2016/05/26 No.32中国企業における『男』と『女』の関係
江原規由
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹
中国経済の動向は、世界経済の行方に大きく影響している。そんな中国経済の中で、今後、特に目を離せないのが、中国企業の動向であろう。目下、中国経済は構造改革の真っ只中にあるが、そんな中、中国企業には、かつてない再編の『波』が押し寄せてきている。即ち、未曾有の国有企業改革、ベンチャー起業、そして、国際化の進展などである。こうした時代の波は、中国の社会主義市場経済の『枠組み』をも大きく変えつつあるといっても過言ではない。
○企業再編用語は花盛り
企業再編という時代の波は、一言でいうと、企業サイズの変更の波といえるが、これを表現する中国語の用語は、極めて多彩である。例えば、
中国企業の再編を意味する用語
重組、併購(下記参照)、兼併、収購、整合、合併、洽購、組合、収編、兼併重組、併購重組、整合重組、合併重組、戦略合作、改組、改制、整改、併入、購入、混改、購聯、鯨呑、呑下、吞并、持股、控股、入股、定增、斥资、喝(飲むの意)など。
(併は日本語の弁、股は株にほぼ相当)
併購:中国では、M&A(Mergers and Acquisitions)を意味する。兼并(合弁、Merger)と收購(買収、Acquisition)の組み合わせ。
よくもこれだけ多くの言葉が使われているものと思ってしまうが、まだまだある。変わったところでは、瘦身健体(ダイエット・フィットネス、経営の適正化を図ること)、蛇呑象(蛇が象を呑み込む、中国企業が多国籍企業をM&Aすること)、蚕食殆尽(ある業界がM&Aによって、ある業界を蚕食しつくすこと)など。中国における企業再編は、その説明に、それほど多くの用語を必要とするほど、広範囲に及んでいるということになろうか。そのいずれにも、それなりに定義はあるが、最大公約数的にいえば、M&Aにほぼ集約されるということになろうか。
上記用語のうち、特に目立って使われる用語は、重組(再編、Re organization)、併購(M&A)、兼并(合弁、Merger)、收購(買収、Acquisition)及びその組み合わせ(例:兼併重組、併購重組、整合重組、合併重組)である。また、国有企業改革では、混改(混合所有制改革)が上げられるが、“供给側”改革(供給サイド改革)に一括されるといえる。その一端を、報道見出しなどから紹介すると、
国有企業の「混改」の事例
・混改2020年有望“结果”:船舶和航空是焦点(中国経済網 2015年9月24日)
(仮訳) 混改、2020年に期待、船舶、航空が焦点
・发改委:军工等7大领域将开展混合制改革试点(国家発展改革委員会網 2015年9月20日)
(仮訳) 国家発展改革委員会、軍事産業等7大領域で混改を試行
・央企数量12年减少近半 未来重组或有三大途径(今日早報 2015年9月14日)
(仮訳) 中央直轄企業数、12年でほぼ半減、今後の再編は三つの道筋で
・习近平提“供给侧”改革对国企改革的指导意义(中国経済網 2015年11月24日)
(仮訳) 習近平、“供給サイド改革の国有企業改革に対する 意義に言及
国有企業改革号
(出所:中国経済網 2015年9月15日)
○企業再編における男女関係
さて、中国では、そんな多様な企業再編を、よく、男女の関係(即ち、恋愛、結婚、離婚、そして、その後)に例えて説明するケースが多い。こちらの方が、如何にもわかりやすく、かつ、現実感がある。
中国企業における男女関係用語例
聯婚(両家が婚姻によって親戚になる)、搶婚(略奪婚)、閃婚(電撃結婚)、改嫁(再婚)、婚配(結婚済)、待嫁(結婚許可待ち)、婚姻(結婚)、離婚、恋旧(追憶)、恋上(恋する)、婚後(結婚後)、嫁(縁組)、聯婚熱(結婚ブーム)、七年の痒(七年目の浮気)、复婚(復縁)など。
最近の新聞・雑誌の『見出し』などの使用頻度でみると、これら用語の中では、聯婚の露出が目立っている。例えば、
・国美联姻亚马逊(2016年4月23日 北京日報)
(仮訳) 国美アマゾンと“結婚”
国美とアマゾン中国の戦略協力
(出所:中国经济网 2016年4月23日)
・恒大33亿购华夏银行4.5%股权 房企银行“联姻热”蔓延(毎日経済新聞 2014年1月27日)
(仮訳) 恒大、33億元で華夏銀行の4.5%の株式取得 蔓延する不動産銀行の“買収(結婚)”ブーム
・南北水果零售巨头“联姻” 百果园果多美并购重组(2015年11月20日 中国経済網)
(仮訳) 南北フルーツ販売巨頭の“結婚” 百果園果と多美、M&Aで企業再編 へ
・美团点评合并:从对手到联姻 资本助推下的蛋(2015年10月11日 中国経営報)
(仮訳) 美団と点評の合弁:好敵手から“結婚相手”へ 資本が取り持つ縁(直訳:資本が卵を産ませた)
次に、同じく、最近の新聞・雑誌の『見出し』などから、聯婚以外の中国企業における“男女の仲”の一端を、以下に紹介する。
①結婚前(恋愛期間)
・40余家上市公司“恋上”P2P (2015年5月8日 楊子晩報)
(仮訳) 上場企業40余社がP2Pに“恋心”を抱く
・佳兆业”待嫁” 融创进驻佳兆业总部或分步接盘(2015年1月28日 中国経済網)
(仮訳) 佳兆業、融創による佳兆業本部への“介入後に結婚”
・电信联通三联手 “事实婚姻”还是临时取暖?(2016年01月23日 中国経営報)
(仮訳) 電信と聯通の三度目の連携、“事実上の結婚”(事業統合)、それとも急場しのぎか?
