2008/10/03 No.116ユーロ創設10年の軌跡〜国際通貨として重みを増すユーロ
田中信世
(財)国際貿易投資研究所 研究主幹
<ユーロ導入国は15カ国に>
欧州連合(EU)が1999年に単一通貨ユーロを導入してから今年1月で丸10年になった。
ユーロは欧州経済統合の一つの頂点としてEUを構成する加盟国のうち、98年の時点でユーロ導入のための経済条件(?物価の安定、?為替相場の安定、?長・短期金利の安定、?財政赤字および公的累積債務の削減)をクリアした国によって99年に最初に導入された。99年にユーロを導入したのはフランス、ドイツ、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、イタリア、スペイン、ポルトガル、オーストリア、アイルランド、フィンランドの11カ国である。ユーロ導入国はその後、ギリシャ(01年)、スロベニア(07年)、マルタ、キプロス(08年)と増え、現時点でのユーロ導入国はEU27カ国中15カ国である。
EUの中でユーロを導入した諸国を総称してユーロ圏と呼んでいるが、このユーロ圏の中には、フランス領ガイアナ(カリブ海地域)、ポルトガル領アゾレス諸島(大西洋)、スペイン領カナリー諸島(同)などEUのユーロ圏参加国が欧州大陸以外に領有する海外領土も含まれ、これらの地域も組み込まれている。
欧州大陸ではこのほか、いわゆるユーロ圏には入っていないがいくつかの都市国家がユーロを導入している。例えば、1998年12月の欧州理事会決定を受けて、フランス政府と通貨協定を締結したモナコ、イタリア政府と通貨協定を締結したサンマリノ、ヴァチカン市が法定通貨としてユーロを導入している。さらに、バルカン半島のコソボとモンテネグロのように、主要取引相手国であるドイツのユーロ導入に伴い、EUとの協定を締結しないで、独自の判断で自主的に国内通貨としてユーロを利用しているケースもみられる。
EU27カ国のうち、イギリスとデンマークはマーストリヒト条約締結時に共通通貨を導入しなくても良い権利(オプトアウト)が認められているため、EU加盟国のすべてがユーロ導入を義務付けられているわけではない。また、ユーロ導入を目指す中・東欧の新規加盟国の中には、前述のユーロ導入のための経済条件(特に財政赤字の削減、インフレ抑制など)をクリアするのに時間のかかりそうな国もいくつか見受けられる。しかし、09年1月には新たにスロバキアでユーロ導入が見込まれるなど、今後もユーロ圏の参加国数は着実に増えるものとみられる。
<存在感増すユーロ圏経済>
こうしたユーロ導入国の拡大に伴って、ユーロ圏の経済規模は存在感を増しており、世界の国内総生産(GDP)に占めるユーロ圏のシェアは16.7%と米国(22.3%)に次ぐ規模に達しており、世界の商品貿易に占めるシェアは16.4%と米国(15.2%)や中国(10.4%)を上回っている(いずれも07年)。
表 ユーロ圏の主要経済指標(米国、日本、中国との比較)(2007年)
ユーロ圏 (15 カ国) | 米国 | 日本 | 中国 | |
人口( 100 万人) | 320 | 302 | 128 | 1331 |
世界の GDP に占めるシェア(%) (注 1 ) | 16.7 | 22.3 | 6.9 | 10.3 |
失業率(%) (注 2 ) | 7.4 | 4.6 | 3.9 | 4.0 |
世界の商品貿易に占める比率(%) | 16.4 | 15.2 | 6.6 | 10.4 |
(出所)欧州委員会、EUROPEAN ECONOMY NEWS, 2008年6月
<高まるユーロへの信認>
EUはユーロ創設以来、ドルと並ぶ世界の主要通貨としてユーロの地位を確立することを目指してきた。
ユーロが世界の主要通貨として信認されているかどうかを示すバロメーターのひとつが「強い」(特にドルとの比較で)通貨になれるかどうかである。世界の基軸通貨であるドルに対してユーロの為替相場はどのように変動してきたかを見てみよう。ユーロの対ドル相場は、99年1月のユーロ導入直後には1ユーロ=1.1789ドルであったが、その後徐々にユーロ安に転じ、00年10月には0.8511ドルと最安値を記録するなど先行きが懸念された。
しかし、その後、米国の経常収支の赤字拡大やイラク戦争などによる財政赤字の拡大、さらには欧州企業による対米投資の活発化などを背景に対ドル相場はほぼ一貫してユーロ高で推移し、02年11月には1ユーロ=1ドルの均衡点に達した後、08年7月には1.5847ドルと最高値を記録した。ただし直近のユーロの対ドル相場は、米国のサブプライムローン問題に端を発した世界的な金融不安が欧州の実体経済にも影響を及ぼしはじめたことなどから、1ユーロ=1.4303ドル(9月30日現在)とやや軟化して推移している。
図 ユーロの対ドル為替相場の推移
ユーロが主要国際通貨としての信認を高めているのは為替相場だけではない。例えば、世界の債券市場におけるユーロ建て債券の比率は06年末時点で発行金額全体の約31.4%(ドル建て債券の比率は44.1%)を占めるまでになっている。
また、貿易決済通貨としてのユーロの重要性も著しく高まってきており、ユーロ圏諸国のEU域外諸国との輸出決済通貨でユーロの比率は約50%と米ドルの約44%を上回り、輸入決済通貨としてもユーロが約35%使われている(06年第1四半期の数字)。
ユーロへの信認は第三国が外貨準備の中でユーロの保有比率を高めていることからも伺える。
07年央現在の世界各国の外貨準備に占めるユーロの比率は25%を上回っている。特にこの10年間、発展途上国が外貨準備高に占めるユーロの比率を大幅に高めており、同比率は99年の18%から07年央にはほぼ29%に達している。ちなみに、世界の外貨準備高に占めるユーロ以外の主要通貨の保有比率はドルが約65%、ポンドが約4.5%であった。
そのほか、ユーロは第三国の外国為替制度のアンカー通貨としても使われている。例えば、ロシアは従来、自国通貨ルーブルの為替の安定を図るためにドルに連動した管理制度をとってきたが、ドル安の進行によりこれを見直し、05年2月にドルとユーロで構成する通貨バスケットを指標とする為替管理制度を導入した。
このようにユーロは、発足後10年で世界の主要通貨としての地位を着実に高めてきた。サブプライムローン問題でドルに対する信認が大きく揺らいでいる昨今、ユーロの地位やユーロ圏のプレゼンスはこれからも高まっていくことが予想される。
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