一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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コラム

2017/04/06 No.39NAFTAの再交渉で何が話し合われるか〜TPP交渉の呪縛から逃れられないNAFTA〜

高橋俊樹
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

TPPが土台

米国のこれまでの政権はNAFTA(北米自由貿易協定)の改正については、原産地規則に限っては議会の承認を得ずに必要な国内法の改正を行ってきた。その手続きとして、大統領はproclamations(宣言)に署名することにより可能であった。また、NAFTA関連通商法は、大統領に関税の引き上げについての権限を与えているので、関税の変更については原産地規則と同様に、トランプ大統領は議会の承認を必要としない。

しかしながら、NAFTAにおける原産地規則と関税以外の分野の改正については、議会の承認が必要であると考えられる。したがって、さまざまな分野を議論するNAFTAの再交渉に当たって、トランプ大統領は米国の貿易促進権限法(TPA)に基づき、議会に対してNAFTA交渉開始の90日前の事前通告を行わなければならないし、30日前にUSTRのウエブサイトにその目的を掲載しなければならない。

トランプ政権の最近の動きを見てみると、通商分野における第1の優先事項であるNAFTAの再交渉が2017年の夏から年内にかけて開始されると見込まれる。そこで、NAFTAの再交渉では、北米3カ国の関心はどういうところにあるのか、あるいは交渉の優先分野とは何か、そして分野別の論争点は何であるのか、を探ることにしたい。

その分野別の再交渉の中身を検討してみると、主要な分野でTPP交渉での成果が基本となることが判明する。そもそも米加墨3国はTPP交渉の中で、NAFTAの積み残した点などの再検討や近代化を図ろうとした。NAFTAの再交渉はTPPの呪縛から逃れることはできないのだ。

これまでのメキシコとカナダの再交渉への姿勢

メキシコは2017年2月、NAFTAの再交渉に当たって、産業界から意見の聴収を開始した。この90日間を掛ける調査の結果は5月にはまとまる予定である。このため、まだメキシコ側のNAFTA再交渉の優先的なトピックスと内容は公表されていない。現時点では、NAFTAの近代化を検討すると述べているが、これがどのように行われるかは明らかではない。その中で、メキシコ政府当局者は特に安全保障と移民に関する2国間または3国間の協力を拡大しようとしている姿勢を見せている。

また、これまでのメキシコのNAFTA関連の動きから予想される優先的な交渉テーマとしては、NAFTAのトラック輸送規定が考えられる。NAFTAのトラック輸送規定の実施は、長年にわたる米国とメキシコ間の懸案となる通商テーマであった。NAFTAはメキシコの商業トラック輸送に関して、1995年には米国国境における4か所、2000年には米国全体への完全なアクセスを提供するとした。米国トラック業界の反対や安全上の懸念から、米国は長年にわたりこれらの規定の実施を延期してきた。現在では、トラック輸送の問題は表面的には解決されたが、これまで不満を募らせてきた米国関連業界は、NAFTAのトラック輸送規定などの改正を求める可能性がある

一方、カナダにおいても、潜在的なNAFTA再交渉のトピックスについて、米国に対して何を求めるかを公にしていない。その中で、カナダの関心が高い交渉分野としては、第1にNAFTAとWTOの約束から特別に除外された乳製品・鶏肉・卵のための供給管理政策が挙げられる。カナダは乳製品などの国内生産を管理しており、米国からの輸入も高い関税率を賦課することで制限している。米国の乳製品メーカーは、カナダへの市場アクセスの拡大を要求する可能性が高く、TPP交渉において、輸入の際の関税が無税となる関税割当枠の拡大などで乗り切ったカナダとしては、NAFTA再交渉はより厳しい戦いになると考えられる。

また、米加間の針葉樹協定の交渉は長らく紛争が続いた分野である。米国産業界は、カナダの州が所有する森林において、木材を伐採する際の払い下げ価格が不当に安く決定され、カナダ木材輸出業者の輸出価格の低下につながっている、として不満を表明してきた。さらには、カナダ政府は、米国の米国政府調達におけるバイ・アメリカンの姿勢を問題にしている。カナダの企業は、NAFTAとWTO政府調達協定の下で広範な米国連邦調達に入札することができるが、連邦資金を使った国家入札契約からは除外されている。カナダは、米国の巨大な政府調達市場への参入機会の拡大を求めている。

