2014/07/01 No.20ミャンマー農村部の生活実態とBOPビジネスの可能性(2)
大木博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹
ヘーホー村とミンクン村の生活実態を踏まえて、農民の生活改善を図る視点からどのようなBOPビジネス展開が可能なのか。次の3の視点で検討してみる。第1が道路、電気などの生活インフラの改善、第2は、収入は僅かであるが余裕資金があれば購買欲は旺盛な農民を消費者として考えたときになにができるか、第3が農業生産を向上させてより多くの収入を望んでいる生産者として見たときにどのようなBOPビジネスが可能なのか。
1. ミャンマーの農村部の生活実態(第1回)
2.BOPビジネスの可能性
インフラの改善(今回)
消費市場としての農村
Affordability、Access、Availability、3のA
中国製品の流通と評価
中国ブランドを買う理由、買わない理由
欧米企業は農村市場に積極的
日本企業の課題
農業生産(次回)
2.BOPビジネスの可能性
農民が望むインフラの改善
ヘーホー村、ミンクン村の多くの農民が、農村の生活で不満に思っていることは、道路、水、電気のインフラが整備されていないことである。表は、ヘーホー村やミンクン村の農民が望むインフラの改善であるが、こうした不満はミャンマーのどこの農村地域で共通していることである。
村民は村のインフラ改善に取り組もうにも、資金はない、ノウハウもない、また時間もない。自分と家族の生活を支えることで手一杯のため、村を改善するための集団的な取り組みは見られない。それゆえ村民は政府や外国企業など外部の援助を求めているが、ミャンマーの農村には外部の援助がなかなか届かない。
農民が望むインフラの改善
道路
ヘーホーでは、インタビューした農民のうち、不便を感じるのは道路と答えた人が一番多かった。幹線道路はよくなったが、村の道路は昔のままで変わっていない。道路の状況が悪いことを理由に仲買から買い取り価格を値引きされている。
ミンクン村からマグウェに行く交通手段は、水上交通と内陸交通の2通りある。水上交通では村にフェリーボートがあり、マグウェ行きの便は毎週安息日には休航となる。内陸交通では、不定期便を運行するミニトラックがある。フェリーボートやミニトラックは村を早朝出発し、午後に戻ってくる。町に通じる道路の総延長は27マイルで、そのうち20マイルがタール舗装道路であるが、問題は残りの7マイル。舗装されていない土道で、少しでも雨が降ると泥道と化してしまう。村道はいずれも土道で、主要な6道路の総延長は13マイルになる。 狭い未舗装道路は夏季には非常に埃っぽく、雨季にはぬかるむため、車両の通行は困難である。舗装されれば商店、学校、医療サービスへのアクセスが改善し、自転車、オートバイの利用価値を高めて、農業収入に直結する。
飲料水の確保
ヘーホー村では、農家の大半は自宅に井戸がない。雨季には各戸で雨水をため、乾季の水不足には毎日川や湖に水を汲みに行く。一度の水汲みに牛車で1時間かかる。村に共同井戸があるが、ポンプは無く、各自がくみ上げる。ペットボトルを購入している家計もある。
ミンクン村でも雨水をためて飲料水として使っている。川の水も飲料水として使っている。飲料水を購入している農家も多く、村の中で販売されている水は1缶(50ガロン)当り100チャット、水を自宅まで届けてもらうと、価格は2倍(200チャット)になる。
ただし、ヘーホー村、ミンクン村とも川に行けば水があるので水へのアクセスは確保されている。この点が、水不足で困っている地域と大きく異なっている。
農家を訪問すると、必ず、お菓子とお茶を用意していてくれる。お茶は、雨水を電気ポットで沸騰させたお湯を使っているが、それでももっておなかを壊すということは一度もなかった
電力のアクセス
インフラの改善を個人の努力で何とかなりそうなのが電力のアクセスである。電力は一部の人々しか使っておらず、しかも安定しないとい問題を抱えている。村の自助努力で電気を村まで引いてくることができれば、そのあとは、電力計を購入できるかどうかにある。電力が村に来ても電力計を購入できる家庭は限られている。ヘーホー村では電力を使える世帯の割合は約50%で、電力を使えない世帯は自宅に電気を引き込む電線敷設費用、30万チャットを用意できないためあきらめている。ミャンマーでは、電気を自宅に引くには、電力量計の設置を申請する必要がある。電力量計の許可を得るには、これを雨風から守ることができなければならない。この基準を満たしていないと、電力局(Department of Electric Power)により回収されてしまう。
