一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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コラム

2026/02/18 No.163AEC2025の成果と評価:第2の柱「競争力、イノベーションなど」、第3の柱「連結性、分野別協力」および第4の柱「中小企業など」

石川幸一
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
亜細亜大学アジア研究所 特別研究員

はじめに

ASEAN経済共同体(以下、AEC)は、物品、サービス、投資、資本、熟練労働者の自由な移動および域外とのFTAなど経済統合に加え極めて広範な域内協力を行っている。AEC2015では、競争力のある経済地域という第2の柱で競争政策、消費者保護、知的財産権、インフラ、税制、電子商取引を対象とし、公平な経済発展という第3の柱で中小企業と域内格差の是正(ASEAN統合イニシアチブ)を取り上げていた。AEC2025では、経済統合以外の分野が拡大しており、対象分野はAEC2015の8分野から23分野に大幅に増加している。第2の柱は「競争力のある革新的でダイナミックなASEAN」となり対象分野は9つに増加した。第3の柱として「高度化した連結性と分野別協力」が加わり9分野を対象としている。第4の柱は「強靭で包摂的、人間本位・人間中心のASEAN」で5分野を対象としている。

AEC2015は単一の市場と生産基地を目指す伝統的な経済統合分野に重点が置かれていたが、AEC2025ではEUで共通政策として実施された分野や新たな課題へのASEAN域内協力が重視されている。これはAEC2015で自由貿易地域(FTA)を実現するなど経済統合は相当程度前進したことを踏まえるとともに環境問題、デジタル化、イノベーション、ガバナンス、エネルギーや食料安全保障など新たな課題にASEANが直面するようになったためである。

従ってAEC2025で重視されている経済統合以外の分野での実績をみておくことは今後のAECの方向性をみるために重要である。本論では、AEC2025の第2の柱、第3の柱、第4の柱の実績をASEAN事務局の資料や先行研究により確認するものである(注1)。ただし、 資料の制約などから、主要な成果のみを取り上げており網羅的なものではない(注2)。

1.競争力があり革新的でダイナミックなASEAN

AEC2025の第2の柱は「競争力があり革新的でダイナミックなASEAN」である。対象分野は、①競争政策、②消費者保護、③知的所有権協力、④生産性主導の成長、イノベーション、研究開発など、⑤租税協力、⑥良好なガバナンス、⑦効果的・効率的・対応性のある規制、⑧持続可能な経済発展、⑨グローバルなメガトレンド・通商に関する新たな課題の9分野である。競争政策、消費者保護、知的財産協力、税制協力はAEC2015から継続している分野である。継続している分野では、AEC2015の未実現目標の達成が優先されている。

新たに追加されたのは、生産性向上による成長・技術革新・研究開発、良き統治、規制改革、持続可能な経済開発、グローバルメガトレンド・通商に関する新たな課題の5分野である。2020年発表のAEC2025中間評価(Mid-term Review)によると「競争力があり革新的でダイナミックなASEAN」の行動計画の実施状況は、完了47.8%、実施中31.3%、未実施12.6%、撤回8.3%だった(注3)。

(1) 競争政策

2015年末のAEC2015終了時点でカンボジアを除く9か国で競争法が導入されており、全10か国での導入が目標となっていた。最後に残されていたカンボジアは2018年に競争法草案を閣僚評議会に提出しており、2025年末までに全10か国で競争法が導入された。AEC2025ブループリントの競争政策における戦略措置の実施のためにASEAN競争行動計画2016-25が策定されている。競争政策に関連する担当部局の能力醸成を目的としてASEAN地域能力醸成ロードマップ(ASEAN Regional Capacity Build Roadmap 2017-2020)が2017年に作成され、31の能力醸成のための活動が2018年に実施されている。

競争政策の協力のためのプラットフォームであるASEAN競争政策担当部局ネットワーク(ASEAN Competition Enforcers’ Network)が2021年に設立されている。デジタル経済に関するASEAN競争法政策と競争法についての調査マニュアルが作成された。2022年にはASEANで公平で競争促進的なルールに基づくビジネス環境を促進するためにASEAN競争枠組み協定(ASEAN Framework Agreement on Competition: AFAC)の交渉が開始され、2025年に調印された。

