一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2007/11/30 No.104域外諸国への主要送金先はEU以外の欧州と北アフリカ〜EUが移住労働者の送金の実態を調査

田中信世
(財)国際貿易投資研究所 研究主幹

EU統計局(Eurostat)は、2007年11月、EU27に居住する移住労働者の送金に関する調査結果を発表した。これは、EU全体の移住労働者の送金に関するデータの情報需要の高まりに応えるため、Eurostatが加盟国に対して送金統計の提供を求め、集計したものである。

Eurostatの調査によると、2006年におけるEU27の移住労働者の出身国への送金額(EU域内国への送金と第三国への送金を合計した金額)は前年比13%増の260億ユーロに達した。このうち第三国への送金は190億ユーロと全体の約4分の3を占め、域内国への送金は68億ユーロと全体の4分の1であり、この構成比は前年と変化がなかった。また、EU27からの第三国への送金額(190億ユーロ)は第三国によるEU27への送金額(90億ユーロ)の2倍以上の規模に達した。EU27のうち、域内、第三国を含めて送金額が多かった加盟国は、スペイン、英国、イタリア、ドイツおよびフランスであり、これら5カ国でEU27の全体の送金額の85%以上を占めた。

なお、Eurostatの調査は、加盟国の国際収支統計を集計したものであり、非公式のチャンネルまたは不法なチャンネルによって送られた金額は含まれていない。

  表1  EU27からの移住労働者の送金  (単位;10億ユーロ)

 2005年2006年
移住労働者の送金額計23.026.0
EU域内への送金6.16.8
EU域外への送金17.019.2
(出所)Eurostat

  表2  EU加盟国別の移住労働者の送金  (単位;10億ユーロ)

 合計EU域内EU域外
スペイン6.81.25.6
英国*5.91.24.7
イタリア4.41.13.2
ドイツ2.90.92.0
フランス*2.41.11.4
オランダ*0.80.20.6
ポルトガル0.60.10.5
オーストリア*0.60.40.2
ギリシャ*0.50.10.5
ベルギー*0.30.10.2
デンマーク0.20.10.2
アイルランド*0.50.40.1
チェコ0.10.10.1
ルクセンブルク0.10.10.0
その他*0.10.10.1
EU27合計*26.06.819.2
  注;*はEurostatの推計。
  (出所)Eurostat

一方、EUの移住労働者の送金の実態については、Eurostatの調査とは別に、3名の研究者(Sergi Jiménez-Martín、Natalia Jorgensen、José María Labeaga)が欧州委員会の経済・財務総局(DGECOFIN)の予算を使って実施した研究(The Volume and Geography of Remittances from the EU)が2007年9月に発表されている。この研究は、移住労働者の可処分所得や過去の送金の傾向などを使って統計モデルの手法により移住労働者の送金額を推計(注)したものであり、Eurostatの調査では含まれていない非公式のチャネルや違法なチャネルを使った送金も含まれている。このため、両者を直接比較することはできないが、Jiménez-Martín等の研究は2000年から04年までの移住労働者の送金を送金国別および受け取り国別に分析しており、地理的な送金のパターンを概観できることから、欧州委員会では同研究をEurostatの調査を補完するものとして位置づけている。(注)すべての移住労働者が月1回、可処分所得(平均可処分所得を1,254ユーロと想定)の11.3%(中位の場合)(低位の場合は8.3%、高位の場合は13%)を送金すると仮定して計算。

表3はJiménez-Martín等の研究結果をベースに、欧州委員会が2004年のEU27からの移住労働者の送金を主要受け取り地域別に計算したものである。これによると、EU27からの送金の最大の受け取り地域はEU域内諸国であり、全体の25.7%が域内諸国に送金された(全体の4分の1がEU域内への送金というEurostat調査の結果と整合的である)。EU域外への送金で最も多かったのは非EUの欧州地域であり、全体の18.6%がこの地域に送金された。第三国への送金で非EU欧州地域に次いで送金が多かったのは、北アフリカ(全体の16.4%)、アフリカ・サブサハラ(同11.9%)、中南米(10.8%)、アジア(9.0%)などであった。

