一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2007/11/28 No.103中国の対内直接投資額の謎〜商務部公表額と国家統計局公表額の違いは何か?

増田耕太郎
(財)国際貿易投資研究所 研究主幹

中国の対内直接投資額は、商務部の公表額と国家統計局の公表額の異なる2つの数値がある。両者の差は、2005年の場合は120.81億ドルと巨額である(表-1)。両者の投資額は2004年の数値までは一致していたが、2005年、2006年は異なっているので、中国の対内投資額は引用する資料によって2つの投資額が出回ることになる。

2005年の投資額の公表経緯は

  1. 先ず、商務部が603億ドルと公表した
  2. その後、商務部は、724億ドルに上方修正した
  3. 国家統計局は、商務部が上方修正した後に公表したのに、1)と同額の603億ドルを掲載した。

このため、なぜ、後から発表となった国家統計局の資料は訂正された投資額を用いないのか?どちらが正しいのか?などの疑問が生まれた。

2007年に公表された2006年の投資額も、2005年の投資額と同様に商務部と国家統計局では公表額が異なっている。

商務部の『中国経済貿易年報』、『中国商務年鑑』と国家統計局の『中国統計年鑑』の2006年版、2007年版の対内直接投資額(総額)を表にすると、下表(表-1)のとおりである。

 〔表-1〕 中国の対内直接投資総額~商務部公表と国家統計局公表の違い(単位:億ドル)

 2005年2006年
商務部 公表数値724.08694.68
国家統計局 公表数値603.25630.21
差額120.8164.47

ところが、「2つの異なる公表数値がある」という見方は誤解であることに、当研究所での2006年の中国投資額のデータ整備を行っている過程で気づいた。統計を仔細にみると商務部と国家統計局の両者の統計は、統計の範囲が違うだけで両者の数値に整合性がある。

中国の商務年鑑によると対内直接投資額(実行ベース)の内訳は、表-2のとおり5項目からなる。表-1の商務部と国家統計局の両者の差は、表-2の5番目の項目(『5.その他』)と一致している。

 〔表-2〕 対内直接投資額の内訳(単位:億ドル)

 2005年2006年
合計(Total)724.08694.68
  1.中外合資企業(Equity Joint Venture)146.14143.78
  2.中外合作企業(Contractual Venture)18.3119.40
  3.外資企業(Solely Foreign owned Enterprise)429.61462.81
  4.外商投資股分有限公司(FDI Share Holding inc.)9.184.22
  5.その他(Other)120.8164.47
合計 から「5.その他」を差し引いた差額603.25630.21

表-2の記載状況を国家統計局の「中国統計年鑑」記載の値と照らしてみると、5番目の項目である「その他」の金額が空欄となっている。その結果、商務部の公表額と比べると両者の差額分だけ少ない数値である。

このことから、両者の違いは、表-2の「5.その他」を含むのが商務部公表額、含まないのが国家統計局公表額であることが分かる。

それでは、「5.その他」は何を意味するのか?どちらも説明が省かれているが、それを推測する手がかりがある。

第1は、中国商務年鑑2007年版の論文(General Situation of China’s FDI Absorptionin 2006“)における説明である。

  1. 2006年の対内投資額694.68億ドルのうち、『非金融部門の投資額は630.21億ドルである』としていること。630.21億ドルは国家統計局の公表数値と一致する。(すなわち、表-2の「5.その他」を除いた金額の合計である)
  2. 2006年の対内投資額694.68億ドルから前項?の金額630.21億ドルを差し引いた64.47億ドルは金融部門である。対象となる金融部門について、『外資との合弁の銀行、保険企業、ファンド・マネジメント企業』と説明していること。

第2は、両者の業種別内訳による投資額の違いである。国家統計局発表の業種別内訳と商務部発表の業種別内訳を照合すると、金融業の投資額だけが異なっていて、他の業種の投資額は一致している。そこで、過小となっている国家統計局公表の「金融」部門の投資額を商務部公表額に置き換えると、両者の総額は一致する。このことから、国家統計局の対内投資額には、一部の「金融」部門への投資が除外されていると推測できる。その除外した「金融」部門は、前述(第1の2項)であるとの推測も成り立つ。

この推測は、商務部が2005年の投資額を訂正した際、訂正理由として『銀行・証券・保険分野などの金融』分野の直接投資額を加えたためとしたこととも符合する。

そうしたことから、商務部の対内直接投資額は先にあげた「金融」部門を含み、国家統計局の対内直接投資額は「金融」部門を含まないと受け止めることができる。

なお、直接投資残高統計は、対内投資も対外投資も「金融部門を除いた実行額」として公表されている。

(注)当研究所発行の「世界主要国の直接投資統計集」、調査研究報告書、研究季刊誌「国際貿易と投資」掲載の投資額は、商務部の総額を使用している。総額に対する内訳の合計額と総額が一致しない場合は(本文中の「5.その他」相当額)、便宜的に調整項目としての「その他」の欄を設けている。なお、国連貿易開発会議(UNCTAD)の『世界投資報告』(“World Investment Report”)は、商務部公表の投資額を中国の対内直接投資額としている。

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