ミンコン村では、電力量計の単価は13万チャットで、維持費は毎月1,000チャットである。まずしい家庭でも購入できる安価な電力量計があれば普及が進むことが見込まれる。
電気がすぐにはアクセスできない地域では、太陽光などの代替エネルギーが選択肢としてあるが、農村で普及するには、まず第1に安価であることが必須。次に使い方の啓蒙活動も必要となる。ャンマーの農村では、太陽光エネルギー関連の器具について、いかなる種類も知られていない。関心をひくためには手ごろな価格にする必要があるとともに 啓蒙活動が必要である。
NGOのプロキシミティ(Proximity)は「ディライト」プロジェクトを2012年に開始した。ディライトは、2008年に米国で設立され社会的企業、D.Light Design社が製造・販売している携帯用ソーラーランタンである。40ドル、10ドル、8ドルのソーラーランタンを販売している。最も安価なソーラーランタンは、2年半使用できる。「ディライト」プロジェクトの目的は、太陽光LEDライトの使用により、農村の生活費を低減すること、電力へのアクセスを拡充することにある。LEDライトを9000チャットから2万9000チャットの価格で2,500個販売するという目標を立てている。
プロキシミティによれば、マグウェ管区の6郡、マグウェ郡では24村において2カ月間の割賦払いで販売している。この地域での器具の販売は非常に目新しいことなので、LEDライトの販売が成功であるか否かについては分からないという。太陽光LEDライトの費用がかなり低く抑えられているとしても、こうした村の農民はLEDライトを買うほどの余裕がない。
筆者がプロキシミティの代表者と面談した際にミャンマーの農民はケニアの農民より貧しく、購買力がないとため息をついていたことが印象的であった。プロキシミティの代表的なヒット商品は足踏みポンプ。バングラデシュで製品化されて、150万台以上の販売実績があるヒット商品だ。ミャンマーでは2004年から足踏みポンプの販売を始めている。価格は最低50ドル、120ドル台の高級機種はミャンマーでは売れていない。ケニアでは100ドル以上もする製品がよく売れているが、ミャンマーでは8000チャット(800円)でも躊躇するという。
プロキシミティは、ミャンマー農村部における貧困撲滅を目的に活動する組織で、前身は、国際開発エンタープライゼズ・ミャンマー(International Development Enterprises Myanmar:IDEM)、2008年より現在の名称で事業を行っている。貧困層が現金収入を得られる製品を、低コストで生産できる方法を確立し、それを自分たち築いたチャネルで販売する。ミャンマー国内に8ヵ所の拠点を構えている。中央乾燥地帯を中心に140のタウンシップに1000を越すビラッジ・エージェンと呼ばれるサービス拠点を築き、農村の末端にまで商品が流通するチャネルを作り上げている。アドバイサーが各農家を回り相談にも乗っている。ローンによる販売(利子は月2.5%)も行っている。
教育
ヘーホーで面談した農民の学歴は、大半が小学校中退、中学校中退、寺子屋止まりという人が多い。中には高卒の人もいたが少数派。子供に高い教育を受けさせたいという考えの親が多く、実際グループ・ディスカッション参加者の多くは息子や娘を高校または大学まで進学させていた。
村には小学校があり、先生6人。校舎と井戸は大阪の製薬会社の労働組合が、社会的貢献事業として寄贈した。ミャンマーでは自分の子供に学校へ行かせるか否かの判断に性差はなく、各家庭において能力ベースで決めている。
ミンコン村にはマグウェ管区の中で進学率ベースだと10位以内に入るくらい教育熱心で有名な村である。1992年に高校が村に設立されて以降、村人の多くが高校卒業程度の教育を受けている。近隣の小規模の村からもこの村の学校に生徒が来ている。生活に余裕のない日雇い農業従事者である場合、教育費に投資できる資金が乏しいため小学校まで子供を通わせるのが限界であるという村人の話もあった。