(2)消費者保護

2015年末のAEC2015終了時点で9か国が消費者保護法を制定しており、カンボジアが2016年に制定し全10か国が消費者保護法を制定した。消費者保護のためのASEANハイレベル原則が2017年に承認され、消費者保護のASEAN専門家会合が設置された。オンラインで消費者保護関連情報を提供するASEAN消費者ポータルが設けられている。

2022年には電子商取引における消費者保護ガイドラインの作成が開始されすでに完成している。また、ASEAN消費者保護委員会(ASEAN Committee on Consumer Protection: ACCP)によりASEAN消費者影響評価ガイドラインが作成されている。さらに、製品安全ラベリングガイドラインが作成された。ほかには、ASEAN消費者団体ネットワーク(ACAN)が作られ、持続的な消費ツールキットが開発された。また、危険な製品の警戒システム(product alert system)が作られた。

(2) 知的所有権協力

AEC2015終了時点では、特許協力条約にカンボジアとミャンマーを除く8か国が加盟しており、カンボジアは2016年に加盟した。商標に関するマドリッド議定書には4か国(カンボジア、フィリピン、シンガポール、ベトナム)が加盟しており、その後タイ(2017年)、ラオス(2016年)、ブルネイ(2017年)、インドネシア(2018年)、マレーシア(2019年)が加盟した。意匠に関するハーグ協定には2か国(ブルネイ、シンガポール)が加盟しており、AEC2025ではカンボジアが2017年、ベトナムが2019年に参加した。また、2009年開始のASEAN特許審査協力(以下、ASPEC)は小規模だが運用が始まっておりASEAN特許審査ガイドラインが2014年に採択されている。

知的所有権保護の実施と協力のためのASEAN知的所有権専門家ネットワークが設立され、インダストリ-4.0と製造活動を加速するためのASEAN特許審査協力(ASPEC AIM)と特許保護のプロセスの迅速化のためのASPEC特許協力協定(PCET-ASPEC)を含むASPECプログラムが拡大した。ASEAN知的所有権(IP)アカデミーバーチャルプラットフォームが設立された。1995年締結のASEAN知的所有権協力枠組み協定(ASEAN Framework Agreement on Intellectual Property Cooperation: AFAIPC)のアップグレード交渉が行われており、2026年に調印の見込みである。

(4)税制・良き規制慣行・イノベーションなど

①税制
AEC2015から二重課税防止協定の締結を進めてきており、2025年末で68の二重課税防止協定が調印されている。また、多国籍企業の課税逃れの手段である税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting:BEPS)に関する協力の優先分野の選定が行われている。

②良き規制慣行(Good Regulatory Practices:以下、GRP)
ASEAN良き規制慣行作業計画2016-25(ASEAN Work Plan on GRP)が2017年に採択されている。GRPに関するASEANコア原則が2018年の経済大臣会議で採択された。コア原則は、①明確な政策の合理性、目的、制度枠組み、②コストを正当化するフィットと最小限の市場歪曲、③整合性、透明性、実際的、④地域規制協力の支持、⑤ステークホルダーの関与と参加、⑥重要性、効率、効果の定期的評価である。GRPに関するASEANハンドブックが採択されている。

③生産性主導の成長、イノベーション、研究開発など
2020年にASEANイノベーションロードマップ2019-25がASEAN科学・技術・イノベーション会議で採択されている。2019年の第51回経済大臣会議で第4次産業革命(以下、4IR)への対応における熟練労働と専門サービス開発についてのガイドラインおよびASEAN零細企業デジタル化政策ガイドラインは採択された。4IRを推進する4IR産業転換に関するASEAN宣言が2019年に採択されている。2021年に発表された4IR統合戦略では、優先分野として①技術的ガバナンスとサイバーセキュリティ、②デジタル経済、③デジタルトランスフォーメーションをあげ、推進するための要因として①デジタルインフラ、②能力醸成、③制度とガバナンス、④資源の動員、⑤協力と協調、⑥効果的なモニタリングをあげている。