表3EU27からの移住労働者の送金(主要送金先地域別)(2004年)(単位;10億ユーロ)

(出所)Jiménez-Martín等による研究に基づき欧州委員会が計算

さらに、Jiménez-Martín等の研究では、EU27の主要国からの主要な送金先国を分析することによって、EU27からの第三国や域内諸国への送金の主要ルート(回廊)について分析している。

EU27の主要送金国別に主要送金先国(受け取り国)への送金の流れを見ると、ほとんどの送金国で、総送金額の30%以上が2〜4カ国の受け取り国に集中しており、同研究では、こうした組み合わせがEU加盟国の域外諸国への主要な送金ルート(回廊)と定義している。例えば、英国の場合、パキスタンとインドが主要な受け取り国である(英国の送金総額に占める両国向け送金の比率は約17%と比率はやや低いが)。その他の特筆される送金ルート(回廊)として同研究では、(1)スペイン⇒モロッコ、コロンビア、エクアドル、(2)フランス⇒モロッコ、アルジェリア、(3)ドイツ⇒トルコ、セルビア・モンテネグロ、(4)ポルトガル⇒ブラジル、(5)オランダ⇒モロッコ、トルコ、(6)ベルギー⇒モロッコ、トルコ、(7)オーストリア⇒セルビア・モンテネグロ、トルコ、(8)イタリア⇒アルバニア、などを挙げている(表4)。

こうした送金ルートは、送金国と受け取り国との間の歴史的な関係(過去の植民地支配等)、地理的な近接性、言語をはじめとする文化的な近似性などにより、当該送金国への移民が多いことを反映して形成されていったものと考えられる。

なお、同研究によれば、EU27からの送金の受取額が最も多い国はモロッコで、モロッコの受け取り額はEU全体の送金額の11.5%に達する。モロッコに次いで受け取り額の多い国はトルコとコロンビアでそれぞれ全体の8.1%と3.54%を占めた。また、EU27からの送金は、国によってはその国の経済に大きく貢献している。GDPに占める受け取り額の比率を、一定の規模以上の受け取り額(1億5,000万ユーロ以上)を計上している国についてみると、モロッコ(受け取り額29億1,893万ユーロ、GDPに占める比率4.99%)、アルバニア(6億1,851万ユーロ、7.10%)、ガーナ(2億9,045万ユーロ、2.80%)、アフガニスタン(1億9,092万ユーロ、2.73%)、ジンバブエ(1億7,390万ユーロ、3.16%)、コンゴ(1億5,169万ユーロ、2.98%)などとなっており、移住労働者による送金がこれらの国の経済に大きな役割を果たしていることがわかる。

一方、EU27のEU域内諸国への送金では、EU15から、2004年5月以降にEUに加盟した新規加盟国への送金が全体的な送金の流れであるが、中でも、(1)ドイツ⇒ポーランド、リトアニア、ハンガリー、チェコ、ブルガリア、エストニア、(2)スペイン⇒ルーマニア、リトアニア、(3)フランス⇒エストニア、(4)アイルランド⇒キプロス、(5)ルクセンブルク⇒スロベニア、ルーマニア、が主要な送金ルート(回廊)となっている(表5)。

表4 主要送金国別、主要受け取り国別の移住労働者の送金の流れ(単位;100万ユーロ、%)

 (注)イタリック体で表記した国はEU域内諸国。
  (出所)EUウェブサイト掲載の“THE VOLUME AND GEOGRAPHY OF REMITTANCES FROM THE EU”、 Sergi Jiménez-Martín、Natalia Jorgensen、José María Labeaga

表5 EU15の主要国からの新規加盟国への送金(単位;新規加盟国の総受取額に占める比率、%)

(出所)表4と同じ。
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