進学状況は、毎年約60人が小学校に入学して、高校を卒業するのはその半分の約30人である。現在は、文科省が講師を派遣しており、その数は8人である。政府から正式な教育支援を享受するためには高等学校に200人以上の生徒が在籍していることが要件となるため、それに達していないミンコン村においては政府の教育支援が不足しているという不満の声も挙がっていた。
消費市場としての農村
ヘーホー村で面談した農民に今何が欲しいのか、欲しいものリストを出してもらった。衛星放送、冷蔵庫、炊飯器、電気ストーブ、枕、毛布、自動車等思い浮かんだ物が出てきた。それでは、お金があれば一番先に買う物は何かと問うと、炊飯器、携帯電話、冷蔵庫と並んで仏壇を挙げていた。ヘーホー村は敬虔な仏教徒が多く、各家庭にはそれぞれの収入に応じて家の真ん中に仏壇を置いてある。収入の少ない農民の中には、お金に余裕があれば、人並みに寄進すると回答した人もいた。それでは、ほんとに欲しい物は何かと尋ねると、オートバイ、耕運機、トラクター等の農業機械と答えていた。ヘーホーでは2011年は作柄が良かったため、余裕資金を得た農民は、農業機械や家電製品を購入することができた。
インフラが改善されて、農業収入が向上して購買力が増せば、消費市場としての農村部の潜在性は大きい。オートバイ、自転車、炊飯器、冷蔵庫等など新規需要が見込まれる数少ない市場であることは確かである。しかし、そこで製品を販売するメーカー・流通業者にとってきわめて難易度が高い市場である。
表 欲しいものリスト
•欲しいもの |
衛星放送、冷蔵庫、炊飯器、電気ストーブ、枕、毛布、自動車 |
•お金があれば、いちばん先に何を買うか |
炊飯器、携帯電話、冷蔵庫、仏壇 |
人並みに寄進をしたい |
•本当に欲しいもの |
オートバイ、耕運機,トラクター |
買い物の習慣
農村で物を販売するには、まず、農民の買い物行動を知る必要がる。ヘーホー村の事例でみると、①日常の買い物は村の中にある小売店(4軒)で済ませる。小売店では、即席麺やペットボトル、蚊取り線香などが買える。②週に1回は、集落から徒歩で30分の村の中心に出かける。そこには、5日おきに市場が開かれ、食料品や雑貨を購入する。また、ヘーホー村の中心部には、電気製品・金物・雑貨・文具などを扱っている店が1軒あり、炊飯器などの小物家電、ノート・鉛筆、噴霧器などを日常生活に必要なものは一通りそろっている。
テレビや農業機械などの大きな買い物は、バスで1時間の距離のアンバンやタウンジーに行く。ただし、タウンジーにはめったにいかない。用がないのである。デルタ地帯では無電化地帯なので大都市に行く用がほとんどない。
商品選択に与える要因・・・みんなの評判や口コミ
農村の消費者がモノを選択して購入する際に、影響を与える要因は、第1に価格である。人々は買える値段のもの、手に入るものを買っている。 消費財は大きな単位では高くて買えないため、主に小袋・少量パックを購入している。農民の中には、価格も重要だが、品質(保証付きの機械など)も重視していると発言していたが、実際、選択するときは購入できる価格になってしまう。
第2に仲間や販売員からの勧めが購入判断に影響する。特に、オートバイや電化製品などの「大きな」買い物の場合はこれが顕著である。電化製品に親しんでいる者が少ないため、販売員は顧客に商品の特徴を説明する必要がある。バイクは中古品を購入することが多い。
第3にみんながよく買っているもの、よく使っているものを購入する。村の仲間の評判や口コミに反応する。
ブランド知識の情報源として広告を挙げる人はほとんどいない。ブランドに対する認識は全くない。
Affordability、Access、Availability、3のA
低所得層(BOP層)を対象にしたマーケティングの鉄則に3のAがある。Affordability(購入可能な価格設定)、Access(提供者の生活圏内での存在)、Availability(常時提供、十分な在庫)である。すなわち、Bop層の収入に見合った、彼らが購入できる価格帯の製品であるか否か、Bop層が買いたいと思って店頭に買いに来たときに現物が置いてあるか否か、売れたらすぐに品物を補充しできるか否か。
BOP市場を攻めるこの鉄則は、いずれも難易度が高いものばかりであるが、特に農村に販路先を構築するアクセスと十分な在庫を確保して商品を切らさせないことが難しい。ヘーホー村の家電製品や金物を扱っている店の商品は、近隣の貧しい農民を相手に商売をしているという意味でBOPビジネスを行っていると言えよう。その店にある商品は、ほとんどが中国企業の製品によって占められている。