(5) 持続的経済開発

2021年にAEC循環経済(Circular Economy: CE)枠組みが採択され、効果のモニタリングメカニズムを含む実行計画および作業計画が作成された。2023年にEV(電気自動車)エコシステム開発に関するASEAN首脳宣言が採択され、EVエコシステムの研究が23年に実施された。ASEANカーボンニュートラリティ戦略が承認され、戦略の実施に向けて2025年5月に第1回、9月に第2回カーボンニュートラリティのためのASEANタスクフォース会議(ATF-CN)が開催された。ASEANブルーエコノミー(海洋経済:海洋資源・環境に配慮した経済活動)枠組みに基づきASEANブルーエコノミ-実行計画が採択されている。ASEAN持続的投資ガイドライン(ASEAN Sustainable Investment Guideline: ASIG)が採択されている。ASIGはAEC戦略計画2026-30で実施されることになっている。

2.第3の柱:高度化した連結性と分野別協力

主要分野は、①交通運輸、②情報通信技術(ICT)、③電子商取引、④エネルギー、⑤食料・農業・林業、⑥観光、⑦保健医療、⑧鉱物資源、⑨科学技術の9分野である。交通運輸、エネルギー、電子商取引は、AEC2015 の第2の戦略目標から移され、食糧・農業・林業、観光、保健医療、情報通信技術、鉱物資源は第1の戦略目標の優先統合分野から移されている。形式的には「C高度化した連結性と分野別協力」は、AEC2015になかった新たな戦略目標であるが、全く新しい分野は科学技術のみである。

交通運輸は主要行動計画数が77と極めて多く、交通インフラ整備の遅れが理由となっている。ASEAN連結性マスタープラン(MPAC)2010の2015年末の実行率は34.0%と大幅に遅れていた(注4)。ICTとe-コマースも重点分野であり、デジタル貿易、ICTインフラ整備、スマートシティやビッグデータ、越境電子商取引、ASEAN電子商取引協定、消費者保護、個人情報保護など多くの分野があげられている。持続可能性が強調され、食糧・農業・林業では食糧安全保障と食の安全、保健医療では健康保険制度、健康ツーリズムなど新たな課題に取り組んでいる。AEC2025中間評価(Mid-term Review)によると「高度化した連結性と分野別協力」の行動計画の実施状況は、完了52.0%、実施中34.9%、未実施10.6%、撤回2.3%だった(注5)。

(1) ICT、電子商取引、

ASEAN通信情報技術上級幹部会合(TELSOM)がASEANデジタル上級幹部会合(ADGSOM)に改組され、ASEAN通信情報技術大臣会合(TELMIN)がASEANデジタル大臣会合(ADMIN)に改組され、開催されている。ASEANサイバーセキュリティ調整委員会が設立された。デジタルデータのガバナンスに関するASEAN枠組み、個人データ保護に関するASEAN枠組みおよび次世代ユニバーサルサービス義務のためのASEAN枠組み、クロスボーダ-・デ-タフロ-のためのASEANモデル契約条項が作られている。

ASEANデジタル統合枠組みが2018年に採択され、同行動計画が2019年に作られた。2021年にはASEANデジタルマスタープラン2025が発表された。ASEANデジタル統合指標(ADII)が採択されている。ASEANデジタル貿易基準ロードマップが2025年に採択された。

ASEANの経済回復とデジタル経済統合の加速に向けてのASEANのデジタルトランスフォーメーション(DX)アジェンダであるバンダルスリブガワン・ロードマップが2021年に採択された。このロードマップでASEANデジタル経済枠組み協定(ASEAN Digital Economy Framework Agreement: 以下、DEFA)が初めて言及された。2023年にDEFA交渉が開始され、交渉のための枠組みが承認された。DEFA交渉は25年に実質合意した。