自動車の原産地規則で米国特有のコンテンツを要求するか

原産地規則は、北米原産と認められて、関税の免税の対象となるかどうかを判断するためのルールを定めている。通常、NAFTAにおいて北米原産と認められるには、領海にて漁獲された魚のような「完全に原産地で調達されたもの」、小麦粉を輸入し加工してビスケットを生産するなどの「実質的に原産国で生産されたもの(実質的な変換)」、または外国から輸入される部品・資材の割合が30%に達していないケースのような「非NAFTA産の割合が半分未満の場合」、が考えられる。なお、この場合の「実質的な変換」とは、具体的には輸入した部品・資材の関税番号が加工後には他の関税番号に変換されていることを意味する。

したがって、NAFTAの自動車生産で関税免税を得る場合は、中国やインドネシアから輸入する自動車部品などの割合をなるべく抑えて、北米産のコンテンツをなるべく多く採用することが求められる。現在のNAFTA原産地規則における自動車、軽トラック、エンジンおよびトランスミッションの現地調達比率は62.5%、その他の車両および自動車部品の場合は60%である。つまり、それ以上の北米コンテンツを達成しなければ、自動車や自動車部品の関税を無税にはできない。

NAFTAの再交渉においては、この62.5%という現地調達比率を引き上げるという選択肢がありうる。例えば80%まで現地調達率が高まれば、中国やインドネシア、あるいは日本などからの部品の輸入は極力控えなければならない。しかし、あまり割合を上げすぎると米国・カナダ・メキシコで生産する自動車メーカーの多くが北米原産比率を達成できなくなる場合が発生するので、適度な比率が求められることになる。この現地調達比率の引き上げは、各国の政治的な思惑も反映されるので、交渉の合意には時間がかかるものと思われる。

また、米国は主要分野で米国特有のコンテンツ・ルールを求める可能性がある。例えば、自動車の原産地規則において、自動車の生産に占める米国産部材(米国コンテンツ)の割合を、最低25〜33%は達成するよう要求するかもしれない。こうした米国特有の原産地ルールは、NAFTAの精神と趣旨に反することになるし、3カ国の部品・資材はともに交換可能で区別できないことを規定するNAFTA301条の「内国民待遇」の違反になる。ただし、米国は301条を柔軟にクリアーできる米国コンテンツの導入方法を見出す可能性がないとは言えない。

紛争解決プログラムで2国間パネル・レビューの変更・除去を求める

カナダのマルルーニ首相が1980年代半ばに米国との間で米加自由貿易協定(FTA)を交渉したとき、その主要な目標は、針葉樹を含むカナダ製品に対して繰り返し使用されていた相殺関税(CVD)などの米国の貿易救済措置からカナダを免除することだった。

米加FTAでは、カナダ側の意図が反映されなかったが、NAFTAでは紛争解決メカニズムの中に対抗措置を導入することができた。NAFTA第19章には、メキシコの支持もあり、輸出者が国内法規を使用する代わりに最終的なアンチ・ダンピング(AD)と相殺関税裁定を審査するよう二国間パネルに求めることを可能にする規定が盛り込まれた。

カナダによってたびたび要請されたこの2国間パネルは、米国側は扱いにくい措置であると考えているようだ。これを受けて、トランプ政権はこのNAFTAの2国間審査プロセスを変更するか、あるいはそれを取り除きたいとカナダに通知したようである。

一方、2005年のカナダの下院報告は、NAFTA第19章の2国間パネルの審議プロセスにおける重大な問題を明らかにした。米国の閉塞性のため、これらのレビューは米国の国内裁判所による控訴よりも、時間と費用がかかり、不公平であるとのことだ。この意味においては、たとえNAFTA第19章の2国間審査プロセスが完全に廃止されたとしても、必ずしもカナダの輸出者が大きな利益を失うということではないと考えることができる。

また、NAFTAは紛争を解決するための国家間メカニズム(第20章)を新たに創設した。このNAFTAの紛争解決手続きは、NAFTAの1年後に施行されたWTOの規定と実質的に重複しているため、あまり利用されていない。その代り、WTOの紛争解決は幅広く使用されている。

政府調達において困難なバイ・アメリカン法のルール改正

カナダは、米国のインフラ市場への参入時には、バイ・アメリカン法の適用を受ける。この法の下では、米国政府が州や地方自治体のインフラ・プロジェクトに資金を提供する場合、通常、100%の米国産鉄鋼と60%のその他の部材のローカル・コンテンツを求める。トランプ大統領がバイ・アメリカンとアメリカ・ファースト政策を強調する前から、バイ・アメリカン政策は議会で強い支持を得ていた。