ミャンマーの農村部で中国製品が広く普及している理由を、オートバイを事例にとってみると次のことが指摘できる。
オートバイは、ミャンマーでは、都市部と地方のいずれにおいても、主要交通手段として広く使用されている。ミャンマーのオートバイ市場の6割超は中国製であると推計されている。特に中国製オートバイの浸透率は都市部において高い。中国製オートバイ市場の60%は主要大都市やその周辺地域で販売され、残りの40%が地方で消費され、村のレベルにまで浸透している。
中国ブランドが農村部で広く普及している理由は、3点指摘できる。
第1は、中国製オートバイの価格は、ミャンマー製と比べても割安に設定されている。中国製オートバイの購買層は、労働者階級および低所得層グループ。農村部では、農家や日雇い労働者で生計を立てている者人が、資金に余裕ができるとまずオートバイを買いたがる。移動の手段を確保したからである。
第2に中国で製造されたオートバイは価格を考慮すれば許容できる品質であるというコンセンサスが成立している。オートバイ購入の意思決定に影響を与える要因としては、耐久性、デザイン、ユーザーフレンドリーであることやスペアパーツの入手しやすさが挙げられる。中国製オートバイは故障しやすく耐久性も低いが、魅力的でモダンな最新デザインが低価格で手に入るためにデザインは受け入れられている。スペアパーツの入手が容易なことも魅力的である。
第3は、中国ブランド品を購入する理由は、価格が安いという理由だけではない。アクセス(入手のしやすさ)の利便性、簡単に入手できることが重要なポイントである。
これは価格競争力と関係するが、国境貿易を通じて流通ルートが確立されていることが指摘できる。中国製オートバイのうち約95%が越境貿易で、残りの5%が通常貿易でミャンマーに輸入されている。越境貿易で輸入される全オートバイのほとんどが半合法市場からの製品であるといわれている。合法的な越境貿易で輸入される製品は少ない。
中国ブランドを扱っている輸入業者(マンダレーに集中している)は、オートバイをCKDでミャンマー各地に搬送し、小売店が店頭で組み立てて販売する。あるいは、ミャンマーのオートバイ販売業者が、中国の国境沿いの町にあるオートバイ販売店にまで出かけ、オートバイ(CKD)を購入して持ち帰るケースもある。
売れ行きの良いオートバイブランド(2011年11月時点)
オートバイが中国からミャンマーに搬入されるルートは、ミャンマーの国境貿易最も活況を呈しているムセを経由してミャンマー国内に入ってきている。ムセからミャンマー国内に送られるが、(1)ラーショ、ピィンウールィン、マンダレーのルートまたは(2)チェウセ、マグウェのルートで国内の消費地に送られている。マンダレーには、中国のメーカーのオートバイ部品の独占販売代理店がある。しかし、中国のオートバイ・メーカーは、ミャンマーに支社や駐在員を置いていない。
国境貿易の存在
ミャンマーは何世紀も前から中国と歴史的な結びつきがある。地理的には、ミャンマーと中国は2,185kmに及ぶ長い国境で接している。ミャンマー政府貿易局が、ミャンマー・中国間の貿易のための特定国境貿易区を設けている。ムセ (Muse) 貿易区、ミャワディ(Myawaddy) 貿易区などである。中国-ミャンマー貿易の公式国境貿易所には、ライザ (Laiza)、ルウェジェル (Lwejel)、クリンシュウェハウ (Chinshwehaw)、カンバチ (Kanbaiti) がある。商品検査所もミャンマー政府によって、シャン州センウィー (Hsenwi) 、ラーシォ (Lashio)-ムセ・ルートのヤイプ (Yaypu) と、モン 州チャイクト (Kyaikhto) 、ヤンゴン-ミャワディ・ルートのマヤンチャウン (Mayanchaung) に設けられている。
ミャンマーへの中国製品の不法輸送の大半は、多くの未確認入国所で盛んに行われているといわれている。不法輸入の最も頻繁なルートには、カンバチ、ライザ、ルウェジェル、ナムカン (Namkhan)、ムセ、パンサイ (Pangsai)、クリンシュウェハウなどといわれている。