・上海证券“嫁入”国泰君安“嫁妆”资产大都不赚钱 (2014年7月15日 中国経済周刊)
(仮訳) 上海証券の国泰君安への“嫁入り”、“嫁入り道具”は大したことなし
②結婚時
・马云”闪婚”许家印 15分钟搞定12亿元(2014年6月6日 成都商報)
(仮訳) 馬雲、許家印と15分12億元で“電撃結婚”
・大富豪嫁百威英博 江苏啤酒市场格局突变(2014年7月7日 和訊)
(仮訳) 大富豪、百威英博を“娶る”、江蘇ビール市場急変
・阿里苏宁豪门婚姻冲击全零售业 市场寡头格局初定(2015年8月12日 証券日報)
(仮訳) 阿里と蘇寧が“豪華結婚”、全小売業に打撃、市場における売手寡占始まる
・水井坊”外嫁”之忧:董事长离职震动 外资打法被指”水土不服”(2014年7月17日 時代周報)
(仮訳) 水井坊、“国際結婚”で悩む:会長の辞任騒動、外資のやり方に合わず
・滴滴快的情人节宣布合并 或再现“螳螂式”婚配?(2015年2月16日 中国経済網)
(仮訳) 滴滴と快的(アプリタクシー企業)、バレンタインディに合弁宣言、またもカマキリ式“結婚”か
アプリ業界とタクシー業界の連携
(出所:現代快報 2015年2月15日)
③結婚後
・“阿苏”婚后首秀:苏宁易购入驻天猫 支付宝有望接入苏宁易购(2015年8月19日 広州日報)
(仮訳) 阿里と蘇寧易購、“結婚後”初の快挙:蘇寧易購、天猫に出店、支付宝、蘇寧易購へのアクセスにのぞみ
・快时尚品牌“七年之痒”:十大品牌展开千店混战(2015年1月21日 毎日経済新聞 )
(仮訳) 快時尚ブランド“7年目の浮気”:10大ブランド1000店舗で混戦展開
・园城黄金重组 “恋旧”难舍澳洲金矿(2015年1月14日 毎日経済新聞)
(仮訳) 園城黄金、重組後オーストラリア金鉱への“想い”を捨てられず
・南北车“复婚”:分开14年后重新联姻(2014年11月3日 人民网)
(仮訳) 南車と北車の“復縁”:分かれて14年、縒りを戻す
・不满麦迪克斯“改嫁”运盛实业 翰宇药业欲起诉 (2015年3月11日 毎日経済新聞)
(仮訳) 麦迪克斯の“再婚”に、運盛実業と翰宇薬業が提訴の構え
○日本企業とのケース
最後に、日本企業とはどうか、最近に話題となったケース(男女の仲および再編関連用語)を紹介しておきたい。
・台湾鸿海集团宣布收购日本夏普 “鸿夏恋”正式成局(中国新聞網 2016年3月30日)
(仮訳) 台湾ホンハイ集団、日本のシャープを買収 “ホンハイのシャープへの”想い”が実る
・家电业掀跨国并购潮:海尔收购GE 鸿海并购夏普 美的收购东芝(中華工商時報 2016年4月7日)
(仮訳) 家電業界にM&A旋風:ハイアールによるGEの収購(買収)、ホンハイによるシャープの併購(M&A)、美的による東芝の収購(買収)
・吞并夏普后鸿海股价下挫 股东不满财务包袱(騰訊科技 2016年4月7日)
(仮訳) シャープ併呑後ホンハイの株価下落 財務負担に株主の不満
○結語
本稿では、報道見出しの中国語表現を中心に紹介しただけで、本文の説明は割愛している。その本文を読むと、企業関係はまさしく人間関係そのものと感じさせられる。その中国人らしい描写に、分かりづらいところも、分かったような気持ちにさせられるから不思議だ。どちらの企業が“男”で、どちらが“女”かを明らかにしていないところが実によい。読者の想像を湧き立たせてくれる。こうした中国人の例えを使った言語表現力には、本稿のテーマに限らず、いつも感心させられる。
さて、中国企業の国際化、構造調整は、今後さらに急ピッチで展開してゆくことになると考えられる。その過程で、関係企業にどんな恋愛、結婚、悲恋が生まれてくるのか、大いに注視したいものである。
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