カナダは、オバマ政権時の2009年復興法におけるバイ・アメリカン条項の免除を引き出すことができなかった。オバマ大統領は、ほとんどの復興予算が支出されるまでこれらの話し合いを先延ばしにした。カナダのサプライヤーには、残されたわずか10億ドル~20億ドル相当の入札機会が与えられたにすぎなかった。TPPの交渉において、バイ・アメリカンのルール変更は当時のカナダのハーパー政権の最優先事項の1つであったにもかかわらず、米国はそれを拒否した。

カナダとしては、NAFTA再交渉において、何としてもバイ・アメリカンの免除を盛り込んだ条文の改正を勝ち取りたいところである。しかし、トランプ政権は、オバマ政権よりもバイ・アメリカン条項を弱める可能性は低い。実現可能な目標は、現在の下請けの機会が維持されるようにすることである。このため、カナダとしてはNAFTA再交渉において、インフラ投資におけるバイ・カナディアン条項を盛り込むという選択肢を検討することもありうる。

供給管理政策で無税枠拡大を要求か

カナダはTPP交渉において、供給管理政策を維持することに成功したものの、その代わりに一定の譲歩をせざるを得なかった。カナダがTPPで譲歩した供給管理政策は、NAFTA再交渉の出発点となるが、この内容で米国は満足しないと思われる。

カナダはTPPの合意を受けて、国内の酪農、家禽、養鶏農家に15年にわたって総額43億ドルの補助金を支出することを表明している(酪農家当たり16.5万ドル、養鶏農家8.4万ドル、七面鳥農家8.8万ドル、卵農家7.2万ドル、ブロイラー農家19.2万ドル)。

TPP交渉の妥結により、カナダはミルク・バターなどの乳製品市場の3.25%、鶏肉市場の2.1%、卵市場の2.3%、七面鳥の2%、ブロイラーで孵化した卵市場の1.5%分に相当する無税での関税割当枠をTPPメンバー国へ認めることに合意したことになる。

また米国酪農業界は、カナダの乳製品の製造において輸入されたタンパク質固形物やその他の液体牛乳代替物の使用を制限するカナダの提案に不満を募らせており、トランプ政権はNAFTAの再交渉ではさらなるカナダ側の無税輸入枠の拡大や供給管理政策の変更などを要求してくるものと思われる。

輸出自主規制の導入を狙う

カナダと米国との針葉樹貿易を巡る紛争は、米加FTAが発効した直後の1990年代にも遡ることができる。米国商務省は90年代前半にカナダの米国への針葉樹輸出に対して6.51%の相殺関税を賦課した。これに対してカナダは、94年に発効したNAFTAの第19条を用いて2国間パネルの設置を要請。同パネルは相殺関税を取り消した。これを不服とする米国木材協会は2国間パネルが米国憲法違反と主張した。こうした対立は、カナダ側が一定量を超える分について輸出税を賦課することを約束した96年の針葉樹協定の発効で一旦は沈静化した。

しかし、2001年4月に針葉樹協定が失効したことから、米国は再び相殺関税とダンピング税を賦課することになった。これに対して、カナダは州有林の払い下げ制度は補助金にはあたらず、米国の決定はWTO違反として、WTOのパネル設置を求めた。その後、WTOパネルは、カナダの措置は補助金でないとは言えないが、米国の措置はWTO協定違反との最終報告書を提出した。結果的には、こうした2国間の紛争はカナダ側の最高15%の輸出税を定めた2006年の針葉樹協定の締結で収まることになった。この協定は2015年に失効した。

その後、米国の国際貿易委員会(ITC)は、相殺関税を課すための最初のステップとして、カナダの針葉樹輸出が米国の生産者に害を与えているかどうかの調査を行っている。この針葉樹材交渉はNAFTA再交渉と同時並行的に進む可能性が高いが、米国は何らかの輸出規制を新NAFTA協定に組み込もうとしているようである。

そして、これは牛肉などの他のセクターにも適用できると予想される。なにしろ、米国の新通商代表部(USTR)代表に指名されたロバート・ライトハイザー氏は、1980年代初めのレーガン政権時代において、日本の対米輸出自主規制を担当したタフなネゴシエーターであり、その辣腕がNAFTA再交渉にも反映されると考えられるからだ。

インターネットを活用したサービスの導入を図る

NAFTAは、国境を越えたサービスや電気通信サービス及び金融サービスの緩和、政府調達におけるサービス取引などに関して、個別の章でカバーしている。米国にとってサービス分野は非常に競争力のある領域であり、FTA交渉における最も関心のある分野の1つである。それは、NAFTA再交渉においても例外ではない。

