一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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コラム

2022/09/09 No.97カンボジア見聞記(1)中国不動産投資、宴の後

大木博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

2022年8月21日~31日にカンボジアのコッコン、シアヌークビル、プノンペンの3都市を訪問した。タイ東部のトラート県のクロンヤイからカンボジアのコッコンに入り、シアヌークビルを経由してプノンペンまで陸路を移動した。

今回のカンボジア訪問の目的の一つは、コロナ禍における中国資本のプレゼンスをカンボジアで確認することであった。

バンコクやパタヤでもそうであったように、コッコン、シアヌークビルやプノンペンでも目抜き通りや観光施設で中国人観光客の姿(団体)を目にすることは、殆どなかった。タイ国境にあるコッコンのカジノは閑散としていた。シアヌークビルのカジノも活気がなく、まさに気の抜けたビール状態。タイの東部経済回廊のウタパオ新空港やシアヌークビル空港のフライトスケジュールの案内表示版を見ても中国間のフライトは飛んでいないようであった。

シアヌークビルの人口30万のうち10万人が中国人といわれていたが、同行したガイドによれば現在では7万に減っているという。しかし、実感的にはもっと減っているような気がした。シアヌークビルでは目抜き通りの中国系ホテルに4日間滞在したが、毎晩、大通りを散策しても、中華料理店に入っても、中国人旅行者らしき人とは出会わなかった。屋外カラオケ付きの中華料理店では、地元に住み着いた中国人家族やその友人とおぼしき10名程度のグループが、持ち歌(中には日本の曲もあった)を披露していたが、大通りの中で唯一、この店が騒がしかった。

シアヌークビルとプノンペンは、特に、中国の不動産投資が、集中豪雨的に行われていた場所である。しかし、今回、我々がシアヌークビルで見た光景は、夥しい数の未入居者もしくは建築放棄された建築物の累々たる惨状であった。海岸線に沿って建てられたコンドミニアムのほとんどが、目分量でみて、建設放棄されたか、細々と建設中か、出来上がっても入居者がいない無人ビルのいずれかと思われた。

プノンペンでも状況は同じ様なものと感じた。2015年6月19日に開業した東横INNプノンペン(2020年12月に地場資本に運営権を譲渡)の周りは、中国資本の高層建築群(カジノホテル Naga World、The Peak等)に包囲され、東横インは埋没していた。その真向いにDiamond Islandが浮かんでいる。カンボジア地場の大手銀行、Canadia Bankと中国のBOCC Development Co Ltdが事業主体となり、ホテル、コンドミニアム、商業施設、学校などをそろえた高級サテライトシティ(Diamond Island Satellite City)である。そこには、凱旋門を凝らした建物を中心にして弓状に荘重な建物(エリゼ宮)が連なっていた。しかし、人影も少なく、活気が感じられなかった。

シアヌークビル市内風景(2022年8月)

人影もまばらなシアヌークビルの海岸、中国企業が建設したコンドミニアムが立ち並ぶ
シアヌークビル市内 建設中のビル?
人通りも閑散とした夕方の大通り
市内の目抜き通りで放棄されたビル
シアヌークビル郊外の住宅建設も中断か?

中国の海外不動産投資の誘因

中国資本がシアヌークビル、プノンペンに夥しい不動産投資に走った理由として、現地関係者からいくつかの説を聞いた。

第1は、中国国内の不動産販売促進のための特典説。中国でコンドミニアムを買えば、プノンペンのコンドミニアムがおまけでついてくる。当然、中国国内販売が不振になればプノンペンの物件の利用も減る。

第2は、中国のお金持ちのフラストレーション捌け口説。いくらお金を稼いでも、国内で派手に使うと目をつけられ、その地位も安穏としてはいられない。天に届くような高層ビルは、高ければ高いほど権力(金権)の象徴となる。まさに、現代のバベルの塔建設を競っているが、プノンペンでもその動きが波及している。

第3は、マネーロンダリング。カンボジアは高度にドル化しており、2020年時点で現金の83.7%がドル、預金の91.7%が外貨建て(主にドル建て)というほどのドル依存国である。カンボジアの経済政策の基本は、対ドルレートを安定させることにある。カンボジア程、ドル口座を容易に開設できる国はそう多くはない。当然、カンボジアでの不動産投資、ギャンブルは、元をドルに換える最も容易な手段となる。これに拍車をかけたのが、オンラインカジノであった。

しかし、フン・セン首相が、2019年8月18日に、治安と公序の維持のため、オンラインカジノ及びスロットマシーン等の賭博ゲーム機に係る営業免許は、今後発行しない、また、現行の免許は期限まで有効であるが、更新はしない旨を通達したことで不動産投資の転機が訪れた。

第4は資産保全。カンボジアでは、外国人は土地を購入できないが、99年間の使用権を獲得できる。長期的な資産保全として、コンドミニアムを購入するメリットがある。前述のDiamond Islandのエリゼ宮には、入居者・企業の影はほとんどなさそうであった。しかし、カンボジアでは高層コンドミニアムの外形だけ(コンクリートで)作りさえすれば、下水道設備などの中身がなくても売れるという。

Paris in Phnom Penh, Diamond Island

プノンペンの凱旋門

見取り図

(本調査は令和4年度JKA補助事業で実施)

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