一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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コラム

2016/06/16 No.34中国にディズニーランドがやって来たテーマパークに中米対決の構図をみる?

江原規由
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

上海にディズニーランド(上海迪士尼度假区:上海ディズニーランドリゾート区、中国で2番目、アジアで3番目、世界で6番目)がやって来た。開園は6月16日。この世界に冠たるテーマパークの中国上陸に対し、中国各界の反応には、歓迎と応戦の正反対の構図が浮き彫りにされているようだ。メディアの多くは、その見出しを見る限り、ディズニーランドの開園にはやや疑問符的論調が少なくない。例えば、

○米老鼠在他国“水土不服” 特例还是通病?(新華社 2016年6月3日)
(ミッキーマウス、“海外になじめず”は、偶々なのか それとも 一般的なのか)

<狼、群れとなって虎を迎え撃つ>

目下、上海ディズニーランドに関し、メディアの最大関心事は、国内に多々あるテーマパークとの関係にある。この点、昨年、中国長者番付NO.1に輝いた王健林・大連万達集団〈大連ワンダー・グループ〉会長の応戦語録が極めて露出している。

万達集団
世界第2位の不動産企業。1988年、王健林(元人民解放軍軍人)により大連で不動産会社として創設(本社は北京)。大型ショッピングモールの万達広場や高級ホテル運営、マンションの販売など中国全土で各種プロジェクトを展開中。また、2012年、全米2位の映画館チェーン、AMCエンターテイメント・ホールディングスの経営権を掌握。最近では、「ゴジラ」などの映画製作を手掛ける米映画会社のレジェンダリー・エンターテインメントの株式の過半数を取得するなど、内外で、娯楽・文化産業の経営にも力を入れている。

王健林会長は、“好虎架不住群狼”(賢い虎も狼の群れには抗しがたし)といい、“上海ディズニーランドは20年間利益が出ないだろう”と挑発。これに対し、ディズニーランド側(華特・迪士尼公司)も黙っていない。例えば、  

○迪士尼CEO回击王健林:言论搞笑(北京商報 2016年6月13日)
(ディズニーランドCED、王健林に反撃:笑止千万)  

○迪士尼回应王健林“不该来中国”:没有任何影响(観察者網 2016年6月11日)
(ディズニーランド、王健林の“中国に来るべきでなかった”に応えて曰く:何ら影響なし)

なぜ、王健林が執拗なまでに上海ディズニーランドの進出に攻撃的なのか、そこには、御家の事情がある。万達集団は、今年5月、ディズニーランドの進出地、上海から700Kmの江西省南昌〈省都〉に万達文化旅游城(万達文化観光・レジャー城、以下、万達城)を開園させている。上海ディズニーランド開園直前にオープンさせるところは、いかにも万事“先駆け好き”な中国的対応ではある。王健林会長によれば、万達集団は、2020年までに国内15ヵ所、海外3~5か所に万達テーマパークを建設する予定にあるという。万達集団にとって、上海ディズニーランドは商売仇となる。王健林のいう“好虎架不住群狼”の虎とは上海ディズニーランド、そして、狼こそ万達城というわけである。

狼はほかにも多々いる。例えば、ほんの一例であるが、中国のテーマパーク設計・経営を手掛ける華強方特。同社は、既に、青島、瀋陽、鄭州、厦門等で大小20のテーマパークを開園させているほか、招商証券と共同でM&A基金(30億元規模/約340億円)を設立し、安徽省の蕪湖に文化産業生態圏(文化産業エコパーク)を建設するとしている。狼は、中国企業だけではない。ハリウッドの超大作映画をテーマにしたアトラクションなどを多く扱う米国のユニバーサルスタジオも2019年に北京で開園を予定(2015年11月建設開始)している。

現在、中国には、300ほどのテーマパークが存在するとされており、2015年だけでも、開園されたテーマパークは21ヵ所、さらに建設中のものが20ヵ所ほどあるという。次の見出しは、そんな状況を髣髴とさせてくれる。

○“狙击”米老鼠:中国主题公园战场硝烟弥漫(経済観察報 2016年6月12日)
(ミッキーマウスを迎え撃つ:中国のテーマパーク戦場に硝煙立ち込める)

<万達、群狼の長になれるか>

2001年に中国がWTOに加盟した折、「狼来了」の3語が、マスコミを大いに飾ったものである。この場合の狼とは、外資企業である。中国のWTO加盟で、外資企業が中国に大挙して押し寄せれば、国際競争力のない中国企業は一網打尽にされないかと懸念されたものである。今日、狼は中国企業となり、虎を迎え撃つわけである。世の中、変われば変わるものである。

ある調査発表(TEA-AECOMなど)によると、中国にあるテーマパークの経営状態は、その70%が赤字、20%がトントン、利益を出しているのは、わずかに10%という。それでも、2015年の世界のテーマパークのうち、ベスト10入りした中国のテーマパークが4つ(華僑城、長隆、華強方特、宋城集団)あるという。果たして、狼たちは好虎を餌食にすることが出来るのか、好虎の餌食となるのであろうか。

ところで、テーマパークにおける中米対決の勝敗を決定する有力な決め手は、観客動員数もさることながら、派生商品、即ち、ブランド製品、キャラクター、そして、ホテルなどの充実にある。この点、万達集団は、不動産、建設関係企業であり、さらに、「ゴジラ」、「スパイダーマン」、「インセプション」(SFアクション映画)、「パシフィック・リム」(SF怪獣映画)などのいくつものIP版権をもっているなど、強みがあるといえよう。

王健林会長は、“目標は5年以内にディズニーランドを追い越し世界最大の旅游企業になる”、“今は、ミッキーマウスやドナルドダックに熱狂する時代ではない。ディズニーランドは、IPアトラクションを拡大しているに過ぎない。創新(新たなアイデア、企画)がない”といって憚らない。この点、華強方特の劉道強総裁もディズニーランド何するものぞとばかり、“マクドナルドやケンタッキーフライドチキンが進出した時、湖南料理店も四川料理店も休業に追い込まれることはなかった。中国人に別なものを提供したに過ぎない”と豪語する。2人の言葉を聞くと、ディズニーランドへのけん制球ともナショナリズムの発露ともとれる。中国のCEOの発言には、直情的で実にわかりやすく、本音をちらつかせるところに面白味がある。中国企業でトップになる要件なのであろう。トランプ米国大統領候補に似たところがあると言ったら言い過ぎだろうか。

<上海ディズニーランドの仮評価>

開演前の5月、内覧会があった。招待客の印象は、交通至便、市街地、地下鉄出口から近いが、入場料は安くなく、各アトラクションでは待たされるが、ほかのディズニーランドも同じようなもの。園内の食べものは高いが、持ち込みができる、と評価は概ね良好であったという。

こんな評価もある。“ディズニーランドは上海市の重大な対外開放プロジェクトであり、中米文化交流、人文交流、経済・貿易および観光・レジャー協力の重要なシンボルである”(経済日報 2016年6月7日)。

ともあれ、上海ディズニーランドの行方は、世界が中国を見る視点を提供するのではないだろうか。“今の中国を知りたければ、上海ディズニーランドに行って、中国人を百聞一見せよ”である。16日の開園当日、上海ディズニーランド特別記念切手が発行される。それが今後どれほど値上がるのか、そんなところに、上海ディズニーランドへの評価が反映されるのではないだろうか。

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