NAFTA加盟国は、TPPで話し合われた新しいサービス分野の交渉を盛り込むことを検討すると思われる。20年以上も前のNAFTA交渉における国境を越えたサービスの議論は、郵便サービス、航空サービス、バス・トラック輸送サービスなどに関するものであった。これが今日においては、インターネットなどを活用した情報の国境を越えた移動、情報のデータセンターの現地化などの新分野に関心が移っており、NAFTA再交渉で取り上げられることは確実である。

TPP交渉に基づく電子商取引、情報データ管理を検討

上述のように、20年以上前のNAFTAの発効以来、国際商取引におけるインターネットの役割は劇的に拡大してきた。技術の進歩は企業の国際貿易やビジネスの根本的な変化をもたらしたが、既存の貿易ルールでは対応できない新たな障壁も出てきている。 NAFTA締約国は、電子的手段による情報の国境を越えた移動に関連する問題や、データセンターの強制的な現地化に関する問題について検討することになる。その場合には、TPP交渉の議論が大いに参考になると思われる。

知的財産権(IPR)でTPPの成果を上回る要求を行うか

NAFTAは知的財産権の章を含んだ最初のFTAであった。NAFTAの発効以来、米国のFTAの知的財産権の規定はいくつかの点で進化しており、NAFTAの再交渉においてもそれは踏襲されるものと思われる。

例えば、TPPでは、著作物の保護期間を70年に延長、医薬品の開発データの保護期間を最大で8年とする、営業秘密の不正取得・商標侵害ラベルやパッケージの使用・映画盗撮に対する刑事罰義務化、著作権侵害があった場合に原則として作者などの告訴がなくても起訴できるようにする(非親告罪化)、商標の不正使用についての法定損害賠償制度の設置、などについて合意が行われた。さらに、TPPはジェネリック薬企業から製造承認の申請があると、政府の医薬品規制当局が当該医薬品にかかる特許権者(新薬を開発した製薬企業)に通知を行い、特許権を侵害していないか確認することを義務付ける制度(特許リンケージ)を導入した。

米国は間違いなく、こうしたTPPでの成果をNAFTA再交渉でも要求することは確実である。特に、知的財産権のルールの中でも医薬品のデータ保護期間に関して、米国のルールの適用をカナダやメキシコに迫るものと思われる。トランプ政権や米共和党議員らは、TPPでの合意よりもさらに強力な知的財産権保護を望んでいる。米国の現行のバイオ医薬品のデータ保護期間は、カナダの8年間とは対照的に、12年間の期間が与えられている。したがって、NAFTA再交渉では、米国はTPPよりも長いデータ保護期間を要求すると思われる。

投資および投資家国家紛争処理(ISDS)に関する条項の改定

NAFTAを始めとして米国のFTAや二国間投資協定(BITs)及びTPPは、投資の章を含んでおり、投資財産の内国民待遇及び最恵国待遇、投資財産に対する十分な保護及び保障、特定措置の履行要求(現地調達,技術移転等)の原則禁止、正当な補償等を伴わない収用の禁止等を規定している。また、NAFTAは投資家と国との間の紛争の解決(ISDS)のための手続を規定した最初のFTAであった。

北米3カ国は、最近の自由貿易協定(FTA)における投資に関する合意を反映するために、NAFTAの投資章(第11章)の改訂に同意するかもしれない。例えば、TPPの投資章ではISDSを用いた濫訴防止のために複数の規定が設けられており、そのような内容を含む改定が行われる可能性がある。

具体的には、TPPのISDSに関する投資章では、仲裁廷の権限の範囲外である申立て等を迅速に却下することを可能にする規定、全ての事案の審理・判断内容等を原則として公開することを義務付ける規定、時機に遅れた申立てを防止するために申立て期間を一定の年数(3年6か月)に制限する規定、仲裁廷は懲罰的損害賠償を命じることはできないとする規定等、が盛り込まれている。

ただし、トランプ大統領は、たびたびISDS条項に基づく提訴を行ったエクソン(Exxon)社の元CEOであるレックス・ティラーソン氏を国務長官に任命しており、これが投資章の改定にどのような影響を与えるかは今のところ未知数である。

労働と環境で強制的な条項を求める

NAFTAは労働者の権利条項がFTAに付託された初めてのFTAである。米国は、メキシコからの自動車などの輸入の増加を抑えるため、米国とメキシコ間の賃金格差をできるだけ縮めたいと考えている。この方法の1つとして、労働者の権利の保護に関連するNAFTAの規定を強化し、できるだけメキシコの労働者の雇用に係る費用を引き上げて、結果的に賃金格差の縮小を図ることが予想される。

