2014/04/08 No.17_2激変する貿易構造と輸出競争力に必要な視点(2/2)
高橋俊樹
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹
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日本からの調達比率が低下
電気機器における海外への生産移転が、輸出の伸びを抑える原因であることは疑いない。しかし、電気機器以外の分野でも、同様に生産移転による現地日系子会社の現地調達の進展で日本からの調達比率が低下していることが、日本の輸出の伸びを鈍化させる要因になっている。
図3 海外生産比率と売上高
経済産業省の海外事業活動基本調査によると、図3のように、日本の海外生産比率は(海外進出企業ベース)2007年度に33.2%に達し、翌年の2008年度に30.4%に落ち込んだものの、その後は徐々に上昇し2012年度は33.7%まで回復した。おそらく、今後の海外生産比率は加速的に上昇し、2016年度を過ぎたころには40%に近づくことが予想される。
海外生産比率は上昇傾向にあるが、それに伴い現地日系企業は現地調達の割合を高め、日本からの調達を減らす傾向にある。表1は海外日系製造業の現地調達比率と日本からの調達比率を1999年度から見たものである。北米とアジア及び欧州における日系企業の現地調達比率は、1999年度には互いに40%台であったが、北米とアジアは2012年度には60%を超えている。
これに対して、日本からの調達比率は3地域とも1999年度には30%台後半から40%台半ばであったが、2012年度には互いに20%台後半に低下している。現地や域内からの調達を増やし、日本からの調達を減らしているのだ。現地調達の中でも、現地日系企業からの調達割合は2011年度で33%にすぎなく、地場企業からは62%と多くを占める。
表1 海外日系製造業の現地及び日本からの調達比率(単位:%)
現地調達比率 | ||||||
1999年度 | 2002年度 | 2005年度 | 2008年度 | 2011年度 | 2012年度 | |
北米 | 49.5 | 58.8 | 58.9 | 62.5 | 61.3 | 61.4 |
アジア | 42.4 | 50.7 | 52.2 | 52.4 | 60.3 | 60.3 |
欧州 | 43.3 | 34.7 | 31.4 | 40.8 | 46.9 | 41.9 |
日本からの調達比率 | ||||||
1999年度 | 2002年度 | 2005年度 | 2008年度 | 2011年度 | 2012年度 | |
北米 | 44.0 | 33.6 | 32.4 | 27.3 | 28.7 | 28.6 |
アジア | 35.7 | 33.0 | 31.5 | 35.5 | 26.9 | 26.7 |
欧州 | 38.2 | 40.6 | 42.4 | 34.6 | 29.5 | 28.6 |
(資料)経済産業省 海外事業活動基本調査より作成
現地日系企業の日本からの調達比率の低下傾向は続くと考えられるので、今後とも日本の輸出は構造的に伸びにくくなることは否めない。なぜ現地日系企業の日本からの調達比率が下がれば日本の輸出が伸びにくいかというと、日本の輸出入に占める企業内貿易(親子間貿易)の割合が高いためである。
表2のように、日本企業の親子間貿易の日本の輸出入総額に対する割合は、2009年度には親会社から子会社への輸出で60.0%、輸入で23.3%であった。輸入の場合、計算から鉱物性燃料を除くと、その割合は30.6%にまで高まる。2011年度の親子間貿易は輸出で50.8%にまで低下しているものの、依然として日本の輸出に占める親企業から海外子会社向けの輸出の占める割合は全体の半分である。このため、商社や自動車関連などの現地日系企業の日本からの調達比率が低下すれば、その分だけ日本の輸出の伸びが抑制されるのである。
ちなみに、2008年の米国の親子間貿易は、輸出で16.8%、輸入で12.5%であった。いずれも日本と比べるとかなり低く、いかに日本の親子間貿易の割合が大きいかが窺える。現地日系企業の日本からの輸入への依存度が低下している中、日本の輸出を拡大するには、新興国を中心とした海外の景気拡大と日本企業の国際競争力の向上が期待される。
表2 日本企業の親子間貿易比率(財・サービス、単位:%)
海外需要低迷と下がらない契約通貨ベースの輸出価格
日系企業の現地販売が拡大すれば、たとえ日本からの調達割合が低下しても、全体の販売増に誘発されて日本からの輸出が増加する。現地の売上を伸ばせるかどうかは、現地の景気動向に大きく左右される。
IMFの世界経済見通しによると(2014年1月)、2014年と2015年の先進国経済はともに2%強、新興国は5%強の成長と見込まれている。アジア途上国は6%台後半の成長が予想されている。2014年1月の経済見通しは2013年の10月と比較して、2014年と2015年の世界の成長率が下方修正されていない。2015年の新興国の成長率は上方修正されており、これまで経済見通しが発表されるたびに下方修正されていた新興国経済に下げ止まりと回復の兆しが見え始めている。