電子商取引については、ASEAN電子商取引調整委員会が創設され、ASEAN電子商取引協定(ASEAN Agreement on Electronic Commerce)が2018年に採択され2019年に調印された(注6)。電子商取引協定はASEANにおける電子商取引の促進、電子商取する信頼環境の構築、加盟国間の協力を目的としている。主要な規定は、①ペーパーレス取引、②電子認証と電子署名、③オンライン消費者保護、④電子手段による国境を越えた情報の転送、⑤オンライン個人情報保護、⑥コンピューティング施設のロケーションである。CPTPPで規定されている①データの自由なフローと②データローカライゼーション(サーバーの自国内設置要求)の禁止は緩やかな形で規定されているが、③ソースコードの開示要求の禁止は規定されていない。ASEANオンラインビジネス行動コードおよび越境BtoC苦情ガイドラインが作られている。

サイバーセキュリティについては、2024年にASEAN地域コンピューター緊急対応チーム(Regional Computer Emergency Response Team: CERT)タスクフォースの会議がシンガポールで開催された。ASEAN日本サイバーセキュリティ能力醸成センター(ASEAN-Japan Cybersecurity Capacity Building Centre: AJCCBC)の人材育成活動とASEANシンガポールサイバーセキュリティ中核拠点センター(ASEAN-Singapore Cybersecurity Centre of Excellence: ASCCE)のサイバーセキュリティ対策強化の活動が実施されている。

(2) 交通運輸(注7)

ASEAN単一航空市場(ASEAN Single Aviation Market: ASAM)創設に向けて2016年にASEANオープンスカイの関連協定(航空サービスに向けた多国間協定:MAAS、航空旅客輸送の完全自由化に向けた多国間協定:MAFLPAS、航空貨物輸送の完全自由化に向けた多国間協定:MAFLAFS)が批准された。2017年には航空輸送付随サービスを含むASEANサービス枠組み協定(AFAS)の第10パッケージが調印された。域外との協力では、ASEAN-EU包括的航空輸送協定が2022年に締結され、ASEANニュージーランド航空サービス協定が2025年に調印された。環境保護ではASEAN持続的航空行動計画(ASAAP)と作業計画2023-24が採択された。

海運では、クルーズ回廊が創設され、ダバオ-ジェネラルサントス-ビトゥンRo-Ro船航路の運用が開始された。沿海航行(NCV)資格証明の相互承認(MRA)が進められている。交通円滑化協定(国際輸送円滑化に関する枠組み協定:AFAFIST、マルチモード輸送に関する枠組み協定:AFAMT、通貨貨物円滑化に関する枠組み協定:AFAFGIT、ASEAN陸路越境旅客交通協定:CBTP)は2015年までに調印発効している。

(3) エネルギー

ASEAN電力網連係(ASEAN Power Grid: APG)が2国間から地域の協定に発展し、エネルギー購買送電協定によるラオス・タイ・マレーシアの多国間電力貿易が実現した(注8)。APG強化議定書が25年の第47回エネルギー大臣会合で承認された。同会合では改定ASEAN石油安全保障協定も承認されている。ASEAN横断ガスパイプライン(Trans-ASEAN Gas Pipeline: TAGP)により総計3,631キロの13のパイプラインにより6か国が連係した。ASEANエネルギー協力行動計画:APAEC(2021-25)が採択された。

エネルギー・トランジションとエネルギー安全保障についてのASEAN共同宣言が採択された。エネルギー集約度(エネルギー消費量/GDP)(energy intensity)を2020年に20%低下させる目標を達成し2025年までに集約度を32%にするという目標と2025年までエネルギーミックスにおいて再生可能エネルギ-の割合を23%にするという目標に向けて作業を実施している。