TPPと米国コロンビアFTAなど、最近の米国が交渉した自由貿易協定には、国際的に認められた労働者の権利保護の原則を組み込んだ法律を執行するための強い条項が盛り込まれている。現在のNAFTAには、加盟国が自らの労働法を施行するための条項しか含まれていない。メキシコは、TPPの交渉が合意に達した後、TPPとは独立した労働改革を進めているといわれている。USTRによれば、メキシコは労働法をTPP労働規定と整合させるための改革を進めることに合意したとのことである。これは、メキシコが労働協議のための制度を改革し、団体交渉を保護することを目指していることに他ならない。

また、NAFTAは環境に関する条項を含む最初の米国FTAであった。米国は、メキシコに向かいがちな投資を引き寄せるため、最近のFTAに含まれている強制的な環境条項を、新たなNAFTA協定に盛り込もうとする可能性がある。一方では、NAFTA加盟国は絶滅危惧種の貿易や違法漁業などの環境犯罪の分野で協力を強化することも考えられる。

エネルギーの安全保障を強めたい米国

NAFTAのエネルギー規定は、メキシコ政府がエネルギー分野への外国投資を留保する権利を認めている。NAFTAの発効から20年以上も経過する中で、 米国などの北米企業の関心は、北米大陸の化石燃料開発(特にメキシコ)の開放にある。したがって、米国はNAFTAの再交渉において、メキシコの石油セクターへのより多くのアクセスを求めるか、エネルギー生産と安全保障に関する2国間の協力の強化を要請する可能性がある。

カナダに関しては、米加FTAとNAFTAのエネルギー章には、いわゆる「比例性条項(第605条)」が含まれている。この条項は、カナダのエネルギー輸出に対する国内の制限が、米国への輸出の割合を減らすことはできないことを規定している。この章ではまた、国内消費価格よりも高い米国への輸出価格を課すことを禁止している。カナダでは、この条項がカナダのエネルギー政策の決定を制限するとして変更を求める動きもある。

通関と貿易円滑化の検討課題

NAFTA再交渉における国境の両側の税関手続きの変更は、域内貿易に関連する企業に大きな影響を与える可能性がある。NAFTA再交渉での検討課題として、通関の自動化手続き、域内の貿易手続きを単一の窓口で取り扱うことができるシングルウィンドーの創設、関税割り当てや原産国表示の情報に関する要求への迅速な対応、迅速な出荷のための特別通関手続、などが想定される。

注目される国境税などの動き

トランプ大統領は、大統領選挙キャンペーンにおいて、米企業が海外で生産した製品を米国に輸出しようとする場合国境税を課すことを公約した(メキシコからの輸入に35%の関税)。一方、米共和党の国境調整税案は、簡潔に言えば、輸入品には20%の法人税がかかるが、米国企業の輸出による利益には税金が免除されるというものだ。

今のところ、トランプ大統領は国境税の中身を詳細に説明していないし、共和党の国境調整税案に対して支持するかどうかを明らかにしていない。もしも、こうした国境税や関税の引き上げに関して、米国がNAFTA再交渉の場で持ち出すならば、議論が紛糾することは確実である。

1970年代に入り、米国の貿易収支の悪化が更に深刻化する中で、米国に保護主義的な圧力が高まった。これを受けて、1971年にはニクソン米大統領が10%の輸入課徴金の導入、金とドルとの固定比率での交換停止などを含めた新経済対策を発表した。この金兌換停止は、その後の73年からの変動相場制につながった。70年代の輸入課徴金が、トランプ大統領の国境税に相当するかどうかはまだまだ未知数であるが、NAFTAの再交渉も含めて今後の国境税等の動きを注意深く見守る必要がある。

(参考文献)

“The North American Free Trade Agreement(NAFTA)” M. Angeles Villarreal, Ian F. Fergusson, Congressional Research Service, February 22, 2017

“What will Trump target in a NAFTA renegotiation” Scot Sinclair, Behind the Numbers, January 24, 2017

トランプ大統領は減税やインフラ投資拡大で経済成長を高められるか~トランプ新政権の規制・エネルギー・貿易政策改革に死角はあるか~(その1~その5)」、国際貿易投資研究所(ITI)、フラッシュ320~324、2017年3月1日~10日

トランプ新政権でNAFTAはどうなるか~北米戦略の方向性を探る~」、国際貿易投資研究所(ITI)、コラムNO36、2017年1月11日

「対談:トランプ新政権をめぐる米国経済の展望 (その1)(その2)」、国際貿易投資研究所(ITI)、フラッシュ305~306、2016年11月25日

トランプ政権の経済通商政策と日本の対応~TPPの批准やRCEP交渉の現状と今後の行方~」、国際貿易投資研究所(ITI)、コラムNO35、2016年11月17日

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