一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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コラム

2022/09/21 No.99カンボジア見聞記(3)貧者の銀行、アクレダ銀行

大木博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

プノンペン訪問は今回が3度目となる。最初は2010年10月、カンボジアの貧困層向けビジネス(ベース・オブ・ピラミッド:以下、BOP)調査が目的であった。2回目は2015年8月、産業人材育成の現状について調査をした。2011年のミネベア、2012年の住友電装、矢崎工業と大手電気電子・自動車部品メーカーの進出が相次いだことでサプライチェーンにおけるカンボジアへの位置づけが注目された時期である。

初回の訪問先は、マイクロファイナンス(以下、MF)などの金融(アクレダ銀行、AMERT、マルハン・ジャパン銀行、カンボジア中央銀行)、中小零細企業(以下、MSME)を支援するNGO(米国のCARE及びIDE、オランダのSNV)や開発支援機関(JICA、米国のUSAID, 豪州のAUSAID 、デンマークのDANIDA)等で、それらの活動内容を調べることであった。

カンボジアにおけるNGOの活動は、1990年代後半では人権、女性の地位などの活動が主であったが、2010年では、農業や観光、クラフト製造、フェアトレード支援に幅を広げていった。当時のカンボジアはMSMEが育っておらず、まだ、BOPビジネスを行う段階には至っていなかった。

USAID は、農業、繊維、水、養豚、蜂蜜、エコ・ツーリズムなどの分野で、NGOと協力しながら、バリュー・チェーン・アプローチの視点から生産性の向上、マーケットの整備、インフラの改善などのMSME支援プロジェクトを立ち上げていた。バリュー・チェーンの視点といっても、新規に創造するのではなく、文化的・歴史的背景も考慮し、既存のバリュー・チェーンの改善を目指していた。

今回の調査では、MSMEが育って来ているか否かは確認できなかったが、コロナ禍で観光産業が大打撃を受けたということから、少なくともパンデミックが発生する以前には観光分野における企業が多数存在し、その中でMSMEも育っていたのではないかと考えられる。

一方、欧州のNGOが熱心に進めていたMF事業では、社会貢献の時代は終了したとして出口戦略(自立化)を進めていた時期であった。その中で、NGOを出自とする商業銀行で、カンボジア国内に263支店を擁し、ラオスやミャンマーでも事業を展開するメコンのリーディングバンクに飛躍したのがアクレダ銀行である。

プノンペンのイオンモール1号店のATMコーナーとアクレダ銀行の有人支店

主要9銀行がひしめくイオンモール1号のATMコーナー
アクレダ銀行のみが有人支店を開設

アクレダ銀行、成功の秘密

プノンペンに入ってすぐに、ガイドにアクレダ銀行の本店に案内してもらった。日曜日であったため営業はしていなかったが、本店周辺の近況を観察することができた。本店建物は2010年に訪問した当時と変わっていなかったが、本店の後ろには2015年12月に増築されたという高層ビルが屹立していた。2010年に、アクレダ銀行本店の2階にある頭取室でイン・チャンニ氏に面談する幸運に恵まれた。イン・チャンニ頭取は、アクレダ銀行が世界で最も成功したNGOの銀行の一つとなった秘密を次のように説明してくれた。

「零細事業にはグループ融資を、小規模事業には個別融資を行っています。零細事業融資の場合、2~10人でグループを作っていただきます。顧客の都合に合わせて、2人でもいいし、3人、4人、5人でもかまいません。担保も必要ありません。しかし、事業のアイデアについてじっくり話を聞く。100ドルをどう使いたいのか、基本的な事業計画があるのかどうか伝えていただきます。事業計画について口頭で回答していただく理由は、読み書きができない人がほとんどだからです。カンボジアでは零細事業の起業家でも、読み書きができないことがあります。ですから、議論に多くの時間を費やす必要があります。銀行に足を運んで100ドル借りたいという。しかし、書類を書くことはできない。そのため口頭で融資資金の使途を尋ね、情報を伝えます。100ドルを何に使うか尋ねたとき、野菜を売る資金にしたいと回答があったとします。その場合はかご代にいくら、野菜の在庫にいくらなど、どのくらい使う予定があるのか話していただきます。われわれは、こうした過程に多くの時間をかけます。」