(4) 食料・農業・林業

2017年に食糧安全保障と栄養政策に関するASEAN地域ガイドラインが承認された。ASEAN統合食料安全保障(AISF)枠組みが承認され、食料安全保障戦略行動計画2021-25(SPA-FA)が作られた。衛生植物検疫(SPS)についてのASEAN戦略的行動計画が採択され、ASEAN食品標準とASEAN域内植物衛生輸入ガイドラインが採用されている。農業グローバル・バリューチェーンにおける農業協同組合の役割強化のためのロードマップ2018-25が作成された。農業における薬剤耐性(AMR)対策に関する5か年行動計画とASEAN食糧農業セクターでのデジタル技術利用ASEANガイドラインが作られている。

(5) 観光

2023年にASEANポストコロナ時代における持続的観光開発枠組み、2025年にASEAN観光マーケティング戦略(ATMS)が作成され、2025年にVisit ASEAN@50キャンペーンが実施された。ASEANデジタル観光宣言とASEANクルーズ観光宣言が発出され、ASEAN美食観光マスタープランとASEAN観光投資ガイドがまとめられた。ASEAN観光専門家登録システムおよび会議・インセンティブ・展示会についてのASEAN資格標準が作成されている。

持続可能な観光開発行動ロードマップにより持続可能、包摂的で強靭な観光エコシステムのためのASEAN域内協力が進められている。

(6) 医療保険

歯科医師と看護師のASEAN地域内共通資格の開発による保健医療専門家の越境移動に向けての取り組みが実施されている。保健医療と食品の早期警戒システムが作成され、ASEAN伝統的医薬品の規制枠組み協定交渉が完了した。

(7) 鉱物資源

2016年から20年までのASEAN鉱物協力行動計画(ASEAN Mineral Cooperation Action Plan: 以下、AMCAP)Ⅲが2015年に承認され、2021年から25年を対象とするAMCAPⅣが承認された。AMCAPは、①鉱物の貿易投資促進、②環境および社会的に持続可能な鉱業開発、③鉱業における制度および人材育成、④ASEAN鉱物データベース更新を目的としている。持続性評価枠組みとガイドラインの採用のモニタリングのためのASEAN報告メカニズムおよびASEAN鉱物データベースと情報システムが作成された。ASEAN鉱物資源トラスト基金が設立されている。ASEANを持続可能な鉱業投資先、戦略的鉱物の信頼できる供給元、グローバルサプライチェーン多角化の推進者とするための20年ロードマップであるASEAN鉱業開発ヴィジョン(ASEAN Minerals Development Vision)が2025年に採択された。

(8) 科学技術

2017年にASEANイノベーション宣言が発出され、ASEANイノベーションロードマップ2019-25が策定された。ASEAN科学技術ネットワークおよびASEAN高性能計算 ファシリティイニシアチブが承認され、ASEAN科学技術イノベーション基金が設立された。対話国との科学技術協力のためのASEAN-NEXTが作られている(注9)。

3.強靭で包摂的、人間本位・人間中心のASEAN

第4の柱「強靭で包摂的、人間本位・人間中心のASEAN」の主要分野は、 ①零細中小企業(MSME)、②民間部門の役割強化、③官民連携、④開発格差縮小、⑤地域統合へのステークホルダーによる貢献である。AEC2015から中小企業と開発格差縮小が継続され、新たに民間部門の役割強化、官民連携、ステークホルダーの地域統合への貢献が追加された。中小企業は、零細(micro)企業が追加され、主要行動計画は62とAEC2015に比べ大幅に拡充している。AEC2025中間評価(Mid-term Review)によると「強靭で包摂的、人間本位・人間中心のASEAN」の行動計画の実施状況は、完了43.5%、実施中48.1%、未実施8.4%、撤回0.0%だった(注10)。