カンバチ、ライザの国境貿易所から入った製品は、仲介者と輸入業者を通じてミャンマー北部のミッチーナ に運ばれる。ミッチーナからはミャンマー北部地域、特にパーカント 地域の様々な小売業者/市場に流通される。ルウェジェル、ナムカン、ムセ、パンサイ、クリンシュウェハウの貿易所から、マンダレー、ヤンゴン、ミャンマー南部地域の活気のある市場にも運ばれる。中国製品は主にこれらの政府指定の貿易所等から、ミャンマーのほとんどすべての地域に流通している。伝統的市場、小規模店舗、大規模なスーパーマーケットで様々な商品が販売され、様々な所得層の広範な消費者のニーズを満たしている。
中国企業ブランド製品は中国・ミャンマー間の複数のルートで国境を越えてミャンマーに流入しているが、最も貿易量が多いのはムセと瑞麗(中国)の国境貿易である。ミャンマー北部の物流ハブであるマンダレーから国道3号線を走り、シャン州ラーショを経由して山岳道路を進むと、ムセ郊外にある通称「105マイル」と呼ばれるチェックポイントに着き、ここで検問、通関手続きを受ける。ここから先が2006年にミャンマー政府により指定されたムセ国境貿易区で、範囲は約300平方キロに及ぶ。
中国ブランドを買う理由、買わない理由
ミャンマーの農村部では、中国企業の製品が溢れている。その理由は、価格、アクセス、在庫の3のAを満たしているからである。しかし、農村市場が中国製品によってすべて席巻されているかとなる必ずしもそうとも言えない。中国企業ブランド品は、オートバイや農業機械、家電では普及しているが、歯磨き粉、シャンプー、石けんなどの洗面用品では、中国製品は他のブランドに比べるとあまり好まれていない。
洗面用品は、タイやシンガポールなどの評判のいい国から、使い切りのシャンプー、小さいチューブの歯磨き粉、石けんなどが、安価かつ容易に入手可能なため、中国製はあまり売れていない。消費者の信用は、中国ブランドよりもタイやシンガポール製のブランド品の方が高い。そのためこの分野では、中国ブランドは影響力を持てずにいる。
乾電池は、日本、インドネシア、ミャンマー製の方が、中国製よりも市場需要が高い。中国製乾電池を避ける理由として、短寿命で低品質、液漏れや機器の損傷などの問題が挙げられている。
ミャンマーの消費者は、所得水準によって購買行動が異なるが、より良いモノを買いたいという点では共通している。中国ブランドを買う理由、買わない理由をまとめると次のようになる。
第1に富裕層は、ステータスが損なわれるとして、中国製品の使用を好まないか、表だって使用することを避ける。好んで使うブランドは、日本、韓国、タイなどの外国品(中国以外)である。外国ブランドは、品質、寿命、耐久性などで、安価な中国製品より優れている。
高所得層も、品質がさほど重要視されておらず、寿命が短く短期間で使い捨てる品目については、中国製品を進んで使用する。これらの使い捨て品目については、高所得層も特定のブランドを探すのではなく、安価で簡単に入手できるものを購入する。しかし、テレビや冷蔵庫等、長期にわたって使用する高級品目と、歯磨き粉やシャンプー等の衛生用品については、高所得層も品質とブランドにこだわり、品質の優れたものであれば価格は問わない。
富裕層は中国製品の所有は自分の社会的地位にそぐわないと考えているため、生活内で中国製品を使用したがらない。
第2に中間層は、中国製のテレビセットや携帯電話、発電機、オートバイなどを購入している。その理由としては、「安価である、機能満載の最新モデルが安価である、価格は品質と同じなので低水準品質は気にならない、予備部品が容易に入手可能」などが挙がっている。割安であることに加えて、機能面を評価している。
中所得層は価格に敏感で、価格が安ければ品質が犠牲になっていてもよいと考える。しかし、冷蔵庫や携帯電話を購入する時は特定のブランドを探すが、発電機、バイク、テレビ、石けん、シャンプー、歯磨き粉、スポンジ、乾電池を購入する時は特定のブランドにこだわらない。中所得層家族が中国製品を使用する主な理由としては、広く使用されていること、他のブランドよりも低価格、価格を考慮に入れると許容品質、魅力的で最新のデザイン、簡単に入手可能であることが挙げられている。
第3に低所得層も、中所得層と同様の中国製品購入傾向を示している。中間層と比べて中国製品しか価格面で手が届かない層がかなり存在している。この消費者層は一般的にブランドにこだわらず、適正な価格で信頼できる品質のものであれば何でもよいと考える。
価格に敏感で貯蓄が少ないため、テレビ、冷蔵庫、携帯電話等のぜいたくで高額な品目については安価なブランドを購入できることが好まれる。
