2026/03/18 No.168トランプ新関税やUSMCA見直しの動きと日本企業の対応~その4 中国部材の迂回輸入の阻止や原産地規則の強化が不可避なUSMCA見直し~
高橋俊樹
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹
メキシコはFTA締結国以外に適用する関税の引き上げを発表
ドナルド・トランプ大統領はメキシコからのUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)を活用した中国部材や製品の迂回輸入を阻止するため、第二次トランプ政権の発足以来、常日頃からメキシコ政府に何らかの対応を取るよう迫ってきた。
これに対して、メキシコ連邦の上院と下院は2025年12月、相次いで一般的な関税であるMFN税率を引き上げる法案を可決し、メキシコとFTA(自由貿易協定)を結んでいない国に対して、2026年1月から適用する関税を最大50%まで引き上げることを決定した。引き上げ対象は、繊維・履物や鉄鋼・同製品、自動車・同部品、プラスチック製品など合計1,463品目であった。
すなわち、メキシコは中国などのFTAを結んでいない国への関税を引き上げることで、中国製品の迂回輸入の抑制を求めるトランプ大統領に一定の配慮を示すとともに、USMCA見直し交渉における効果的なカードを持つことになったと考えられる。
このMFN税率引き上げは、メキシコとFTAを締結する国の原産品に対しては適用されない。日本はメキシコとの間で日メキシコEPAやCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)を締結しているため、日本から輸入する原産品にはこれらのFTAの特恵税率が適用される。
一方、中国のようにメキシコとFTAを締結していない国から輸入する対象品には、最大で50%まで関税を引き上げることになる。したがって、このメキシコの新たなMFN税率の引き上げは、中国部材を組み込んで無税で対米輸出を行う動きに一定の抑制効果をもたらすと思われる。
想定されるメキシコへの生産移転に対する罰則の強化
トランプ政権はUSMCA発効後も、依然として米国からメキシコへの生産拠点の移転が続いていることに不満を抱いている。このため、トランプ政権はメキシコへの生産移転を規制する強い措置を検討している。
その一環として、ジェミソン・グリア米国通商代表部(USTR)代表はUSMCAの見直しにおける議題の一つとして、メキシコやカナダへの生産や雇用の移転に対する罰則メカニズムの構築を取り上げる可能性がある。
その場合、想定される罰則の例としては、生産拠点の移転を行い米国の雇用の減少をもたらした企業への関税優遇措置の停止、移転企業の輸入品への追加関税の賦課、などが考えられる。
自動車関連分野でもさらなる原産地規則の強化が進むか
2020年のUSMCAの発効で自動車・同部品の原産地規則は大いに強化され、メキシコで自動車の組み立てを行い米国に輸出する企業は、中国やアジアなどで製造された部材を組み入れる割合を縮小せざるを得なくなった。
しかし、それでもまだ自動車・同部品における原産地規則の強化の余地は残っており、トランプ政権はUSMCAの見直しにおいて、同分野におけるさらなる厳格な原産地基準を要求する可能性がある。
自動車関連部門のUSMCA見直し関連での原産地規則の強化としては、既に高率に達している域内付加価値比率(75%)の引き上げを要求する可能性が考えられる。そして、現行の鉄鋼・アルミの北米調達率‘(70%)をさらに引き上げるとともに、部材を調達する北米工場の労働者の時給16ドル等の引き上げを要求する可能性もある。さらには、自動車分野などにおいて、一定割合の米国製部品の活用を要求することが予想される。
自動車以外の原産地規則の強化策とは何か
NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉においては自動車・同部品の原産地規則の強化に焦点が当たったが、USMCAの見直しにおいては、原産地規則の改定は自動車産業以外の分野に主眼が置かれると見込まれる。
トランプ政権は、USMCAには自動車以外の分野において、前身のNAFTAの時代からの緩い原産地規則が残っており、このため中国企業は中国からの部材をメキシコで組み込み、USMCAを活用して無税で米国に輸出することが可能になっていると主張している。
すなわち、トランプ政権はUSMCAの自動車以外の分野における原産地規則の中に、自動車と比べると緩い水準の「域内付加価値比率」が規定されており、USMCA原産の認定が得やすくなっていると指摘している。このため、USMCA見直しでは、自動車以外の分野における域内付加価値比率の引き上げを要求する可能性がある。
同時に、トランプ政権はUSMCAの原産地規則の中にHSコードが少し変わるだけで原産品扱いになる「緩い関税番号変更基準」が残っていると指摘する可能性がある。現行においては、メキシコでの加工・組み立てにより関税番号の6桁の部材が他の6桁の品目に変更できたならば、その製品は北米原産と認定されるケースが主流である。これに対して、トランプ政権は交渉材料として、関税番号変更基準の中に、4桁から4桁の品目への「関税番号変更の適用拡大」を求める可能性がないとは言えない。
例えば、中国製の「ドリップ用の加熱ヒーター(HS 8516.80)」を輸入し、メキシコでプラスチックの外枠を作りヒーターを組み込んで「コーヒーメーカー(HS 8516.71)」を完成させたとする。この場合、メキシコでの組み立ての際に6桁の関税番号が変化しているので、現行のUSMCAの原産地規則における関税番号変更基準を満たしており、コーヒーメーカーはUSMCAを用いて米国に関税0%で輸出できる。
しかし、コーヒーメーカーを作るための部品の多くは、関税番号が4桁のHS 8516(電気式の瞬間湯沸器や暖房機器等)の分類の中に入っており、HS 8516 以外の4桁の関税分類の部品を用いて4桁のHS 8516 に属するコーヒーメーカーを作るのは困難である(4桁の関税番号変更基準を満たすことが難しい)。つまり、関税番号変更基準においては、4桁変更をクリアするには、「完成品と同じ4桁の番号を持つ部材」を使ってはいけないというルールに従わなければならず、6桁の場合よりも難易度が高くなる。
この他に想定される自動車以外の原産地規則の強化策としては、特定工程基準(どの工程を域内で行うかを指定する方式)の追加・厳格化、特定部材の域内調達義務(モーター、半導体、ベアリング、ギアボックスなどを北米産に限定)、累積ルールの制限(米メキシコ・カナダで加えられた付加価値を合算できることを制限、重要部材は累積不可)、化学品の「化学反応ルール」の厳格化(軽微な反応は「化学反応」と認めない)、などを挙げることができる。
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