経済産業省の海外現地法人四半期調査によれば、海外現地法人における2013年10-12月の売上高は、欧州と北米は前年同期比で2期連続のプラスとなったが、アジアは4期連続のマイナスとなっている。売上高DI(前四半期から「増加」と回答した企業の構成比-「減少」と回答した企業の構成比)は、先行きDI(2014年4~6月期)で20か月連続のプラス水準を記録したが、前年同期差においては4期ぶりのマイナスとなった。
したがって、現地日系企業の事業活動見通しは、明るさと暗さが交錯する状況が続いている。新興国を中心とする現地の景気動向の低迷は、日本の輸出拡大を図る上での障害となっている。
図4 日本の輸出物価の動き(円ベース、契約通貨ベース)
また、ドル建ての輸出が伸びない原因として、契約通貨ベースの輸出価格が変化していないことが考えられる。図4のように、現地販売に直結する契約通貨ベースの輸出価格は、円安に転じた2013年に入っても低位安定している。このため、現地販売が増加せず、輸出数量が伸びない状況が生まれている。
一方、契約通貨ベースの輸出価格を変化させなかったため、図4のように円安の分だけ円建ての輸出価格は上昇することになる。これにより2013年の円建て輸出額は前述のとおり前年より1割も増加している。
今後の輸出競争力の強化に求められる視点
海外の景気動向や契約通貨ベースの輸出価格の動きは、あくまでも短期的な輸出に影響を与える要因である。長期的な日本の輸出競争力を考える場合、根源的で構造的な要因を検討する必要がある。
例えば、日本の国際競争力の低下は、スマートフォンなどの独創的な商品を生み出せなかったことにある。かつて、日本がウオークマンやVHSビデオデッキなどを世に出したときは、トップを中心に顧客の潜在的なニーズを先取りし、それを実現するために新たな技術開発を徹底的に行っている。ウオークマンとスマートフォンと違うところは、製品そのものだけでなく、中に組込まれるコンテンツを動かすICT技術の要素が多くなっていることである。この意味で、今日では米国企業の方が新製品開発で優位にあるのかもしれない。
20年ものデフレの中で、日本企業の多くはグローバルなニーズに対応した画期的な新製品の開発や大胆な設備投資に慎重であり続けた。つまり、世界中の顧客が求める何か新しい物を生み出すというかつての愚直な探究心を追及する姿勢に変化があったのではなかろうか。これが、スマートフォンなどの新製品の開発や製造で後れを取った要因の1つであると考えられる。
さらに、韓国、台湾、及び中国やASEANなどの台頭が、日本の国際競争力拡大の大きな壁になっている。日本はこれまでテレビや自動車に見られるように、自社内で一貫して生産する高付加価値なビジネスモデル(垂直統合型)を得意としてきた。しかし、この生産方式では価格競争が厳しい新興国市場などでは、収益を確保することが難しい。
このため、欧米自動車企業では「ドア」や「ボディ」、「プラットフォーム(車台)」などの半製品(モジュール)を外注(アウトソーシング)する動きが盛んだ。最近では、従来の1車種向けのモジュール化を進めるのではなく、VWのように、幾つものモジュールを組み合わせて何種類かの車を製造するメーカーが現れている。この新生産方式により、VWは安定した品質の確保と極限までコストを削減することが可能になる。
日本企業には、こうしたアウトソーシングやモジュール化に柔軟に対応することが求められる。さらに、こうしたモジュールや半導体・電子部品などを納入するグローバルなサプライヤーとして海外展開を図るには、特定の高付加価値部品を特定の取引先に納入するだけでは不十分だ。多くのパソコンに入っているインテルのチップのように、高付加価値な標準化部品を多数の取引先に供給することが期待される。
同時に、製品の付加価値を「品質」だけでなく、「デザイン」や「アフターサービス」にも求めることが重要である。企画設計力や信頼感が、日本製品の新たな商品価値と輸出競争力を生み出すのである。
また、今日のグローバル化の時代においては、モノづくりにおける価格競争が熾烈であり、コストを下げるために日本企業は海外への生産移転を加速している。これが輸出低迷や産業の空洞化につながっているわけであるが、気をつけなければいけないことは、生産技術や商品開発力の空洞化を生んではいけないということである。
ジュネーブに本部を置く世界経済フォーラム(WEF、World Economic Forum)は、日本の競争力の高さとして、モノ作りのサプライチェーンの質が高く製造工程が洗練されていること、企業の革新力があること、などを挙げている。つまり、日本の競争力の根源は、品質の高いモノ作りのプロセスにあると見ている。
また、日本企業は国内に質の高いモノ作りのサプライチェーンを抱えているだけでなく、常に日本の厳しい消費者の目や感性、あるいは文化にさらされている。つまり、日本の国内市場は消費者の鋭い感性に裏打ちされた新商品を生み出す「シーズ」の宝庫であると考えられる。
海外でのサプライチェーンを構築するだけでなく、国内の高度なサプライチェーンと感性豊かな商品を生み出す市場を活用した「商品開発力」を鍛え直すことが、今後の輸出競争力の強化につながるものと思われる。
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