他方、シャンプー、歯磨き粉等日用品の購入においてはブランドにこだわり、品質の良いものを好む。たとえば、ブランド・モノのシャンプーが小袋に入ったものが市場で入手できる。これらは安価で、低所得層の消費者にも容易に購入可能である。小袋は高価な商品を社会の様々なレベルの消費者が手に届く範囲にする一方で、高価格が高価値を意味するという認識をも維持することができる。したがって、低所得層の消費者にとっては、品質が悪いと思われている未知の中国ブランドよりも、広く使用され、よく知られた企業のシャンプーを少量の小袋で、購入可能な価格で買える方が好まれる。すべての所得層の消費者が中国製品の価格は、タイ、韓国、日本からの製品の価格の3分の1 (またはそれ以下) であると考えている。すべての層が、長持ちしない、簡単に傷むという品質上の問題を指摘している。富裕層の間では、社会地位にそぐわないことが中国ブランド品を使用しない理由としてあげている。
農村市場に積極的に攻める欧米企業
ヘーホー村では、農業収入がよかった2011年に多くの農民は炊飯器やテレビなどの家電製品を購入することができた。農村部市場の消費財に対する購入意欲の強さを見せてくれた。2012年の農業収入は期待外れに終わったが、農業収入を上げて家電製品やオートバイ、携帯電話を買いたいという意欲は衰えていない。こうした農村市場における消費者の中には、中国企業ブランド品には満足せず、よりよい品質の日本製品を求めたいという購買層が多く存在する。お金がもっとあれば、丈夫で長持ちする良い商品を買いたいという気持ちは、富裕層ばかりでなく低所得層でも同じである。良い商品のシンボルである日本ブランドに対する信頼度が高い国がミャンマーである。それゆえに、日本企業のロゴを真似た家電製品が堂々と売られて、またよく買われている。
日本企業はミャンマーの消費者市場に高い関心を見せているが、これはヤンゴンの富裕層市場であって、農村市場など視野の外に置かれている。農村市場への参入に関心を寄せていないようである。しかし、欧米企業の一部には、農村市場への攻略がすでに始まっている。2013年8月に訪れたマグウェでは、ユニリーバーのシャンプーの広告がビッシリ、町中を埋め尽くしていた。
ペプシコーラは、農村市場で流通網を構築しているダイヤモンドスターと提携を発表した。同社は、貿易、製粉、流通、小売り(ミャンマー初のハイパーマケットCapital Hypermartを経営)、不動産開発・建設の6事業部門で事業を展開し、各地に支社及び物流センターを開設して、ミャンマー全国の大部分をカバーできる物流体制を築いている。同社が扱う肥料、ダイヤモンドスターブランドは、農村市場での売れ筋商品であり、農村地域で強力な販売網を構築している。
ミャンマーにボトラー社を設立する準備を進めているコカ・コーラは、コカ・コーラ財団からNGOのPactにミャンマーで女性の経済力向上と雇用創出の取り組みを支援するための300万米ドルを提供すると発表(2012年9月)した。PACTは1995年にヤンゴン事務所、97年にマイクロファイナンス事業を開始している。活動地域は、中央乾燥地帯、デルタ、シャン高原、高原地帯で27のタウンシップに120拠点を構えている。
日本企業の課題
ミャンマーでは、日本製品は、特に耐久消費財については、信頼性が高いため、農村市場でも需要が見込まれる。農村市場を開拓する課題としては、第1は農村市場へのアクセスをどう確保するか。独自の流通網を構築するには投資コストが嵩む。欧米企業のように地場企業との提携が有力な選択肢になろう。第2に、アクセスを確保したとしても、日本企業ブランドであることを認知させることが求められる。日本製であることを製品や容器に目立つように表示して、商品の品質に関する感覚を高め、安心感を与えることが必要である。第3に、商品を選択するに当たっては、販売員の勧めが購入判断に影響する。商品について説明し、商品を買った場合のメリットを説明できるように、販売員を訓練する必要がある。
ブランド認知度を高めて、最終的にブランドロイヤルティを確立するには、信頼性の高い流通網を構築することが重要である。また、広告に関する関心はまだ低いが、広告媒体へのアクセスが増えれば状況はいずれ変化する。ブランドについて知るための情報源としての宣伝広告も重要となろう。
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