障壁報告書(2024 National Trade Estimate Report on Foreign Trade Barriers)を公表し、「豚肉・生鮮ジャガイモ」や「ガソリンに混入するバイオエタノール」の対日輸出、あるいは日本での「米国の大学による教育サービス」の提供や「米国製自動車」の販売などにおいて、非関税障壁に直面することを指摘している。もしも、これらの分野における米国の対日要求が改善するならば、米国企業の日本市場への参入拡大に結び付く可能性がある。

また、トランプ関税の日本への賦課を間接的に抑制する手段として、トランプ第一次政権時に安倍元首相とトランプ大統領との間で合意した「自由で開かれたインド太平洋戦略(以下、FOIP)」の推進を挙げることができる。つまり、トランプ第一次政権時に提唱したFOIPをさらに進化させ、インド太平洋地域におけるインフラ整備や人材育成及び技術開発などを進展させることで、同地域での日米間のパートナーシップの一層の強化を目指すことが考えられる。

もしも、トランプ大統領が日本に対して、米国での現地生産の拡大や非関税障壁の撤廃、さらには通貨の安定や対日貿易赤字の削減及び防衛費の増額などをそれほど強く求めず、日本への関税賦課を免除するのであれば、それは日本にとって望ましいシナリオであり、日本はその実現に向けて様々な手段を用いて米国側の説得に当たることが求められる。

しかし、トランプ大統領が日本に対し相互関税や自動車を対象にした関税賦課を発動するならば、日本は上記シナリオよりも一歩踏み込んだ非関税障壁の撤廃やLNG等の資源エネルギーの開発輸入及び米国での生産拡大などを押し進める必要がある。また、並行して日米パートナーシップの強化のために、FOIPなどにおける連携の強化、及び人工知能(AI)や先端半導体における開発協力などを積極的に進めることが望まれる。

既存FTAの自由化率の向上やメルコスール等との新たなFTA締結が望まれる日本

2023年における日本の対米輸出依存度は20%と高いが、対中輸出依存度も17.6%と高く、ASEANなどのアジア市場への依存度も52.1%とさらに高い。つまり、日本のインド太平洋地域などの米国以外の市場への輸出依存度は8割に達する。

日本は2020年1月1日、米国との間で第一段階の日米貿易協定を発効させたが、限られた品目でしか自由化を進めることができなかった。しかし、日本はASEANとは2002年の日・シンガポールEPA(経済連携協定)を皮切りに次々と自由貿易協定(FTA)を締結した。

そして、日本はインドとは2011年に日インド包括的経済連携協定、ASEANや豪・NZ及びカナダ・メキシコなどの国とは18年にCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)、EUとは19年に日EU経済連携協定、中韓やオーストラリア・ニュージーランド及びASEANなどの国とは22年にRCEP(地域的な包括的経済連携)、を発効させた。そして、24年12月に英国のCPTPP加入に関する議定書が発効し、同国との間でFTAを成立させた(日英包括的経済連携協定は21年1月発効)。

RCEPを活用したアジア太平洋地域での貿易取引を行う上で重要なことは、その枠組みに盛り込まれた関税削減や規制撤廃などのルールが有効に機能するかどうかである。もしも、他のFTAよりも自由化率(関税撤廃率)が低く、原産地規則(域内原産かどうかを判断する基準)が複雑であれば、RCEPはその分だけ活用されない可能性がある。

RCEPの関税の工業製品の自由化率は品目ベースで91.5%となり、中韓FTAの90%よりは高いものの、CPTPPの95%以上やAFTA(ASEAN自由貿易地域)の99%以上と比べると見劣りするのは否めない。インドが加盟していれば、RCEPの自由化率はもっと低くなる可能性があった。

RCEPの発効により、日本は中国、韓国との貿易でFTAを活用できるようになったが、これにより中国の工業製品の関税における対日無税品目の割合は発効前の8%から86%に上昇した。同様に、韓国の対日無税品目の割合は、19%から92%に高まった。

しかし、中国はRCEPの中で電気自動車用モーターなどの一部の自動車部品の関税を段階的に撤廃するものの、自国の自動車産業の保護のために完成車やリチウムイオン電池を関税削減の対象から外した。つまり、RCEPはまだまだ自由化率を引き上げることが可能であり、日本は今後のRCEPの定期的な会合において、引き続き自動車や農産物などの分野での自由化率の向上を図っていくことが求められる。

したがって、日本はトランプ大統領に対してはその対日要求に積極的に応える姿勢を示す一方で、米国以外の国・地域でトランプ関税が引き起こす保護主義的な流れを押し戻すため、RCEPなどの既に締結済みのFTAにおける自由化率の向上、英国以外の欧州諸国のCPTPPへの参加などのFTA加盟国の拡大、あるいはメルコスール(南米南部共同市場) や韓国などの国・地域とのバイのFTA締結を図ることで、海外との貿易投資の拡大を目指すことが望まれる。

すなわち、日本はアジア太平洋や欧州及び中南米などを巻き込んだ「新FTA戦略」を推進することで、日本経済の成長だけでなくグローバル市場の活性化に貢献することが期待できる。

IPEFを融合した自由で開かれたインド太平洋戦略を展開できるか

日本はASEANやEU及び中南米などを巻き込んだ新FTA戦略を展開するとともに、米国やオーストラリア及びインドなどとともに FOIPを推進するに当たり、FOIPの中にIPEFのサプライチェーンのリスク対応やインフラ整備及び技術開発・人材育成などの枠組みを取り込むことが考えられる。

日本はこれまでにCPTPPの発足において、リーダーシップを発揮し、米国抜きのTPP11か国における合意を促し、最終的に発効に漕ぎつけたという実績がある。英国は2024年12月15日、正式にCPTPPへ加盟することを発表したが、同国の参加によりCPTPPはアジア太平洋地域だけでなく欧州を巻き込んだFTAに拡大発展する可能性を秘めるようになった。

トランプ大統領は第二次政権においてアメリカファーストの貿易政策を前面に打ち出しており、FTAの推進などに基づく自由貿易主義とは一線を画している。こうした米国の保護主義化の高まりにより、トランプ大統領は中国だけでなく、カナダ・メキシコや韓国・台湾及びアジアなどの国々とも軋轢(あつれき)を生み出している。

こうした環境下で、インド太平洋地域での米国のプレゼンスを高めるためにも、日本がトランプ大統領と共にFOIPの拡大発展を図ることは、日米間のパートナーシップの確立に極めて有効であると考えられる。

当面のトランプ大統領の最大の課題は2026年中間選挙

トランプ大統領は再選して以来、中国やカナダ・メキシコへの関税引き上げやウクライナ問題の解決などに奔走しているが、当面の最大の目標は2026年11月に控える中間選挙において勝利を得ることである。もしも、中間選挙で勝利し、現在の上下両院で過半数を超える共和党の議席数を維持することができれば、その後のトランプ大統領の政権運営は盤石となる。

しかし、次の中間選挙で与党である共和党が上下両院のいずれかにおいて過半数の議席数を割ることになれば、トランプ大統領の第二次政権における任期後半の政権運営は困難さを増し、最悪の場合はレイムダックになりかねない。

トランプ大統領が矢継ぎ早に中国やカナダ・メキシコ及び鉄鋼・自動車などの関税引き上げを表明し、ロシアとの関係を強めることでウクライナ問題の早期解決を図ろうとしているのは、ひとえに次の中間選挙までの日数が念頭にあるためである。つまり、トランプ大統領の色々な関税引き上げなどのスケジュールは、中間選挙の日程から逆算して設定されていると考えられる。

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