アクレダ銀行は、こうした努力の積み重ねにより、零細事業者から信用を得て、顧客基盤を拡大して発展した。

銀行サービスを受けられない貧困層や零細事業者は、後発地域のメコン地域では、依然として多数を占めている。貧困層や零細事業者を顧客基盤とするような銀行を見つけることは、先進国やASEANの先発国の銀行でも難しい。銀行サービスを受けられない貧困層や零細事業者、小規模事業者、中規模企業を対象にした融資など優れたサービスを提供することでアクレダ銀行は、メコン地域におけるリーディングバンクへと飛躍した。

今回のプノンペン訪問の面談先でアグレダ銀行について訊ねると、異口同音に、すべての人が、アクレダ銀行のイン・チャンニ頭取に尊敬の念を示していた。カンボジアには、ビッグ10と呼ばれる、海千山千のビジネス成功者がいる。聞こえてくる話は、中国との関係、土地取得、政権との距離等利権の絡みが多かった。イン・チャンニ氏はカンボジアを潤す一滴の清水のように感じられた。

アクレダ銀行本店
#61, Preah Monivong Blvd., Sangkat Srah Chork, Khan Daun Penh, Phnom Penh, Cambodia

2010年10月撮影
左2022年8月撮影 右アクレダ銀行HPより転載

アクレダ銀行について

1992年:国連開発計画(UNDP)が資金を拠出して、国際労働機関(ILO)が実施した「零細事業・インフォーマルセクター推進プロジェクト」下で職員30名弱のNGO発足

1993年:零細・小企業開発と融資を行うMF専門のAssociation of Cambodian Local Economic Development Agencies(ACLEDA)を立ち上げ

1998年:ACLEDAはUSAID、国際金融公社(以下、IFC)、UNDPなどの助言と財政面での支援を受けて、商業銀行への転換に向けた3年計画をスタート。

2000年10月:貧困層向け金融の専門銀行としてライセンスが交付され、「ACLEDA Bank Limited」が誕生。

2003年12月:商業銀行のライセンスが交付。社名を「ACLEDA Bank Plc.」に変更。商業銀行化の目的は、ドナーの支援がなくとも金融機関として自立すること。

専門銀行の移行に伴い、新たに株主構成が変わった。最大の株主である「ACLEDA NGO」が45.61%、アクレダ従業員のACLEDA Staff Association(ASA)が5.39%の株式をそれぞれ所有し、残りの49%は、アクレダの金融事業を資金面で支えていた4機関(IFC、ドイツのDEG(Deutsche Investitions und Entwicklungsgesellschaft mbH)、オランダのFMO(オランダ開発金融公社)、オランダのトリオドス銀行(Triodos Bank))が均等に所有した。

2009年:FMOが12.25%の株式を香港ベースの英系企業グループJardine Matheson Groupに売却した。

2011年:DEGが持分をフランスのCOFIBRED(Compagnie Financière de la BRED)に売却。

2013年11月:日本のオリックスがトリオドス銀行から株式の一部(6%)を取得した。日系企業が関心を持ち始めたばかりのカンボジアで、日本の金融系大手企業が現地企業の株式を取得するのは初めて。

2014年8月:三井住友銀行が、IFCが保有しているアクレダ銀行の発行済株式の12.25%を取得。同行は、2014年1月よりアクレダ銀行が新設したカンボジア国外の企業向け相談窓口部署(「Foreign Corporate Unit」)に職員を派遣して、業務協働を進めていた。日本企業の資本参加の目的はアクレダ銀行をビジネスパートナーとして新規投資案件の発掘や現地進出の日系企業サポート等である。

(本調査は令和4年度JKA補助事業で実施)

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