本論では零細中小企業分野での成果を確認したい(注11)。中小企業(SME)発展戦略的行動計画2016-25(SAPSMED)が日本の支援を得て2015年に作成されている。同行動計画は、①生産性向上、イノベーション推進、②金融アクセス制度の構築強化、金融包摂、③市場アクセス、グローバルサプライチェーン、輸出能力向上、④政府、政府間協力、⑤人材育成、起業家教育の5分野で行動計画を提示している。その後、デジタル化、リンケージ形成、MSME金融アクセス能力と包摂性枠組み、ASEANビジネス枠組みとガイドラインなど多くのガイドラインが作成された。MSMEのカーボン・ニュートラルや循環経済など環境への取組みを支援するためにグリーントラジション(GX)におけるASEAN零細中小企業中核拠点センタ-が設立されている。ESGへの取組みではASEAN簡略ESGでディスクロージャ―ガイド第1バージョンが発表された。デジタル化(DX)では、デジタルの能力向上とビジネス機会の獲得のためにASEAN Access Matchが発表され、ASEAN中小企業アカデミーが刷新された。

おわりに

AEC2025ブループリントの最終評価は発表されていないが、行動計画は概ね着実に実施されていると評価できる。生産性向上、イノベーション、デジタル化や第4次産業革命(4IR)は中所得国の罠が懸念される国々(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン)にとり極めて重要である。依然として大きな域内格差、国内での格差拡大、中小企業の雇用などでの大きな役割から包摂は大きな課題である。疾病の増加、気候温暖化による災害の増加などカーボン・ニュートラル、循環経済などへのASEANとしての対応は喫緊の課題であり日本が協力できる分野である。

AEC2025で対象としている分野の多くはAEC2015ではほとんど取り組んでいなかった分野である。そのためAEC2025の実績は、宣言、ヴィジョン、ガイドラインの発表、ロードマップ、枠組みや行動計画の作成、協定の交渉や締結などが多い。課題の解決のための行動も実施されているが、本格的な実施はAEC2026-30により進められることになる。経済統合以外の分野は今後のASEAN経済と社会にとり重要な分野であり動向を見ておく必要がある。AEC2025の最終評価など詳細な報告により本論を補足していく必要がある。

  1. 基本的資料は、ASEAN首脳会議とASEAN経済大臣会議の議長声明、ASEAN Economic Integration Briefの1号から18号、ジェトロビジネス短信などである。先行研究はASEAN(2024)Updates on the ASEAN Economic Community. APEC. および Tiaja Julia, Simon Tay and Sanchita Bas Das (2024) ASEAN Post-2025 Reimaging the ASEAN Economic Community, ISEAS.である。AEC2015での進展状況と課題については、石川幸一・清水一史・助川成也編(2017)『ASEAN経済共同体の創設と日本』文眞堂を参照願う。
  2. 議長声明など利用した表記資料の説明は簡略であり、今後発表される詳細な最終報告(End-term Reviewなど)で補足する必要がある。
  3. ASEAN(2021)Mid Term Review、ASEAN Economic Community Blueprint 2025.
  4. ASEAN Secretariat (2017), ‘Assessment of the Implementation of the Master Plan on ASEAN Connectivity’
  5. 前掲ASEAN(2021)。
  6. ASEAN電子商取引協定については、清水一史(2020)「ASEAN経済統合と電子商取引-AEC2025に向けての統合深化とASEAN電子商取引協定-」、『ASEANの新たな発展戦略』ITI調査研究シリーズ No.102, 国際貿易投資研究所が詳しく論じている。
  7. ASEANの交通運輸の概況および陸上交通、航空、海運分野の協力の進展については、春日尚雄(2017)「ASEAN連結性強化と交通・運輸分野の改善」、石川・清水・助川編(2017)所収、を参照。
  8. ASEANのエネルギー協力については、春日尚雄(2020)「ASEAN経済共同体(AEC)におけるとエネルギー協力の取組み-メコン川利用によるラオス電源開発を事例として-」ITI調査研究シリーズNo.102 所収、を参照願う。
  9. ASEANの科学技術イノベーション政策については、石川幸一(2020)「ASEANの科学技術イノベーション政策」、ITI調査研究シリーズNo.102 所収、を参照願う。
  10. 前掲ASEAN(2021)。
  11. ASEANの中小企業及び中小企業政策については、福永佳史(2020)「ASEAN経済統合における中小企業政策」、ITI調査研究シリーズ no.102所収、を参照願う。
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